金融庁の「金融所得課税の一体化に関する研究会」(第一回)の議事要旨と議事次第が公開されました。
現在、上場株式や投資信託、公社債は損益通算が認められていますが、FXや先物などのデリバティブや預貯金等は株などとの損益通算は対象となっていません。
それがマイナンバー提出した人だけ認める的な意見も出るなど、とても興味深い議論が行われていますのでご紹介しましょう。
こちらの研究会は名前の通り、金融所得課税の一体化について話し合う場となっています。
この手の研究会の議論はその後のルール改定に大きな影響を及ぼす大事なものなんですよ。
金融所得課税の一本化をなぜ目指すのか
「金融所得課税の一体化に関する研究会」が目指している金融所得課税一本化とはどういうもので、なぜ目指すのかから見ていきましょう。
金融所得課税の一体化とは、金融商品の課税について他の所得と区分したうえで、課税所得の計算上、所得と損失とを合算(相殺)することを認めること で、金融商品間の課税の公平性・中立性を図り、投資家にとって簡素で分かりやすい税制の実現を目指すことをいう。
出典:金融所得課税の一体化に関する研究会(第一回)議事次第より
つまり、株式や投資信託と比べてルール上ちょっと不利にあるその他金融商品とのルールを統一することで公平でありわかりやすくしようというのが目的となっています。
これは投資家にとってもありがたいことですね。
しかし、国としては租税回避になってしまったりする可能性もあり慎重に考える必要となる部分でもあります。
仮想通貨(暗号資産)は議論に含まれてない
なお、仮想通貨(暗号資産)については本研究会では一切触れていませんでしたので対象外なのかもしれません。
そもそも仮想通貨は金融商品というカテゴリーとは考えてないということかもしれませんね。
現状の仮想通貨の税金の扱いは他の金融商品と比べてかなり不利となっているんですよ。
現状の金融商品の課税方式
出典:金融所得課税の一体化に関する研究会(第一回)議事次第より
現状の金融商品の課税方式は上記の図のようになっています。
上場株式と公募株式投信(投資信託)、特定公社債、公募公社債投信(投資信託)は申告分離課税かつ損益通算が認められています。
FXや先物といったデリバティブ取引は申告分離課税ですが損益通算が認められていません。
さらに預貯金は源泉分離課税となっています。
ちょっと用語が分かりづらい方もみえると思いますので解説しておきましょう。
申告分離課税とは
まずは申告分離課税です。
申告分離課税とは他の所得と分離して税額を計算する課税方式のことです。
例えば定期的な給料所得はあるんだけど株で大損。
申告分離課税となっていない場合は総合して考えますので給料所得があるにも関わらず所得税がかなり低くなります。
そういったことを避けるために上場株式や土地の譲渡所得等は分離課税とされて他の所得とは分けて課税されるのです。
損益通算とは
次は損益通算です。
損益通算とは言葉のとおり、損益を通算できる仕組みのことです。
例えば1つの株の売買で大きな利益がでたけど、投資信託の売買で大損。
このような場合は合算して税金を計算することができますよってことです。
例えば株で100万円利益。投資信託で50万円の損失なら合算して50万円の利益分の税金を払えばよいとうことですね。
前述のように上場株式と公募株式投信(投資信託)、特定公社債、公募公社債投信(投資信託)の間では損益通算は認められています。
しかし、FXや先物、オプション取引など株などとの損益通算が認められておらずそちらの利益や損は株などとは別に税金計算するということになります。
仮想通貨も当然損益通算の対象とはなっていません。
ですから株で100万円利益。FXで50万円の損失でも損益通算はできませんから100万円の利益分の税金を払う必要があるってことですね。
ただし、同じグループ内では合算が可能です。
例えばFXや先物、オプション取引といった同じグループ内では合わせて計算が可能なんです。
つまり、FXや先物、オプション取引といったデリバティブは上場株式などから損益通算の仲間はずれにされているというのが現状ってことですね。
源泉分離とは
預金の利子は他の金融商品と違い「源泉分離課税」という制度が導入されています。
お金を預けた金融機関が源泉徴収(渡す際に税金を引く)という仕組みです。
そのため、すでに徴収が終わっていますからとくに手続きが不要となるのがメリットですね。
こちらも他の所得と別に扱う分離課税です。(申告は不要)
各国の金融商品の課税状況はどうなっているのか?
