先日、年末に会社を退職された方から質問がありました。「退職金がまだ入ってないんだけどいつごろ振り込まれるんだろう?」と。
退職金の振込ルールは会社によるから前職の総務か人事に聞いたら?ってだけの話なんですけどね(笑)
ただし、退職金って一括りに言っても結構複雑です。
加入している制度や仕組みによってかなり違いがあったりします。
今回はそれら退職金の仕組みや制度を含めて退職金の振込時期などを解説していきます。
退職金の基本的な仕組み
まずは退職金とはどういう性質のものかというところから見ていきましょう。
退職金とひとくちに言っても、さまざまな制度や仕組みがあるのです。
退職金はそもそも支給義務はなく任意の制度
まず、退職金について押さえておきたいのが退職金そのものはそもそも支給義務があるものではないってことです。
日本の企業では当たり前となっている退職金ですが、実は退職金を出さないといけないという法律もルールもないのです。
つまり、退職金を出すか出さないかは企業の自由、任意なのです。
また、退職金の金額も自由です。米国などではそもそも退職金という制度がない企業が多いです。
最近では日本でも普通の退職金を廃止する企業も増えています。有名なところではソフトバンクが退職金を廃止して「確定拠出年金」に一本化したり、パナソニックが「退職金前払い制度」を導入したりしていますね。
ただし、会社の就業規則に定めがある場合はそれに沿って支給する必要があります。就業規則に定めがある場合は、退職金も賃金とみなされますので労働基準法11条によって退職金を支給する義務が発生します。
ですからまずは就業規則を確認することが確実ですね。
退職金制度の種類
退職金自体の制度も会社によって本当にそれぞれです。私も会社員として何社か勤務しましたが、どこもそれぞれの退職金のルールでしたね。
また、退職金と一括りにしていますが、支給形態も2種類あります。
退職年金制度:一定の期間、あるいは生涯にわたり一定額を年金として支払う制度
会社や制度によって退職一時金制度だけのところもあれば、退職一時金制度と退職年金制度を併用(何年以上勤務などの条件で)しているところもあります。
また、制度も様々です。ですからまずは自分のいた会社がどの制度に入っていたのかを確認しておきたいところです。
大きく分けると4つのパターンがあります。
内部留保型
まず1つは内部留保型です。外部の積立なんかを利用せず会社が自分の資金から退職者が出たタイミングで退職金を払うやり方です。
このやり方はある程度資金に余裕がないと難しいことや、税制面のメリットがないことからこのやり方を使っている企業は多くないです。
また、生命保険会社の退職保険を使うケースなんかもこちらのやり方になります。
企業年金型
次に企業年金型です。こちらは一時期一番使われていたやり方です。
しかし、企業から見てリスクが大きいことから採用する企業は徐々に減ってきています。
確定給付企業年金制度(DB)
確定給付企業年金制度(DB)は「確定給付企業年金法」に基づき設けられた企業年金制度です。名前の通り、あらかじめ勤務年数などによって決まった金額が確定して給付を受けられる制度です。
それなりに大きめの企業はこの制度を利用しているケースが多かったです。
企業年金を作りそこで運用したり、保険会社や証券会社などに掛け金を納付して運用してもらいます。
そして従業員が退職したときにその運用している資産から退職金を支給します。
ただし、運用がうまく行かなかった場合でも負担は会社がすることになるため株価が低迷していたときなど大きな問題となりました。
退職金の支給ができない企業が続出したのです。そのリスク回避のため確定拠出型を採用する企業が増えてきたんですね。
厚生年金基金
もう一つが厚生年金基金です。こちらは厚生年金の上乗せとして支給される制度です。
ただし、厚生年金基金はかなり問題のある制度で現在では新規設立ができなくなりました。
また、既存の厚生年金基金も維持するのはかなり困難となっており解散するところが多くなっています。
そもそもかなり高い運用をしないと回らない仕組みだったのです。
また、2012年には運用を任されていたAIU投資顧問株式会社が問題を起こしたのを覚えている方もいるでしょう。
私が前いた会社の厚生年金基金も解散したようで昨年くらいに案内がきてましたね。
共済型
次に共済型です。規模の大きくない中小企業の場合、独立して企業年金を運用するのが難しいです。
そのため公的な団体の共済制度を利用するのが共済型です。
中小企業退職金共済制度(中退共)
次に中小企業の多くが採用している中小企業退職金制度(中退共)です。
中退共制度の運営は独立行政法人勤労者退職金共済機構の中小企業退職金共済事業本部が行っています。
この制度は会社が定めた月々の掛金を中退共に支払う制度で、従業員が退職をした際に中退共から退職金が直接振り込まれる仕組みです。
特定退職金共済制度(特退共)
特定退職金共済制度も中退共に似た仕組みですが、こちらは大企業も利用できる退職金の共済制度です。
こちらは商工会議所や商工会が運営(窓口)しています。
仕組み的には基本的に中退共と大きくは変わりません。
確定拠出型
最近増えているのがこちらのやり方ですね。会社からすると運用でうまくいかない場合のリスクを従業員に移すことができますから人気のある制度となっています。
