投資の世界には、決して無視してはならない「物理法則」が存在します。
それが「金利」です。
もしあなたが、「業績が良い会社の株を買えば儲かる」「NISAでオルカンを買っておけば安心」と考えているなら、それは命綱なしで崖を登るようなものです。
なぜなら、企業の業績がどれほど良くても、金利という「重力」が強まれば、すべての資産価値は地上へと引き戻されるからです。
多くの投資家は、株価の変動(風)ばかりを見て、その足元にある金利(地盤)の動きを見ていません。
2025年12月には政策金利が30年ぶりの0.75%に到達した日本。
この記事では、金利と株価・債券の関係を「なぜそうなるのか」という本質から解き明かし、金利上昇時代を味方につける投資戦略をお伝えします。
日本が「金利のある世界」に戻った意味
日本銀行は2025年12月の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%に引き上げました。
これは1995年以来、実に30年ぶりの高水準です。
2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、日銀は着実に利上げを進めてきました。
植田和男総裁は「経済・物価情勢が見通しどおりに推移すれば、引き続き政策金利を引き上げる」と明言しており、市場では2026年にかけてさらなる利上げが織り込まれています。
長らく「金利のない世界」に慣れてきた私たち日本の投資家にとって、これは歴史的な転換点といえます。
金利が動く世界では、株式も債券も「これまでとは違う動き」をします。
では、金利と株価・債券にはどのような関係があるのでしょうか。
投資判断を誤らないために、その仕組みを根本から理解しておきましょう。
金利はなぜ上がるのか?3つの原動力を理解する
まず「金利がなぜ上がるのか」という根本的な問いから始めましょう。
金利の動きを理解することが、株価や債券の動きを予測する第一歩だからです。
金利が上昇する原因は、主に3つあります。
景気の回復・拡大
景気が良くなると、企業は設備投資を増やすためにお金を借りたがります。
個人も住宅や車を購入するためにローンを組む機会が増えます。「お金を借りたい人」が増えれば、お金の価格である金利は上昇します。
これは需要と供給の基本原則です。
経済全体でお金の需要が高まると、金融機関はより高い金利を提示しても借り手が見つかるため、自然と金利水準が上がっていきます。
物価の上昇(インフレ)
物価が上昇すると、お金の価値は相対的に下がります。
年利1%で100万円を預けても、1年後に物価が3%上がっていれば、実質的にはお金の価値が目減りしていることになります。
このとき、預金者は「もっと高い金利でなければ預ける意味がない」と考えます。
金融機関は預金を確保するために金利を引き上げざるを得ません。また、中央銀行も過度なインフレを抑えるために政策金利を引き上げます。
日本では2024年以降、消費者物価指数が2〜3%台で推移しており、日銀が掲げる「2%の物価安定目標」をおおむね達成しています。
これが利上げの大きな根拠となっています。
中央銀行の金融政策
最も直接的に金利を動かすのが、中央銀行の政策金利です。
日本銀行は景気やインフレの状況を見ながら、「政策金利」と呼ばれる短期金利の誘導目標を決定します。
政策金利が上がると、銀行が日銀からお金を借りるコストが上がります。
その結果、銀行が企業や個人に貸し出す金利も上昇し、市場全体の金利水準が上がっていきます。
現在の日銀は「金融政策の正常化」を進めており、異例の低金利状態から通常の金利環境への移行を目指しています。
金利と株価の関係:なぜ金利上昇で株は下がるのか?
