あれ、これ私が売った車では……?
先日、カーセンサーで見覚えのある車両画像が目に飛び込んできました。
色、年式、走行距離、装備。
かなりニッチなオプションがあるので間違いありません。
私が9年乗って135万円で売却した車です。
実は興味本位で私が売った車両が売られてないかたまにチェックしてたんですよ笑
値札にはこう書かれていました。178万円。
差額、43万円。
そして、もうひとつ気になることがありました。掲載店舗の所在地が、福岡だったのです。
なぜかなり離れた福岡で・・・
実はここに、中古車流通のからくりが凝縮されています。
本記事では、私自身の生々しい実例を題材に、「135万円 → 福岡で178万円」の間に何が起きていたのかを、利益率データと業界構造から解き明かしていきます。
実は43万円という金額は、業界の構造を知れば「ある意味で必然」の数字なのです。
読み終わる頃には、「業者の儲けに腹を立てる」のではなく、「業者の構造を利用する」視点が手に入っているはずです。
福岡で売られている、ということの意味
まず、地理的な事実から導かれる結論があります。
地元の買取業者から福岡の大手中古車販売業者まで、かなり離れています。
この距離を、業者が自前で車両を陸送し、自社直販するのは経済合理性に合いません。
陸送費だけで数万円以上かかります。
ということは、ほぼ間違いなく、間に業者間オークションが挟まっています。
日本最大のオートオークションを運営するUSSは、札幌から九州まで全国19会場を持ち、年間300万台超を扱う巨大プラットフォームです。
オークションは、地域を跨いだ中古車流通のハブとして機能しています。
私のケースの流れを推定すると、こうなります。
1.私が135万円で買取業者に売却
2.買取業者がUSSなどのオートオークションに出品
3.大手中古車販売業者がオークションで落札(おそらく140〜150万円程度)
4.大手中古車販売業者が福岡まで陸送、商品化・整備を経て店頭掲載
5.カーセンサー、グーネットに178万円で掲載
差額43万円が、まるごとどこか1社の儲けになっているわけではないのです。
まず数字を冷静に並べてみる
事実関係を整理します。
私の売却額:135万円(MOTA車買取経由、地元の中古車買取業者へ)
カーセンサー掲載価格:178万円(諸経費込み)
差額:43万円
仕入価格に対するマージン率:43 ÷ 135 = 約31.9%
販売価格に対する粗利率:43 ÷ 178 = 約24.2%
135万円は交渉でかなり高くなったんですよ。
MOTA車買取は一括入札で最も高い3社と交渉する仕組みです。
1社の大手中古買取業者は100万円〜115万円の提示。
同一車両のオークションでの売買相場が120万円前後とのデータも見せてくれました。
最終的な提示はなく、うちに売ってくれると決めてくれるなら金額を上乗せできるという意味不明な対応。
2社目が今回買取してもらった業者で当初の提示は126万円〜131万円。
3社目は135万円〜145万円で提示。
私が売った車の専門店もやっている中古車チェーンです。
ただし、3社目は連絡が全然なく、2社目でオプションを評価してくれて135万円まで上げてもらえたので決めてしまったので話も聞かなかった形です。(決めた2日後くらいに連絡がきました)
中古車販売業の利益率
中古車業界は不透明だ、と言われがちですが、財務データはきちんと公開されています。
最も信頼できる公的データは、日本政策金融公庫が2023年2月に公表した小企業の経営指標調査です。
これによると、中古車小売業の売上総利益率(粗利率)は平均27.1%。
つまり「100万円で売れば、約27万円が粗利」というのが業界の真ん中の姿です。
各種業界レポートを総合すると、中古車販売の利益率は概ね以下のレンジに収まります。
| 仕入ルート | 販売価格に対する粗利率 |
|---|---|
| 自社買取(直販) | 10〜30% |
| オークション仕入(中間業者経由) | 20〜50% |
| 業界平均(公庫データ) | 27.1% |
私のケースの粗利率24.2%は、業界平均27.1%をやや下回り、自社買取直販の標準レンジの中に綺麗に収まっています。
つまり、特別にぼったくられたわけでも、特別に良心的だったわけでもなく、「業界の標準的な値付け」だったということです。
ここで読者の方の中には「いや、でも43万円は43万円だ。多すぎる」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
その感覚は、行動経済学でいう「損失回避バイアス」と「アンカリング効果」が同時に効いている状態です。
一度135万円という値段を見てしまうと、それがアンカー(錨)となり、178万円との差額は「失われた利益」に見えてしまう。
実際には、その43万円のうち相当部分は、業者が負担している「目に見えないコスト」なのです。
「マージン43万円」を分解する
オークション経由の場合、43万円は概ね以下のように分解されると思われます。
A社(地元の買取業者)の取り分
1.オークション出品手数料・成約手数料:1〜3万円
2.最寄りオークション会場までの陸送費:1〜2万円
