生成AI「Claude(クロード)」を開発する米国のAnthropic(アンソロピック)が、新規株式公開(IPO)に向けて本格的に動き出しました。
2026年10月26日、アンソロピックは米証券取引委員会(SEC)に上場申請書を提出。
11月2日には、2026年7〜9月期の最新業績を反映した修正版を提出しています。
さらに注目したいのが、日本の個人投資家にもIPO株を購入できる機会が用意されていることです。
日本国内での募集額は最大35億ドル(約5,528億円)。
みずほ証券を中心に、SBI証券や楽天証券などが取り扱います。
SBI証券は11月3日、NISA成長投資枠での購入も可能であることを発表しました。
しかし、話題のAI企業だからといって、IPO株を購入すれば必ず儲かるわけではありません。
アンソロピックは、2026年7〜9月期だけで約170億ドルという驚異的な売上高を記録した一方、巨額の純損失も計上しています。
また、AIの開発・運用に欠かせない計算資源について、約8,954億ドルという途方もない規模の契約負担を抱えています。
今回のIPOは、生成AIが有望な技術であることと、生成AI企業の株式が魅力的な投資対象であることは別問題だと、改めて考えさせる案件になりそうです。
本記事では、最新のIPO情報、日本からの購入方法、業績、企業価値、投資リスクを整理したうえで、アンソロピックのIPOに参加する価値があるのかを考えていきます。
※本記事は2026年11月4日時点の情報に基づきます。募集条件・日程は今後変更される可能性があります。
Anthropic(アンソロピック)とはどんな会社か
Anthropic(アンソロピック)は、AIの安全性を重視するOpenAIの元幹部らが2021年に設立したAI開発企業です。
ここ1年の急成長は、ソフトウェア開発を自動化する「Claude Code」の人気が原動力になりました。
一般的な株式会社と違うのは、「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)」という法人形態をとっている点です。
デラウェア州法上、取締役会は株主の利益だけでなく、「人類の長期的利益のための高度なAIの責任ある開発」という公益目的とのバランスをとる義務を負います
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Anthropic, PBC(本社:米サンフランシスコ) |
| 設立 | 2021年(共同創業者7名) |
| CEO / CFO | ダリオ・アモデイ / クリシュナ・ラオ(元Airbnb) |
| 主力製品 | 対話AI「Claude」、開発支援「Claude Code」、法人向けAPI |
| 創業以来の調達額 | 1,411億ドル(2026年6月末時点) |
| 主な出資者 | アマゾン、グーグル、マイクロソフト、エヌビディアほか |
CFOのクリシュナ・ラオ氏は、Airbnbの2020年IPOで中心的な役割を担った人物です。
2025年秋にはマイクロソフトから最大50億ドル、エヌビディアから最大100億ドルの出資を受けており、IT大手が出資者と取引先を兼ねる構図も特徴です。
元上場企業の経理責任者として私が最初に注目したのは、この「出資者=取引先=競合」という関係です。
Claudeだけでなく、AIエージェントや企業向けサービスが成長を牽引
Anthropic(アンソロピック)の主な事業には、対話型AIのClaude、プログラミングを支援するClaude Code、AIを業務に組み込むためのAPIやClaude Platform、業務遂行を支援するCoworkなどがあります。
Claude Codeは、AIがコードを生成するだけでなく、既存コードの理解や修正、テストなどを支援するサービスです。
企業がAIを単に質問に答える道具として使う段階から、実際の業務を遂行する仕組みとして使う段階に移るほど、こうした製品の重要性は増していきます。
アンソロピックは、AIを提供する企業から、企業の業務を支える重要な基盤へと進化することを目指していると考えられます。
これは、AIエージェントを活用した業務変革、いわゆるAX(AI Transformation)の流れとも重なります。
一方、AIエージェントは単純なチャットより多くの計算資源を消費する場合があります。
AIが複雑な仕事をこなせるようになるほど売上は増えるかもしれませんが、同時に運用コストも増加する可能性があるのです。
この点が、アンソロピックの企業価値を評価するうえで非常に重要になります。
Anthropic(アンソロピック)のIPOはいつ?上場情報まとめ
