日経新聞にある記事がでて証券業界が大騒ぎとなっています。
SBI証券などの利用者がハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)業者から株注文データが覗かれて注文を先回りされてしまうことで餌食になってしまっているというのです。
この問題、いろいろな専門用語だらけで馴染みのない方も多いでしょう。
また分かりにくい問題でもあります。
そこで今回はハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)、関係が深いスマート・オーダー・ルーティング(SOR)、タイム・イン・フォース(TIF)を含めて今回の問題を解説します。
ハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)とは
ハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)とは日本語でいうと超高速取引や高頻度取引のことを指します。
アルゴリズム取引なんかも同じような意味で使われることも多いです。
HFTを簡単に言えばミリ秒以下という人間では到底不可能な高速の売買を行って小さな利ざや(利益)をシステムを使って稼ぐ仕組みです。
この手法はほぼ勝率100%が可能だというのです・・・
ここまで早いと人間の認知能力では追いつきませんので勝ち目がないんですよ。
後出しジャンケンが得意
実はこのハイ・フリークエンシー・トレーディング
俗に言う「後出しジャンケン」を行っていたりもしますので勝率100%であると言われているのです。
かなり簡単にいえばこんな仕組みです。
ある株の気配値が以下の通りだったとします。
※スマートフォンの方はスクロールしてお読みください。
売気配株数 | 気配値 | 買気配株数 |
500 | 2,110 | |
300 | 2,108 | |
100 | 2,100 | |
2,099 | 100 | |
2,095 | 300 | |
2,090 | 1,000 |
ある投資家が上記のように2,100円付近で成立している株に100株成行で買い注文をいれたとします。
通常であれば2,100株で100株の売買が成立します。
しかし、注文が実際に反映されるのには少しタイムラグが発生するのです。
そのタイムラグの差をハイ・フリークエンシー・トレーディングを使った業者は狙ってくるのです。
その注文を少し先回りするんですよ。
このケースでは先に成行き買いをいれたのが投資家であったとしてもあとから高速でハイ・フリークエンシー・トレーディング業者が注文を入れると2,100円で約定するのは業者の方となります。
成行注文ですから投資家の方は2,108円で約定となるのです。
つまり、投資家の動きを見てから注文してもハイ・フリークエンシー・トレーディング業者が勝ってしまうんですよね。
また、さらにこんなケースもあります。
その投資家が2,108円で約定する前にハイ・フリークエンシー・トレーディング業者が今度は先程2,100円で買った株を2,107円で売りに出すのです。
すると先程成行きで買い注文を出している投資家は2,107円で約定します。
ハイ・フリークエンシー・トレーディング業者は2,100円で買ったものを2,107円で売れますね。
つまり、ハイ・フリークエンシー・トレーディング業者はある投資家の100株成行で買い注文を確認した上で買いと売りを短期間で入れ込むことで利ざやが稼げてしまうんですね。
後出しジャンケンみたいなものですからノーリスクなんです・・・
ハイ・フリークエンシー・トレーディングの詳しい仕組みや手法などを知りたい方は以下の本がおすすめですね。

スマート・オーダー・ルーティング(SOR)とは
スマート・オーダー・ルーティング(SOR)とは複数市場から最良の市場を選択して注文を執行する形態の注文です。
例えばSBI証券ではSOR注文が初期設定となっており、証券取引所、「ジャパンネクストPTS」の第1市場(J-Market)及び第2市場(X-Market)で提示されている気配価格等を監視し、原則、最良価格を提示する市場を判定して、自動的に注文を執行されます。
つまり、同じ株を買うのに一番オトクに買える市場を自動で探してくれるのです。
仕組みとしては投資家としてはありがたい話なのですが・・・
問題になったのはスマート・オーダー・ルーティング(SOR)と合わせて10月から導入されたタイム・イン・フォース(TIF)なのです。