ちなみに他の国の金融商品の課税は以下の通りになっています。
かなり国によってルールも税率も違うんですよ。
出典:金融所得課税の一体化に関する研究会(第一回)議事次第より
他の国はデリバティブも損益通算の対象となっていますね。
あとは注目すべきは日本は損失は3年間の繰越のみ可能ですが、アメリカ、イギリス、ドイツは無制限。
フランスも10年と日本よりかなり条件が緩くなっています。
金融所得課税の一体化に関する研究会で出ていた意見
このような状況の金融所得課税について一本化を目指す上で以下のような意見がでていたようです。
要旨で公表されているものの中から注目すべき意見をご紹介しましょう。
- リスクを取って得た所得が、リスクを取らないで得た所得より課税されることは、租税の中立性から適切ではない。
- 執行性を担保する観点から、個人番号を提出している者に限って、損益通算を認めてはどうか。
- 個人投資家の利便性向上の観点から、特定口座で処理していくことができるのか議論が必要ではないか。
- 価格の透明性等が担保されているかという観点から、市場デリバティブについて、期末で時価評価するルールの下に損益通算の中に組み入れていくことがよいのではないか。
- 租税回避行為は、課税の時点を課税される側が選択できることが基本的にはよくない。例えば、デリバティブのポジションについて期末に時価評価をして、そこで損益が生じたものとして通算するというルールがよいのではないか。
出典:金融所得課税の一体化に関する研究会(第一回)議事要旨より
とくに個人的に注目したのが「個人番号を提出している者に限って、損益通算を認めてはどうか。」という意見です。
個人番号とはマイナンバーのことですね。
海外で口座を作っている場合にマイナンバーの提出は不要
国内で証券口座やFX口座を作るときにはマイナンバーの提出は必要となります。
しかし、海外の機関で口座を作ってもマイナンバーの提出は不要となっているんですよ。
マイナンバーは日本の法律ですからどうしてもそうなっています。
もしこの意見が通ってマイナンバーを提出してある場合だけ損益通算ができるというならばわざわざ海外で口座を作る人は減るでしょうし、そういった意味でも意義があるのかもしれません。
国税庁としても海外の口座は把握しずらいでしょうしね。
また、特定口座で処理をするという意見もおもしろいところです。
前述みたようにドイツは金融商品のほとんどが申告不要の分離課税となっているんですよ。
そういった感じになれば投資家もかなり楽になるかもしれませんね。
租税回避行為への対策が課題
金融所得課税の一本化の最大の課題は租税回避行為をどう避けるのかをという部分にあるようです。
具体的には下記のストラドル取引という租税回避行為が利用されるおそれが指摘されています。
出典:金融所得課税の一体化に関する研究会(第一回)議事次第より
ちょっとわかりにくいですが、デリバティブ取引で「売り」「書い」を両建てする。
株式譲渡益が多額に発生した年の年末に、両建てのうち損失のあった方だけを売却することで実現損を発生させ、株式譲渡益と損益通算するということが可能となってしまうのです。
これをすると実質的な損失は生じてないんですが、課税の繰延べを⾏うことが可能・・・・
ちなみにアメリカでは上記スキームを回避するために「ストラドル・ルール」なるものが作られています。
相反する値動きをする2つのポジションを有する場合、含み益を超える損失のみ当年度で認識。繰り延べられた損失は、ポジションが解消された翌年以降の課税年度に認識するという方法です。
ちょっと計算等はややこしくなりそうですが、これなら回避できるでしょうね。
ただし、デリバティブ取引はいろいろなパターンが考えられますから今後あらたな節税スキームが現れてくるでしょうからイタチごっこにはなりそうですけど・・・
まとめ
今回は「FXや先物などもマイナンバー提出していると株と損益通算になるかも。金融庁の研究会で議論」と題して金融所得課税の一体化についての議論を見てきました。
あくまで議論の段階ですが、今後の方向性としては知っておいても良い内容かもしれませんね。
なお、今回の議論の元資料はこちらからご覧いただけます。
>>「金融所得課税の一体化に関する研究会」(第1回):議事要旨
>>「金融所得課税の一体化に関する研究会」(第1回):議事次第
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