先日、厚生年金や国民年金の繰下げ制度についての記事を書いたところかなり反響がありました。
そこで今回は繰下げの逆である厚生年金や国民年金の繰上げについて考えてみましょう。
繰下げ制度については下記記事を御覧ください。
先日、年金の平均支給額の記事を書いていて気づいたことがあります。それは厚生年金や国民年金の受給を遅らせて受給額を増やす繰下げ制度を利用している方がかなり少ないということです。下記記事にも書きましたが、繰下げは平均余命が伸びている昨今[…]
※年金制度改正に伴い追記を加えました。
厚生年金や国民年金の繰上げ制度とは
繰上げとは簡単に言えば年金を早くもらう事ができる制度です。そのかわりに1回で受給できる金額が減ることになります。
詳しく見てみましょう。
繰上げするとどれだけ年金が減るのか
計算の仕方は繰り下げとほぼ同じで下記の計算式に当てはめて計算します。
減額率=0.5%×繰上げ請求月から65歳になる月の前月までの月数
簡単に言えば1月に0.5%減額するってことになります。
具体的には下記の早見表をみていただくと早いでしょう。60歳から受け取りを開始すれば1回の受給を30%減額したものが受け取れる形となります。
※令和4年4月から減額幅が月0.4%と減額されます。ですから60歳から繰り下げた場合には24%の減額ですね。
詳しくはこちらの記事を御覧ください。
繰上げ減額率早見表
請求時の年齢 | 0カ月 | 1カ月 | 2カ月 | 3カ月 | 4カ月 | 5カ月 | 6カ月 | 7カ月 | 8カ月 | 9カ月 | 10カ月 | 11カ月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
60歳 | 30.0 | 29.5 | 29.0 | 28.5 | 28.0 | 27.5 | 27.0 | 26.5 | 26.0 | 25.5 | 25.0 | 24.5 |
61歳 | 24.0 | 23.5 | 23.0 | 22.5 | 22.0 | 21.5 | 21.0 | 20.5 | 20.0 | 19.5 | 19.0 | 18.5 |
62歳 | 18.0 | 17.5 | 17.0 | 16.5 | 16.0 | 15.5 | 15.0 | 14.5 | 14.0 | 13.5 | 13.0 | 12.5 |
63歳 | 12.0 | 11.5 | 11.0 | 10.5 | 10.0 | 9.5 | 9.0 | 8.5 | 8.0 | 7.5 | 7.0 | 6.5 |
64歳 | 6.0 | 5.5 | 5.0 | 4.5 | 4.0 | 3.5 | 3.0 | 2.5 | 2.0 | 1.5 | 1.0 | 0.5 |
出所:日本年金機構「老齢年金の繰上げ受給」より
繰上げの損益分岐点は76歳8ヶ月
例えば月に10万円年金がもらえる予定の方が60歳から繰上げした受給場合には、もらえる金額が30%減ります。つまり月に7万円もらえるようになるってことです。
このケースの場合は年金の受給が5年間早くなっています。つまり、5年間420万円分早くもらえることになります。これを減額された30%分が超えるところが損益分岐点ですね。計算してみると140ヶ月でその420万円差を追いつくことになります。つまり、11年8ヶ月が損益分岐点です。11年8ヶ月ですから年齢にすると76歳8ヶ月以上生きることができるなら繰上げは損ということになります。
ちなみに標準生命表によると65歳男性の平均余命は19.53歳です。つまり、84.53歳まで生きるのが平均となります。また65歳女性の平均余命は24.27歳です。つまり、89.27歳まで生きるのが平均となります。この数字を見る限り多くの方は繰上げをすると損をすることになります。ただし、病気がちだとか長生きする自信の無い方には良い選択なのかもしれません。自分の健康状態を踏まえて検討してみてください。
平均余命についてはこちらの記事を御覧ください。
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なお、令和4年4月以降の減額幅の場合には損益分岐点は80歳10ヶ月となります。
この改定で特に未婚男性は繰り上げを選択したほうが得になるケースが多くなっていますね。
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繰上げを選択している人はどれだけいるのか?
それでは実際に繰上げを選択している方がどれだけいるのかを見てみましょう。
厚生年金の繰上げ割合
出所:厚生労働省年金局「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より
まずは厚生年金から見てみましょう。平成29年度年度末時点での繰上げ人数は59,898人で割合は0.2%となっています。かなり少ないですね。ちなみに繰り下げ(あとでもらう)は167,011人で0.7%となっています。
国民年金の繰上げ割合
国民年金の繰上げは平成29年度年度末時点で4,498,287人で割合は13.6%となっています。かなり多くの方が選択しているのが分かると思います。ちなみに繰下げは425,088人で1.3%です。
繰上げを選択する際のポイント
繰上げは統計学的に言えば損をする可能性が高い仕組みです。しかし、13.6%とかなり多くの方が選択されています。これは行動経済学的な話もそうでしょうし、自分自身の健康に自信がない方が多いのかもしれません。
また、もしかしたら金銭的な問題ですぐにお金が必要だから繰上げを選択する方もいるのかもしれません。60歳で定年を迎えてしまった人などはその可能性もあるでしょう。しかし、繰上げは基本的には損をする可能性が高いですから健康面に問題がないならば繰上げを選択しなくてもよいような金銭面の準備をしておくことが重要かもしれませんね。とくにiDeCoやつみたてNISAなんかは税制優遇もありますのでおすすめですのでぜひ検討してみてください。
他にも繰上げをしていると障害年金に該当するような障害となっても、障害年金の対象とならないというデメリットもあります。そのあたりも考えておく必要がありますね。
また、特別支給の老齢厚生年金がもらえる方はその金額なども考えて検討したいところですね。詳しくは下記記事を御覧ください。
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寡婦年金は要注意
ちょっと気をつけなければならないのが寡婦年金です。
妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けている場合は寡婦年金を支給されません。
よく考えて選択しましょう。
寡婦年金、遺族年金についてはこちらの記事をご覧ください。
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まとめ
今回は「約13%の人が選択している国民年金などの受給を早める【繰上げ制度】損益分岐点について考えてみる。」と題して年金の繰上げ制度についてみてきました。
基本的に繰上げは平均余命を見てもらえば分かるように統計学的に考えると損をする可能性が大きい制度であることがわかっていただけたと思います。しかし、自分が長生きする自信がない方などはこちらを選択するのもありでしょうね。
繰下げが75歳まで可能になった場合については下記記事を御覧ください。
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