タイム・イン・フォース(TIF)とは
タイム・イン・フォース(TIF)とは時間指定注文のことで、予め取引参加証券会社等が指定する時間のみ有効とする指値注文です。
これが導入されたことで投資家がSORで注文すると一定時間(かなり短い時間ですが・・)注文情報が見えてしまうのです。
例えば1000株成行注文したとします。
100株は現在の価格で約定します。
しかし、少しタイムラグがあるため残り900株は一瞬注文情報が見えてしまうのです。
そのタイムラグの間にハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)業者が先回りして動かれてしまったんですね。
証券各社の発表
SBI証券
今回、日経新聞に名指しで登場したSBI証券は以下のような発表をしています。
本日、一部報道機関において、当社が2019年10月から「SOR(スマート・オーダー・ルーティング)」に「TIF(タイム・イン・フォース)」を導入したことにより、超高速で売買を繰り返すHFT(ハイ・フリークエンシー・トレード)業者が、東京証券取引所に回送されるSOR注文を先回りして同取引所で約定できる可能性が報道されましたが、2019年11月18日現在において、TIFの設定時間は0ミリ秒となっております。
これまでも当社のお客さまは、発注毎に「SOR」、「東証」、「PTS」から選択することができましたが、特に2019年8月のPTS信用取引開始後、東京証券取引所とPTSの分割約定等を理由として、発注の際の初期設定を「SOR」、「東証」、「PTS」から選択できるようにしてほしいとのご要望があり、既にシステム開発に着手しております
報道においては、「TIF(タイム・イン・フォース)」の設定時間が「100ミリ~300ミリ秒」との記載がありましたが、2019年11月18日から、「0ミリ秒」としております。
出所:SBI証券「本日の一部報道について」 2019年11月18日
つまり、11月18日からタイム・イン・フォース(TIF)の設定時間を0秒にしたからもう問題はないよ。
また、発注の初期設定をSORだけでなく選べるようにするシステム開発してますよってことですね。
マネックス証券
マネックス証券では以下の発表をしています。
本日、一部報道機関で、個人投資家向けのSOR注文サービスを利用し、超高速で売買を繰り返すHFT(ハイ・フリークエンシー・トレード)業者が、個人投資家に先回りし有利な約定を行う可能性が報道されています。
これは、SORを利用した注文で、一定期間東証以外のPTSに発注状態となる「TIF(タイム・イン・フォース)」を導入した場合に発生します。PTSに発注状態となっている間に、HFT業者等が東証に先回りで発注を行うことで有利な約定ができる(個人投資家が不利な約定となる)というものです。
当社の提供するSORシステムではそのような形で個人投資家に不利な状態は発生いたしません。出所:マネックス証券「当社のSORについて」 2019年11月18日
つまり、うちはタイム・イン・フォース(TIF)をいれていないから関係ないよってことですね。
個人投資家ができる対策
今回の問題はデイトレードやスキャルピングをしている方にとっては大きな影響がある話ですが、長期投資の方にはほとんど関係のない話です。
上記の通り、マネックス証券では関係ない話ですし、今回やり玉に挙がってしまったSBI証券もタイム・イン・フォース(TIF)の設定時間を0秒にしてすでに対策を取っていますのでそれほど気にしなくてもよいでしょう。
それでも気になる方は以下の点を意識すれば問題ありません。
○注文時にSORでなく東証を選ぶ
ハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)まとめ
今回は「株注文データ覗き見で勝率100%?「ハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)」とは。」と題して日経新聞にある記事がでて証券業界が大騒ぎとなった件について取り上げてみました。
今回の件はかなり前から言われていた話がスマート・オーダー・ルーティング(SOR)とタイム・イン・フォース(TIF)でより露呈した感じですが、AIやITが進展することで今回の件に限らず今後もどんどんヘッジファンドなどの機関投資家が有利になっていくと思われます。
個人投資家は機関投資家などができない長期投資などの方向にシフトするのが正解な気がしますね。
詳しくはこちらの記事を御覧ください。