次に現時点で判明しているIPOの基本情報を確認しましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | Anthropic, PBC(アンソロピック) |
| 設立 | 2021年 |
| 主力サービス | Claude、Claude Codeなど |
| 上場予定市場 | 米NASDAQ Global Select Market |
| ティッカー | ANT |
| 米国の上場申請 | 2026年10月26日 |
| 修正版届出書提出 | 2026年11月2日 |
| 上場予定時期 | 2026年11月中旬との報道 |
| 公開価格 | 未定 |
| 公開株数 | 未定 |
| IPO時の企業価値 | 1兆4,000億〜1兆5,000億ドル程度との報道 |
| 日本での募集上限 | 35億ドル(約5,528億円) |
| 国内事務幹事 | みずほ証券 |
| 国内取扱会社 | SBI証券、楽天証券など |
| SBI証券でのNISA購入 | 成長投資枠で可能 |
出典:Anthropic公式IPO発表、SEC提出書類(S-1/A)
上場日は11月中旬が有力。ただし確定ではない
各種報道では、アンソロピックは11月中旬の上場を目指しているとされています。
ただし、11月4日時点で、正式な上場日や公開価格は発表されていません。
SECに提出された目論見書でも、公開価格帯、公開株数などは空欄のままです。
今後、投資家向け説明会や需要調査を経て、正式な条件が決定される見込みです。
上場申請書を提出したことと、上場が確定したことは同じではありません。
環境などによって日程が変更される可能性もあります。
IPOの規模は過去最大級になる可能性も
今回のアンソロピックのIPOでは、最大1,000億ドル規模の募集が行われる可能性も報じられています。
ただし、これは報道に基づく観測であり、会社が正式に発表した調達額ではありません。
また、IPOでは新株発行と既存株主による売出しの両方が予定されています。
既存株主が株式を売却して得る資金は、アンソロピックの手元には入りません。
したがって、IPOの募集総額がそのまま会社の事業投資に使える資金になるわけではない点にも注意が必要です。
異例の「段階的ロックアップ」
今回のIPOで個人投資家が最も注意すべきは、ロックアップ(上場前株主の売却制限)の設計です。
一般的なIPOでは上場後180日間は売れませんが、アンソロピックは一部の社員や既存投資家が上場初日から売却でき、その後も段階的に解禁されます。
Business Insiderは、上場後1年間で23回の解禁日を数えています
売り圧力を一度に集中させない工夫とも言えますが、「解禁日カレンダー=需給イベントのカレンダー」になる点は押さえておきたいところです。
アンソロピックの業績は?売上急増の一方で巨額赤字
2026年11月2日に公表された修正版の上場申請書からは、同社の成長の速さと収益構造の両方が見えてきます。
売上高は前年同期の約12倍
主要な業績を整理すると次のようになります。
| 項目 | 2025年通期 | 2026年1〜9月 | 2026年7〜9月 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 45.85億ドル | 332.42億ドル | 169.56億ドル |
| 営業損益 | ▲80.60億ドル | ▲12.60億ドル | ▲5.67億ドル |
| 純損益 | ▲419.65億ドル | ▲1,040.39億ドル | ▲232.91億ドル |
| 調整後営業損益 | ▲48.54億ドル | +40.81億ドル | +24.63億ドル |
※▲は赤字。調整後営業損益は会社が定義する非GAAP指標であり、米国会計基準に基づく営業損益とは異なります。
出典:SEC提出書類S-1/A
2026年7〜9月期の売上高は169.56億ドルでした。
前年同期の13.82億ドルと比較すると、約12.3倍です。
また、2026年1〜9月期の累計売上高は332.42億ドルで、前年同期の25.45億ドルから約13.1倍に増加しています。
これほどの売上成長は、通常の成熟企業では考えにくい水準です。
単なる期待先行のAI企業ではなく、実際に企業がAIサービスへ多額の資金を支払う市場が急速に拡大していることを示しています。
売上の伸びは鈍化している
ここで注意したいのが、成長率の変化です。
2026年の四半期売上高は次のように推移しています。
| 期間 | 売上高 | 前四半期比 |
|---|---|---|
| 1〜3月 | 47.31億ドル | — |
