ソニーグループが2025年度から冬季賞与を廃止し、月給と夏季賞与に振り替える方針を発表。
同時に初任給を最大4.8万円引き上げるなど、「固定給重視」へ舵を切りました。
最近増えている「賞与の給与化」ですね。
背景には
- 人材確保競争の激化(ジョブ型雇用との折衷)
- 物価高対策で月々の可処分所得を増やす
- 賞与を業績連動にする従来型では採用力が弱まる
という三つの狙いがあります。
しかし従業員が真っ先に気になるのは「社会保険料は増えるの? 手取りは?」という点。
実は“ちょっとした設計の違い”で年間数万円〜20万円超手取りが変わるケースもあるのです。
今回は今後増えていくだろうと予想される「賞与の廃止」「賞与の給与化」と社会保険の関係について解説していきます。
賞与と給与──社会保険料ルールの基本
まずは今回の前提となる賞与と給与と社会保険の関係について見ていきましょう。
簡単に社会保険は年収ベースではなく4月〜6月の給与で月の金額が決まり、賞与はまた別に計算されるんですよ。
ですから賞与を給与に含めると計算結果が大きく異なるのです。
区分 | 算定方法 | 上限・下限 | 主な注意点 |
---|---|---|---|
月給(報酬) | 毎月の標準報酬月額(1等級〜50等級)をベースに健康保険・厚生年金・雇用保険等を計算 | ※上限は健康保険50等級(139万円)、厚生年金32等級(65万円) | 4〜6月の平均で「標準報酬月額」が決まり、翌年8月まで固定 |
賞与 | 支給ごとに「標準賞与額」(1,000円未満切捨)を用いて保険料算定 | 健康保険:年度の累計額573万円、厚生年金保険:1ヶ月あたり150万円が上限 | 健康保険と厚生年金で上限の考え方が異なる |
ポイント
・社会保険は給与と賞与で決め方が違う。
・賞与は支給都度の“実額ベース”なので毎回キッチリ控除される。
・月給部分は「標準報酬月額」に丸められるため、実額とズレることがある。
なお、月々の社会保険の決まり方はこちらの記事で解説しております。
合わせて御覧ください。

年収600万円と年収1000万円で賞与の給与化シミュレーションしてみた。
それでは年収600万円と年収1000万円の場合でシュミレーションしてみましょう。
結論が異なってしまう結果となります。
賞与の給与化:年収600万円の場合
前提条件は以下の通り。
東京都協会けんぽ(2025年度)、40歳未満、雇用保険0.6%、介護保険なし。
ケース A 35 万円×12+65 万円×2 | ケース B(完全給与化) 50 万円×12 | ケース C 40 万円×12+60 万円×1 | |
---|---|---|---|
年間総支給 | 600 万円 | 600 万円 | 600 万円 |
健康保険料 | 約27.3 万円 | 約29.7 万円 | 約26.8 万円 |
厚生年金保険料 | 約50.3 万円 | 約54.9 万円 | 約49.4 万円 |
雇用保険料 | 約3.0 万円 | 約3.3 万円 | 約3.0 万円 |
合計(本人負担) | 約80.6 万円 | 約87.9 万円 | 約79.1 万円 |
手取り差額(A基準) | ─ | ▲7.3 万円 | +1.5 万円 |
解説
すべての賞与をなくし、給与に含めるパターン(ケースB)は標準報酬月額が跳ね上がり、健康保険・厚生年金ともに保険料テーブルが1〜2等級アップしてしまう。
それにより手取りは7.3万円減ってしまう結果に。
「賞与をなくして月給アップ」=そのまま手取りアップにはならない――という点が改めて浮き彫りになりました。
賞与の給与化:年収1000万円の場合
次に年収1000万円です。
東京都協会けんぽ(2025年度)、40歳未満、雇用保険0.6%、介護保険なし。
ケース A 60 万円 × 12 + 140 万円 × 2 | ケース B(完全給与化)83.3 万円 × 12 | ケース C 70 万円 × 12 + 160 万円 × 1 | |
---|---|---|---|
年間総支給 | 1,000 万円 | 1,000 万円 | 1,000 万円 |
健康保険料 | 約 49.6 万円 | 約49.3万円 | 約 46.6 万円 |
厚生年金保険料 | 約 91.5 万円 | 約71.4 万円 | 約 86.0 万円 |
雇用保険料 | 約 5.5 万円 | 約5.5 万円 | 約 5.5 万円 |
本人負担計 | 約146.6 万円 | 約126.2万円 | 約138.1 万円 |
手取り差額(A基準) | ─ | +20.4万円 | +8.5 万円 |
解説
年収600万円の場合と結論が逆になります。
完全給与化したケースBが最も社会保険が少なくなります。
金額にすると20.4万円手取りが増える形に。
ケースCはその中間ですね。
これは厚生年金がの上限による部分が大きいです。
32 等級・65 万円が上限なんですよ。(2027 年に 75 万円へ引き上げ検討中)
ケース Bの月給 83.3 万円でも、計算上は 65 万円で固定されます。
賞与にも上限はありますが、上限額が高いためケース A の年間 280 万円の賞与にもしっかり保険料が掛かってしまいます。
賞与の上限は健康保険:年度の累計額573万円、厚生年金保険:1ヶ月あたり150万円。
そのため 「高所得層ほど完全給与化で負担が減る」 という逆転現象が起きているんですよ。
ただし、老齢厚生年金の将来給付も上限に引っかかるため、保険料が下がれば将来受け取る年金額も増えない点に留意が必要です。
賞与の給与化にこうして備えよう!──従業員・経営者別チェックリスト
それでは従業員、経営者は何を考えて動けばよいのでしょう?
チェックリストにしてまとめてみました。
従業員
従業員側は自分たちで決めれるわけではありませんので、備えての対策となります。
以下の3つをやっておくとよいでしょう。
- ねんきん定期便で標準報酬月額の推移を確認
- iDeCo、NISAなど“天引き貯蓄”を先に設定
- 住宅ローン・カードローンの借入枠が変わる可能性

経営者
難しいのは経営者側です。
今回のシュミレーションで見たように給料額によって得になる人、損になる人が存在します。
その辺りをしっかり踏まえて検討する必要があります。
ソニーはおそらく多くの従業員が社会保険が減る側だったんだと思われます。
まとめると以下の点を考えましょう。
- 標準報酬月額の等級アップに伴う会社負担コストを試算
- 業績変動対策として成果連動手当の設計も平行検討
- 従業員説明会で「社会保険料」「手取り」の試算を提示し、不満を回避
なお、最近やり玉に挙がっていましたが、社会保険は通勤費も加味して考えますのでそのあたりも考える必要があります。

まとめ
今回は「【賞与の給与化で社会保険料は減る??】――ソニーの制度変更から学ぶ“手取り”のリアル」と題して賞与の給与化について見てきました。
年収600万円の人は損をし、年収1000万円の人は得をするという結果になりました。
制度を正しく読み解き、正しい知識で手取りと経営を守り、インフレ時代を賢く乗り切りましょう!

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