最近は株式市場があまりよくありませんが、特にここ最近大きな動きを見せているのがRIZAP(ライザップ)です。2019年3月期の業績予想で、連結純損益が赤字に転落する見通しとなったことで大きく値を下げています。
11月1日の時点では517円だった株価が11月16日の時点では265円とほぼ半減していますね。
実はこのライザップは決算書をみて私はかなり前から投資対象外の株としていました。
今回はその理由とこのようなことに巻き込まれないポイントをご紹介しましょう。
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ライザップの決算書から大きな問題が浮き彫りになっていた
ライザップの決算書は表面だけをみるとかなりよい成績となっていました。例えば2018年3月期の決算ハイライトは以下のとおりです。
(前期比 143%)
2.営業利益 5期連続増益、過去最高を達成
(前期比 133%)
3.前期の先行投資の効果により、2019年3月期は大幅増収増益へ
・売上収益 2,500億円(対前期+1,137億円、前期比184%)
・営業利益 230億円(対前期+94億円 、前期比169%)
かなりよい数値が並んでいます。また、2018年3月期の計画と実積を対比しても売上高は多少未達となっていますが、それ以外の営業利益、税引前利益、当期利益、親会社の所有者に属する当期利益とも計画を達成しております。2019年3月期の計画も売上収益+1000億円、営業利益+100億円とかなりの大幅増収増益見込みとなっていました。
これだけをみればかなり素晴らしく、投資対象から外すなんてことにはなりませんよね。
問題はキャッシュ・フロー計算書にあり
ではライザップの決算書のどこに問題があり、投資対象外としたのでしょうか?それはキャッシュ・フロー計算書にあります。
例えば2018年3月期のライザップのキャッシュ・フロー計算書を見るとこうなっています。
投資活動によるキャッシュフロー△3,495,265千円
財務活動によるキャッシュフロー22,725,250千円
現金及び現金同等物の増減額19,282,435千円
これをみると現金及び現金同等物は一年間で19,282,435千円増えているというかなりすごい状況であることがわかります。
しかし、問題はその内訳です。
営業活動によるキャッシュフロー
営業キャッシュフローは87,602千円のプラスとなっています。営業キャッシュフローとは本業でどれだけお金を生み出しているかということで、この数字だけをみると問題はなさそうに見えます。
しかし、下記の四半期毎の営業キャッシュフローの推移を御覧ください。
出所:ライザップ IR 2018年決算説明資料
これをみると営業キャッシュフローはかなり波が大きいことがわかりますね。波があっても常にプラスなら問題ありません。しかし、四半期ごとでもマイナスが発生しています。ここがマイナスということは本業だけではお金がうまく回らないことを示しますので、足りない分は違うところでお金を用意しないといけなくなるのです。
また、四半期毎にもちろん利益はかなり上がっているのに関わらず、営業キャッシュフローにこれだけ波があるのはちょっと気になりますね。通常、営業キャッシュフローにここまでの波は起こりにくいです。なにか構造的に問題を抱えている可能性があります。
また、利益と営業キャッシュフローの差が他の企業と比較して高すぎるのも大きな問題です。つまり、現金がない利益が大きく計上されているってことなのです。実際、利益の大部分を負ののれんと呼ばれる買収した企業の適正価格と買収価格の差が大きく計上されているのです。
営業キャッシュフローの内訳を見ると特にマイナス幅が大きいのが「営業債権及びその他の債権の増減」と「その他」となっています。「営業債権及びその他の債権の増減」とは売掛金などが増えていることを指します、つまり、売上は立っているがお金を回収できていない部分が増えているということですね。特にライザップは個人客が相手ですからちょっと気になるところです。「その他」の項目は具体的に何かがわかりませんので言及はやめておきます。
ちなみに今回暴落の引き金となった最新の四半期決算では営業キャッシュフロー7,616百万円のマイナスとなっています。
投資活動によるキャッシュフロー
私がライザップを投資対象としない最大の理由はこちらの欄です。投資活動によるキャッシュフローは△3,495,265千円となっているのです。
投資活動のキャッシュフローとは名前のとおり設備投資等にお金を回した金額を示しています。ここがマイナスでも将来の投資にお金を回しているというだけですから問題ではありません。ライザップの場合はそのバランスがおかしいのです。本業で87,602千円しかお金を生み出せていないのに、投資に3,495,265千円使っているのです。
つまり、身の丈にあってない投資をしていると私は判断しました。
このような投資を続けるとうまく行っているときは良いですが、少しコケるだけで致命傷となりかねないのです。
そのため、私はこのような身の丈にあってない投資を続けている会社はかなり危険と判断し投資対象外としたのです。
フリー・キャッシュ・フローをみよう
これらを簡単に判断できる方法はフリー・キャッシュ・フローをみることです。フリーキャッシュフローとは会社が自由に使えるお金のことで、キャッシュフロー計算書で最も大切だと言っても過言ではないでしょう。
フリーキャッシュフローは営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足して求めます。フリーキャッシュフロー、つまり自由に使えるお金があってはじめて借入金の返済や預金の増加が可能になるので、フリーキャッシュフローは多ければ多いほど経営状態は良好だといえます。
