今年の年末調整、いつもと同じように書類を提出しようとしていませんか?
実は2025年の年末調整は、令和7年度税制改正により、ここ数年で最も大きな変更が加えられています。
特に注意が必要なのは、大学生のお子さんがいる世帯と、配偶者や親を扶養している方です。
新しい控除制度を知らずに申告書を提出すると、本来受けられるはずの控除が適用されず、数万円から十数万円の損失につながる可能性があります。
今年の年末調整は「知っているか知らないか」で家計に大きな差が生まれる年になります。
この記事では、国税庁の一次情報をもとに、2025年の年末調整で押さえるべきポイントを分かりやすく解説していきます。
年末調整の主な変更点は3つ
2025年の年末調整では、令和7年度税制改正の影響を受け、基礎控除と給与所得控除の引き上げ、扶養親族等の所得要件の見直し、そして特定親族特別控除の創設という3つの大きな変更が実施されました。
これらの変更は、いわゆる「年収の壁」問題への対策として行われたものです。
特に共働き世帯や、大学生のお子さんがアルバイトをしている世帯にとっては、家計に直接影響する重要な改正となります。
なぜ今年これほど大きく変わったのか
背景にあるのは、長年問題視されてきた「年収の壁」です。
配偶者や扶養親族が一定の年収を超えると控除が適用されなくなるため、働く時間を調整する、いわゆる「就業調整」が社会問題となっていました。
特に深刻だったのが、大学生のアルバイトです。学費や生活費のために働きたいと考える学生が、親の扶養から外れることを避けるために103万円以内に収入を抑えていました。
ここ数年時給も上がっていますので、働ける時間がどんどん短く。
企業も人集めに苦労する事態となっています。
この状況を改善し、より柔軟に働ける環境を整えることが、今回の税制改正の主な目的です。
基礎控除が段階的に拡大(最大95万円)
まず、2025年分から合計所得金額に応じて基礎控除額が段階的に拡大します。
例えば、合計所得132万円以下なら95万円、655万円超〜2,350万円以下でも58万円が適用されます(従来は一律48万円)。
今年の年末調整は新しい基礎控除額で計算するのが大前提です。
なお、この変更は2025年と2026年の暫定措置であり、2027年以降は一律58万円になる予定です。
具体的な控除額は次のとおりです。
・合計所得金額500万円以下:95万円
・合計所得金額500万円超1,000万円以下:85万円
・合計所得金額1,000万円超1,500万円以下:75万円
・合計所得金額1,500万円超2,000万円以下:65万円
・合計所得金額2,000万円超2,350万円以下:58万円
ただし、合計所得金額2,350万円を超える高所得者については、従来どおり段階的に控除額が減額され、最終的に16万円まで引き下げられます。
給与所得控除の最低保障額が「65万円」に
サラリーマンの必要経費に当たる給与所得控除の最低保障額が55万円→65万円へ引き上げとなっています。
この変更により、年収が低い層でも控除額が増えることになり、実質的な税負担が軽減されます。
特に年収180万円以下の方にとっては、控除額が10万円増加することになります。
こちらも年末調整の計算式が変わるため、会社側のソフト・表も切り替わっていますのでご注意ください。
新制度「特定親族特別控除」誕生
基礎控除の引き上げに伴い、大学生の年代の子どもがいる世帯の税負担を軽減するため、「特定親族特別控除」が創設されました。
具体的には19歳以上23歳未満の親族(いわゆる大学生年代)について、合計所得58万円超〜123万円以下なら、親側で最大63万円を段階的に控除できる新制度となります。
・19歳以上23歳未満の親族
・合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入のみの場合、123万円超188万円以下)
従来の制度では、19歳以上23歳未満の扶養親族は「特定扶養親族」として63万円の控除が適用されていました。
しかし、合計所得金額が48万円(給与収入103万円)を超えると、この控除が全く適用されなくなっていました。
それが特定親族特別控除では合計所得金額が123万円(年収188万円)までに変更される形ですね。
今年からの「壁」も変わる:扶養や配偶者まわりの所得要件
