脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を巡っては、従業員への給料未払いなどを理由に元従業員らが破産手続開始を申し立て、2025年8月18日に東京地裁が破産手続開始を決定したと報じられています。
負債は約260億円、債権者は顧客・元従業員ら計123万人超とされています(2025年8月19日報道)。
元社長の高橋氏が元従業員らに、未払い分の給与を支払うことができないので、政府が事業主に代わって立て替えを行う「未払賃金立替払制度」を利用してほしいと説明したとのことで、未払賃金立替払制度が大きな話題に。
今回は未払賃金立替払制度について詳しく解説していきます。
未払賃金立替制度とは?【制度の目的と仕組み】
未払賃金立替払制度とは会社の倒産で賃金が払われないまま退職した労働者に対し、国(独立行政法人 労働者健康安全機構=JOHAS)が未払賃金の一部を立替払いする制度です。
根拠法は「賃金の支払の確保等に関する法律」。
事業主(会社)側の要件
なお、未払賃金立替払制度を利用するには要件があります、
まずはそちらから確認していきましょう。
事業者側の要件は2つです。
労災保険の適用事業で1年以上事業を実施していること
倒産していること
なお、倒産とは次のいずれかの状況を指します。
法律上の倒産:破産手続開始決定、民事再生手続開始決定、会社更生手続開始決定、特別清算開始命令 等
事実上の倒産(中小企業のみ):事業活動停止・再開見込みなし・賃金支払能力なしを労基署長が認定
ミュゼは元従業員らが破産手続開始を申し立て、2025年8月18日に東京地裁が破産手続開始を決定したと報じられていますので、前者の法律上の倒産にあたる形ですね。
労働者側の要件(誰が対象?)
次は労働者側の要件です。
こちらもいくつか条件があります。
退職時期
破産等の申立(または事実上倒産の認定申請)の6か月前の日から2年の間に退職していること
証明・確認
法律上の倒産は破産管財人等の証明、事実上の倒産は労基署長の確認が必要
請求期限
破産手続開始決定(または認定)翌日から2年以内に請求すること
ちなみにミュゼの場合には2025年8月18日に破産手続開始決定とのことです。
破産決定日を起点に、翌日から2年以内の請求期限となる点が重要ですね。
雇用形態
国籍・正社員/パート/アルバイト等を問わず対象(ただし登記役員など「労働者」でない者は対象外)
いくら支給される?
それでは未払賃金立替払制度でいくら支給されるのでしょう?
立替払の基本
まず、未払賃金は所得税や社会保険料などが控除される前の金額ですが、社宅料など給与から差し引かれることがはっきりしている分については控除されて計算します。
その未払賃金の総額の80%が立替対象となります。
ただし、退職日の年齢によって未払賃金総額の限度額があり、その80%が上限です。
- 30歳未満:限度額110万円 → 上限88万円
- 30歳以上45歳未満:限度額220万円 → 上限176万円
- 45歳以上:限度額370万円 → 上限296万円
- 総額2万円未満は対象外
※未払1回あたりではなく、未払総額の上限です。
満額建て替えてくれるわけではないんですよ。
基本的に給料は会社が払う必要があるお金ですし、悪用する企業が出てくる可能性を考えて満額にしていないのでしょう。
なお、倒産すると残った資産を債権者で分ける形になります。
給料等は他の債権よりも優先されることになっています。
ただし、以下のように元社長が語っていることから、実際に満額から足りない分が回収できるのかは疑問が残ります。
「残っていません。実際はもう(運営会社に)資産はありません」
出典:テレビ朝NEWS 「ミュゼプラチナム」運営会社が破産手続き開始 元従業員「給料払え」
対象となる「未払賃金」の範囲
次に対象となる未払賃金の範囲を見ていきましょう。
- 対象:退職日の6か月前から、立替払請求日の前日までに支払期日が到来している
- 定期賃金(基本給・通勤手当・残業代 等/法定控除前の額)
- 退職手当(退職金)
- 対象外:賞与(ボーナス)、解雇予告手当、遅延利息、年末調整還付金など
退職金は対象ですが、賞与は対象外となってしまいますのでご注意ください。
計算例
- 退職時33歳、未払賃金200万円(定期80万円+退職金120万円)
→ 限度額220万円以内 → 200万円×80%=160万円 - 退職時48歳、未払賃金420万円(定期120万円+退職金300万円)
→ 限度額370万円超過 → 370万円×80%=296万円(上限)
未払賃金立替払制度の落とし穴と注意点
なお、この制度の注意点と落とし穴について見ていきましょう
全額が立て替えされない
前述したように全額が立替されないという点には注意が必要です。
「2万円未満」は対象外
未払総額が2万円未満は対象外。
端数調整でギリギリ外れるケースもあるためパートさんやアルバイトさんは注意が必要。
退職金と社宅料等の扱い
退職金は対象ですが、会社が退職金を社外積立で運用していてそれが受給確定した額は差し引きされます。
社宅料・貸付金返済など給与から差引予定分は控除されます
立替後の税務(退職所得扱い)
立替払は退職所得として分離課税という扱いです。
源泉徴収票が発行されます。
退職金の扱いなので社会保険料は控除されません。
不正受給すると倍返し
未払いの額や退職日などを偽って申請したり、会社が加担して虚偽の報告・証明を行うなどした場合には詐欺罪に問われる可能性がありますのでご注意ください。
また、立て替え払いされた金額の倍返しが求められます。
よくある疑問(Q&A)
ここからはよくある疑問についてみていきましょう。
「解散」でも使えますか?
