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オリジナル経営指標で高株価を正当化?mNAV・BTCイールドなど“非GAAP”指標の落とし穴

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オリジナル経営指標(mNAV・BTCイールド・PSR)で株価を正当化する危険性を示すイラスト

株価が急騰している銘柄を調べると、決算説明資料に見慣れない指標が登場することがあります。

たとえば「mNAV」「BTCイールド」など

いずれも企業が自ら設計した経営指標で、国際会計基準(IFRS)や日本基準、US-GAAPには存在しません。

数字の根拠や算定方法が企業側に依存するため、見せたいストーリーを演出しやすいのが特徴です。

今回はオリジナル経営指標のヤバさについて考えてみたいと思います。

目次

オリジナル経営指標が生まれる3つの背景

まずはなぜオリジナル経営指標が生まれるのかその背景から考えてみましょう。

希薄化を正当化したい

まず、よくあるパターンが新株発行で調達した資金を「成長投資」と位置づけ、自社が有利に見える指標を提示するようなケースです。

ボラティリティの高い資産を抱える

暗号資産や未上場株など時価変動が激しい資産の価値を“演出”して株価プレミアムを維持する際にも使われます。

赤字事業のイメージを隠したい

コストを除外・調整することで、黒字に見せるパターンも多いです。

ソフトバンクも投資して大損したWeWorkの例が典型です。

主なオリジナル経営指標の例

代表的なオリジナル経営指標の例を見ていきましょう。

企業・指標定義(企業公表ベース)目的リスク・留意点
mNAV(メタプラネット)1株当たりBTC純資産価値暗号資産価値を強調株価が上振れるほど算定値も膨らみ循環論法に陥りやすい
BTCイールド
(MicroStrategy、メタプラネット)
希薄化後の1株当たりBTC増加率新株発行の正当化株式発行で買付→保有BTC増加=「イールド」なので実質的にはレバレッジ戦略
コミュニティ調整後EBITDA(WeWork)賃料などを除外したEBITDA赤字隠し必要経費の除外で実態乖離
ACSOI(Groupon)集客コストを資産化して除外IPO時の高成長演出SEC指摘で削除の前科
調整後EBITDA(ソフトバンク)非経常項目を控除した独自EBITDAM&Aや減価償却の影響を平準化他社比較が困難
PSR時価総額 ÷ 売上高利益が出ない企業の相対評価利益率・負債を無視し赤字企業でも高評価が可能
Qレシオ企業(市場)時価 ÷ 資産の再調達価値資産価値から割高・割安を診断無形資産や再調達コストの推定誤差で数値がブレやすい
フロア価格コレクション内NFTの最低売買価格市場最低ラインを提示し需要を喚起流動性が低いとウォッシュトレードで容易に操作可能

メタプラネット:mNAV/BTCイールド

同社は「BTC財務戦略企業」として2024年以降注目を浴び、『1株に対するBTC純資産がどれだけあるか』を示すmNAVと、希薄化後のBTC増加率を測るBTCイールドを主要KPIに採用しています。

2025年5月時点でmNAV達成日数(1.0倍を上回るまでの日数)は数十日に短縮したと発表し、市場では「ビットコイン版ROEだ」ともてはやされました

しかし株価が下がるとmNAVも急落し、指標自体が自己循環的であることが露呈します。

またBTCイールドは 新株発行でBTCを買い増せば増えるため、株主価値の希薄化と表裏一体です

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MicroStrategy:BTC per Share(BTCイールド)

