先日、石破首相が発言した内容が物議を醸しています。
石破首相は「金利がある世界の恐ろしさをよく認識をする必要がある」と指摘した上で、日本の財政状況は「間違いなく極めてよろしくない。ギリシャよりもよろしくない状況だ」との見解を明らかにした。
引用:Bloomberrg https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-19/SWHMLMDWRGG000
一時財政危機に陥ったギリシャよりも日本の財政状況は良くないというのです。
これは本当なのでしょうか?
今回はこの件について詳しく解説していきましょう。
石破総理の発言は誇張か?
まず、石破総理の発言の信憑性について考えて、見ましょう。
ギリシアと日本、データで比較してみた
日本の財政はギリシアよりよろしくないというのは、数字を見る限り“言い過ぎ”ではありません。
指標 | 日本 | ギリシア |
---|---|---|
粗債務残高 / GDP | 249 % (IMF) | 153–159 % (CEIC Data, European Commission) |
プライマリーバランス 2024 | ▲18.5 兆円(GDP 比 ▲3 %弱) (財務省) | ほぼ均衡・黒字基調 (eKathimerini) |
10 年国債利回り(25/5/19) | 1.49 % | 3.2 % 前後(市場推計) |
中銀保有国債シェア | 43.3 % (ウィキペディア) | ECB 直接購入禁止(0 %) (EUR-Lex) |
多くの指標で日本はギリシアよりも悪いことがわかります。
GDP規模はぜんぜん違う
ただし、ギリシアと日本を比較するとGDPの規模がかなり違いますので単純比較できない部分もありますが・・・
石破総理の発言は大げさではないと思いますが、対外的な影響を考えて発言するべき内容ではないと考えていますけどね・・・
ギリシアにも失礼ですしね
主要国と並べて見た「日本の立ち位置」
それではギリシア意外と比較するとどうでしょう?
国 | 粗債務 / GDP | 財政収支 / GDP(24 年見通し) | 10 年債利回り* |
---|---|---|---|
日本 | 249 % (IMF) | ▲3 % (財務省) | 1.5 % |
ギリシア | 153–159 % (CEIC Data, European Commission) | ±0 % (eKathimerini) | 3.2 % |
イタリア | 135 % (European Commission) | ▲4 %(EC 推計) | 3.9 % |
米国 | 124 % (IMF) | ▲6 %(財政統計) | 4.3 % |
ドイツ | 64 % (European Commission) | ▲1 % | 2.4 % |
こちらもほかと比較してかなり厳しいですね。
ただし、金利はかなり低く借金は最多、金利は最低という“逆張り構造”となっています。
貸借対照表でトヨタと比較してみた
それでは日本で一番大きな会社であるトヨタと比較してみるとどうでしょう?
項目 | 日本政府(23 年度末概念値) | トヨタ自動車(24/3 期) |
---|---|---|
総資産 | 約 778 兆円 (財務省) | 90.1 兆円 (トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト) |
総負債 | 国債等 1,164 兆円 (財務省) | 54.9 兆円 (トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト) |
純資産 | ▲386 兆円(債務超過) | 35.2 兆円 |
自己資本比率 | ― | 30.6 % |
トヨタと比較するまでもなく日本は規模は大きいですが、安全性でかなり劣っているのがわかりますね。
日本は債務超過状態なんですよ。
企業は債務超過になればお金を借りるのが困難となりますが、政府は通貨発行で理論上「延命」できます。
ただ投資家目線では 債務超過=信用力低下 という事実は共通ですね。
また、企業が債務超過なら賞与はカットされるでしょう。
そんなに危機的状況なら国会議員、国家公務員の賞与はカットすべきかと個人的には思います笑

政府の隠れ資産を加味すると債務超過でない?
また、日本の発表している総資産には含まれない政府の隠れ資産があるという話もあります。
国有企業やインフラ、自治体、外郭団体の不動産など。
それらを勘案すれば公的債務を上回り、債務超過ではないのでは?ということです。
具体的な数字がでていないのでなんとも言えない部分もありますが・・・
詳しくはこちらの本を御覧ください。

