2025年5月16日に閣議決定された年金制度改革法案により、パート・アルバイトの働き方を左右してきた「106 万円の壁」は3年以内に完全撤廃されます。
これに伴い、週20時間以上働く人は企業規模や年収を問わず厚生年金と健康保険に加入し、将来受け取れる年金が増える一方、手取りは保険料相当分だけ減少する見込みです。
制度の狙い・スケジュール・家計や企業への影響・節約や投資面での立ち回り方を、最新情報を交えて網羅的に解説します。
103万円の壁よりももしかしたら影響は大きいかもしれませんね。
「106 万円の壁」とは何か
まずは前提となる106万円の壁について解説しておきましょう。
現行ルールの概要
現在、週20時間以上働く短時間労働者でも、
①月収8万8,000円(年収約106 万円)以上
②従業員51人以上の事業所、
③勤務期間1年以上見込み
等の要件を満たした場合にのみ厚生年金へ加入が義務づけられています
①の賃金要件を超えると労使折半で約15%※の社会保険料負担が発生するため、手取りを護る目的で就業調整をする。
これが「106 万円の壁」と呼ばれてきました。※本人負担はおおむね7.5%
壁が生まれた背景
もともと社会保険は本来フルタイムを想定した制度設計だったため、「短時間+低賃金+小規模事業所」は排除されていました。
しかし、少子高齢化と人手不足の深刻化を受け、2016年以降、段階的に企業規模要件を引き下げてきた経緯があります
ちなみにもともと従業員数501人以上の企業のみが対象だったのですが、2022年10月から従業員数100人以上の企業が対象、2024年10月から51人以上の会社までが対象となっていました。

閣議決定された年金制度改革法案のポイント
それでは今回閣議決定された年金制度改革法案の内容について見ていきましょう。
年収要件(106 万円)を撤廃
閣議決定された法案は、賃金の上限を撤廃し、週20時間以上なら年収に関係なく厚生年金に加入させる方針を明記しました。
金額ではなく週労働時間での線引となるってことですね。
施行時期は2026年10月を軸に法成立後3年以内とされています
ちなみに2028年10月から改正される雇用保険は週10時間が壁なのでちょっとわかりにくい感はありますが。。。

企業規模要件の段階的撤廃
現在従業員数51人以上の会社が対象となっている企業規模条件も徐々に撤廃されていく方針とのこと。
施行時期 | 加入義務が生じる従業員数 |
---|---|
2027年10月 | 36人以上 |
2031年10月 | 16人以上 |
2035年10月 | 規模要件撤廃(全企業対象) |
加入拡大の規模
全撤廃により新たに約70万人が被用者保険に入る見通しとのこと
改正に伴い、年収約106万円の賃金条件を撤廃する。
企業規模条件も撤廃する。27年10月には、現行の「51人以上」から「36人以上」に拡大。段階的に広げ、35年にはすべての規模の企業を対象とする。撤廃により加入対象者は約70万人増える見通し。
出典 朝日新聞 年収「106万円の壁」「130万円の壁」、年金法案でどう変わる
併せて盛り込まれた主な改正項目
ちなみに今回の年金制度改革法案に合わせて盛り込まれた主な改正点は以下のとおりです。
- 高所得者の標準報酬月額上限引き上げ。
- 在職老齢年金の支給停止基準額見直し。
- 遺族年金の対象拡充など。
それぞれの内容について詳しくはこちらを御覧ください
厚生労働省:年金制度改正法案を国会に提出しました
家計への影響を考える
それでは今回の法改正でどのように家計へ影響があるのかを考えてみましょう。
手取りは本当に減るが・・・
年間収入 | 保険料本人負担(概算) | 受給見込年金増額(将来) | 総合評価 |
---|---|---|---|
110 万円 | 約82,500円 | 月額約3,300円上乗せ | △ 短期的にマイナス |
150 万円 | 約112,500円 | 月額約4,700円上乗せ | ○ 長期的にプラス |
※モデルケース:20歳で加入し40年間就業の場合。実際は報酬比例で変動します。
短期的に見れば手取りは確かに減りますね。
しかし、長期的に見れば将来もらえる年金が増えるのです。
厚生年金は国民年金と違い会社が半分負担してくれる仕組み。
それでその分も含めて老後にもらえる年金が増えればお得と言えばお得な部分もあるのです。
手取り減少への不安は根強く、報道でも「増税感」が強調されています。
ただし、厚生年金の報酬比例部分は老後の受取額が確実に増えると考えると、長寿リスクに備える安全性の高い投資と位置付けることもできますね。
厚生年金には保険的側面も
また、あまり強調されていませんが、老後の話だけでもないんですよ。
厚生年金には保険的側面もあるのです。
厚生年金に加入することで亡くなったら遺族が受け取れる遺族年金、障害と認定されたら受け取れる障害年金などの給付も手厚くなります。
さらに健康保険にも加入していれば怪我等で働けなくなったときにもらえる傷病手当、産休期間中に受け取れる出産手当金なんかがもらえるようになります。
このあたりもメリットがあります。
ですから従業員側からみると一概に手取りが減るから損だとは言えないのが今回の改正となります。
配偶者手当、家族手当が終了?
ただし、配偶者の会社で配偶者手当や家族手当が出ている場合などはマイナスの影響が多くなる可能性もあります。
配偶者手当や家族手当のルールなどを確認しておくとよいでしょう。
iDeCoや新NISAで自助努力を加速し、保険料増を将来資産で取り戻す必要はありそうです。
企業は負担が増えるがメリットなし
従業員側は将来もらえる年金が増えたり、保険的な制度の活用ができるので改正されてもメリットもあります。
しかし、折半で負担が増える企業側は負担が増えるだけでメリットはないんですよ。
金銭面の負担はもちろん、事務手続きも増えますしね・・・
ですから政府は当面の助成金や保険料減免策を検討中です。
2023年度から実施されている「年収の壁・支援強化パッケージ」の拡充も示唆されています。
よくある質問(FAQ)
よくいただく質問を見てみましょう。
週20時間未満に抑えれば社保は回避できますか?
現行の労働時間要件は存続予定です。
週20時間未満なら従来どおり加入不要となります。
103 万円・130 万円の壁はどうなる
所得税の配偶者控除(103 万円)、国保の切替(130 万円)は今回の法改正対象外。
ただし政府は「103 万円の壁の見直し」も次期税制改正で議論する方針です。
学生アルバイトは?
学生については引き続き適用除外が維持される方向と報じられています
まとめ
今回は「「106万円の壁」撤廃はいつから?年金制度改革法案でパート・アルバイトの社会保険料がどう変わるか徹底解説」と題して年金制度改革法案の話をみてきました。
まとめると
- 2026年10月までに年収要件は消滅。企業規模要件も2035年には完全撤廃。
- 手取り減少はあるものの、長寿時代に備える「強制貯蓄」として前向きに捉えるのが賢い選択。
- パート・アルバイトの皆さんは、早めに勤務シフトと家計・投資計画を組み直し、将来の受給アップと現在の可処分所得のバランスを最適化しましょう。
- 企業オーナー・管理職の方は、助成金の活用でコストを抑えつつ、人材確保につなげるチャンスです。
「106 万円の壁」がなくなることで、働き方・家計管理・老後資産形成の常識がまた一段アップデートされます。
制度改正の波を上手に乗りこなして、賢く“お金に生きる”ライフスタイルを実現していきましょう。

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