基礎控除の見直しに伴い、扶養控除・配偶者控除の所得要件も48万円以下→58万円以下へ見直し。
勤労学生の要件も75万円以下→85万円以下に緩和されています。
ここを反映しないと、本来受けられる控除を取り落とすことに。
「うちは子どもがバイトしてて103万円超えちゃうから、もう扶養はムリ…」
という従来の常識も、今年は要再確認です。
新設の特定親族特別控除により、給与年収で約123万円超〜188万円以下の帯でも、控除額が緩やかに目減りしながら適用される仕組み(段階控除)になりました。
「ちょっと働きすぎた=即全喪失」ではなくなるわけです。
申告書の様式が大きく変更された
また、申告書の様式も大きく変更されています。
給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
2025年の年末調整は、紙の様式が大きく変更され、これまでの「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」は、新たに「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が統合され、1枚で4つの申告ができる様式に変更されます。
この新しい申告書は、正式には「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という長い名称になっています。
国税庁の資料では「給与所得者の『基・配・特・所』申告書」と略されています。
4枚の書類が一つになっていますので名前がとんでもなく長いですが、あわせて記入欄が増えているので、旧年の感覚で空欄のまま提出しないことが重要です。
扶養控除等(異動)申告書に源泉控除対象親族が追加
扶養控除等(異動)申告書についても様式変更がされています。
特に重要なのが、「源泉控除対象親族」という新しい欄が追加された点です。
この欄には、16歳未満の扶養親族と、19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超の親族を記載します。
2026年分からの給与の源泉徴収では、この「源泉控除対象親族」の人数が重要になります。
ここを書き忘れると大損:実務での「落とし穴」チェック
次に落とし穴を確認しておきましょう。
落とし穴1:新様式の「特定親族特別控除」欄が空欄のまま
今年は新様式になり、特定親族特別控除の欄が「基礎控除等の申告書」に内包されました。
19〜22歳の子どもがいる家庭は、子の見積所得(アルバイト収入など)を正しく書くことが肝心。
空欄=控除ゼロになります。
人事・総務も従業員への周知を。
落とし穴2:扶養・配偶者の所得要件「58万円」への読み替え漏れ
昨年までの48万円の感覚で判断して外してしまうケースは典型的な取りこぼし。
58万円に変わったことを、家族全員で共有してください。
「去年の書き方をコピペ」は危険です。
落とし穴3:基礎控除の段階額を書かず、旧48万円で自己申告
今年の基礎控除は一律ではないため、自分(配偶者)の合計所得に合わせて正しい欄・金額を選ぶ必要があります。
ここを古い知識で48万円のまま出すと、控除を小さく申告してしまい損します。
落とし穴4:紙のまま・証明書の添付漏れで差し戻し→提出期限に間に合わない
電子化している会社でも、保険料控除証明や住宅ローン残高証明など、証憑の取り込み忘れは差し戻しの定番。
2025年は住宅ローン残高証明の手続きの取り扱いにも変更点の解説が出ています。
証明の入手方法・提出方法は勤務先の案内に従い、書類の型式を確認しましょう
今年の申告書はこう変わる:書く順番と「確認ポイント」
新しい申告書様式は情報が1枚にまとまったため、記入すべき箇所が分かりにくくなっています。
会社の人事担当者から記入例が配布される場合は、それをよく確認してから記入することをお勧めします。
特に次の点に注意が必要です。
まず自分の「合計所得」→基礎控除の段階を確認
給与だけの人は、給与所得控除65万円を踏まえた上で合計所得を試算。
基礎控除は95/88/68/63/58万円のどれかになります。
配偶者・扶養家族の「合計所得58万円要件」を最新化
扶養は58万円(旧48万円)になりました。勤労学生は85万円(旧75万円)。
昨年の控除区分を安易に流用しないことが重要です。