さて、ここからが本題です。「金利が上がると株価が下がる」と言われますが、その理由は2つの側面から説明できます。
理由1:企業側の要因—借入コストの増加
企業は事業を成長させるために、銀行からの借入や社債の発行で資金を調達します。
金利が上がると、この調達コストが増加します。
例えば、10億円を借りて新工場を建設する計画があったとします。
金利が1%のときは年間1,000万円の利息で済みましたが、金利が3%になれば年間3,000万円の利息が必要です。
差額の2,000万円は、そのまま利益を圧迫します。
また、金利上昇は企業の投資意欲そのものを冷やします。
「利息が高くなるなら、設備投資は見送ろう」という判断が増え、経済全体の成長期待が低下します。
成長期待が下がれば、株価も下がるというわけです。
理由2:投資家側の要因—資金の流出
投資家は常に「より有利な運用先」を探しています。
金利が低いときは、預金や債券では十分なリターンが得られないため、リスクを取って株式に投資する動機が強まります。
しかし金利が上がると、状況は変わります。
例えば、定期預金の金利が1%を超えてくれば、「わざわざリスクのある株を買わなくても、預金で十分では?」と考える投資家が増えます。
実際、2024年3月のマイナス金利解除以降、メガバンクを中心に預金金利の引き上げが相次いでいます。
預金という「安全資産」の魅力が高まれば、株式市場から資金が流出し、株価の下落圧力となります。
ただし「金利上昇=株価下落」は常に正しいとは限らない
ここで重要な点を補足します。金利上昇が必ず株価下落につながるわけではありません。
景気が好調で、金利上昇以上に企業業績が伸びている局面では、株価は上昇することもあります。
これは「良い金利上昇」と呼ばれます。
企業の資金需要が旺盛で、借入コスト増加を吸収できるほど業績が好調な状態です。
反対に、景気が悪いにもかかわらず、インフレ退治のために金利を上げざるを得ない場合は「悪い金利上昇」です。
この場合、株価は大きく下落するリスクがあります。
現在の日本は、賃上げの動きが広がり、消費も緩やかに回復しています。
日銀も「賃金と物価の好循環」を確認しながら慎重に利上げを進めており、現時点では「良い金利上昇」の範疇といえるでしょう。
ただし、今後の経済指標を注視する必要があるデータも増えてきています。
金利と債券の関係:シーソーの原理を理解する
次に、金利と債券の関係を見ていきましょう。
こちらは株式よりもシンプルで、「金利が上がると債券価格は下がる」という逆相関の関係が成り立ちます。
債券価格が動く仕組み
債券とは、国や企業が資金を借りるときに発行する「借用証書」のようなものです。
投資家は債券を購入することで、発行体にお金を貸し、その見返りとして利息(クーポン)を受け取ります。
例えば、額面100円、利率2%、償還期間5年の債券を購入したとしましょう。
毎年2円の利息を受け取り、5年後には元本100円が戻ってきます。
ところが、この債券を購入した直後に市場金利が3%に上昇したらどうなるでしょうか。
新しく発行される債券は利率3%です。
あなたが持っている利率2%の債券は、相対的に魅力が低下します。
この債券を売却しようとしても、「今なら3%の債券が買えるのに、なぜわざわざ2%のものを買わなければならないのか」と買い手は考えます。
結果として、あなたの債券は「値引き」をしなければ売れません。
具体的には、利回りが市場金利と同等になる価格まで下落するのです。
具体例で計算してみよう
先ほどの債券で考えてみましょう。
残存期間5年、利率2%の債券を、新規発行の3%債券と同じ利回りにするには、どれだけ値下げが必要でしょうか。
新しい3%債券を100円で買うと、5年間で受け取る総額は115円(元本100円+利息15円)です。
古い2%債券を100円で買うと、5年間で受け取る総額は110円(元本100円+利息10円)です。
5円の差があるため、古い債券は約95円まで値下げしないと、同等の投資価値になりません。
これが「金利1%上昇で、残存期間5年の債券が約5%下落する」というおおまかな計算です。
このように、金利と債券価格は「シーソー」のような関係にあります。
金利が上がれば債券価格は下がり、金利が下がれば債券価格は上がります。
残存期間が長いほど影響は大きい
ここで覚えておきたいのが、債券の「残存期間」による影響の違いです。
同じ金利変動でも、満期まで長い債券ほど価格の揺れが大きくなりがちです。
これは「デュレーション」と呼ばれる指標で測定されます。
例えば、金利が1%上昇した場合、残存期間2年の債券は約2%下落し、残存期間10年の債券は約10%下落するイメージです。
長期債ほど金利変動リスクが高いということです。
現在の日本では、10年国債利回りが2025年12月に約2%と、26年ぶりの高水準に達しています。
債券投資家にとっては、保有債券の価格下落という痛みを伴う局面です。
ここで大事なのは、「債券=安全」でも「価格が動かない」とは限らない、という点です。
安全とは主に「元本が返ってくる確率」の話で、途中の価格変動とは別物です。
変動金利型の債券は例外:個人向け国債という選択肢
