岸田政権はなぜ四半期決算の義務廃止を考えているのか?メリット、デメリットを考える

岸田総理は新しい資本主義実現のための一つとして四半期決算の見直し(廃止)を考えているようです。

岸田文雄首相が8日の所信表明演説で、企業が3カ月ごとの業績などを公表する「四半期開示」の見直しに言及した。首相は「非財務情報の充実や四半期開示の見直しなど、環境整備を進める」

出典:日経新聞 岸田首相、四半期開示「見直す」 投資家は継続希望

私、個人的には一投資家としてみても、元経理からみても疑問しかなく四半期決算の義務化廃止には反対意見ですが・・・

今回は岸田総理が四半期決算の義務廃止をどのようなメリットやデメリットがあって考えているのかを考えてみましょう。

四半期決算とは

まずは今回の話の前提となる四半期決算制度についてみていきましょう。

四半期決算とは3ヶ月に一度、企業の決算を金融商品取引法により公表が義務化されているものとなります。(上場企業)

上場企業は四半期末から45日以内に「四半期決算書」を提出する必要があるのです。

つまり、第一四半期決算、中間決算決算(第2四半期決算)、第3四半期決算、本決算と合計4回上場企業は決算を公表するのです。

1Q(クォーター)決算・2Q決算・3Q決算・4Q決算とも呼ばれます。

四半期報告書の内容

四半期報告書の主な記載内容は以下の通り

  • 企業情報
  • 事業の状況
  • 提出会社の状況
  • 経理の状況
  • 監査報告書

四半期決算は迅速は会社情報を提出するのが目的となっており、多少本決算よりも簡略化されています。

例えばキャッシュフロー計算書などは第一四半期決算と第3四半期決算は省略してもよいことになっています。

情報開示に積極的な会社は自主的に出していますけどね。

四半期決算でも監査はある

四半期決算でも監査法人による監査は行われています。

ただし、四半期報告書のレビューは有価証券報告書よりは時間が限られていることもあり簡素化されています。

私も経理時代には何度も監査法人の監査を受けていますが、監査に来る人の数も日数も本決算とは違いましたね笑

月次決算との違い

多くの上場企業は月次決算を行っています。(ソフトバンクなどは日次決算を行っているとか・・・)

しかし、四半期決算はその月次分をそのまま公開するわけではありません。

月次決算の場合は目的が内部の管理や経営判断のためですから、決算仕訳等の処理は簡易的に済ませるケースが多いためです。

四半期決算は義務として出すものですから、経理としては四半期決算はほぼ本決算と同じような処理が必要となります。そのため労力はかなり掛かります。(一部本決算よりは省略できるものもありますが)

四半期決算のメリット

四半期決算があることによるメリットは企業の財務状況や予算の進捗具合を投資家がいち早く知ることができることにあります。

昨今、企業の業績の移り変わりはどんどんはやくなっており、半年スパンでは遅いですからね。

それを定期的に知ることができることは投資家に安心感を与えることに繋がります。

当然、投資家に安心感を与えることができれば株価へのプラス要素にもなるでしょう。

四半期決算のデメリット

逆にデメリットもあります。

それは企業の負担です。

四半期決算資料を作るための経理等が使う時間等はもちろん、監査法人に支払う監査料など費用面も大きな負担となります。

また、多くの上場企業は月次決算を行っていることから、四半期決算を行ったからといって企業の経営判断等がやりやすくなるとかいうメリットもないのです。



岸田政権が四半期決算の義務廃止を考えている理由

それではなぜ岸田政権は四半期決算の義務を廃止にしようとしているのでしょう。

四半期決算があることで短期的な視点になる?