米MicroStrategyも株式プレミアムを原資にBTCを追加購入し、「1株あたりBTC量の増加=株主利益」と説明しています。

2024年には0.0009BTC→0.002BTC/株へと2倍超に押し上げ、「BTCイールド19%」を誇示しました。

実際は株式発行によるレバレッジ効果であり、ビットコイン価格が横ばいになると株価との乖離(プレミアム)が縮小しリスクが顕在化します。

WeWork:コミュニティ調整後EBITDA

WeWorkは2019年のIPO目論見書で「コミュニティ調整後EBITDA」を提示。

賃料や建物運営費という本質的コストを除外し黒字を装いましたが、投資家の批判と赤字実態の露呈で上場撤回に追い込まれました。

ソフトバンクも投資していましたね。

Groupon:ACSOI

2011年のGrouponも「ACSOI(Adjusted Consolidated Segment Operating Income)」により集客コストを“資産化”して黒字を主張。

SECからの指摘後、指標自体を取り下げました。

ソフトバンク:調整後EBITDA

通信大手ソフトバンクはIFRSベースの営業利益にのれん償却などを戻し、調整後EBITDAマージン30%前後を“安定収益”と説明しています。

ただし他社とは調整項目が異なるため横比較には不向きと注意喚起しています。

PSR

PSR は SaaS 企業が「まだ赤字でも売上成長を評価してほしい」ときに多用。

営業赤字が続いていても PSR 10倍 などと言い換えれば高成長を演出できます

PSRはまだまだ複数の企業で使われていますが、利益率とセットで確認しましょう。

営業利益率が低いほど同じ PSR でも割高となります。

Qレシオ

資産価値の裏付けがあるから割高ではないと主張する際に用いられますが、再調達価値の算定がブラックボックスになりやすい点は要注意です。

監査人・鑑定機関の評価か、社内試算かで信頼度がかなり変わるんですよ・・・

土地や有価証券などの含み益を考慮に入れることができるため、バブルの時期に注目されました。

フロア価格

NFT のフロア価格は出来高が少ないと指標自体が市場価格を動かす

いわば“少数の取引が全体指標を決める”構造で、オリジナル指標の中でも特に操作リスクが高い例です

オリジナル指標が危険な5つのパターン

オリジナル指標が危険な5つのパターンは意識しておきたいです。

・シェア希薄化の副作用を隠す
・非現金費用を除外して損失を覆い隠す
・時価評価益を営業利益に加算
・“%”表示で実態より大きく見せる
・指標そのものが株価に依存

オリジナル指標を作る目的を考えて比較してみたいところ。

投資家が確認したいチェックリスト

上記のようなパターンに惑わされないようにするために意識したいポイントを見ておきましょう。

キャッシュフロー計算書:フリーキャッシュ・フローがマイナスなら要注意
希薄化率:新株発行・ストックオプションの影響を確認
GAAP/IFRSとの橋渡し表:調整項目を必ず精査
第三者データとの突き合わせ:暗号資産保有量などは外部サイトで検証
記者会見・IR質問への回答:指標の定義を聞くと答えが曖昧なケースが多い

特に分かりやすいのがキャッシュフロー計算書でしょう。

本業のお金の流れである「営業キャッシュフロー」と投資等をお金の流れの「財務キャッシュフロー」を足したものを「フリー・キャッシュ・フロー」といいますが、それがマイナスの企業は個人的には投資対象外としていますね。

それだけで地雷回避確率は格段に上がります。

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まとめ:数字の魔法に惑わされないために

今回は「オリジナル経営指標で高株価を正当化?mNAV・BTCイールドなど“非GAAP”指標の落とし穴」と題してオリジナル経営指標の注意喚起を見てきました。

オリジナル経営指標はビジネスの強みを示す“補助線”として有用な一方、本来の業績を見えにくくする“煙幕”にもなり得ます。

  • 投資判断ではまずは一般的な経営指標(PER、PBR、ROE)に立ち返る
  • 独自指標は“おまけ”として参照し、希薄化やレバレッジの影響を必ず補正する
  • 成長ストーリーに魅了されても、現金を生む力とガバナンスを冷静にチェックする

数字は「一面の真実」を映す鏡に過ぎません。

鏡の角度を変えれば映る景色も変わる。

数字は嘘をつかない。しかし嘘つきは数字を使う」――オリジナル経営指標に出会ったら、この言葉を思い出してください。

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