日本の年金制度はかなり複雑です。制度改正が何度もあり、その度に経過措置的なルールが追加されて来ているためです。
私は社会保険の専門家である社会保険労務士の資格をもっていますが、それでも混乱することがあります(笑)
その中でもわかりにくくあまり知られていないのが65歳前から受け取れる特別支給の老齢厚生年金です。
名前の通り、特別に支給される厚生年金なんですよ。
ですから受給できる対象者の方は限られています。
自分が対象となるのかを確認して制度の仕組みを理解しておきたいところですね。
実はこの特別支給の老齢厚生年金は対象者なのに申請しない人が加給年金と並んで多いと言われています。
繰上げ制度と勘違いして年金が減らされると思ってしまうからだそうです・・・
今回は特別支給の老齢厚生年金について見ていきましょう。
※加筆修正しました
特別支給の老齢厚生年金とは
それではまずは特別支給の老齢厚生年金とはどういうものかを見ていきましょう。
特別支給の老齢厚生年金とは簡単に言えば年金がもらえる年齢が60歳から65歳に引き上げられた際に導入された暫定的な移行期間用の制度です。
年金が60歳からもらえると聞いていて老後設計してきた人がいきなり「やっぱり来年から年金は65歳から支給な」って言われたら困ってしまいますよね。
そういう方を救済するために段階的に支給年齢を引き上げることを目的とした制度なのです。
65歳よりも前に年金を重給できる繰上げ制度というものもありますが、それとは別の制度になります。
通常の老齢厚生年金と何が違うのか?
老齢厚生年金には今回ご紹介している特別支給の老齢厚生年金と通常の(本来の)老齢厚生年金があります。
この2つはどう違うのでしょうか?この2つはかなり性質の違う年金制度です。
通常の老齢厚生年金は65歳以降に一生涯支給される年金制度です。
一方、特別支給の老齢厚生年金は前述のように移行期間的な制度であるため60歳〜64歳(支給開始年齢はその人の性別や生年月日により異なる)まで支給される年金制度となっています。
つまり、通常の老齢厚生年金が支給されるまでの制度ってことですね。
まとめるとこんな感じですね。
特別支給の老齢厚生年金:60歳〜64歳の間のみ(支給開始年齢は性別、生年月日により異なる)
特別支給の老齢厚生年金の対象者
前述のように特別支給の老齢厚生年金はすべての方が適用される制度ではあります。
対象となるのは以下の条件を満たしている必要があります。
○女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと。
○老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。
○厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。
○60歳以上であること。
ポイントは男性と女性で生年月日の要件が違うところですね。
また、特別支給の老齢厚生年金には、2階建て部分の「報酬比例部分」(実質厚生年金分)と決まった金額が受け取れる「定額部分」(実質基礎年金分)の2つがあり、生年月日と性別により、支給開始年齢が変わる仕組みとなっています。
このあたりはかなりややこしいですね。
特別支給の老齢厚生年金の支給年齢
かなりややこしいですが、特別支給の老齢厚生年金の支給年齢を見ていきましょう、性別と生年月日で異なってきます。
特別支給の老齢厚生年金を60歳から支給できる生年月日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
ちょっと図が分かりづらいですが、黄色になっているのが「報酬比例部分」、橙色部分が「定額部分」になり、水色が65歳から受け取れる「老齢厚生年金」、青が同じく65歳から受け取れる「老齢基礎年金」となります。(すべて共通)
【男性】昭和22年4月2日~昭和24年4月1日
【女性】昭和27年4月2日~昭和29年4月1日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
生年月日が上記の方は特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は60歳から受給が可能です。定額部分(基礎年金)は64歳からとなります。
【男性】昭和24年4月2日~昭和28年4月1日
【女性】昭和29年4月2日~昭和33年4月1日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
生年月日が上記の方は特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は60歳から受給が可能です。定額部分(基礎年金)は65歳からとなります。
特別支給の老齢厚生年金を61歳から支給できる生年月日
【男性】昭和28年4月2日~昭和30年4月1日
【女性】昭和33年4月2日~昭和35年4月1日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
生年月日が上記の方は特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は61歳から受給が可能です。定額部分(基礎年金)は65歳からとなります。
特別支給の老齢厚生年金を62歳から支給できる生年月日
【男性】昭和30年4月2日~昭和32年4月1日
【女性】昭和35年4月2日~昭和37年4月1日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
