昨今、物価高や金利の引き上げもあり賃貸の家賃の値上げ通知が来るという事例がかなり増えているそう。
そこで今回は、「家賃の値上げ通知が来たとき」に知っておきたい拒否の可否・断り方・法律の根拠、そして裁判や調停までの流れを解説していきます。
結論:家賃の値上げは“必ず応じる必要はない”
まずは結論から見ておきましょう。
借主側は拒否も交渉も可能です。
法律上は、借地借家法32条(賃料増減額請求)により、相場・税金・経済事情の変動などで賃料が不相当なら、将来に向かって増減を請求できるとされています。
これは貸主側だけじゃなく借主にも認められているんですよ。
つまり、「一方的に通知=自動で値上げ」ではありません。
まず値上げの根拠資料の提示を求め、周辺相場や現状(設備老朽化など)を踏まえて冷静に交渉しましょう。
ポイント:時期の決まりは法律に明文なし(更新時に多いが、時期の定めはない)ため、通知が来た時点で根拠確認→交渉が基本。
借地借家法32条で知っておきたいこと。
次に借地借家法32条の知っておきたい部分についてもまとめておきます。
借地借家法32条は、前述したように賃料が「不相当」になったときの増減請求を認めています。
これは貸主・借主双方に認められています。
効力は“将来に向かって”発生。
原則、過去に遡っての増減はできません
効力を発揮するタイミングは、請求の意思表示が相手に到達した時点からとなります。(「9月分から」等の指定があればその時点)
ただし、7/20到達の値上げ請求→裁判等で相当額が確定すると、到達時点に遡って差額の精算が必要になることがあります。
このあたりは後述する交渉するうえでも重要な論点ですので覚えて起きましょう。
定期借家契約の注意点(特約があると32条が外れることも)
定期借家(借地借家法38条)では、賃料改定の特約があれば32条の適用を外すことができます(38条9項)。
その場合、契約の特約が優先されます。
契約書の賃料改定特約を必ず確認しましょう。
普通借家と定期借家で扱いが異なるため、拒否・交渉の戦略も変わります。
本来は賃貸借契約を結ぶ際にしっかり確認するのが良いんでしょうけどね。
下記の記事のような事例もありますので難しいところではあります。

なお、借地借家法の条文を読まれたい方は以下のe-Gov法令で確認できます
>>e-Gov法令
家賃の値上げは「何%までOK?」という誤解
よくある誤解があります。
家賃の値上げは「◯%までならOK」というものです。
結論から言うと
これを理由に値上げを迫ってくる大家や管理会社も多いそうなので、知っておきたい部分です。
おそらく大家や管理会社側もそんな法律がないことは知っていて、こちらが知識がないだろうことを良いことに承諾させるために言っているのでしょう。
なお、裁判では個別事情(相場差・経済事情・物件属性等)から相当額を算定します。
したがって、「◯%までなら違法でない」といった一般論は成り立たないのです。
まずは根拠(相場・負担増・経済事情の変動等)を確認し、その妥当性を確認しましょう。
ちなみに給料の減額には限度が設定されていたりします。
それとの勘違いを狙っているのかもしれません。