| 4〜6月 | 115.55億ドル | +144% |
| 7〜9月 | 169.56億ドル | +47% |
売上高は増え続けていますが、前四半期比の増収率は144%から47%に低下しました。
もちろん、47%の四半期成長率でも非常に高い水準です。
しかし、株式市場では成長率の絶対水準だけでなく、成長が市場の期待を上回っているかどうかが重要になります。
特に高い企業価値で上場する場合、投資家は将来の急成長をすでに株価に織り込んでいることがあります。
成長企業の株価が下落するのは、売上が減ったときだけではありません。
売上が大きく伸びていても、期待されていたほど伸びなかったという理由で売られることがあるのです。
今回のアンソロピックのIPOでも、この構図には注意が必要でしょう。
1,040億ドルを超える巨額赤字の正体
アンソロピックの決算を見て、2026年1〜9月期の純損失が1,040億ドルを超えていることに驚いた方もいるでしょう。
しかし、この数字だけを見て、事業運営で1,040億ドルもの現金を失ったと考えるのは正確ではありません。
赤字の大部分は金融商品の時価評価によるもの
SECへの提出書類によると、2026年1〜9月期には、転換社債や関連する金融商品などの公正価値変動に伴う費用として943.24億ドルを計上しています。
企業価値が上昇すると、株式への転換などに関係する金融商品の評価額も変化することがあります。
その結果、会計上の費用が大きく計上される場合があるのです。
つまり、企業価値の上昇によって、かえって会計上の純損失が大きくなるという、一見すると不思議な現象が起きています。
これらの費用の多くは、その期に同額の現金が流出したことを意味するものではありません。
したがって、純損失だけで事業の採算性を判断すると、実態を見誤る可能性があります。
営業損益は改善。ただし安定した黒字化には至っていない
一方、2026年1〜9月期の営業損益は12.60億ドルの赤字でした。
前年同期の52.24億ドルの赤字から大きく改善しています。
さらに、2026年4〜6月期には9.74億ドルの営業黒字を計上しました。
ところが、続く7〜9月期は5.67億ドルの営業赤字に戻っています。
これは、計算資源などの費用増加が影響したものです。
会社が開示する調整後営業損益では黒字を確保していますが、調整後の数値では株式報酬や一部の非現金費用などが除外されています。
株式報酬は現金支出を伴わなくても、将来の株式希薄化を通じて既存株主に影響する場合があります。
そのため、調整後営業利益が黒字だから問題ない、と判断するのも早計です。
営業キャッシュフローは黒字に転換
もう一つ確認しておきたいのが、キャッシュフローです。
2026年1〜9月期の営業キャッシュフローは65.69億ドルのプラスでした。
前年同期の20.24億ドルのマイナスから改善しています。
これは、事業活動による現金の創出力が向上していることを示す材料です。
ただし、営業キャッシュフローの黒字がそのままフリーキャッシュフローの黒字を意味するわけではありません。
設備投資やインフラ関連の支出も考慮する必要があります。
アンソロピックの財務状況を見る場合は、純損益、営業損益、調整後営業損益、営業キャッシュフローを分けて評価することが重要です。
最大の懸念は約8,954億ドルの計算資源関連の契約負担
私が今回のIPOで特に注目しているのは、AIインフラへの巨額の支出です。
アンソロピックは、AIモデルの学習や推論のために、膨大な計算資源を必要とします。
これを確保するため、AWS、Googleなどのクラウド・インフラ事業者や半導体関連企業と協力しています。
SEC提出書類によると、2026年9月30日時点およびその後に締結された契約を含めた計算資源やインフラ関連などの支出約束は、総額約8,954億ドルに達します。
そのうち、約4,475億ドルは2030年末までに発生する見込みで、残りの大部分は2031〜2045年にかけて発生するとされています。
2026年9月30日から12カ月以内に支払期限を迎える分だけでも、約698億ドルです。
ただし、この8,954億ドルを現在の借入金や、すでに支出済みの設備投資額と同一視してはいけません。
長期間にわたる購入契約やリースなどが含まれており、契約相手の履行状況などによって条件が変わる可能性もあります。
それでも、将来の収益が想定を下回った場合には大きな負担となり得ます。
AI企業はソフトウェア企業なのか、それともインフラ企業なのか
一般的なソフトウェア企業では、利用者が増えるほど利益率が改善しやすい傾向があります。
