SNSやインターネット広告で「退職給付金で500万円もらえる」「失業保険が28ヶ月受給できる」といった派手なキャッチコピーを目にしたことはありませんか?
退職を検討している会社員の方にとって、これほど魅力的な言葉はないでしょう。
しかし、これらはかなり危険な誤解を招く誇大広告や誘導の可能性があるのです。
今回は退職給付金500万円のからくりを暴いていきたいと思います。
退職給付金とは何か
まず、そもそも退職給付金とはなにかについてみていきましょう。
業者の造語「退職給付金」
先に結論から言えば社会保険の公的用語や公的制度に「退職給付金」なんてものはありません。
私の元にも「退職給付金」の問い合わせがくるときがありますが「退職給付金で500万円もらえる」という類の広告をみた方が多いですね。
これは、一部の業者が独自に使用している造語なのです
そもそも公的には存在していない用語なんですよ。
広告を見る限り、以下の二つの公的制度を合算したものを指していると思われます。
ちなみに少し前には「退職給付金で200万円もらえる」という広告が話題となり、その後、「退職給付金で400万円もらえる」。
最近では「退職給付金で500万円もらえる」と広告の文言がどんどんエスカレートしている感じですね。
健康保険の傷病手当金
まずは「傷病手当金」です。
病気やケガで働けなくなった場合に健康保険から支給される給付金。
支給額は給与の約3分の2で、最長18ヶ月間受給できます。
会社員として健康保険に加入していた方が、病気で仕事を休まざるを得なくなった場合、この制度を利用できる可能性があります。
ただし、単に「疲れている」「ストレスがある」というレベルでは受給できません。
医師が「労務不能」と判断し、診断書を発行することが必要条件となります。
雇用保険の失業保険(いわゆる失業保険)
次は「雇用保険の基本手当」です。
失業状態の方に雇用保険から給付されます。
一般には失業保険とも言われることが多いですね。
加入期間や退職理由、年齢によって受給日数は変わり、90日から最長330日まで変動します。
自己都合退職の場合、雇用保険に1年以上加入していれば90日から150日分が支給されます。
会社都合退職や特定の理由がある場合や職業訓練を受ける場合は、さらに長期間の受給が可能です。
退職給付金500万円(200万円、400万円)のからくり
それでは退職給付金500万円(200万円、400万円)のカラクリを確認していきましょう。
500万円(200万円、400万円)という数字は、上記の傷病手当金と失業保険の合計から来ていると思われます。
傷病手当金の仕組み(基礎)
まず、傷病手当金の仕組みをみておきましょう。
- 支給水準:標準報酬日額の2/3相当
- 支給期間:支給開始から通算最長1年6か月
- 待期:連続3日の休業成立後、4日目から支給
- 在職中の給与が出る場合は差額調整(給与が少ないなら差額のみ支給)
- 退職後も継続受給できる要件あり(在職時に待期成立・労務不能継続・失業給付と併給不可 等)
ポイント:標準報酬が高い・療養が長期だと累計額は大きくなりやすい(ただし医師の労務不能判断が前提)。

雇用保険(基本手当:失業保険)の仕組み(2025年改正点込み)
次は雇用保険です。
- 待期7日+給付制限:自己都合は2025年4月1日以降の離職で原則1か月に短縮(従来2~3か月)
- 受給日数:被保険者期間・離職理由・年齢等で90~330日
- 教育訓練等を受ける場合は、給付制限の解除の仕組みが導入(2025年4月~)