3.最低限の商品化(外装清掃、出品票作成):1〜2万円
4.A社の営業利益:5〜10万円程度
合計:落札価格は仕入135万円+8〜17万円 = 143〜152万円程度
B社(福岡の販売業者)の取り分
5.オークション会場から福岡までの陸送費:3〜5万円
6.オークション落札手数料:3〜5万円
7.商品化コスト(洗車・内装・板金・消耗品交換):5〜10万円
8.整備・点検・保証準備:5〜10万円
9.カーセンサー等の広告掲載費:1〜3万円
10.店舗運営費・人件費の按分:5〜10万円
11.販売時の保証原資・販売手数料:3〜5万円
12.B社の営業利益:残り
業界平均を当てはめれば、A社・B社それぞれの最終的な営業利益は、1台あたり5〜10万円程度の範囲に落ち着く計算です。
実はそんなにぼろ儲けってわけでもないんですよ。
事実、上場している中古車買取大手のIDOMは営業利益率2.4%、中古車販売大手のネクステージも2.6%という水準です。
粗利率が20%を超えても、最終利益は売上の2〜3%まで圧縮される。これが中古車流通業の現実です。
USSの営業利益は47.9%
ちなみに、中古車業界で本当に儲かっているプレイヤーは誰か。
答えは、車を仕入れも販売もしていない「オークション運営会社」です。USSの営業利益率は、なんと47.9%。
シェア40%超の寡占企業として、入札手数料だけで稼ぐビジネスモデルが、業界で最も収益性が高い。
これは「金鉱で一番儲かるのはツルハシを売る人」というシリコンバレーの格言そのものですね。
私のケースでも、A社・B社が分け合った利益の合間に、USSが粛々と手数料を抜いている。
これが構造です。
なぜ中古車のマージンは「20〜30%」になるのか
ここで、中小企業診断士的にビジネスモデルの構造を覗いてみましょう。
中古車のマージンが20〜30%という水準で安定する理由は、3つあります。
在庫リスク
新車と違い、中古車は1台1台が個別商品です。
仕入れた瞬間から劣化が始まり、売れ残れば管理コストだけが膨らみます。
中古車流通の世界には「中古車は生鮮食品と同じ」という言葉があるくらいです。
この「時間のコスト」が、販売価格に乗ります。
商品化に手間がかかる
仕入れた車をそのまま店頭に並べるわけにはいきません。
名義変更、陸送、点検、洗車、内装清掃、エンジンルームの整備、傷の補修、消耗品の交換、写真撮影、広告掲載。
これらの「商品化作業」に、1台あたり数万円〜十数万円が必要です。
販売後の保証コスト
中古車には販売後の保証が付くのが一般的です。
返品制度を持つ業者もあります。
万一の故障に備えた保証原資が、販売価格に織り込まれています。
これらをすべて積み上げると、20〜30%の粗利率は「ぼったくり」ではなく「成立条件」だと分かります。
これを下回ると、業者は赤字になります。
なぜ福岡で売られるのか
ここまでは「業界の構造」の話でした。
しかし、本記事で本当に伝えたいのはここからです。
なぜ私の車は、地元で売られず福岡で売られたのか。
答えは、「需要と供給のズレ」です。
中古車には、地域ごとの嗜好性があります。
福岡市は人口160万人を超える九州最大の都市で、需要も旺盛です。
地元の業者からすれば、「自社で売るより、オークションで福岡の業者に売った方が高値が付く」という判断になります。
福岡の業者からすれば、「自分の商圏に潜在顧客がいる車を、産地に関係なく仕入れたい」という判断になります。
オークションは、この地域間のミスマッチを解消するハブとして機能しています。
USSをはじめとするオートオークション市場の存在によって、中古車は「全国規模で適正価格に収束する」仕組みになっているのです。
つまり、私の135万円という売却額は、ローカル相場ではなく、全国オークション相場を反映した金額だった可能性が高い。
地方在住の私にとって、これは実はラッキーな構造です。
仮にオークション市場がなく、地元業者が地元でしか売れなかったら、買取額は135万円より低くなっていたでしょう。
損していたのか、得していたのか
ここで一度立ち止まって、考えてみてください。
あなたが本当に解決したかった「用事」は何だったでしょうか。
「中古車業者のマージンをゼロにすること」ではないですよね。
それは無理です。
商売である以上、マージンはゼロにできません。
本当の用事は、おそらくこうです。
「自分が納得できる価格で、面倒なく愛車を手放したい」
この用事の達成度合いで自分を評価すべきです。
私のケースを冷静に評価すると、こうなります。
得していた点
1.一括査定で複数業者を競合させた
2.最終的に提示額より十数万円高い金額で決着した
3.全国オークション相場が反映され、ローカル相場より高く売れた可能性が高い
4.オークション経由でも粗利率24.2%は業界平均27.1%を下回り、悪くない水準
損していた可能性のある点
5.選んだ業者が、自社販売チャネルを持たずオークションに流す業者だった
6.もし福岡のB社のような「強い販売店」に直接売れていたら、もっと高値が付いた可能性
つまり、「マージンを削る」という観点で見れば、まだ最適解ではなかった。
しかし「面倒なく適正価格で売る」という観点では、合格点だったというのが私の総括です。