開発したソフトウェアを追加の利用者へ提供する際、売上と同じ割合で費用が増えるとは限らないためです。
ところが、大規模な生成AIには違う側面があります。
利用者が増えれば、その分AIを動かすための計算処理も増えます。
複雑な処理を行うAIエージェントが普及すれば、1回の仕事を完了するまでに必要な計算量が増えることもあります。
このため、生成AI企業には、ソフトウェア企業のような高い利益率を実現できるのか、それとも設備や計算資源への投資が利益を圧迫し続けるのか、という重要な論点があります。
売上高に対する計算資源費用の割合は58%
実際、アンソロピックの2026年7〜9月期の計算資源・インフラ関連費用は98.63億ドルでした。
売上高169.56億ドルに対する割合は約58%です。
前四半期の約48%から上昇しています。
会社は、その要因として短期契約で確保した計算資源の費用などを挙げています。
この数字は、そのまま売上原価率や粗利益率を示すものではありませんが、AIの運用にどれほど大きな費用が必要なのかを理解するうえで参考になります。
将来的にモデルの効率化が進み、同じ計算資源でより多くの売上を生み出せるようになれば、収益性は改善するでしょう。
反対に、性能競争によって必要な計算資源が増え続ければ、売上成長が利益成長につながらない可能性があります。
アンソロピックの投資判断では、利用者数や売上成長率だけでなく、売上1ドルを生み出すために必要な計算資源の費用がどう変化していくかを確認する必要があります。
アンソロピックの企業価値は高すぎる?想定時価総額を検証
2026年5月、アンソロピックは650億ドルの資金調達を実施しました。
その際の調達後企業価値は9,650億ドルでした。
その後、IPOでの想定企業価値が2兆ドル規模に達する可能性も報じられましたが、直近では1兆4,000億〜1兆5,000億ドル程度という評価も伝えられています。
正式な公開価格が決まっていないため、これらはあくまで市場関係者による評価や報道上の想定です。
売上高倍率(PSR)で見るとどうなるか
アンソロピックは米国会計基準ベースでは赤字のため、PER(株価収益率)だけで適正株価を判断することは困難です。
そこで参考になるのが、PSR(株価売上高倍率)です。
PSRは、時価総額を年間売上高で割った指標で、利益が出ていない成長企業の評価にも使われます。
今回は仮に、2026年7〜9月期の売上高169.56億ドルを4倍し、年換算売上高を678.24億ドルとした場合を考えます。
| 想定時価総額 | 年換算売上高に対するPSR |
|---|---|
| 1兆4,000億ドル | 約20.6倍 |
| 1兆5,000億ドル | 約22.1倍 |
| 1兆7,500億ドル | 約25.8倍 |
| 2兆ドル | 約29.5倍 |
※筆者試算。四半期売上高の単純年換算による参考値であり、将来の年間売上高予想ではありません。IPO後の株式数・希薄化を反映した正式なバリュエーションではありません。
例えば、1兆5,000億ドルという時価総額が付いた場合、直近四半期売上高の年換算値に対して約22倍の評価になります。
これは、今後も非常に高い成長が続き、将来的には十分な利益率を確保できるという期待を相当に織り込んだ価格と考えられます。
ただし、AI市場自体が急速に拡大しているため、従来のソフトウェア企業のPSRをそのまま当てはめて割高と断定することも適切ではありません。
株価を決めるのは成長率だけではない
アンソロピックが今後も売上を増やし続ける可能性は十分にあります。
しかし、最終的に株主の利益につながるには、売上だけでなく利益やキャッシュフローも成長しなければなりません。
仮に売上が倍増しても、計算資源への支出が同じように増加すれば、利益の拡大は限定的になるかもしれません。
逆に、計算効率の改善や価格競争の落ち着きによって利益率が高まれば、企業価値を正当化できる可能性もあります。
現在の評価が適正かどうかは、将来のAI市場規模だけでなく、アンソロピックがその市場からどれほどの利益を獲得できるかに左右されるのです。
独自の「ANTSチェック」で見るアンソロピックIPO
結論から言うと、このIPOは「成長はA級、損益の中身は改善中、ガバナンスと需給は個人投資家に不利」という評価になります。
ティッカー「ANT」にちなみ、私は巨大IPOを4つの軸で点検する「ANTSチェック」を作りました。
アリ(ants)のように、足元の細かい数字を一つずつ運んで確かめるイメージです。
| 軸 | 見るポイント | 主な数字(出典は各章) | 評価 |
|---|---|---|---|
