2026年4月1日。この日を境に、日本の「離婚とお金」の常識が大きく変わります。
「共同親権って結局なに?」
「すでに離婚してるけど影響あるの?」
「養育費はどうなる?」
ネット上には不安の声があふれています。
「共同親権はやばい」と検索する方も少なくありません。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
本当に「やばい」のは、制度そのものでしょうか。
それとも、制度を正しく理解しないまま漠然と不安を感じている状態のほうではないでしょうか。
この記事では、共同親権の仕組みを「お金」を軸にわかりやすく解説します。
そもそも共同親権とは何か?
まずは共同親権とはなにかから見ていきましょう。
77年ぶりの歴史的転換なんですよ
これまでの制度:「どちらか一方」しか選べなかった
日本ではこれまで、結婚している間は父母の両方が親権を持つ「共同親権」が原則でした。
しかし、離婚すると話は一変。
必ず父母のどちらか一方だけが親権者となる「単独親権」しか選択肢がなかったのです。
この制度は、1947年の民法改正以来、実に77年間にわたって続いてきました。
改正後の制度:「選べる」ようになる
2024年5月に成立した改正民法が、2026年4月1日に施行されます
>>法務省民事局:父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました
改正のポイントは明快です。
離婚後の親権について、共同親権と単独親権の「どちらかを選べる」ようになります。
強制ではありません。あくまで「選択肢が増える」という変更です。
具体的な決め方は次のとおりです。
| 状況 | 親権の決め方 |
|---|---|
| 協議離婚の場合 | 父母の話し合いで、共同か単独かを決める |
| 話し合いがまとまらない場合 | 家庭裁判所が子どもの利益の観点から判断 |
| 虐待・DVのおそれがある場合 | 家庭裁判所が必ず単独親権とする |
ここで重要なのは、DVや虐待のリスクがある場合には「必ず」単独親権になるという点です。
共同親権を強制される心配はありません。
日常生活ではどうなる?
共同親権を選んだ場合でも、日々の生活のすべてに元配偶者の同意が必要になるわけではありません。
ここを誤解している方が非常に多いので、整理しておきましょう。
一方の親だけで決められること(日常の行為)
食事や服装の決定、短期間の旅行、通常のワクチン接種、習い事、高校生のアルバイト許可など
父母が共同で決めること
子どもの転居、進学先の決定(高校に進学せずに就職する判断なども含む)、重大な医療行為の決定、財産の管理(預金口座の開設など)
さらに、DVからの避難や緊急の医療行為、入学手続の期限が迫っている場合など「急迫の事情」があるときは、共同親権であっても一方の親が単独で判断できます。
「共同親権はやばい」と言われる本当の理由
SNSやネットで「共同親権 やばい」と検索すると、さまざまな不安の声が出てきます。
その懸念を一つずつ検証してみましょう。
DV被害者が逃げられなくなる?
これは最も多く寄せられる不安です。
結論から言えば、法律上の手当てはなされています。
改正民法では、虐待のおそれがあるとき、DVのおそれやその他の事情により共同で親権を行うことが困難であるときには、家庭裁判所は「必ず」単独親権の定めをすることとされています。
身体的な暴力に限らず、精神的なDVも対象です。
ただし、制度設計としては手当てされていても、「実際の運用で被害者が十分に保護されるか」という点については、今後の家庭裁判所の運用を注視する必要があります。
これは正直に申し上げておきたい点です。
「日常の行為」の範囲が曖昧では?
この指摘には一理あります。
何が「日常の行為」で何が「共同で決めるべきこと」なのか、グレーゾーンが存在するのは事実です。
たとえば、子どもの習い事は「日常の行為」とされていますが、月数万円かかる習い事はどうでしょうか。
法務省のパンフレットでは一応の例示がありますが、個別具体的な事情によって判断が分かれるケースは出てくるでしょう。
意見が対立した場合は、家庭裁判所が「親権行使者」を指定する手続きが用意されています。
とはいえ、日常的にいちいち裁判所を利用するのは現実的ではありません。
離婚時に、できるだけ具体的なルールを取り決めておくことが重要です。
元配偶者との接触が避けられない?
