政府・与党は2026年度税制改正で、超富裕層に追加の税負担を課す年間所得の目安を現行の約30億円から約6億円に引き下げる方向で最終調整に入りました。
2027年からの適用を目指しており、年内にまとめる税制改正大綱に盛り込まれる見通しです。
この改正により、専用の課税計算式で用いる所得からの控除額を1.65億円に半減させ、税率も22.5%から30%に引き上げます。
対象となる超富裕層は、現在の約200~300人から約2,000人へと大幅に拡大することになります。
金融所得課税の引き上げは、投資を行っている多くの方にとって看過できない税制改正です。
現時点では超富裕層が対象ですが、将来的に課税対象の基準がさらに引き下げられる可能性も否定できません。
本記事では、今回の改正内容と「1億円の壁」の問題、そして一般投資家への影響について詳しく解説します。
現行のミニマムタックス制度とは
まずはミニマムタックス制度について解説しておきましょう。
2025年1月からスタートした追加課税制度
2025年1月から導入されたミニマムタックスは、正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」と呼ばれる制度です。
年間所得が約30億円以上の超富裕層を対象に、追加の税負担を求める仕組みとして始まりました。
行制度の計算方法は次のとおりです。
基準所得金額から3.3億円を控除した金額に22.5%の税率を掛けた額を算出し、従来通りに計算した所得税額と比較します。
前者のほうが大きければ、その差額を追加で納税する必要があります。
例えば、金融所得が30億円の場合を考えてみましょう。
従来の所得税額:30億円×15%=4億5,000万円
ミニマムタックス適用後:(30億円-3.3億円)×22.5%=6億750万円
追加納税額:6億750万円-4億5,000万円=1億5,075万円
この計算結果から、金融所得だけの場合は年間所得約10億円がひとつの目安になることが分かります。
金融所得課税の現状
株式の売却益や配当金にかかる税率は、現在20.315%です。
内訳は所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%となっています。
この税率は、所得金額にかかわらず一律です。給与所得であれば所得が増えるほど税率も上がり、最高で45%(住民税を含めると55%)になりますが、金融所得は金額がいくら大きくても約20%のまま変わりません。
この税率の違いこそが、次に説明する「1億円の壁」を生み出す構造的な問題となっています。
「1億円の壁」とは何か
次に今回の改正の根本にある1億円の壁についても解説しておきます。
所得が増えるほど税負担率が下がる逆転現象
「1億円の壁」とは、年間所得が1億円を超えると、所得税の負担率が逆に下がり始める現象を指します。
財務省のデータによると、年間所得が5,000万~1億円の人の所得税負担率は平均で25.9%ですが、10億~20億円の人は20.1%まで低下します。
なぜこのような逆転現象が起きるのでしょうか。理由は金融所得の割合の違いにあります。
会社員などの給与所得では、金額に応じて税率が上昇する累進課税が適用され、所得税と住民税を合わせた税率は最大55%まで上がります。
一方、株式の売却益など金融所得は金額にかかわらず税率が一律約20%です。
高所得者ほど所得に占める金融所得の割合が高まるため、全体の実効税負担率が低下してしまうのです。
所得が1億円を超えると金融所得の比重が大きくなり、税負担率が下がり始める傾向があります。
税負担の公平性という課題
この問題は、税制の公平性という観点から長年指摘されてきました。
本来、日本の所得税制度は累進課税を基本とし、所得が多い人ほど多く税を負担する仕組みになっています。
しかし現実には、年収1億円の人よりも年収50億円の人のほうが税負担率が低い、という状況が生じています。
これは税の再分配機能が十分に働いていないことを意味します。
ミニマムタックスの導入は、この「1億円の壁」問題を是正し、税負担の公平性を高めることを目的としています。
詳しくはこちらの記事で解説しております。

2026年度税制改正の詳細
それでは本題。今回の改正内容を確認していきましょう。
対象基準が年間所得6億円に引き下げ
今回の税制改正で最も注目すべき点は、追加負担の対象となる年間所得の目安が約30億円から約6億円に大幅に引き下げられることです。
さらに、専用の計算式における控除額も3.3億円から1.65億円へと半減します。
税率は22.5%から30%に引き上げられます。
新しい計算式は次のようになります。
基準所得金額-1.65億円)×30%-従来の所得税額=追加納税額
この変更により、年間所得が6億円を超える場合、従来よりも大幅に税負担が増加することになります。
対象者は約2,000人に拡大
現行制度の対象者は約200~300人とされていましたが、新制度では約2,000人に拡大する見込みです。
基準が30億円から6億円に下がることで、対象者が10倍近くに増えることになります。
ただし、それでも全国民から見れば極めて限定的な人数です。
一般的な会社員や中小企業経営者の多くは、この制度の直接的な影響を受けることはないでしょう。
2027年からの適用を目指す
この改正は2027年分の所得から適用される見込みです。
つまり、2027年1月から12月までの所得に対して新しい税率と控除額が適用され、実際の申告・納税は2028年の確定申告時期に行われることになります。
年内にまとめられる税制改正大綱に盛り込まれる予定で、その後、通常国会での審議を経て正式に決定されます。
ミニマムタックス強化の背景
次になぜ強化されるのかについても考えてみましょう。
与野党合意のガソリン税廃止の代替財源
今回の超富裕層への課税強化は、与野党6党が合意したガソリンの暫定税率廃止に伴う代替財源のひとつとされています。
ガソリン税の暫定税率を廃止すると年間約1.5兆円の税収が失われるため、その穴埋めとして富裕層への課税強化が検討されています。
税収確保と税負担の公平性という、二つの目的を同時に達成しようとする政策といえます。
国際的な流れとの整合性
金融所得課税の強化は、日本だけの動きではありません。
OECD(経済協力開発機構)主導で進む「グローバル・ミニマム課税」など、国際的に富裕層への課税を適正化する流れが進んでいます。
アメリカでは、株式の保有期間が1年以下の場合、最高税率37%の通常所得税が適用されます。
フランスでも金融所得に対して累進税率が適用される仕組みがあります。
日本の今回の改正も、こうした国際的な動向と足並みを揃えるものといえます。
一般投資家への影響
一般投資家への影響はないのでしょうか?
