かなりお得なのに厚生年金や国民年金の受給を遅らせて金額を増やす【繰下げ制度】を選択している方は1%程度しかいない件。

先日、年金の平均支給額の記事を書いていて気づいたことがあります。それは厚生年金や国民年金の受給を遅らせて受給額を増やす繰下げ制度を利用している方がかなり少ないということです。

下記記事にも書きましたが、繰下げは平均余命が伸びている昨今ではかなり有効な年金を増やす作戦のひとつなのですが・・・

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年金を増やす

そこで今回は厚生年金や国民年金の繰下げについて考えてみましょう。

※追記加筆を加えました。

厚生年金や国民年金の繰下げ制度とは

繰下げとは簡単に言えば年金をもらうのを遅らせることで一回あたりの年金額を増やす制度です。

詳しく見てみましょう。

繰下げするとどれだけ年金が増えるのか

年金の繰り下げによる効果は下記の計算式でわかります。

増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.007

簡単に言えば1月遅らせると0.7%増額するってことになります。

1年遅らせれば8.4%増えます。1年で8.4%増える金融商品は普通の商品ではありませんので、長生きさえできるならかなり美味しい制度ということになります。

請求時の年齢増額率
66歳0ヵ月~66歳11ヵ月8.4%~16.1%
67歳0ヵ月~67歳11ヵ月16.8%~24.5%
68歳0ヵ月~68歳11ヵ月25.2%~32.9%
69歳0ヵ月~69歳11ヵ月33.6%~41.3%
70歳0ヵ月~42.0%

出所:日本年金機構「老齢年金の繰下げ受給」繰下げ請求と増減率より抜粋

追記:さらに令和4年4月か75歳まで繰り下げができるようになりました。

増額率は同じですから75歳まで繰り下げると84%まで増額することになります。

詳しくはこちらの記事をご覧ください

満額繰下げた場合の損益分岐点は約12年

例えば月に10万円年金がもらえる予定の方が上限まで繰り下げした場合には、もらえる金額が42%増え月に14.2万円もらえるようになるってことです。

このケースの場合は年金の受給は5年間遅らせています。仮にそのまま受給していれば5年間で600万円の年金を受け取れました。

繰下げで増えた金額がこの600万円の差を超えるのが約12年です。

12年受給する82歳以上生きることができれば得をするってことになります。つまり、満額繰下げした場合の損益分岐点は約12年ということです。

ちなみに標準生命表によると65歳男性の平均余命は19.53歳です。

つまり、84.53歳まで生きるのが平均となります。また65歳女性の平均余命は24.27歳です。

つまり、89.27歳まで生きるのが平均となります。こうやって考えると確率的には82歳まで生きる可能性は高そうということも分かると思います。

特に女性の場合は、繰下げしたほうが得になる方が多そうなんですよね。

平均余命についてはこちらの記事を御覧ください。

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男性でも結婚している場合は繰り下げしたほうが特になるケースが多いですね。

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なお、逆に言えば82歳より早く亡くなってしまったら損をするってことになります。

ただし、これは考え方次第なんです。たしかにもらえる金額だけを考えれば損です。

しかし、自分が亡くなってしまってからはもうお金は使えませんから老後に使える資金を増やす保険と割り切って考えることもできるでしょう。

※追記:75歳まで繰り下げ出来るようになりましたが受給をはじめてから12年というのは同じです。

75歳から受け取るとなると87歳が損益分岐点ですね。



繰下げを選択している人はどれだけいるのか?

それでは実際に繰下げを選択している方がどれだけいるのかを見てみましょう。

厚生年金の繰下げ割合

厚生年金の繰り上げ繰り下げ
出所:厚生労働省年金局「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より

まずは厚生年金から見てみましょう。平成29年度年度末時点での繰下げ人数は167,011人で割合は0.7%となっています。かなり少ないですね。ちなみに繰り上げ(早めにもらう)は59,898人で0.2%となっています。

国民年金の繰下げ割合

国民年金の繰り上げ・繰り下げ出所:厚生労働省年金局「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より

国民年金の繰下げは平成29年度年度末時点で425,088人で割合は1.3%となっています。こちらも厚生年金よりは多いですがかなり少ないですね。ちなみに繰り上げ(早めにもらう)は4,498,287人で13.6%とかなり多くなっています。



繰下げを選択しない人が多いのは行動経済学で説明できる

前述のように平均すれば繰下げを選択したほうが得する人が多いでしょう。しかし、実際に繰下げを選択している方は1%近くしかいません。それはなぜかのでしょうか?大きな理由としては生活費が足りないという場合があります。これは仕方ないでしょうね。老後資金を充分用意していなかったので繰下げするのは難しいでしょう。

ほかにも理由があります。それは行動経済学双曲割引現在志向バイアスという理論で説明できたりします。

簡単に言えば人は目の前に人参がぶら下げられると弱いのです。

今もらえる100万円
1年後にもらえる110万円

例えば今100万円もらえる場合と1年後に110万円がもらえる場合。どちらかを選択してくれと言われれば、圧倒的に前者の「今もらえる100万円」を選択する人が多いと言われます。

しかし、冷静になって考えて見てください。110万円と100万円の差は10%あります。投資をしても1年で10%を確保しようとおもったならなかなか大変なんです。つまり、「1年後にもらえる110万円」の方が基本的にはお得なはずなんですよね。しかし、たいていの方は目の前に100万円があるとそちらの方が価値を感じてしまうんです。

