所得税と並んで給料天引きされるのが社会保険料です。
給料天引きですから社会保険料はそれほど払った実感がない方も見えると思いますが、金額にすると結構大きなウエイトになるんですよ。
しかし、なかなか複雑な社会保険。
社会保険労務士や給料計算に仕事で関わっている方以外はなかなか理解できていない方が多いでしょう。
「お金に生きる」ではそんなややこしい社会保険をわかりやすく解説していきます。
今回は賞与の社会保険の扱いです。
あまり知らない方が多いですが、賞与は支給回数によって大きく社会保険料の扱いが変わるんですよ。
これ知らないと損をするケースも多くなりますからぜひ理解しておきたいところ。
この件に着目して見ていきましょう。
社会保険上の「賞与(ボーナス)」の扱いとは
まずは社会保険上の「賞与(ボーナス)」の扱いから見ていきましょう。
社会保険における賞与の定義
まず社会保険上では賞与は賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものをいいます。
つまり、年3回以下までが社会保険上は賞与として認識されているいうことです。
また、名称等は全く関係ないんですよ。賞与って名前でなくても同様に支給されていれば賞与の扱いとなります。
なお、労働の対償ですから結婚祝金等等は含まれません。
賞与の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の計算
賞与についても健康保険・厚生年金保険の毎月の保険料と同率の保険料を納付することになっています。
また、通常の給料の社会保険と同様に事業主と被保険者が折半で負担します。
具体的には以下のとおりです。
賞与にかかる保険料は、実際に支払われた賞与額(税引き前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」とし、その「標準賞与額」に健康保険・厚生年金保険の保険料率をかけた額です。保険料は、事業主と被保険者が折半で負担します。
出典:日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」
じゃあ、別に賞与扱いになろうが給料として扱われても変わらないじゃんって思われる方が多いでしょう。
基本的にはそれであっています。
それほど気にするほどの差とはなりません。
ただし、例外があるのです。
年4回以上の賞与の扱い
年4回以上になると名称が賞与だろうが、社会保険計算上は給料として扱われます。
つまり、月々の給料と合わせて計算されるのです。
具体的には7月~翌年6月に支給された賞与の合計金額を12等分したものを報酬月額に加算をして、社会保険料額を決定されます。
年4回以上支給されるものは標準報酬月額の対象
出典:日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」
簡単に言えば賞与が年に4回以上支給されるなら賞与も給料と合わせて社会保険を計算しなさいってことですね。
社会保険料の詳しい計算方法等はこちらの記事を御覧ください。
先日、会社の近くに住んだほうが社会保険が安くなるって本当?という記事を書いたところかなり多くの反響がありました。社会保険の勉強したことがあったり、実際に給料計算をしたことなければ知らない方が多い内容ですね。税金は非課税なのに社会保険[…]
賞与の支給回数で社会保険料が影響を受けるケース
社会保険では賞与の支給回数が年3回以下ならば賞与、年4回以上ならば通常の賃金という扱いになります。
しかし、賞与についても健康保険・厚生年金保険の毎月の保険料と同率の保険料を納付することになっていますし、通常の給料の社会保険と同様に事業主と被保険者が折半で負担されます。
ですから賞与でも給料でも年間のトータルの支給額が同じならば基本的にほとんど変わりません。
賞与支払届けの対象となるのか等の手続き上の違いになります。
社会保険料の上限に達する場合に大きく影響あり
それではどのような場面で賞与の支給回数が社会保険料に大きく影響するのでしょう?