確定拠出年金制度(DC)
確定拠出年金制度(DC)はこのサイトで何度も出てきている個人型確定拠出年金(iDeCo)の企業版のことです。
個人型確定拠出年金は自分で掛け金を拠出しますが、企業型確定拠出年金は会社が予め定められた掛け金を拠出します。
それを従業員が自ら運用して老後資金や退職金として利用してもらう制度です。
そのため運用のリスクは従業員が持つことになります。
退職金前払制度
退職金前払制度とは、名前の通り、通常は退職時に支払う退職金を、給料と一緒に前払いしてしまう仕組みです。
ですから退職時にはなにももらえません。
前述の確定拠出年金制度は運用自体は自分でできますが、その資金を使えるのは定年後です。
しかし、退職金前払制度だとすぐに使えますから自由度は高いです。
ただし、老後資金は自分で用意する必要が出てきたり、退職金の税制優遇が使えず、社会保険や税金が上がるなど一長一短があります。
退職金の振込時期
それでは本題の退職金の振込時期についてみていきましょう。結論から先に言えば「会社によって違う」ってことです。ですが基本的なルールを知っておけば対処がしやすいでしょうから解説をしていきます。
請求をした場合は7日以内が原則
労働基準法ににおいて以下の定めがあります。
第二十三条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
労働基準法:第23条
つまり、法律の上では請求をすれば7日以内に基本的には払ってもらえるのです。
ただし、これは法律ではそうなっているというだけで実際に7日以内に支払ってもらえるのかといえばそうとも限りません。
退職金の金額が多かったりすると無い袖なんてこともありえますからね。
また、この法律も就業規則等などにさだめがある場合はそちらが優先されます。
就業規則等に定めがあればその期間までに
就業規則等に退職金の支払い時期の定めがあればその時期までに支払えば良いこととされているのです。
退職金があるほとんどの企業では就業規則等に定めがあるでしょう。
ですからまずは就業規則の確認をおすすめします。
また、就業規則がわかりづらければ総務や人事にあらかじめ確認しておきましょう。
中小企業退職金制度(中退共)は請求をうけてから4週間
また、保険会社や中退共など外部団体から支払いが行われる場合はその会社のルールに則ることになります。
例えば中小企業退職金制度では以下のルールになっているようです。
退職金の支払いは、請求を受け付けてから通常のケースで約4週間でお支払いいたしております。
ただし、退職金は退職された月までの掛金の入金を確認してからお支払いすることになりますので、事業所の掛金の納付方法等によっては2か月以上かかることもあります。
中小企業退職金共済事業本部 Q&A「退職金について」
ちょっと気をつけたいのが請求を受けてからという項目です。退職金の支払いをするための書類をいつ出すのか(会社が)によって変わってきそうですからこのあたりは会社の総務や人事に確認して見る必要がありそうですね。
ちなみに退職者が出ると会社の手続きは退職金だけでなく社会保険手続きなど様々な業務が発生します。
ですから書類を請求するのにもなかなか時間がかかるんですよ。
私も確定給付企業年金と厚生年金基金のある会社で退職の実務に携わったことがあります。
だいたいこんな感じの流れでした。
稟議が絡むので結構時間がかかるんですよね。
特に退職者が多い3月や12月はどうしても時間がかかってしまうのは仕方ないでしょう。
そのため少し長めに見ておく必要があるのです。
他の団体からの振込時期についてはその団体に確認していただくのが一番確実です。それぞれの団体でルールが定めていると思います。
期日までに退職金が振り込まれない場合の対策
もし退職金の振込予定日までに振り込まれない場合はどうすればよいでしょうか?中には1年も振込がなかった事例なんかもあります。
まずは会社に相談
このようなケースの場合はまず会社の人事や総務に確認をしてください。
単なる事務処理のミスなんてケースもあります。特に同時に多くの方が退職する会社なんかだとありえます。
その場合には連絡すればすぐ支払ってもらえるでしょう。
本当に会社にお金が無くて支払えないような場合も泣き寝入りするのではなく交渉することが大事です。
中には資金繰りに窮している会社から分割払いで退職金を勝ち取った方なんかもみえます。
労働基準監督署に相談
それでも支払ってもらえないようなケースは労働基準監督署に相談しましょう。
その際に就業規則や退職金の明細などわかるものがあれば話が早いと思います。問題があるようなら労働基準監督署から会社に支払いを促してくれます。
まとめ
今回は「退職金が振り込まれていない??退職金の振込時期について基本的な仕組み・制度を含めてわかりやすく解説。」と題して退職金の振込時期についてみてきました。
基本的に退職金の支払い時期は会社によってルールが作られているはずですから退職前に人事や総務に確認することが確実ですね。また、退職を決める前に就業規則や退職金規定などをしっかり読んで確認しておくとよいかもしれませんね。
同じく退職金でよくある「いくら貰えるんだろう?」という悩みはこちらの記事を御覧ください。
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