ここまで「金利上昇=債券価格下落」と説明してきましたが、例外があります。
それが「変動金利型」の債券です。
代表的なのが、日本国が発行する「個人向け国債(変動10年)」です。
この債券は、半年ごとに適用金利が見直されます。
市場金利が上がれば、受け取れる利息も増えます。つまり、金利上昇の恩恵を受けられるのです。
さらに、個人向け国債には「元本保証」があります。
途中換金しても、直近2回分の利息相当額が差し引かれるだけで、元本割れはありません。
金利上昇局面で債券投資をしたい場合、固定金利型の債券投資信託は価格下落リスクがありますが、変動金利型の個人向け国債であればそのリスクを回避できます。
ポートフォリオの「安全資産」部分を考える際には、有力な選択肢といえるでしょう。
金利上昇時代のポートフォリオ戦略
ここまで金利と株価・債券の関係を解説してきました。
では、実際に金利上昇局面でどのような投資戦略を取るべきでしょうか。
投資においても「リスク管理」と「分散」が重要だと考えています。
株式:業種選定がカギを握る
金利上昇局面では、すべての株式が一様に下落するわけではありません。
金融セクター、特に銀行株は、金利上昇の恩恵を受けやすい業種です。
銀行は預金と貸出の金利差で収益を上げるため、金利環境が改善すれば利益が拡大します。
また、キャッシュが潤沢な企業の株なども相対的に有利に働きますね。
一方、成長株(グロース株)は要注意です。
将来の収益を現在価値に割り引く際、金利が高いほど現在価値は低くなります。
まだ利益が出ていないが将来の成長に期待するタイプの企業は、金利上昇で評価が下がりやすい傾向があります。
また、借入依存度の高い企業も金利上昇の影響を受けやすいです。
財務諸表の「有利子負債比率」などをチェックし、財務体質の健全な企業を選ぶことが重要になります。
債券:長期債より短期債・変動金利型へ
金利上昇が見込まれる局面では、長期固定金利の債券は避けた方が無難です。
前述のとおり、残存期間が長いほど金利変動の影響を受けます。
もし債券投資をする場合は、残存期間の短いものや、変動金利型品を選ぶことでリスクを軽減できます。
個人向け国債(変動10年)は、その意味で現在の環境に適した商品といえます。
元本保証がありながら、金利上昇の恩恵も受けられます。
現金・預金:利息収入の増加
金利上昇は、預金者にとっては朗報でもあります。
2025年1月の利上げ以降、メガバンクでは普通預金金利が0.2%前後に引き上げられています。
定期預金では1%を超える金利を提示する銀行も出てきました。
「投資をしない」という選択肢も、金利上昇局面では以前より合理的になっています。
少なくとも、急いで投資する必要はありません。じっくりと市場環境を見極めながら、投資機会を待つことも一つの戦略です。
分散投資の重要性は変わらない
金利環境がどう変化しても、「卵を一つのカゴに盛るな」という原則は変わりません。
株式、債券、現金、不動産など、異なる資産クラスに分散することで、特定のリスク要因による影響を緩和できます。
金利と株価は逆相関の傾向がありますが、常にそうとは限りません。
複数の資産を組み合わせることで、どのような市場環境でも安定した資産形成が可能になります。
よくある質問(FAQ)
次によくある質問をみておきましょう。
- 金利が上がると、債券は必ず損ですか
-
途中の価格は下がりやすいですが、利子収入のクッションがあります。
影響の大きさはデュレーションと利回りで変わります。
- 債券は安全資産ではないのですか
-
元本回収の確からしさという意味では安全寄りでも、価格が動かないとは限りません。
金利と債券の関係が逆である以上、価格変動は起きます。
- 金利上昇で株は必ず下がりますか
-
必ずではありません。値付けには重しになりますが、利益成長や景気の強さが上書きする局面もあります。
原因から読んでください。
- 短期金利は何で決まりますか
-
資金の余り不足と、日本銀行の金融市場調節などの影響を受けます。
- 初心者は何から見ればいいですか
-
債券は「デュレーション」、株は「借金の多さ」と「値段の高さ」。
これだけで十分スタートできます。
まとめ:金利を理解することは投資の「羅針盤」を持つこと
この記事では、金利と株価の関係、金利と債券の関係について解説してきました。
ポイントを整理すると、金利上昇が株価下落につながる理由は、企業の借入コスト増加と投資家の資金シフトです。
金利上昇で債券価格が下落する理由は、既存債券の相対的魅力の低下です。
ただし、変動金利型の債券は金利上昇の恩恵を受けられます。
そして、景気が好調な「良い金利上昇」であれば、株価上昇と両立することもあります。
30年ぶりの金利上昇局面を迎えた日本。
これは、投資家にとって「試練」であると同時に「チャンス」でもあります。
金利の仕組みを理解している投資家は、市場の変動に振り回されることなく、冷静な判断ができます。
逆に、仕組みを理解しないまま投資を続けると、「なぜ下がったのか分からない」という状況に陥りかねません。
金利を理解することは、投資の世界を航海するための「羅針盤」を手に入れることです。
この羅針盤を使いこなし、あなたの資産形成を成功に導いてください。