新NISA利用者は基本的に影響なし
今回の改正で多くの投資家が気になるのは、新NISAへの影響でしょう。
結論から言えば、新NISAを通じた投資には影響ありません。
新NISAの非課税投資枠(生涯1,800万円)で得られた利益は、そもそもミニマムタックスの計算対象となる「基準所得金額」に含まれません。
エンジェル税制による非課税所得も同様に除外されます。
新NISAを活用している一般投資家の方々は、今回の税制改正を過度に心配する必要はありません。
将来的な課税対象拡大の可能性
6億円という金額でも、もちろん一般のサラリーマン家庭から見れば雲の上です。
それでも、次のような層には、現実味を持って響いてくる数字です。
- 事業売却で一度に大きなキャピタルゲインを得る起業家
- 上場企業の創業者・オーナー一族
- 大口の不動産売却を行う富裕層 など
「うちはそんなレベルではないから関係ない」と切り捨ててしまうのは簡単ですが、税制の歴史を振り返ると、一度導入された“高所得者向け制度”が、少しずつ対象を広げていくパターンは珍しくありません。
今回の「30億円 → 6億円」という大きな見直しは、“その一歩目”とも読めてしまうのです。
いずれ「3億円の壁」「1億円の壁」へと段階的に引き下げられる展開も想定できます。
金融所得課税30%への一律引き上げも・・・
さらに注意すべきは、ミニマムタックスとは別に、金融所得課税そのものの税率を一律引き上げる議論も根強く残っていることです。
現在の20.315%を25%や30%に引き上げる案が、これまでも何度か浮上してきました。
岸田政権時代には金融所得課税の見直しが大きな議論となり、市場に大きな動揺が走ったこともあります。
国民民主党も金融所得課税について、現在の20%の分離課税に加えて、将来的に高所得者層には30%の税率を課すことを検討する、という方針を掲げています。
党代表の玉木氏が「分離課税を30%に上げ、総合課税との選択制にする」という趣旨の投稿を行い、SNS上で大きな反発を呼んだことも話題になりました。
現時点で、「すべての金融所得を一律30%に引き上げる」法案が決定・施行されているわけではありません。
ただし、「30%」という数字が、現実的な選択肢として政治のテーブルに載り始めていることは事実です。
もし金融所得課税が一律で引き上げられれば、投資額や所得額にかかわらず、すべての投資家が影響を受けることになります。
投資家が今からできる対策
投資家ができる対策についても考えてみましょう。
新NISA・iDeCoの活用を最大限に
金融所得課税の強化が議論される中、非課税で投資できる新NISAやiDeCoなど非課税枠の価値はますます高まっています。
年間投資枠は最大360万円(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)、生涯投資枠は1,800万円まで非課税で保有できます。
将来、仮に金融所得課税が一律で引き上げられたとしても、新NISA口座内の資産には影響がありません。
長期的な資産形成を考えるなら、新NISAやiDeCoの活用は必須といえるでしょう。
iDeCoは改正で利用範囲も広がりましたしね。

資産の分散を考える
金融資産への課税圧力が高まる中、資産の分散を検討することも重要です。
株式や投資信託だけでなく、不動産投資なども選択肢に入れることで、税制リスクを分散できます。
ただし、不動産投資にも固定資産税や譲渡所得税などの税負担があります。
それぞれの資産クラスのメリット・デメリットを十分に理解した上で、バランスの取れたポートフォリオを構築することが大切です。
税制改正の動向を注視する
税制は毎年変わります。特に金融所得課税については、今後も議論が続く可能性が高い分野です。
年末に発表される税制改正大綱や、国会での審議状況など、最新の情報を定期的にチェックする習慣をつけましょう。信頼できる金融機関や税理士からの情報も参考にしながら、変化に柔軟に対応できる準備をしておくことが重要です。
まとめ
2026年度税制改正により、超富裕層向けのミニマムタックスが大幅に強化されます。
対象となる年間所得の基準は約30億円から約6億円に引き下げられ、税率も22.5%から30%に上がります。
控除額も3.3億円から1.65億円へと半減するため、該当する方の税負担は大幅に増加することになります。
この改正の背景には、「1億円の壁」と呼ばれる税負担の不公平性の問題があります。
金融所得の割合が高い超富裕層ほど実効税負担率が低くなる現象を是正し、税制の公平性を高めることが目的です。
一般投資家にとっては、現時点で直接的な影響は限定的です。新NISAを活用した投資は非課税のまま継続できます。
ただし、将来的に課税対象が拡大されたり、金融所得課税そのものが一律で引き上げられたりする可能性には注意が必要です。
重要なのは、税制改正に一喜一憂せず、長期的な視点で資産形成に取り組むことです。
新NISAをフル活用し、資産を適切に分散させながら、着実に資産を積み上げていく姿勢が求められます。
税制の動向を注視しつつ、自分に合った投資戦略を堅実に実行していきましょう。
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