共同親権を選択した場合、子どもの教育や転居などの重要事項について元配偶者と連絡を取る必要が生じます。
これが精神的な負担になるという声は理解できます。
ただし、直接のやりとりを避ける方法もあります。
弁護士を代理人として立てたり、連絡調整支援機関を活用したりすることが可能です。
離婚時の取り決めで連絡方法のルールを明確にしておくことが大切です。
本質的な問題は「お金」にある
「共同親権がやばい」と言われる理由を突き詰めていくと、多くの場合、その根底にあるのは「お金の問題」です。
養育費が払われないかもしれない。共同親権になったら養育費を払わなくてよくなるのでは。
逆に、養育費を払っているのに子どもに会えない。
こうした「お金と子どもの関係」に対する不安こそが、共同親権への恐れの正体ではないでしょうか。
養育費のルールが大きく変わる
今回の法改正で、合わせて養育費に関するルールは劇的に変わります。
個人的には、共同親権の導入よりもこちらのほうがインパクトが大きいと考えています。
ただし、共同親権になったからといって、養育費が自動的に消えたり、当然に減ったりするわけではありません。
むしろ今回の改正で、金銭面では前進した部分があるんですよ。
養育費を受け取っている母子家庭はわずか28.1%
まず現状を確認しましょう。
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子世帯で養育費を「現在も受けている」と回答した割合はわずか28.1%です。
約7割の母子世帯が養育費を受け取れていない。
これが日本の現実です。
養育費の取り決めをしている割合も46.7%にとどまり、半数以上が取り決めすらしていません。
取り決めをしない理由の最多は「相手と関わりたくない」(34.5%)でした。
日本のひとり親世帯の貧困率は44.5%(厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」)で、OECD加盟国の中でもワースト水準です。
養育費の不払いがこの状況に直結しています。
法定養育費
今回の改正の目玉の一つが「法定養育費」の創設です。
これまでは、養育費の取り決めをしなければ、養育費を請求すること自体ができませんでした。
離婚を急ぐあまり、あるいは「相手と関わりたくない」という理由で取り決めをせず、結果として子どもが経済的に苦しむ。
そんなケースが後を絶ちませんでした。
改正後は、養育費の取り決めをしていなくても、離婚のときから子ども1人あたり月額2万円の法定養育費を請求できるようになります。
支払いがない場合は差押えも可能です。
もちろん月2万円は最低限の金額であり、本来は父母の収入に応じた適正な額を取り決めるべきです。
この制度はあくまで「セーフティネット」として機能するものです。
注意点: 法定養育費は2026年4月1日以降に離婚した場合にのみ適用されます。それ以前に離婚した方には適用されません。
養育費の「先取特権」
養育費債権に「先取特権」が付与されます。
これは、養育費の支払いが他の一般債権(借金など)よりも優先して弁済を受けられるという強力な権利です。
さらに、これまでは養育費の取り決めがあっても、差押えをするには公正証書や調停調書などの「債務名義」が必要でした。
改正後は、父母間で作成した文書(合意書など)だけで差押えの手続きが可能になります。
先取特権の上限は子ども1人あたり月額8万円です。
施行前に離婚した方への適用: 改正法施行前(2026年3月31日以前)に養育費の取り決めがされていた場合でも、施行後(4月1日以降)に発生する養育費については先取特権が付与されます。
養育費改革の意味
投資か会計の知見をお持ちの方なら、この養育費改革の意味がよく分かるのではないでしょうか。
これまでの養育費は、いわば「約束手形」のようなものでした。
支払い義務はあるけれど、不渡り(不払い)になっても回収が極めて困難だった。
それが今回の改正で、「先取特権付きの債権」に格上げされるのです。
債権の「質」が根本的に変わります。
これは離婚を考えている方だけでなく、ひとり親世帯の経済状況を考える上で、極めて重要な構造変化です。
既に離婚している人はどうなる?