「法律上の倒産」または中小企業の「事実上の倒産」認定が必要です。
単なる「解散の決議」だけでは足りず、労基署長の認定(事業停止・再開見込みなし・賃金支払不能)が条件です。
在職中でも申請できますか?
退職していることが要件です。
破産申立等の6か月前の日から2年以内に退職している必要があります。
パート・アルバイト・外国籍でも対象?
労働者であれば対象です。
登記役員など労働者でない方は対象外です。
ボーナス(賞与)は対象ですか?
対象外です。
対象は定期賃金と退職手当のみです。
いくら戻るの?年齢上限は?
原則未払額の80%。
上限は年齢別(退職日基準)で88万円~296万円です
いつまでに申請?
破産手続開始決定の翌日から2年以内(事実上の倒産は認定翌日から2年以内)。
契約者はどうなる?
ミュゼは契約が残っている利用者に対しては、事業を引き継いだ別会社でサービスを継続するとしています。
サロンとの契約が残っている利用者に対しては、事業を引き継いだ別会社でサービスを継続すると話します。 「『どこでもミュゼ』の全国の168店舗、『新生ミュゼプラチナム』の13店舗、全店舗で施術が可能です」
出典:テレ朝NEWS 「ミュゼプラチナム」運営会社が破産手続き開始 元従業員「給料払え」
一般的な場合のサービス契約者の扱いは下記記事を御覧ください。

ミュゼ等の従業員向け実務アクション
参考までに未払賃金立替払制度を実際に利用する場合の流れを見ていきます。
退職日の確定・賃金証拠の確保
離職票・退職証明、給与明細、賃金台帳の写し、シフト表、就業規則などを証拠書類を手元に保全。
破産管財人の情報確認と「証明書」取得
管財人の連絡先・専用サイトの開設有無(FAQ/証明手順)を確認し、証明書の入手を最優先。
報道では立替制度活用の検討が示されています
労基署・機構へ相談
労働基準監督署または機構相談コーナーで必要書類・書き方・郵送先を確認。
期限管理
2025年8月18日の翌日を起点に2年以内(法律上の倒産)に必ず請求。
なお、在職中の未払い賃金請求(労基署申告や労働審判 等)とは別のスキームです。
本制度は倒産+退職が前提です。
まとめ
今回は「ミュゼの給料未払いで話題:未払賃金立替制度の要件・いくら受け取れるのか等を解説」と題して未払賃金立替制度についてみてきました。
まとめると
・ミュゼは2025年8月18日の破産手続開始決定により、未払賃金立替制度の「法律上の倒産」要件を満たす方向で進展
・制度は未払の8割、年齢別上限(88~296万円)、申請期限は2年が大枠。
・対象は退職している労働者。賞与は対象外、定期賃金・退職金が中心。
まずは証明書の取得→書類提出→期限管理。
困ったら労基署へ相談に行きましょう。
一般的に倒産時点まで会社にいると大変なことが多いので、その前に脱出するのがおすすめです。
黄色信号はこちらの記事でまとめております。


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