賢い売り方は「マージンを削る」より「販路を選ぶ」
ここで重要な視点を共有します。
一括査定の業者は、大きく2種類に分かれます。
自社販売チャネルを持つ業者(直販型)
仕入れた車を自社店舗やグループ店で販売する。
地理的に近い販売網を持つ場合、その車種の販売が得意な場合は、高値で買い取る動機があります。
私の場合は自社で私が売った車の専門店を持っており、高値で提示してきた業者はいたのですが、連絡は数日後でお断りした経緯もあります。
金額だけならそこに売るのが正解だったんでしょうね。
オークションに流す業者(転売型)
仕入れた車を業者間オークションに出品し、利ザヤを稼ぐ。
買取額は「オークション想定落札額マイナス自社マージン」で決まります。
私のケースは、振り返ればタイプ2の業者を選んでしまっていた可能性が高い。
福岡まで自社で運んで売ることはありえないので、出品ありきの買取だったわけです。
その車種を自社で得意としている販売店が狙い目
もし次に売却する機会があれば、「この車種を自社で得意としている販売店」を意識的に探す手があります。
具体的には、買取業者の店舗に行って、自分の車種に近い在庫が並んでいるかを確認する。
買取に強い専門店、専門店、地域で評判の独立系販売店など、その車種を欲しがる顧客リストを持っている業者が、直販想定で高値を出してくれる可能性があります。
業者選びの軸を「マージンの大きさ」から「販路の質」にシフトする。
これが、業界の構造を知った上での次の打ち手です。
中古車を「買う側」になったとき
ここまでは売る側の話でした。
読者の中には、これから中古車を買う方もいらっしゃるでしょう。
買う側の交渉余地は、業界の利益構造から逆算できます。
販売価格に対する粗利率の業界平均は27%。
ここから商品化コストや保証原資、陸送費、オークション落札手数料を差し引くと、業者の値引き余地は概ね販売価格の3〜10%程度です。
178万円の車なら、5〜18万円程度が現実的な値引き範囲ということになります。
これを超える値引きを求めると、業者は商売にならず、応じる動機がなくなります。
ただし、業者の在庫期間が長い車両は別です。
中古車は売れ残ると管理コストがかかり、価値も下がります。
3ヶ月以上店頭にある車両は、業者にとって早く売りたい在庫です。
こういう車両を狙えば、本来の値引き枠を超える交渉が可能になります。
買う側の「用事」も、突き詰めれば「相場より安く買う」ではなく「相場通り、納得して買う」です。
中古車は1台1台が個別商品なので、相場との比較が難しい。
同じ車種・年式・走行距離の車両を3〜5台ピックアップし、価格を並べてみる。
そこから明らかに高いものを避け、明らかに安すぎるものは「何か理由がある」と疑う。
この単純な作業で、買い物の質はぐっと上がります。
私自身が振り返って気付いたこと
正直に告白すると、カーセンサーで自分の売った車を福岡の店舗で見つけた瞬間、私も一瞬「やられた」と思いました。
中古車業界の構造を頭で理解していても、感情はそれとは別に動きます。
これが行動経済学でいう「システム1(感情)とシステム2(理性)のズレ」です。
しかし、冷静に計算してみると、粗利率24.2%は業界平均27.1%より低い。
さらに、福岡まで車を移動させているということは、その車を本当に欲しがっている顧客が福岡にいたということです。
つまり、私の車は「最も高い値段が付く場所」へ流れた。
これは中古車流通の市場メカニズムが、私にとって悪くない方向に働いた証拠でもあります。
「マージン43万円」の派手な見かけと、各社の実際の最終利益の細さ。
このギャップこそが、業界の本当の姿です。
まとめ
長くなったので、要点を3つに絞ります。
第一に、福岡で売られているということは、ほぼ確実にオークションを経由しているということです。
中古車流通には「自社直販」と「オークション経由」の2ルートがあり、地理的に離れた場所での再販はオークション経由の動かぬ証拠。
43万円のマージンは1社の儲けではなく、2社+オークション運営会社で分け合った金額です。
第二に、中古車のマージン20〜30%は「ぼったくり」ではなく「成立条件」である。
商品化コスト、保証原資、在庫リスク、固定費、陸送費。これらを賄うためには、この水準のマージンが必要です。
日本政策金融公庫データで業界平均粗利率は27.1%、私の事例は24.2%でほぼ業界平均並みでした。
第三に、賢い売り方は「マージンを削る」ではなく「販路を選ぶ」こと。
一括査定で複数社見積もりを取るのは大前提として、その上で「自社販売チャネルを持ち、自分の車種が得意な業者」を意識的に選ぶ。
直販想定の業者ほど、オークション相場に上乗せした金額を出してくれる可能性があります。
カーセンサーで自分の車を遠い場所で見つけて、ちょっと胸がざわついたあなた。
大丈夫です。気付けただけで、あなたはもう半分勝っています。
次に車を売るときは、ぜひ「販路の質」まで踏み込んで業者を選んでみてください。
それが、業界の構造を逆手に取った、最も合理的な売り方です。
愛車との別れに、納得を。新しい愛車との出会いに、後悔のない選択を。
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