「共同親権 既に離婚」で検索される方が多いことからも分かるように、すでに離婚済みの方にとっても今回の改正は無関係ではありません。
自動的に共同親権に変更されることはない
まず安心していただきたいのは、改正法が施行されても、既に単独親権の定めがされている場合に自動的に共同親権に変更されることはないという点です。
変更を望む場合は家庭裁判所への申立てが必要
施行後は、子ども本人やその親族が家庭裁判所に申し立てることで、単独親権から共同親権への変更を求めることができます。
ただし、変更には「こどもの利益のために必要がある」と裁判所が認める必要があります。
共同親権への変更が認められにくいケースとして、法務省は「養育費の支払義務を負う親が、本来支払うべき養育費を長期間にわたって合理的な理由なく怠っていた場合」を挙げています。
つまり、養育費を払っていない親が「共同親権にしてほしい」と言っても、認められにくいということです。
これは非常に合理的な設計だと言えます。
「権利を主張するなら、まず義務を果たせ」というメッセージが制度に組み込まれているわけです。
共同親権への変更を拒否したい場合
逆に、元配偶者から共同親権への変更を申し立てられたけれど拒否したい場合はどうでしょうか。
この場合、家庭裁判所での調停・審判の中で反対の意見を述べることができます。
虐待やDVのおそれがあるとき、父母が共同して親権を行うことが困難であるときは、変更は認められません。
事実婚カップルにとっての新たな選択肢
今回の改正で、見落とされがちですが重要な変更がもう一つあります。
事実婚のカップルにとっての共同親権です。
認知した子どもについて共同親権が可能に
改正後の民法では、父が認知した子どもについても、父母の協議により双方を親権者とすることが可能になります。
これまで、事実婚(未婚)の父母の間では共同親権を選ぶことができなかったため、大きな前進です。
事実婚を選ぶカップルが増えている今、現実の家族のかたちに制度が追いつくという意味でも、この改正には意義があります。
お金を守るための具体的アクション
ここまでの内容を踏まえて、状況別に「今すぐやるべきこと」を整理します。
これから離婚を考えている方へ
まずは離婚を考えている方の話です。
養育費の取り決めを「書面」で残す
改正により、父母間で作成した合意文書があれば差押えが可能になります。
口約束では権利を行使できません。
できれば公正証書にしておくのがベストですが、少なくとも書面には残しましょう。
共同親権か単独親権か、冷静に検討する
「共同親権は怖い」というイメージだけで拒否するのではなく、子どもにとって何がベストかを冷静に考えましょう。
DV・虐待のリスクがある場合は迷わず単独親権です。
そうでない場合は、共同親権のほうが養育費の支払いが確保されやすくなる側面もあります。
監護の分担ルールを具体的に決める
共同親権を選ぶ場合は、「平日は母、土日祝は父」といった具体的な監護の分担や、教育方針の決定プロセス、連絡方法などを事前に取り決めておくことが重要です。
既に離婚している方へ
次は既に離婚をしている方の場合です。
養育費の取り決めを見直す
2026年3月31日以前の取り決めでも、施行後(4月1日以降)に発生する養育費には先取特権が付与されます。
取り決めがまだない方は、この機会に養育費の取り決めを行いましょう。
養育費・親子交流相談支援センター(フリーダイヤル:0120-965-419)や法テラス(0570-078374)でも相談できます。
財産分与の請求期間が延長されている点を確認する
改正により、財産分与の請求可能期間が離婚後2年から5年に延長されます。
ただし、施行前に離婚した場合は従来どおり2年です。この点はご注意ください。
共同親権時代の「本当のリスク」と備え方
最後に共同親権時代に備えるべき「お金のリスク」についてお伝えします。
制度を知らないリスクが最大のリスク
2026年3月に公表された調査では、共同親権制度の内容まで理解している人はわずか18%という結果が出ています(出典:リライフテクノロジー社調査, 2026年3月)。
施行まさに当日を迎える今、制度を知らないまま離婚手続きを進めることが最大のリスクです。
法定養育費の存在を知らなければ月2万円×12か月×子どもの数という金額を受け取り損ねる可能性がありますし、先取特権の仕組みを知らなければ合意書面を作成しないまま離婚してしまうかもしれません。
感情と制度を混同するリスク
「あの人とはもう関わりたくない」
この気持ちは十分に理解できます。
実際、養育費の取り決めをしない理由の最多が「相手と関わりたくない」(34.5%)であることが、この感情の強さを物語っています。
しかし、感情に基づく判断が経済的な損失につながるという現実は、投資の世界と同じです。
行動経済学でいう「現状維持バイアス」や「損失回避」が、養育費の取り決めを先延ばしにさせ、結果として子どもの経済的基盤を弱くしてしまう。
冷静に「制度」と「感情」を切り分けて考えることが、自分自身と子どもの将来を守る第一歩です。
「変わらない部分」を見落とすリスク
共同親権になっても変わらないことがあります。
養育費の支払い義務は、共同親権でも単独親権でも変わりません。
共同親権になったから養育費を払わなくてよい、というのは完全な誤解です。
むしろ、共同親権により両方の親が養育に関わる責任が明確になることで、養育費の支払いが促進される効果が期待されています。
まとめ
2026年4月1日から始まる共同親権制度。
「やばい」と恐れるのではなく、正確に理解して活用することが大切です。
今回の改正の本質は、「子どもの利益を最優先にする」という一点に集約されます。
共同親権の導入、法定養育費の創設、先取特権の付与、財産分与期間の延長
すべてがこの理念に基づいています。
制度は道具です。
包丁と同じで、正しく使えば生活を豊かにし、間違った使い方をすれば害になる。
だからこそ、正確な知識を持ち、自分の状況に合った選択をすることが重要なのです。
一人で判断に迷ったら、弁護士や専門家への相談をためらわないでください。
法テラス(0570-078374)では法的トラブル全般の相談を受け付けていますし、養育費・親子交流相談支援センター(0120-965-419)では養育費に特化した相談が可能です。
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