通貨発行権という「最後の安全網」とその限界
前述のように財政状況の数字だけをみれば確かにギリシアと比較できるレベル。
他の先進国と比べても極めてよくない状況なのはわかるかと思います。
そういう話になると「日本は通貨発行権があるから借金なんて関係ない」という主張をする人が多くいます。
ここからは通貨発行権について考えてみましょう。

通貨発行国 vs 通貨ユーザー
類型 | 例 | 危機時の選択肢 | 主なリスク |
---|---|---|---|
通貨発行国 | 日本、米国 | 中央銀行に国債を買ってもらう | インフレ・通貨安 |
通貨ユーザー | ギリシア、イタリア | EU・IMF 支援か緊縮 | デフォルト・景気急落 |
日本やアメリカは通貨発行国です。
一方、ギリシアなどは通貨を利用する通貨ユーザーです。
ちなみにEU 条約 Article 123 が加盟国への直接融資を禁じるため、ギリシアは 2012 年に民間債務 53.5 % カットを余儀なくされました
通貨発行権のおかげで日本はギリシアのような強制デフォルトに陥る可能性は低いというのは事実です。
日本の「安全網」が破れやすい 3 つの穴
それでは通貨発行権のある日本はいくら借金をしても平気というのは本当なのでしょうか?
利払い費の急増
まず、これから金利が上がっていくと怖いのが利払いの増加です。
金利 1 %上がるだけで 年 12 兆円 の追加負担が発生すると言われています。
消費税 2 %分が一気に消える規模なんですよ。
現状は多少金利が上がったとはいえ世界でみると低金利です。
しかし、それが世界の平均くらいまで上がると・・・・
円安・インフレ
通貨発行でデフォルトは避けられても、たくさん通貨を発行すれば円安、インフレが起こるでしょう。
そうなれば家計の購買力が目減りします。
また、政治的制約が強まります。
通貨発行とインフレの相関関係についてはMMT理論の人たちとそうでない人たちが見解の相違が出る点ではありますが・・・

日銀の巨大バランスシート
国債の 4 割超を日銀が抱えています。
国債は日銀が買っているだけだから大きな問題はないと言っている人たちの根拠はここにあるんですね。
しかし、今後の量的引き締め(QT)で流動性が薄くなる懸念もあります。
投資家が今日からできる 5 つのアクション
それでは投資家はどのようなことを考えておけばよいのでしょう?
金利ポジションの分散
円債だけでなく、米ドル建て・ユーロ建て社債も組み合わせ、デュレーションをずらすことが必要でしょう。
インフレ耐性アセットの組み込み
ゴールド、インフレ連動国債、資源株 ETF を 5〜10 % 目安に。
為替ヘッジコストの管理
円ヘッジ付き米国株 ETF はスワップ差額が高騰中。
実質コストをチェック。
銀行・保険株への戦略的ウェイト
金利上昇は金融セクターにプラスです。
逆に REIT・ハイイールド債、不動産株は慎重に。
「財政×日銀」ニュースの定点観測
予算案、国債増発計画、日銀 QT 方針を 追う習慣をつけましょう。
まとめ──「デフォルト回避=安心」ではない
今回は「石破総理「日本はギリシア以下」発言の衝撃! 通貨発行権があっても破綻しないと言えない3つの理由」と題して石破総理の発言について考えてみました。
通貨発行権のおかげで日本はギリシア型の強制デフォルトに陥る可能性は低い。
これは事実です。
しかし インフレ・円安・金利急騰という別ルートで家計や投資資産に痛みを与えるリスクは確実に高まっています 。
大切なのは「最悪シナリオも想定したポートフォリオ防御」。
この記事のデータを参考に、ご自身の資産配分を今一度点検してみてください。

にほんブログ村