生年月日が上記の方は特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は62歳から受給が可能です。定額部分(基礎年金)は65歳からとなります。
特別支給の老齢厚生年金を63歳から支給できる生年月日
【男性】昭和32年4月2日~昭和34年4月1日
【女性】昭和37年4月2日~昭和39年4月1日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
生年月日が上記の方は特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は63歳から受給が可能です。定額部分(基礎年金)は65歳からとなります。
特別支給の老齢厚生年金を64歳から支給できる生年月日
【男性】昭和34年4月2日~昭和36年4月1日
【女性】昭和39年4月2日~昭和41年4月1日
出所:日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」より
生年月日が上記の方は特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は64歳から受給が可能です。定額部分(基礎年金)は65歳からとなります。
男性:昭和36年4月2日以降、女性:昭和41年4月2日以降に生まれた方は特別支給の老齢年金の対象外です。
年金受給年齢は男性と女性で違う
今まで見てきたように特別支給の老齢年金の影響により年金受給年齢は男性と女性の生年月日で変わるんですね。
このあたりは知っておきたいところです。まずは自分が何歳から年金を受給できるのかを確認しておいてください。
特別支給の老齢厚生年金がもらえる金額
次に特別支給の老齢厚生年金がもらえる金額を見ていきましょう。
これもちょっとややこしいんですよね。
定額部分のもらえる金額
定額部分についてはこれから新たに対象となる方はいませんが、一応紹介しておきましょう。
1,626円×生年月日に応じた乗率×被保険者期間の月数
定額部分は定額単価×加入月数で計算されます。なお、生年月日に応じた乗率は1.875〜1まであり、昭和21年4月2日以降生まれの方は1です。
被保険者期間の月数はねんきん定期便で確認が可能です。
比例報酬部分のもらえる金額
次に比例報酬部分でもらえる金額を見ておきましょう。
平成15年4月以降の期間分=平均標準報酬額×5.769/1,000×被保険者期間の月数
上の2つの計算式の合計です。それぞれの期間の平均標準報酬月額や被保険者期間の月数もねんきん定期便で確認が可能です。
また、ねんきん定期便には特別支給の老齢厚生年金の金額も定額部分、比例報酬部分でそれぞれ記載してあります。
特別支給の老齢厚生年金は繰下げできない
気をつけたいのが特別支給の老齢厚生年金部分は繰下げ受給できないということです。
そのため、繰下げしようと思って年金手続きをしていない場合には特別支給の老齢厚生年金そのものを受給し忘れるということになってしまいます。
対象となっている方で繰下げを考えている方は忘れずに申請しておきましょう。
特別支給の老齢厚生年金の請求手続き
年金は、年金を受ける資格ができたとき自動的に支給が始まるものではありません。
ご自身で年金を受けるための手続き(年金請求)を行う必要があるので注意が必要なのです。
つまり、請求しないともらえないってことです。
前述したように特別支給の老齢厚生年金はもらい忘れが多い年金と言われますので忘れずに申請しておきましょう。
前述で説明した支給開始年齢に達する3ヶ月前に年金機構から「年金請求書(事前送付用)」及び「年金の請求手続きのご案内」が届きます。
これの厄介なところは手続きができるのが請求書の提出ができるのは支給開始年齢に達した日(誕生日の前日)になってからってことです。
提出できるようになるまで3ヶ月間が空きますので忘れそうですよね。。。
ちなみに早くに提出しても受付してもらえません。
必要書類
必要書類は以下のとおりです。
戸籍謄本など
受け取り金融機関の通帳等(本人名義)
印鑑(認印可)
その他条件により必要書類がいろいろありますので事前に下記の日本年金機構のページでご確認ください。
>>日本年金機構:支給開始年齢になったとき
遺族年金をもらう場合は選択が必要
遺族基礎年金と遺族厚生年金を受けていた方が、60歳になって特別支給の老齢厚生年金などを受けられるようになったときは選択が必要となります。
遺族給付と老齢給付をあわせて受けることはできないのです。
ですから自分でどちらかを選択することになります。
出典:日本年金機構「年金の併給又は選択」より
遺族年金について詳しくは書き記事を御覧ください。
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まとめ
今回は「もらい忘れ多数?65歳前から受け取れる厚生年金【特別支給の老齢厚生年金】という年金制度があるのをご存知ですか?」と題して特別支給の老齢厚生年金についてみてきました。
もらい忘れが本当に多い年金ですからまずは自分やご家族が対象でないのか確認してみてくださいね。
特に繰下げを考えている方はお気をつけください。特別支給の老齢厚生年金はもらい忘れのないように・・・
また、定年後にも働きたい方は在職老齢年や雇用継続給付金ついても知っておきましょう。
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