最近、にわかに第2のサブプライムローン問題が引き起こしてしまうのでは?と騒がれているの商品があります。それが「CLO」です。
サブプライムローンとは信用力の低い個人や低所得者層を対象にした高金利の住宅ローンをまとめた証券のことです。
サブプライムローンは格付も高く世界中の金融機関が買い漁っていましたが、住宅価格が下落したことで不良債権化。
世界中の株価が暴落したリーマンショックの発端となったのです。
日銀がCLOには注意が必要だという報告書をまとめたことで、CLOによりリーマンショック級の株価暴落が来てしまうのでは?との不安を持つ人が増えています。
今回はこのCLOが本当に第二のサブプライムローンでリーマンショック級が再び来てしまうのかを考えて行きましょう。
CLOとは
CLOとは「Collateralized Loan Obligation」の頭文字を取ったもので、日本語で言えば「ローン担保証券」です。
簡単に言えば銀行の企業への貸し出し(ローン)をまとめて証券化したものです。
サブプライムローンは個人の住宅ローンをまとめて証券化したものでしたから対象となるローンが個人なのか企業の違いがありますね。
CLOは信用力の低い企業へのローンが中心であるため、リスクは高くなっていますが、その分だけ利回りは高くなっています。
そのため、低金利で収益が厳しい日本の金融機関などが多く投資をしているのです。
そこで日銀が注意が必要だという報告書をまとめたんですね。
CLOの投資残高は増え続けている
出所:日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」より
実際に、CLOへの投資は年々増加傾向にあります。
2018年度で大手銀行等のCLO残高は約12兆7000億円、海外クレジット投資残高の約20%がCLOとなっています。
世界全体のCLO市場残⾼に対する割合も約15%と日本が占める割合がかなり高い水準まで増えてきているんですよ。
これはアメリカに次いで世界2位の水準となっています。
ただし、日本の金融機関の投資をするCLOの多くは信⽤格付けが最も⾼いAAA格トランシェへであるとのことです。
CLOの健全性・市場リスク
CLOは実際にどのようなリスクを孕んでいるのでしょうか。
日銀の報告書を元に見ていきましょう。
日銀によるCLOの健全性分析
出所:日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」より
それでは実際にCLOの健全性はどうなのでしょうか?
日銀はAAA格のCLOについて上記のように分析をしています。
まず、「裏付け資産からの利息収⼊はAAA 格トランシェへの利払い額を⼤きく上回っており、利払いは充⾜した状況にある」としています。つまり、利払いで問題はないということです。
また、「裏付け資産としての担保価値も、AAA格トランシェの残⾼を⼤きく上回っている。リー マンショック以前の⽔準と⽐較しても、⾜もとの担保保全率(裏付け資産としての担保価値残⾼ ÷AAA格トランシェ残⾼)は⾼いことから、AAA格トランシェの頑健性はより⾼まっている。」としています。
つまり、担保も問題ないぞってことですね。
だからAAA格なのでしょうが(笑)
ただし、ちょっと気になる点もあります。
「ハ」の資料です。
「裏付け資産であるレバローンの質(格付け)は、とりわけ2015年初以降、劣化が続いている。」としています。
つまり、裏付けとなる資産の格付けが悪化してきているということです。
CLOの信用リスク評価
出所:日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」より
次にリーマンショック時の裏付け資産の格付け遷移情報を参考に3つの信⽤スト レス・シナリオを作成し、AAA格トランシェの頑健性の変化についてシミュレーションを⾏った結果が上記です。
シナリオは以下の3つとなっています。
シナリオ2がリーマン・ショック時に同じ格付け下⽅遷移で行った場合
シナリオ3が2に加えてデフォルトしたローンの回収額(時価)をリーマンショック時の半額と低く⾒積もる場合
一番厳しいシナリオ3のリーマン・ショック時の回収が半額と見積もるパターンであっても、「裏付け資産からの利息収⼊が利払いを上回る状態は維持され、 裏付け資産の担保価値もAAA格トランシェ残⾼を上回る。」としています。
つまり、リーマン・ショック時より厳しく見積もるパターンでも利払い充足状況も、担保保全状況も問題ない水準ですよってことですね。
CLOの市場リスク評価
出所:日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」より
CLO(AAA格)の健全性は上記のように問題はないと思われます。
しかし、CLO自体は市場で売買される金融商品です。
ですからその市場の価格変動リスクを示したものが上記の図です。
まとめると以下のとおりです。
AA・A格に格下げ された場合には、2割から3割程度の価格下落が発⽣
BB格まで格下げされると5割くらい価格が下落する可能性がある
つまり、CLO(AAA格)は健全性は高いものの、格付けが下げられた場合など市場価格下落などのリスクがあるということです。
CLOの保有状況
それではCLOを保有している金融機関はどのような状況となっているのでしょう。
実はCLOの保有している金融機関はかなり偏っています。
日本で一番保有しているのが全国の農協から資金を集めて運用している「農林中央金庫」です。
2019年6月時点でなんと8兆円ものCLOを保有しています、
出所:農林中央金庫「2019年第一四半期決算概要説明資料」より
日本の金融機関全体の保有が約12兆7000億円ですから実に2/3が農林中央金庫なんですよね。
次に多いのが「三菱UFJファイナンシャルグループ」で2兆6000億円となっています。
その次が「ゆうちょ銀行」で1兆2000億円
つまり、この3行で90%以上を占めているのです。
ですからこのCLO問題は日本全体の問題と言うよりもこの3行の問題なんですよ。
農林中央金庫は大丈夫?
これだけ見ると農林中央金庫大丈夫か???って思われる方も多いでしょう。
ただし、農林中央金庫はかなり巨大な組織です。
CLOには8兆円投資していますが、農林中央金庫の市場運用資産の13%に過ぎません。
また、CLOへの投資はAAA格に限定していますし、すべて満期保有目的ですから上記のシュミレーションを見る限り大きな問題にはなりにくいと思われます。
CLOまとめ
今回は「第2のサブプライムローン?CLOは本当に危険なのか?」と題して日銀の報告書を元にCLOについて見てきました。
日銀の資料をよく読む限り、CLOはたしかにリスキーな商品ではありますが、AAA格に限ればそれほど大きなリスクは想定しにくいです。
また、もし、CLOに大きな問題が生じたとしても大きな影響があるのは農林中央金庫、三菱UFJファイナンシャルグループ、ゆうちょ銀行の3行でだけです。
しかし、3行ともかなりの規模の金融機関で、投資比率もそこまで大きくないことからリーマン・ショックほどの大きな影響はなさそうだな・・・ってのが私の感想です。
ただし、世界全体で見た時にどのような影響があるのかは考える必要があるでしょうけどね・・・
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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