先日、大塚家具が月次の店舗売上高を発表。10月、11月と二ヶ月続けて前年比を上回ったというニュースがでていました。
(株)大塚家具(TSR企業コード:291542085、江東区、大塚久美子社長)は、10月と11月の2カ月連続して全店の売上高が前年同月を上回った。
大塚家具は10月の売上高が昨年7月以来、15カ月ぶりに前年同月を上回ったが、11月も前年同月比で全店の売上高が4.1%増えた。9月28日から11月25日まで開催した「在庫一掃セール」が好評で、応接などが売上高を押し上げた。インターネット通信販売のEC売上高も前年同月比58.0%増と伸びた。2カ月連続して前年同月比で売上が上回ったのは、昨年6月、7月以来の16カ月ぶりとなる。出所:東京商工リサーチ
各新聞とも好意的なニュースとなっていますが、本当にそう判断してもよいのでしょうか?今回はこのニュースの見方について考えてみます。
大塚家具については半年ほど前も四半期ベースで黒字転換したのでV字回復といった記事がでていましたね。そのときの反論記事が下記です。こちらも合わせて御覧ください。
大塚家具が、昨日2018年12月期第1四半期の決算報告を行いました。そこで驚いたのが9四半期ぶりに黒字転換したとの発表。ネット上でも大塚家具が黒字転換という記事が踊っていましたね。 (株)大塚家具(TSR企業コード:29[…]
大塚家具の売上増はあまり良いニュースではない
まずは、今回の大塚家具の発表を見てみましょう。
2018年11月度概況
・11月は店舗売上高前年比104.1%、既存店では前年比110.0%となりました。EC売上高は前年比158.0%となりました。
・分類別売上高は、応接・ダイニングが前年を上回り、寝具は前年を下回りました。
・分類別売上前年比は、応接・ダイニングが全体(103.9%)を上回り、寝具が全体を下回りました。
前年の店舗売上高は10月が前年比107.7%、11月が104.1%と前年比を超えています。大塚家具は14ヶ月続けて売上が前年比を割るというかなり悪い状態でしたので数字だけをみればかなり明るいニュースとも言えます。
それではなぜ今回の売上増はあまり良いニュースではないのでしょうか?
売上が前年比を上回った理由
まず今回売上が前年比を上回った理由を見ていきましょう。これは、最大8割引きの「在庫一掃セール」が売り上げを押し上げたためです。つまり、在庫を安く売ったってことですね。ただし、この在庫一掃セールは企業にとって両刃の剣とも言える手法なんです。まずはメリットから見ていきましょう。
在庫一掃セールのメリット
在庫一掃セール最大のメリットはなかなか売れない不良在庫を現金化できることです。特に大塚家具のキャッシュフロー計算書を見るとかなり現金預金が減り続け、会社の資産を売ってなんとか回している状況である事がわかります。
その状況であれば在庫を安く売ってでも現金化するこの在庫一掃セールは意味のあるものであると言えるでしょう。
キャッシュフロー計算書の見方はこちらの記事を御覧ください。
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また、不良在庫がさばけたことで店舗に余裕スペースが生まれたはずです。お金に余裕があれば新たな魅力的な商品を並べられる余地が生まれることにも繋がります。そうなればお客さんから見た店舗の魅力も上がりますので好循環を生みます。このあたりも大きなメリットですね。
在庫一掃セールのデメリット
次にデメリットです。これは大きく3つ考えられますので分けて見ていきましょう。
需要の先食いにすぎない
まずは在庫一掃セールなど大きなセールを開催すると考えられるのが需要の先食いです。消費税増税時の駆け込み需要とその反動を思い出していただければわかりやすいと思います。
もともと家具を買おうと思っていた方が安くなっていたから早めに買うってことになるのです。しかも安く。そうなれば家具はそうしょっちゅう買い換えるものではありませんので将来の売上を下げる影響が考えられます。
このあたりについて大塚家具広報は「反動がないとは思っていないが、催事などで需要を喚起していく」(出所:朝日新聞デジタル)としています。
ただ言えるのは催事でなんとかなるならここまで連続して前年比割れしていませんよねってことです。需要の先食いの件だけでも今後の売上が非常に心配です。
ブランドイメージの毀損
これが一番在庫一掃セールなど大きなセールをした場合の影響です。ブランドイメージが傷つくのです。
今回最大80%引きのセールをしたことで大塚家具は安売りというイメージが付いてしまいました。
もともと大塚家具は高級路線の店舗でした。それが今回のようなセールをして安売りのイメージが付けば既存の高級な家具を買うお客は逃げてしまいます。名声価格といって高い商品を買うことに価値を感じている層がお客さんだからです。そのような層は安売りを避けます。自分の価値をさげてしまうからです。バーバリーなどは通常のセールは基本行っていません。これはブランドイメージを守りこのようなお客さんを大事にしているからです。
逆に安売りを好む層は他に安い店があれば簡単に乗り換えてしまいます。それでもニトリやIKEAなど自社商品を扱う店舗だったり、始めから安売りのこのような層を狙っている店舗なら問題ないのでしょうが・・・・
このような状況になると既存のお客には逃げられ、セールで買ってくれたお客は次のセール待ち、もしくは他の安い店に流れるという流れでより一層の売上減少や顧客離れを生む可能性があるのです。
決算書の見栄えが悪くなる
これは今更なのであまり気にしなくてもよいかもしれませんが、決算書の見栄えがあまりよくならないでしょう。
まず、在庫を叩き売ったことで売上は上がります。しかし、利益が大きく減るもしくはマイナスとなる可能性が高いです。最大80%引きってことは仕入れ値を下回って売っている可能性が高そうですから損益計算書上の売上総利益はかなり抑えられることになります。
また、貸借対照表上でも棚卸資産として計上していた在庫を安く売って減るわけですから経営指標によっては悪化するものと思われます。
V字回復と報道されたときは特別利益を大量に計上して当期純利益がギリギリ100万円プラスという芸当をしてきた大塚家具ですから決算書の見た目を気にしてそうですしね。
次の四半期決算がでたらそのあたりは要チェックです。
損益計算書・貸借対照表の見方はこちらからどうぞ。
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まとめ
今回は「大塚家具が2ヶ月連続売上前年比超え。新聞各社は好意的だが、良いニュースではない理由」と題して大塚家具の在庫一掃セールの是非について考えてみました。
今回のようなニュースを見る際にはその出来事が会社にとって将来的に利益となるのかリスクとなるのかを評価をすることが大事です。大塚家具の今回の在庫一掃セールでの売上を大きく伸ばしたニュースは短期的にはプラスもあるが長期的に見るとリスクのほうが大きいと判断しています。
現金がかなり切迫していると思われる大塚家具ですから今回の在庫一掃セールの開催は理解できるものです。しかし、在庫一掃セールは両刃の剣で将来的な見通しを考えるとマイナスとなるケースのほうが多くなるでしょう。
大塚家具は身売りや業務提携の話もでていますのでそのあたりも含めてこちらのサイトでも今後の動きを注視していきます。個人的には喧嘩別れした父親と和解して匠大塚(喧嘩別れした際に父親が立ち上げた会社)と合併したら良いのにと思ったりもしますが(笑)匠大塚は上場していませんので業績等はよくわかりませんが、店舗展開などをみるとかなり好調なようですしね。もしそうなっても簡単にはいかないでしょうけどね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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