これは人間の本能的なものでどうしようもないところもあります。目の前になると冷静な判断ができなくなるのですね。

繰下げも全く同じです。目の前の年金と5年後の年金が増えること。どうしても目の前の年金の方が価値を感じてしまうんですね・・・

1年後にもらえる100万円
2年後にもらえる110万円

しかし、先ほどのほぼ同じケースでも1年後100万円もらえる場合と2年後110万円もらえる場合と条件が少し変わると選択が大きく変わります。後者の「2年後にもらえる110万円」を選択する人の割合が大幅に増えるのです。これは目の前でなくなると人は冷静な判断ができるようになるためなのです。

つまり、年金の繰下げについてもまだ目の前に年金のない現状で考えて決めてしまうのがおすすめだったりします。

行動経済学についてはこちらの記事を御覧ください。

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行動経済学おすすめ本

目の前のニンジンに負けない人は出世するというデータも

ちなみにこんな実験もあります。

幼稚園児の目の前に好物のマシュマロを置き、1時間我慢できたら倍にしてあげると言い残して放置する

そこで本当に食べずに倍のマシュマロをもらった方とその場でマシュマロを食べてしまった人の20年後、30年後の給料がどうなっているのかを追跡した実験です。

その結果、圧倒的に食べるのを我慢して倍のマシュマロを食べた方のほうが給料が高かったり、よい職業についている割合が高いとの結果です。

人間の本能に逆らってでも冷静な判断ができる人は将来的にも成功しやすいってことが言えるのかもしれませんね。



繰下げを選択する場合の注意するポイント

単純な確率論的なことだけ考えれば繰下げの方がお得なケースが多いですがちょっと注意をしなければならないことがあります。

年金を受給するまでの生活費は大丈夫か?

まず考えなくては行けないのが繰下げ受給をして年金を受給するまでの生活費がまかなえるのかどうかです。繰下げした年金を受給するまで働くという方は問題ないでしょうけどね。

また、iDeCoつみたてNISAなんかを使って老後資金を用意するのもおすすめです。

加給年金や振替加算がもらえる場合はよく考えて

繰下げを利用するときに気をつけなければいけないのが振替加算と加給年金が貰える場合です。

加給年金がもらえる場合の繰下げは要注意

まずは加給年金です。加給年金とは以下のような制度です。

厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている条件を満たした配偶者または子がいるときに加算されます。
65歳到達後(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年以上となった場合は、退職改定時に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算されます。
出所:日本年金機構 「加給年金」より

簡単に言えば年金の家族手当ですね。

しかし、気をつけなければならないのが繰下げをしている間は加給年金も支給されないのです。加給年金は厚生年金に上乗せして支給されるものであるため、厚生年金が支給されなければ加給年金も受け取れないんですね・・・。また、もらえるようになったからといって加給年金の金額は増えません。

加給年金がもらえる方はこのあたりも加味して検討する必要があります。

振替加算がもらえる場合の繰下げは要注意

次は振替加算です。振替加算とは以下のような制度です。

夫(妻)が受けている老齢厚生年金や障害厚生年金に加算されている加給年金額の対象者になっている妻(夫)が65歳になると、それまで夫(妻)に支給されていた加給年金額が打ち切られます。このとき妻(夫)が老齢基礎年金を受けられる場合には、一定の基準により妻(夫)自身の老齢基礎年金の額に加算がされます。これを振替加算といいます。
出所:日本年金機構 「振替加算」より

ちょっとややこしいですが簡単に言えば加給年金が打ち切られたときにその部分が妻の(夫)の年金に加算される制度ってことです。

旦那さんが年金の受給を繰下げたとします。すると、その旦那さんが繰下げた年金を受け取るまでは、振替加算はつかなくなります。実際に年金を受け取り始めてから振替加算が始まるのです。また、加給年金と同じく振替加算は繰下げしても金額は増えません。

振替加算がもらえる方は繰下げて年金額が増える分と振替加算が受け取れない分とをよく検討する必要があるのです。

特別支給の老齢厚生年金のもらい忘れに注意

繰下げされる方で多いのが本来、特別支給の老齢厚生年金がもらえるはずなのに手続きを忘れてしまう方です。かなりの方がわすれているそうですから自分や家族が特別支給の老齢厚生年金の対象に該当しないのか確認しておきましょうね。こちらから請求をしないともらえませんよ。ねんきん定期便の特別支給の老齢厚生年金に金額が入ってないのかを確認してみましょう。

特別支給の老齢厚生年金について詳しくは下記記事を御覧ください。

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まとめ

今回は「かなりお得厚生年金や国民年金の受給を遅らせて金額を増やす【繰下げ制度】を選択している方は1%程度しかいない件。」と題して年金の繰下げ制度についてみてきました。

基本的の繰下げ制度はかなりお得な制度であることがわかっていただけたと思います。ただし、年金受給するまでの生活費の問題や加給年金、振替加算など考える点もありますのでそのあたりを考慮して検討してみてくださいね。また、厚生年金、国民年金別々に繰下げをすることができますし、夫婦で片方だけということも可能ですよ。

行動経済学から考えても繰下げするのかしないのかという判断は直前ではなく早めに検討するのが良いでしょうね。

繰上げ制度についてはこちらの記事を御覧ください。

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繰下げが75歳まで可能になった場合については下記記事を御覧ください。

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また、定年後も働いて繰り下げする場合には下記の給付金についても知っておきましょう。

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