| A:Acceleration(成長の加速度) | 売上の伸びが続いているか、鈍化していないか | 前四半期比の伸びは第2四半期の約144%から第3四半期は約45%へ。売上継続率(NRR)は約900% | ◎(ただし減速は始まっている) |
| N:Net(損益の中身) | 赤字が「現金の流出」か「会計上の評価損」か | 2026年上期の純損失807億ドルのうち724億ドルは転換社債等の評価替え。営業損失は6.93億ドルまで縮小、営業キャッシュフローは39億ドルの黒字 | ○ |
| T:Trust(ガバナンス) | 一般株主に経営への発言権があるか | 長期利益信託(LTBT)が取締役の過半数を選任。創業者7名のLLCが議決権の50.1%を保有 | △ |
| S:Supply(需給) | 上場後に売り物がどれだけ出てくるか | 調達額は1,000億ドル超の報道。個人配分15〜20%検討。初日から一部売却可、1年で23回の解禁日 | △ |
A:成長の加速度は「史上最速級だが、減速の入口」
2025年通期の売上高46億ドルに対し、2026年上期だけで163億ドルを売り上げました。
一方、第3四半期は前期比約45%増の168億ドルと報じられ、伸び率は明確に鈍っています。
四半期で45%伸びる会社は普通なら超高成長ですが、2兆ドルの評価はその「普通でない伸び」が続く前提に立っています。
N:807億ドルの赤字は「会社が高く評価されたことの裏返し」
元経理責任者として一番伝えたいのはここです。
上期の純損失807億ドルのうち724億ドルは、会社の評価額上昇に伴って転換社債などを時価で評価し直した非資金的な費用です。
本業の営業損失は6.93億ドルで、第2四半期単独では9.74億ドルの営業黒字でした。
ただし後述の巨額の計算資源契約があるため、「黒字化した」と言い切るのは早計です。
T:株主になっても「経営には口を出せない」
5名の受託者からなる長期利益信託(Long-Term Benefit Trust)が1株だけのクラスT株を持ち、取締役の過半数を選びます。
共同創業者7名が所有するLLCは1株だけのクラスF株で議決権の50.1%を握ります。
公開市場で買えるクラスA株は経済的な権利は持ちますが、議決権は合計でも過半に届きません。
安全性を優先する経営を守る仕組みであり、株主はそれを承知で値段をつける必要があります。
S:需給は「上場直後から売りが出る」設計
個人投資家の需要を見込んで配分を厚くする一方、内部関係者は初日から一部を売却できます。
AI懐疑派の研究者エド・ジトロン氏は、この設計を「個人投資家を使った出口づくり」と批判しています。
反対に、超大型銘柄が主要指数に組み入れられれば、インデックスファンドの買いが入るという見方もあります。
投資する前に知っておきたい6つのリスク
最大のリスクは、すでに株価に「完璧な未来」が織り込まれている可能性です。
目論見書のリスク要因は261ページ中80ページに及びます。
個人投資家目線で重要なものを6つに絞りました。
バリュエーションの高さ
どれだけ優れた企業でも、購入価格が高すぎれば良い投資になるとは限りません。
アンソロピックに1兆5,000億ドルという評価が付いた場合、将来の大幅な売上成長や収益性改善がすでに株価に織り込まれている可能性があります。
特に上場直後は、話題性による買いと、初期投資家・機関投資家による売買が交錯し、株価が大きく変動することがあります。
上場後には既存株主の売却制限が段階的に解除されるため、その時期の売り圧力にも注意が必要です。
巨額の計算資源契約
先ほど確認したように、アンソロピックは膨大な計算資源を確保する契約を結んでいます。
こうした計算資源が十分に活用されれば、将来の成長を支える重要な資産となるでしょう。
しかし、AI需要が想定を下回った場合、未使用の計算資源や固定的な契約負担が収益性を圧迫するおそれがあります。
また、クラウド・インフラ事業者やデータセンター開発事業者の資金調達状況によって、必要な計算能力の供給時期や費用が変化するリスクもあります。
売上の計上方法
同社はクラウドパートナー経由の売上を総額で計上しており、その全額を現金で受け取れるわけではありません。
売上高の「見かけの大きさ」と、手元に残る現金は分けて見る必要があります。
米政府との対立
国防総省(Department of War)は2026年3月、AIの自律型兵器・国内監視への利用制限をめぐる対立から、同社を「サプライチェーンリスク」に指定しました。
連邦高裁は9月25日に国防総省の判断を支持しています。
目論見書でも、この問題が「重大な収益の損失」につながりうると警告しています。
6月には米商務省の輸出管理により、最上位モデルの提供を一時停止した経緯もあります。