退職給付金「500万円」のロジック
高い標準報酬×長期の傷病手当金(例:1年~1年6か月)+ 基本手当を時期をずらして受給(※傷病手当金と同時併給不可)= 条件がそろえば数百万円規模に到達し得る感じです。
例えば月給40万円の方が傷病手当金を18ヶ月間受給すると月額約26.7万円(40万円×2/3)
18ヶ月で約480万円。
さらに失業保険を数カ月受給すれば500万円を超えます。
月給30万円でも、傷病手当金18ヶ月(約360万円)と失業保険300日(約180万円)を組み合わせれば、合計540万円となります。
これはかなりレアなケースで「500万円以上」といった訴求を行っていますが、誰にでも当てはまる表現ではない点に注意。
重要:「併給不可」や待期/受給要件、日額上限など制度の“壁”があるため、同時に二重取りのようなことはできません。時期設計と適切な切替が必要です。
200万円→400万円→500万円と年々数字が大きくなる背景
なぜ広告の金額が年々大きくなっているのか、その背景を考えてみましょう。
簡単に言えば業者間の競争が激化しているのです。
「200万円」と謳う業者が複数存在する中で、他社との差別化を図るために「400万円」「500万円」と数字を引き上げているのです。
しかし、これは極めて危険な傾向です。
金額が大きくなるほど、実際にその金額を受給できる人の割合は極端に少なくなります。
退職給付金500万円を受給できる人の現実
現実問題として退職給付金(あえてそのまま使います)を500万円受給できる人はかなり限られています。
極めて限定的な条件
まず、ある程度の高収入であることが前提です。
月給30万〜40万円程度なければそもそも500万円に到達することは困難です。
次に、重度の精神疾患または身体疾患により、18ヶ月間継続して労務不能の状態でなければなりません。
医師が毎月「労務不能」と診断し続けることが条件です。
18ヶ月間継続して労務不能の状態ってかなり重い状況なんですよ。
さらに、月給によっては障害者手帳を取得して就職困難者として認定され、300日分の失業保険を受給する必要があります。
統計的に見た現実
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、月給40万円以上の労働者は全体の約20%程度です。
そのうち、重度の疾患で18ヶ月間労務不能となり、さらに障害者手帳を取得できる方は極めて限定的です。
つまり、500万円という金額を実際に受給できる可能性があるのは、労働者全体の1%にも満たないと推定されます。
受給の代償も
次に最も大事な視点をお伝えします。
500万円を受給するということは、約2年半にわたって社会生活から離れることを意味します。
傷病手当金18ヶ月+失業保険300日(約10ヶ月)=28ヶ月間です。
この間、給付金の額は元の給与の約60%程度に留まります。
20代、30代の方にとって、この期間のキャリア形成機会の損失は、金銭的価値では測れないほど大きなものです。
退職給付金は危ない?見分けるポイント
退職給付金をうたう広告は危険だと感じるポイントがいくつかあります。
申請すれば誰でも数百万円もらえる
申請すれば誰でも数百万円もらえるとうたっている広告も多いですが、標準報酬・受給日数の上限、併給不可の壁があるため、平均像ではありません。
ほとんどの人がそんなにもらえる条件にはなっていないのです。
誇大広告と言われかねないですね。
「誰でも」「必ず」「◯日で受給開始」などの断定表現や「平均◯◯◯万円」と高額例だけを切り出して平均像のように見せる広告は気をつけるべきでしょう。
医師の診断や要件を軽視
業者は広告で医師の診断さえ取れば伸ばせるなどとうたっていますが、医師の労務不能判断は医療上の実体が前提です。
便宜的なラベル付けは不正受給の誘発するリスクもあります。
医療判断や要件を軽視する広告表現がある場合は要注意です。
指定した病院にいくことを促す業者も多いようなんですよね・・・
社労士の関与が不明
退職代行から退職給付金の手続きまでワンストップで請け負うといった広告も多いですが、社会保険の手続きや給付金の申請代行は社労士の独占業務です。
無資格者が業として有償で行うことは社労士法違反として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
法人としても社会保険労務士法人しか駄目なんですよ。
資格者の関与が不明(登録番号・氏名の記載なし)な広告は要注意です。
「退職コンサルタント」「社会保険給付金サポート専門家」と名乗る無資格者が横行していますので、お気をつけください。
「弁護士監修」「社労士監修」とうたっている広告も見かけますが、その監修者の氏名が具体的に書かれていない場合は怪しいですね。
また、社労士法第23条の2「非社労士との提携の禁止」というルールもあります。
社労士が非社労士から業務のあっせんを受けたり、名義を利用させたりすることも駄目なんですよ。
違反した場合、社労士は懲役刑や罰金、懲戒処分の対象となり、非社労士も罰則の対象となります。
先日も社労士法違反で税理士が逮捕されています。

ちなみに退職代行最大手のモームリが強制調査を受けたのも、弁護士資格を持たない人が報酬目的で法律事務の仕事をあっせんする「非弁行為」に該当しているとの話でしたね。

費用が明示されていない
費用が明示されていないケースもお気をつけください。
かなり高額な成功報酬を徴収しているケースもあるようです。
また、固定金額で数十万を事前に請求するというケースも。
500万円もらえるなら数十万ならよいか!って思うからしれませんが、実際に受給できるのかは条件次第です。
ほとんどの人が500万円も受給できないんですよ。
おそらくそのケースでも数十万は返してくれないでしょうから、退職してお金がいる時期なのに泣き寝入りとなりかねません。
そもそも雇用保険の基本手当と健康保険の傷病手当金は条件に該当さえすれば、それほど難しくない手続きで受給できます。
わざわざ業者を使う必要もないんですよ。
知らなかったでは済まされない不正受給のリスク
今回の話も実際に該当してて受給できる場合は問題ありません。
一番怖いのは不正受給の片棒を担がされてしまうことです。
新型コロナが蔓延したころにも持続化給付金の不正受給がかなり蔓延していましたね。

詐欺罪の成立要件
一部の悪質な業者は、次のような手法を提案することがあるようです。
・実際には病気でないのに、医師に虚偽の診断書を書いてもらう
・純粋な自己都合退職を、会社都合退職として虚偽の届出をする
・軽度の不調を重度の精神疾患として診断してもらい、障害者手帳を不正取得する
これらはすべて、刑法第246条の詐欺罪に該当する可能性があります。
「10年以下の懲役」というかなり重い刑罰が科される可能性があるのです。
業者は報酬さえもらっちゃえば、あとは本人の申告、騙されたと言うでしょう。
実際の摘発事例
2023年には、虚偽の離職票を作成して失業保険を不正受給した事件で、複数の逮捕者が出ています。
受給者本人だけでなく、虚偽の証明書を作成した雇用主も逮捕されました。
また、傷病手当金の不正受給についても、健康保険組合による調査が年々厳しくなっています。
不正が発覚すれば、受給額の全額返還に加え、罰金を求められることになります。
さらに医者が虚偽の診断書を書いて逮捕という事例はたくさんありますね。。。
まとめ
今回は「退職給付金とは?「500万円のからくり」を制度ベースで徹底解説」と題して退職給付金についてみてきました。
まとめると
・退職給付金は業者が独自に使っている造語。
・500万円はかなりレアな条件が重なった最大ケース。
・誇大、医師の判断軽視、資格者不明、手数料不透明な誘導は赤信号。
そもそも雇用保険の基本手当と健康保険の傷病手当金は条件に該当すれば、それほど難しくない手続きで受給できます。
特別なノウハウでもなんでもないんですよ。
怪しい業者の言いなりになり、不正受給に手を染めないように気をつけましょう。
迷ったら、ハローワークや健康保険の保険者など公的機関や社労士/弁護士に相談をおすすめします。
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