これは岸田総理が推し進めている「新しい資本主義」の考え方の一つである株主還元から従業員や取引先への還元への移行という趣旨があると言われています。

四半期ごとの業績開示があることでの短期的な視点の経営に陥りがちと考えており、義務化を廃止すれば企業が長期的な視点に立ち、株主だけではなく従業員や取引先も恩恵を受けられるように経営を行うと考えているとのこと。

実際、ロイターが行った調査では

四半期決算開示が任意になった場合、長期的経営にプラスに作用すると回答した企業は63%と、全体の3分の2近くに上った。

出典:ロイター ロイター企業調査:四半期決算開示の見直し、「賛成」7割

と63%の企業が長期的な経営にプラスになると回答しているという結果となっています。

ただし、あまり意味がないと回答している企業も当然あります。

トヨタ自動車のCFOは

トヨタ自動車の近健太・最高財務責任者(CFO)は「3カ月というより、10年、20年(先)を考えながらやっているのが普通の企業だ」

出典:ロイター 四半期開示見直し、分かれる企業の受け止め 実効性に疑問符

と四半期開示が義務化じゃなくなったからといってなんか変わるの?的な発言をされています。

私もこちらに賛成ですね・・・

トランプ前大統領も四半期決算開示のルール変更検討を指示

岸田総理の件ばかり取り上げられていますが、元アメリカ大統領のトランプも2018年8月17日に同様の発言をツイッターでしてるんですよ。

何人かの世界のトップ・ビジネス・リーダー達と話した際、私は米国におけるビジネスと雇用を更に良くするために必要なことは何だろうかと尋ねた。ある人が「四半期開示を止めて6か月ごとの制度に変えることです」と言った。それは柔軟性を高め、費用の節約にもなる。私は証券取引委員会(SEC)に対して検討を指示した。

株価をかなり意識していたトランプ元大統領の発言だけに興味深いところです。

欧州ではあまり意味が見いだせていない

また、あまり知られていませんが、欧州連合(EU)は四半期開示の義務を禁ずる形となっているんですよ。

そのため、2015年以降は義務となっていません。

その効果について論文も出ているようですが、四半期開示の義務を禁じたことによる短期的思考が改善したとか、岸田総理が言うように長期的観点で従業員や取引先に還元されたというデータもないようです。

また、多くの企業が自主的に四半期開示しているんですよ。

つまり、義務ではなくなったというだけというだけで他と変わらないんですよ。

四半期決算を廃止することのデメリット

それでは四半期決算を廃止することにデメリットはどういうところにあるのでしょう。

廃止されることによって多くのデメリットを受けるのは投資家側だと思われます。

開示がない状況では投資をし難くなりますしね

業績が大きく変動した際にインサイダーを除いた方は大きな損失を被る、もしくは利益にありつけないということになりかねないのです。

また、粉飾決算が起きやすい、見破りにくいというデメリットもありそうです。

例えばグレイステクノロジーの粉飾決算では2021年3月期の第2四半期では売掛債権回転期間が8.6月まで上昇。(通常は2月前後)

ここでおかしいと思った投資家も多いと思われます。

しかし、2021年3月期の本決算では1.2月と標準値まで戻っています。

役職員の自己資金を用いて仮装入金等」を行ったのことで改善されたようです。

2021年3月期の本決算の1.2月だと平常よりよいくらいですから、四半期決算がなければ投資家サイドからして粉飾決算になかなか気づけないでしょうね・・・

そうなれば当然、投資家が離れて行きます。
今でさえ日本株は他の国と比べて株が安値で放置される傾向にありますが、さらにそれが加速しそうです。
それを避けるため、優良企業は結局、欧州のように自主的に四半期開示をするでしょうから負担の軽減には繋がらないでしょうしね。




まとめ

今回は「岸田政権はなぜ四半期決算の義務廃止を考えているのか?メリット、デメリットを考える」と題して四半期決算の義務廃止についてみてきました。

四半期決算の義務化を廃止しても費用軽減には繋がる可能性はあっても、欧州の状況を見る限り、短期的な思考が改善されて株主還元から従業員や取引先への還元へ繋がるなんて保障はどこにもありません。

個人的には投資家と企業の情報の非対称性をより増やしてしまうだけで投資家が離れてしまうデメリットの方が大きいと感じています。

未成年者への10万円給付1億円の壁を根拠とした金融所得課税の話や自社株買い、今回の四半期決算の見直しにしても岸田総理の政策の多くは、思いが優先しているだけで根拠に乏しいと感じますが気の所為でしょうかねえ・・・・

最後まで読んでいただきありがとうございました。

「シェア」、「いいね」、「フォロー」してくれるとうれしいです

決算書の見方
最新情報をチェックしよう!