競争の激化
アンソロピックの最大の競合には、OpenAI、Googleなどが挙げられます。
さらに、オープンウェイトモデルを含め、多様な企業や研究機関がAIモデルの開発を進めています。
現時点で高い評価を受けているモデルであっても、その優位性が何年も続く保証はありません。
特にAIモデルの性能差が縮小すれば、利用企業は価格や使いやすさを基準にサービスを選ぶようになる可能性があります。
性能競争に勝つための研究開発費用が増える一方で、販売価格には下落圧力がかかるという展開も考えられます。
安全性を理由とした「自主的な減速」
同社は安全上の理由でモデル公開を遅らせたことがあり、今後もありうると開示しています。
株主の利益より安全性を優先しうると、会社自身が書面で約束している珍しいケースです。
日本からアンソロピックのIPO株を買う方法
今回のIPOはスペースXの時と同様に日本の個人投資家にも参加機会がある点が特徴です。
日本国内では、POWLと呼ばれる、海外企業の上場に伴う国内向けの募集・売出しの仕組みが利用される予定です。
東証に上場するわけではなく、米国NASDAQへの上場に際して日本の投資家にも株式が販売されます。
国内の取扱会社には、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレーMUFG証券、楽天証券、SBI証券の6社が含まれています。
ただし、機関投資家向けの販売も含まれるため、すべての会社で一般個人が同じ条件で申し込めるという意味ではありません。
個人投資家にとっては、SBI証券や楽天証券、みずほ証券の案内が重要になるでしょう。
SBI証券はIPO株の取扱いを正式発表
SBI証券は2026年11月3日、アンソロピックのIPO株式の購入申込を受け付ける予定と発表しました。
同社の発表によると、次の条件が明らかになっています。
| 項目 | SBI証券での取扱い |
|---|---|
| IPO購入申込 | 受付予定 |
| 購入手数料 | 無料 |
| 決済方法 | 米ドルによる外貨決済のみ |
| 預り区分 | 特定・一般・NISA成長投資枠 |
| 配分方法 | 抽選を実施予定 |
| SBIハイパー預金優遇 | 残高10万円以上で追加抽選の対象 |
| 申込期間 | 正式日程発表待ち |
特に注意したいのが、円貨決済には対応せず、米ドルでの買付余力が必要になることです。
日本円を証券口座に入金しているだけでは、そのままIPOの購入資金に利用できません。
SBI証券で申し込むまでの流れ
正式なスケジュールは未公表ですが、現時点の案内を踏まえると、基本的には次のような準備が必要です。
- SBI証券の口座と外国株式の取引環境を確認する。
- 仮条件や申込受付期間、購入予定株数を確認する。
- 購入に必要な米ドルの買付余力を準備する。
- 指定された期間にIPOの購入申込みを行う。
- 抽選結果を確認し、購入しない場合は所定の時間内に辞退手続きを行う。
ここで、通常の国内IPOと異なる注意点があります。
SBI証券の案内では、当選または補欠当選後に購入を辞退するための受付期間を設ける予定としています。
この期間は最大でも約4時間弱とされており、時間内に辞退しなかった場合、所定の条件を満たす株数について約定が成立する仕組みです。
そのため、申込みをした後に結果を確認しなければ、購入するつもりがなかった株式を取得する可能性があります。
IPOに申し込む際には、申込期限だけでなく、抽選結果の確認方法と辞退受付期間にも注意してください。
なお、詳しい申込条件は正式な募集スケジュールの決定後に確認する必要があります。
SBIハイパー預金に10万円以上で当選確率アップ
今回、SBI証券が発表した特徴的な優遇策が、SBI新生銀行の「SBIハイパー預金」を利用した追加抽選です。
判定時点でSBIハイパー預金残高が10万円以上ある人は、通常抽選に落選した場合、追加抽選の対象となります。
SBI新生銀行の案内によると、販売全体のおおよそ1〜10%に相当する件数を、この条件を満たした落選者へ追加抽選で配分する仕組みです。
これは、当選確率が一律で1〜10%上がるという意味ではありません。また、10万円を預ければ必ず当選するわけでもありません。
さらに重要なのが、SBIハイパー預金の10万円と、IPO購入に必要な米ドルは別に用意しなければならない点です。
SBIハイパー預金の残高を、そのままIPOの購入資金として使用することはできません。
判定日も今後発表されるため、優遇条件を利用したい場合は、残高の判定タイミングを確認する必要があります。
楽天証券やみずほ証券でも購入できる?
