6月3日夕方、豊田自動織機(6201)の株式非公開化を目的としたTOB(株式公開買付け)が正式発表されました。
ところが提示された買付価格は 1株16,300円
直前終値18,400円から 11%も低い“ディスカウントTOB” という異例の条件。
報道プレミアムに乗った投資家、なかでも著名トレーダーのcis氏やテスタ氏も損失をツイートし、大きな話題となりました。
本記事では
- TOBの概要と株価の動き
- 大物投資家が損を出したメカニズム
- TOB狙い投資で注意すべきポイント
を解説します
豊田自動織機TOBの概要
まずは今回の話の前提となる豊田自動織機のTOBについて見ていきましょう。
買付者 | トヨタ不動産・トヨタ自動車等グループ連合 |
---|---|
買付価格 | 16,300円(終値比▲11%) |
買付予定数 | 全株式(完全非公開化目標) |
総投下額 | 約4.7兆円 |
目的 | グループ連携強化・持株解消・長期戦略推進 |
プレミアムが付くのが通例 とされる日本のTOBで、主力トヨタグループ銘柄がディスカウント価格を提示したのは極めて珍しいケースとなります。
リークから発表まで:株価はこう動いた
日付 | 主要イベント | 終値(円) | 出来高(万株) |
---|---|---|---|
4/25 | 「グループが買収検討」報道 | 15,000 | 急増 |
5/20 | 「6兆円規模」「高プレミアム期待」報道 | 17,500 | さらに増 |
6/3(朝) | 「6兆円規模」を否定 | ||
6/3 (昼) | 終値(発表直前) | 18,400 | 報道プレミアム最高潮 |
6/3 (夕) | 買付価格16,300円と発表 | ― | ― |
買収が報道されてから株価が大きく上昇していました。
多くの投資家がTOBのプレミアム価格を期待してのものでしょう。
なぜcis氏やテスタ氏のような大物投資家が大損したのか
それではなぜ歴戦の大物投資家がたちが大損したのでしょう?
報道プレミアムへの過信
4月末以降、メディアは「6兆円・高プレミアム」と報道されていました。
それを否定する下記のようなにはIRがトヨタ自動車から6/3(朝)に出されていましたが・・・多くの方は信じなかったようです・・・
一部報道において、当社を中心とする陣営による株式会社豊田自動織機の非公開化に関する報道がありましたが、株式取得の対価総額が6兆円規模を上るかのような記載をはじめ誤解を招きかねない内容を含むものであり、当社から公表したものではありません。
出典:トヨタ自動車 IR 一部報道について
当社は、本件について本日機関決定する予定です。本件について決定しましたら、速やかに開示いたしま
す。
大物投資家がcis氏・テスタ氏含む多くの個人投資家が 買い増し。
しかし正式発表は ディスカウント。
終値に対し1,000円超のギャップが生じ瞬間的に含み損となってしまったのです。
TOB価格=株価の“フタ”
発表後の市場価格は原則としてTOB価格にサヤ寄せします。
高値掴み分は逃げ場が限定され、 出来高急増→値幅制限付きの急落 が典型的パターンに。
住信SBIネット銀行のときも書きましたが、TOBに参加しないという選択肢もないことはありませんが得をする可能性は高くはありません。

不確定要素を見誤った
TOB条件はリーク情報と異なり、内部で変わり得ます。
また、“創業家案件”ではガバナンスよりグループ再編が優先されることも多いのです。
今回は完全にそれですね。
PBR1倍水準 の根拠を買付者が強調しており、価格正当性を主張しています。
TOBは価格にルールがあるわけではなく、株が集まればよいわけですからね・・・
ただし、外部株主の期待と大きく乖離していたのは否めません。
“ディスカウントTOB”が市場へ投げた波紋
今回の件は今後のTOBにも大きな影響がでてきそうな話です。
前例効果
日本市場では珍しいディスカウントTOB。
今後、他の創業家企業にも影響する可能性があります。
TOB価格を高くしなくても必要な株が集まるなら安く買いたいのは当然ですしね・・・
アクティビスト vs. 創業家
価格不満から海外ファンドが反対表明の動きもでているようです。
アクティビストの動向も注視が必要です。

ガバナンスの再評価
東証の資本コスト・市場改革要請と逆行しているかも?
ガイドライン改訂の議論が出てきそうです。
TOB狙い投資 5つの注意点
ここ数年のTOBは価格プレミアムが付加されることがほとんどで、TOBされそうな企業を先回りして保有しておく投資家も多かったです。
しかし、豊田自動織機の事例のようなケースもあることは注意が必要となるでしょう。
TOB狙い投資 5つの注意点をまとめてみました
注意点 | 解説 |
---|---|
① プレミアムは「期待値」でしかない | 条件が下方修正されるリスクを織り込む |
② 情報リークは鵜呑みにしない | 第三者報道は未確定・内部調整で変動可 |
③ ポジションサイズ管理 | 想定外のディスカウント時に退避余力を残す |
④ 流動性と退出戦略をセットで | 高値圏は出来高薄いケースが多く、逃げ遅れリスク大 |
⑤ ガバナンス・支配構造を読む | 創業家色が強い案件は価格決定権が買付側に偏りがち |
まとめ
今回は「豊田自動織機TOBで大物投資家が大損!何が起こった?仕組みと教訓を徹底解説」と題して豊田自動織機のTOBについてみてきました。
- 豊田自動織機TOB は ディスカウント という異例の条件で正式発表。
- 報道を信じ買い向かった大物投資家まで損失を被り、市場全体に「TOB=儲かる」常識を覆す教訓を残した。
- TOB投資はプレミアムだけでなく 価格決定プロセス・ガバナンス・退出戦略 を総合的に読まないと落とし穴がある。
今後もTOB関連ニュースは増える見通しです。「情報が出た瞬間が買い場」という従来のセオリーは、今回の事例で大きく揺らぎました。
読者のみなさんも、“プレミアム神話” に頼らない投資判断力を養いましょう。
本記事は最新の公開情報をもとに執筆していますが、投資判断は自己責任でお願いいたします。

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