実際の流れ:拒否〜交渉〜調停(前置)〜裁判
それでは実際に値上げ通知が来た際の流れを見ていきましょう。
家賃値上げ通知が来たらやること
まず家賃の値上げ通知が来たら以下の点を確認しましょう。
- 根拠資料の提示依頼(相場表、固定資産税・公租公課の増減、近傍同種との比較、経済事情の変化など)。
- 自分でも相場確認(同条件の募集賃料などを調査)。
- 現況の不利益要素の洗い出し(老朽化・未修繕・設備劣化・日照・騒音など)。
- 契約形態の確認(普通借家か定期借家か/改定特約の有無)。
- 記録を残す(やりとりはメール・書面で)。必要に応じて内容証明も検討。
特に重要なのは値上げの根拠の部分です。
それを出させて納得できるのかどうかを検討してください。
家賃増額の「断り方」のテンプレ
例えばこんな感じのメールや書面を送ると良いでしょう。
〇〇(物件名・部屋番号) 借主の△△と申します。
このたび家賃増額のご提案を拝受しました。
つきましては、増額の根拠資料(近傍同種の賃料比較、固定資産税等の増加、経済事情の変動の具体資料)のご提示をお願いできますでしょうか。
当方で周辺相場を確認したところ、現状の賃料は近隣相場と大きな乖離は見受けられませんでした。また、室内設備の老朽化や未修繕箇所(例:給湯器の度重なる不具合等)もあり、現状では増額の合理性に疑問がございます。
誠に恐縮ですが、現時点では増額には応じかねます。
今後も円滑な関係を希望しておりますので、根拠資料のご提示とあわせて、必要であれば現地確認や修繕のご相談もさせてください。
それで大家側からでてきた内容に納得できれば承諾すればよいだけです。
交渉
納得できなければ交渉しましょう。
交渉をするうえで以下の証拠資料を用意しておくと有利となります。
- 近傍同種の募集賃料(駅距離・築年数・専有面積・間取り・設備)
- 物件の不利益要素(日照・騒音・結露・共用部の劣化・未修繕の記録)
- 公租公課や経済事情の変動の資料提示を求める(貸主側根拠)
交渉のコツは数値と一次情報で話すことです。
相場表・修繕履歴・設備交換見積など「根拠」を添付しましょう。
また、こちら側から代替案を出すのもおすすめです。
今すぐの大幅増は困難なら段階増額・共益費見直し・修繕実施を条件など。
また、できるだけ感情論を避け記録を残しましょう。
交渉は言った言わないの話になりかねないので、メールなど履歴が残るメディア中心が良いでしょう。
要点は箇条書き、期限を区切るのも重要です。
交渉に入る時点で撤退ラインをある程度決めておくのも良いでしょう。
もし、撤退ラインを超えるようなら転居も含めて検討しましょう(事前に転居先や転居コストも見積もりしておきましょう)
住まいダイヤル(国交大臣指定の住宅相談窓口)などで相談を事前にしておくのもおすすめです。
>>住まいダイヤル
非弁行為に注意
なお、交渉は基本的に管理会社を通さず大家と直接がおすすめ。
管理会社ができるのは事務手続きや伝達(伝書鳩)のみ。
具体的な交渉まで管理会社がやっている場合は、非弁行為(弁護士じゃない人が法律行為しちゃだめよ)となる可能性があります。
管理会社はこのあたりかなり緩いので指摘してあげるのも効果的です。

逆に自分が交渉をするのではなく、他の人(弁護士以外)に頼む場合も非弁行為として指摘される可能性がありますのでご注意ください。
代理が必要なら弁護士に依頼しましょう。
交渉がまとまらない場合
賃料増減額の紛争はいきなり訴訟は不可とのこと。
まず民事調停(簡易裁判所)が原則となります。(民事調停法24条の2)。
調停書式や費用・提出物の案内例は各地裁HPに掲載されています。
それほど難しいものではありませんので、弁護士等に依頼しなくても可能です。
調停でも不成立なら訴訟へ。
家賃値上げ相当額を裁判所が判断します。
私も弁護士を使わず裁判したことがありますが、難しそうに見えますが意外と敷居は低いんですよ。

払わないはNG。係争中の支払いと“差額精算”の仕組み
また、揉めた場合に知っておきたいのは「払わない」はNGということ。
心情的に払いたくないのはわかりますが、係争中も借主は自分が相当と考える額を払い続けるのをおすすめします。(契約解除リスクの回避)
判決・調停等で賃料が確定した場合、通知到達時点まで遡って差額の支払もしくは返金となります。(将来効+精算)。
ただし、不足額には年10%の利息(借地借家法32条2項但書)という特則がある点に注意が必要ですが・・・(一般の法定利率3%とは別)
※民法の法定利率3%(2023–2026年は3%)は一般の遅延損害金の話です。家賃の差額清算には借地借家法の特則(年10%)が適用され得ます。
まとめ
今回は「大家から家賃の値上げ通知が来たら?「家賃値上げ 拒否・断り方・法律」完全ガイド」と題して賃貸の家賃値上げ通知が来た場合の話を見てきました。
ポイントは値上げ通知の根拠をしっかり確認することですね。
そしてそれで納得できるかです。
できなければ交渉、退去、調停、裁判などの選択となります。
まだまだ物価高、金利上昇しそうですからこういう話が増えそうな予感もあります。
今のうちに知識を蓄えておきましょう。