楽天証券とみずほ証券も、日本国内における取扱会社として公表されています。
ただし、実際の申込期間、抽選方法、最低申込株数、口座区分などについては、各社の正式な案内を確認する必要があります。
SBI証券で発表されたNISA対応や追加抽選の条件が、他社にもそのまま適用されるわけではありません。
複数の証券会社を利用する場合も、各社の募集条件に違いがあることを理解しておきましょう。
ただし、「取締役会の承認を受けていないAnthropic株の売却・譲渡は、すべて無効(void)であり、当社の帳簿および記録上、一切認められません」とのアナウンスがありますので、怪しい会社経由の案内はご注意ください。

アンソロピックはNISAで買うべき?
SBI証券では、今回のアンソロピックIPO株をNISAの成長投資枠で購入可能と案内しています。
NISAで購入した株式の売却益は、原則として日本国内では非課税となります。
将来的にアンソロピックの株価が大きく上昇した場合、課税口座より有利になる可能性があります。
一方、注意したいのが損失です。
NISA口座で保有した株式が値下がりし、売却損が生じても、課税口座の株式譲渡益などと損益通算することはできません。
損失の繰越控除も対象外です。
アンソロピックのように、成長期待が大きい一方で株価変動も大きくなる可能性がある銘柄では、この点を無視できません。
また、今回の募集では、購入に必要な米ドル資金を確保する必要があります。
株価の変動だけでなく、円高・円安によって円換算の投資成績が変化することにも注意しましょう。
NISAを使えるからという理由だけで購入するのではなく、想定する保有期間や投資リスクに応じて口座区分を考えることが重要です。
間接的に投資をする
「Anthropicの株は直接買わないが、Anthropicの成長に乗りたい」という方は関節的に投資をするという手もあります。
アマゾンは少なくとも130億ドルを出資し、アンソロピックはAWSに10年間で1,000億ドル超を支出すると約束しています。
グーグルも最大400億ドルの拠出を約束しています。
「アンソロピックの成長を、クラウド事業と出資持分の両方で取り込める」のが間接投資の考え方です。
また、同社に投資をするETFなどに投資をすることもありでしょう。

まとめ
アンソロピックのIPOは、2026年の米国株式市場で特に注目される大型案件の一つです。
2026年7〜9月期の売上高は169.56億ドルと急成長し、企業向けのAI活用も急速に拡大しています。
一方、営業損益は再び赤字となり、計算資源への巨額の契約負担も明らかになりました。
今回のIPOで私が最も重要だと考えるのは、生成AIが普及するかどうかではなく、その普及によってどれだけ持続的な利益を生み出せるかという点です。
AIの性能が高くなることと、そのAIを提供する会社の利益率が高くなることは同じではありません。
そして、利益が大きく成長する企業であっても、購入時の株価が高すぎれば、投資家が十分なリターンを得られるとは限りません。
日本ではSBI証券や楽天証券などを通じてIPOに参加できる見込みであり、NISAを利用できる点も魅力です。
しかし、IPOの抽選に当選すること自体を目的にするのではなく、公開価格で購入した場合にどのようなリスクとリターンが考えられるかを冷静に評価することが大切でしょう。
今後は、正式な公開価格、最終的な時価総額、募集株数、申込スケジュール、そして上場後の株価推移に注目していきたいと思います。
アンソロピックのIPOは、生成AIの将来性を測るだけでなく、巨額のAI投資が持続可能なビジネスとして成立するのかを問う、重要なイベントになりそうです。
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