それは社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の上限があるのに関係があります。
上限とはそれ以上増えても社会保険料が変わらない金額ってことです。
賞与の社会保険上限
賞与の社会保険料計算上の標準賞与額の上限は
厚生年金保険:月額150万円
とされています。
なお、同月内に2回以上支給されるときは合算した額で上限額が適用されます。
かなり高めの設定となっています。
通常の給料の社会保険料上限
通常の給料分の社会保険料計算上の標準報酬月額上限は
厚生年金保険:月額62万円
とされています。
つまり、それ以上もらっても社会保険料は増えないということです。
ここがポイントです。
例えばすでに給料額が厚生年金保険料の上限の方の場合、賞与が年3回以下支給されればその分の社会保険料(厚生年金保険料)が発生します。
しかし、年4回以上支給されて通常の給料と合わせての計算となればすでに上限となっているわけですからこれ以上社会保険料(厚生年金保険料)が増えないのです。
つまり、年4回以上ならば賞与分で支払っていた社会保険料分(厚生年金保険料)を節約できるというわけです。
例:月額給料が62万円で年間賞与100万円の人の場合
例えば月額給料62万円で年間賞与が100万円の人の例でみてみましょう。
※なお、以下の計算は全国健康保険協会 平成31年4月分 東京の保険料額表を元に計算をしています。
月額給料62万円の場合の社会保険料(自己負担分のみ)
月額の社会保険料は以下のとおりです。
厚生年金保険料 56,730円
合計 92,783円
年間3回以内で賞与を支払った場合の賞与分の社会保険料(自己負担分のみ)
賞与分に係る社会保険料は以下のとおりです。
厚生年金保険料 91,500円
合計 149,650円
前述の給料分と合計すると社会保険料は年間1,263,046円です。
月額給料62万円。年間4回以上で賞与を支払った場合の社会保険料(自己負担分のみ)
月額の社会保険料は以下のとおりです。
厚生年金保険料 56,730円
合計 98,016円
年間にすると1,176,192円です。こちらは賞与分の社会保険料も含まれています。
健康保険料/介護保険料は賞与分が含まれたことで上がっていますが、厚生年金保険料はすでに上限となっていますので変わりません。
それにより賞与の支給回数により社会保険の差額は86,854円でてくるのです。
つまり、月額給料が社会保険料の上限に達するようなレベル(報酬月額605,000円 ~)の方の場合には、賞与は4回以上支給して給料扱いとなるのかはじめから給料としてもらったほうが社会保険料的には低くなるってことですね。
ちなみに社会保険料は半分は会社持ちですから会社の負担も同様に違いが出てきます。
会社によってはここまで考えてないケースが多いですから、この条件に合致するようならば会社に提案してみてもよいかもしれませんね。
賞与を年4回支給するメリット
今まで見てきたように社会保険料の上限に達するようなレベルの場合には賞与を年4回以上としてもらったほうが社会保険料が安くなることになります。
当然。会社も社会保険料を半額していますからその部分も減ります。
また、月々の給料が社会保険計算上上がることになりますからそこに付随する「傷病手当金」や「出産手当金」などといった健康保険関係の給付も増えるというメリットもあるのです。
一石二鳥、三鳥ですね。
「傷病手当金」や「出産手当金」についてはこちらの記事を御覧ください。
日本には申請すればもらえるお金がたくさんあります。そのほとんどが国や県、市が行っている制度ですが、積極的にはPRはされていない現状です。マイナンバーもできたことだし、あたなにはこんなお金がもらえる制度があるよって向こうから言[…]
また、厚生年金保険料が下がることによって将来もらえる年金が減るのでは?って心配される方も見えるでしょう。
しかし、このパターンの場合にはすでに厚生年金保険料の上限ですから将来もらえる保険料は変わらないんですよ。
賞与を年4回支給する場合の注意点
しかし、この方法を使うためにはいくつか条件や注意点があります。
順番に見ていきましょう。
給料規定・賃金協約等の諸規定が必要
まずひとつ目が賞与の支給が給与規定、賃金協約、就業規則等の諸規定によって年間を通じ4回以上の支給につき客観的に定められている必要があるってことです。
つまり、会社のルールとして常に賞与が4回見込まれる必要があるのです。
諸規定に「支給することができる」あるいは「勤務成績の上位の者のみに支給する」といった事由が定められるなど、必ずしも支給されることが想定されない場合には、次期定時決定までは、賞与支払届の定時決定の際、 支給実績が4回以上であるかどうかで「賞与に係る報酬」又は「賞与」のいずれに該 当するかを判断することになります。
出典:健康保険組合 「賞与の取扱いがより明確化されます」より
その年だけ調子良かったからというのは対象外ってことですね。
性質が同じ賞与が4回である必要あり
会社によってはいろいろな賞与があるケースがあります。
例えば夏、冬のボーナス。会社の業績によって期末に支給するボーナス。
優秀な個人成績をあげた人に支給されるインセンティブボーナス
などです。
しかし、この年4回以上の賞与支給のルールに乗るためには同じ性質の賞与が4回である必要があります。インセンティブボーナスと通常の賞与は性質が違いますから別カウントですね。
ちなみにその具体的な判定は
諸手当等の名称の如何に関わらず、諸規定又は賃金台帳等から、同一の性質を有すると認められるもの毎に判別します
出典:健康保険組合 「賞与の取扱いがより明確化されます」より
規定を作っても実績がまだ無い場合は・・・
また、新たに給与規定、賃金協約、就業規則等に諸手当等の年間を通じ4回以上の支給が客観的に定められている場合であっても、次期の定時決定等による標準報酬月額が適用されるまでの間は、「賞 与」として取り扱い、賞与支払届を都度提出する必要があります
つまり、実績がないと駄目ってことですね。
賞与の支給回数で社会保険料が変わるまとめ
今回は「知っていますか?賞与(ボーナス)は支給回数によって社会保険料が大きく変わること」と題して賞与の支給回数で社会保険料が大きく変わるケースがあるって話しをみてきました。
月額給料が社会保険料(厚生年金)の上限に達するようなレベル(報酬月額605,000円 ~)の方は会社に交渉してみてはいかがでしょうか?
会社としても悪い話ではないはずですよ。
もちろん会社経営者の方は一度この件を検討してみてくださいね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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