ちなみに今回のライザップの場合のフリー・キャッシュ・フローは△3,407,663千円と大きくマイナスとなっています。つまり、本業だけでは投資が多すぎてお金がぜんぜん回っていないのです。この場合には会社には自由に使えるお金がなく、会社を維持するためには金融機関からの借入れや株式を発行するなどの資本政策など、資金を調達することが必要となります。
ライザップはこの状態がずっと続いているのです。
ちなみに私はフリー・キャッシュ・フローがプラスの会社にしか投資はしません。
財務活動によるキャッシュフロー
最後は財務キャッシュフローです。こちらは22,725,250千円のプラスです。本業と投資で足りないお金を引っ張ってきてさらにお金に余裕がある状況としている感じですね。具体的な内訳は以下のとおりです。
短期借入金の純増減額2,738,308
長期借入れによる収入24,937,605
長期借入金の返済による支出 △11,385,801
社債の発行による収入2,790,043
社債の償還による支出 △2,557,080
リース債務の返済による支出 △714,029
非支配持分からの払込みによる収入8,982,449
配当金の支払額△1,540,007
非支配持分への配当金の支払額 △29,711
その他 △496,525
特に比率が大きいのが長期借入れによる収入です。こちらだけで24,937,605千円のプラスです。これだけお金を借りてこられるだけでもすごいといえばすごいのですが・・・。
ちなみに次に多い非支配持分からの払込みによる収入8,982,449千円は子会社の増資による収入です。おそらくこれは子会社のマルコやイデアインターナショナルの増資の分の非支配持ち分(自分の持ち株でない分)ですね。SBI証券がIPOポイントを配ったPOを実施してますので記憶にある方も多いでしょう。ちなみにこのお金は子会社が調達した資金ですからライザップ本体が勝手に使えるお金ではありません。
M&Aの多さも気になっていた
もう一つ決算書から離れて気になっていたのがM&Aです。5年で75社をM&Aしたんですね。通常M&Aは自社の成長を加速するために行います。つまり時間をお金で買っているのです。そのため買収先は通常、シナジー効果のある自社の関連する業態などが中心となるのです。しかし、ライザップは全く畑ちがいの会社もどんどん買収して成長してきました。この辺りがかなり気になっていました。それではシナジー効果が見込めないためです。
また、前述のように営業から生まれた余裕資金での買収ではなく借り入れでイケイケどんどんで買収しているのもちょっと・・・
以下が現在連結子会社となっているグループ会社です。ジーンズメイト(ジーンズショップ)やワンダーコーポレーション(CD・DVD販売)、サンケイリビング新聞社(新聞社)などまったく畑違いの会社が含まれているのがわかると思います。
SDエンターテイメント株式会社
株式会社イデアインターナショナル
夢展望株式会社
株式会社ジーンズメイト
株式会社ぱど
株式会社サンケイリビング新聞社
堀田丸正株式会社
株式会社ワンダーコーポレーション
RIZAP株式会社
株式会社エス・ワイ・エス
株式会社アンティローザ
北斗印刷株式会社
株式会社ジャパンギャルズ
株式会社馬里邑
健康コミュニケーションズ株式会社
株式会社日本文芸社
株式会社HAPiNS
株式会社三鈴
マルコ株式会社
株式会社エンジェリーベ
RIZAPイノベーションズ株式会社
株式会社タツミプランニング
株式会社ビーアンドディー
株式会社メルディアRIZAP湘南スポーツパートナーズ
株式会社ジャパンゲートウェイ
先日、「がっちりマンデー」にライザップの社長が出演されていたときにもこのあたりの話も出ていました。買収している会社はどこも業績が悪い会社のようです。そして再建しているとのことでした。
しかし、ライザップに再建のノウハウがなにかあるのかと思うとそうでもなく、社長を外部などから連れてきてすべて任せるスタイルとなっていました。つまり、社長に再建を「結果にコミット」させる方式なのです。5年で75社をM&Aしていますのでそれだけの数任せられるだけの優秀な社長が見つかるのかは疑問ですしね。
シナジー効果が見込めるわけでもないM&Aをして、会社のノウハウで経営再建を行っているのではなく再建は新社長に丸投げとははかなり危ない橋を渡っているのはわかると思います。もともと業績が良くない会社を買収していますしね。
実際に今回の赤字の大きな原因は子会社の減益でした・・・
まとめ
今回は「私がライザップを投資対象外としていた理由【決算書のここに注目しよう】」と題してライザップの投資判断について見てきました。
ライザップはずっと業績がよかったですが身の丈にあってない投資をしている点、営業キャッシュフローの波が大きすぎ、マイナスの四半期も多い点が気になり投資対象から外しました。ライザップは本業はとてもおもしろい事業を行っていると思っていますし、そちらを中心に身の丈にあった経営をしていただければ有望な会社だとは思うのですけどね。
今回見てきたようにキャッシュフロー計算書だけでも企業の重要な部分をかなりの部分まで把握できます。ぜひ株式投資をするなら読めるようにしておきましょうね(デイトレやスイングトレードなどの短期投資ならそこまで必要ありませんけどね)
キャッシュフロー計算書の見方についてはこちらの記事を御覧ください。
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