19〜22歳の子どもがいる家庭は新設の欄を必ず記入
19歳から22歳の子供がいる家庭は「給与所得者の特定親族特別控除申告書」欄に、子の見積所得を正確に書く。
123万円(所得58万円)を起点に、188万円(所得123万円)まで段階的に控除。
空欄=適用なしとなりますのでご注意を
証憑の取り込みは最終チェックまで
生命保険料、地震保険料、社会保険料の控除証明、住宅ローン残高証明など。
電子提出でも、添付(もしくは会社の指示どおりの確認手続)が無いと差し戻し。
よくある質問と回答
次によくある質問を見ていきましょう。
扶養控除の対象が増えたら社会保険はどうなるのか
税制上の扶養と社会保険上の扶養は別の制度です。
今回の税制改正により、税制上の扶養親族の所得要件が引き上げられましたが、健康保険の被扶養者認定基準は従来どおり年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)です。
ただし、2025年10月からは、19歳以上23歳未満の学生については、健康保険の被扶養者認定基準も年収180万円未満に引き上げられる予定です。
この変更により、大学生がより柔軟にアルバイトができる環境が整います。
年の途中で状況が変わった場合はどうすればよいか
年の途中で扶養親族の人数や所得金額が変わった場合は、速やかに会社の人事担当者に報告し、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を訂正して再提出する必要があります。
特に次のようなケースでは必ず報告が必要です。
・配偶者や扶養親族の収入が当初の予想を大きく超えた場合
・新たに扶養親族が増えた場合(子どもの誕生、親との同居開始など)
・扶養親族が就職して扶養から外れた場合
報告が遅れると、源泉所得税の計算が正しく行われず、年末調整で大きな過不足が生じる可能性があります。
また、年末調整でも間違えると後から税務署から連絡が来る形となります。
確定申告が必要なケースはあるのか?
基本的に、会社員であれば年末調整で税額が確定するため、確定申告の必要はありません。
しかし、次のようなケースでは確定申告が必要になる場合があります。
・年の途中で退職し、年末調整を受けていない場合
・2か所以上から給与を受け取っており、従たる給与の収入金額と給与所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合
・給与の収入金額が2,000万円を超える場合
・医療費控除やふるさと納税、初年度の住宅ローン控除など、年末調整では対応できない控除を受ける場合
また、公的年金等の受給者が2025年分の所得税について新たに扶養控除の適用を受ける場合は、原則として確定申告での対応が求められます。
申告書の控えは保管すべきか?
年末調整で提出した申告書の控えは、少なくとも5年間は保管することをお勧めします。
税務署から問い合わせがあった場合や、過去の申告内容を確認する必要が生じた場合に、控えがあると便利です。
特に今年は大きな制度変更があるため、どのような内容で申告したのか記録を残しておくことが重要です。
スマートフォンで撮影して保存しておく方法も有効です。
ウチは去年と同じでいいでしょ?
数字(基礎控除、要件、様式)が総入れ替えされています。
去年の写しは捨て、今年の書式で1から書きましょう。
まとめ
今回は「【注意】2025年の年末調整が激変|ここを書き忘れると大損」と題して2025年の年末調整をみてきました。
税理士界隈では魔改造と囁かれているくらい大きな変更となっています。
3つの大きな変更により、これまでにない複雑さを持っているんですよ。
書類の記載を間違える、忘れると大きな損失となってしまう可能性があります。
以上を押さえ、「空欄のまま出さない」—これだけで今年は数万円単位の差が出る家庭が出てきます。
今すぐ家族の収入を確認し、新しい控除の適用可否をチェックして、取りこぼしゼロでいきましょう。
分からないことがあれば、会社の人事担当者や税理士等に相談することをお勧めします。
年末調整は毎年のことですが、今年は特に重要な年です。この記事で紹介した情報を参考に、しっかりと準備を進めて、賢く節税していきましょうね。
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