「次に大暴落が来たら、そのときこそ株を買おう」。
あなたは今、そう考えていませんか。
SNSや投資系メディアでは「大投資家は暴落時しか投資しない」というフレーズがよく登場します。
バフェットやテンプルトンの逆張り投資の成功談を読むと、「暴落=絶好の買い場」という図式が頭にこびりつきます。
しかし、残念ながら「暴落が来たら買おう」と言っている人の大半は、実際には買えません。
これは意志の強さの問題ではありません。
人間の脳の仕組みそのものが、暴落時の合理的な行動を阻むのです。
この記事では、なぜ暴落時に買えないのかを行動経済学の知見から紐解き、そのうえで個人投資家が本当に取るべき「身の丈に合った投資戦略」を具体的にお伝えします。
「暴落したら買う」は、なぜ実行できないのか
それではなぜ「大暴落が来たら株を買おう」と考えていた人が、実際に大暴落が発生すると株を買うことができないのでしょうか?
あなたの脳が「買う」を拒否する
まず押さえておきたいのは、「暴落時に株を買う」という行為が、人間の本能に真っ向から逆らう行動であるという事実です。
行動経済学の基礎理論に「プロスペクト理論」があります。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが1979年に提唱したこの理論のポイントは、「人は利益を得る喜びよりも、同じ金額を失う苦痛を約2倍強く感じる」という点です(出典:Kahneman & Tversky, 1979年)。
これを投資に当てはめると、以下のようなことが起きます。
株価が上がっているとき → 利益が消えることを恐れて早めに売りたくなる
株価が暴落しているとき → さらに下がるかもしれない恐怖が増幅され、とても買えない
つまり、暴落局面では「損失回避性」が最大限に発動するのです。
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「底」は誰にもわからない
さらに厄介なのが、暴落の最中には「ここが底だ」と確信できる瞬間が存在しないことです。
過去の主要な暴落を振り返ってみましょう。
S&P500の主な暴落と回復にかかった期間を整理すると、ブラックマンデー(1987年)では約3ヶ月で33%下落し、高値回復まで約2年かかりました。
ITバブル崩壊(2000〜2002年)では約2年半で49%下落し、回復まで約7年を要しました。
リーマンショック(2007〜2009年)では約1年5ヶ月で56.8%下落し、回復には約4年以上かかっています。
コロナショック(2020年)では約1ヶ月で33.9%急落しましたが、回復はわずか約5ヶ月でした(出典:S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社データより)。
リーマンショックのとき、2008年10月に「もう底だろう」と思って買った人は、そこからさらに約40%下落する地獄を見ています。
一方、コロナショックでは「まだまだ下がる」と様子を見ていたら、わずか数ヶ月であっという間に株価が戻ってしまいました。
暴落は毎回その性質が異なります。下落のスピード、深さ、回復までの時間はバラバラです。「次の暴落で買う」と言うのは簡単ですが、どのタイミングで、いくらで、何を買うのか。
具体的に決めていない限り、実行は極めて困難です。

大投資家は暴落時しか投資しない?
大投資家は暴落時しか投資しないという話を聞いたことはないでしょうか?
ウォーレンバフェット氏の話から来ていると思われますが、バフェットが暴落で買えるのには明確な理由があります。
つまり「大投資家は暴落時しか投資しない」。
これは半分正しく、半分は誤解を招く表現です。
確かに、ウォーレン・バフェットはリーマンショックの真っ只中の2008年9月にゴールドマン・サックスの優先株に50億ドルを投資し、その後大きなリターンを得ました。
ジョン・テンプルトンは第二次世界大戦の勃発時に1ドル以下の米国株を片っ端から買い、最終的に投資額を4倍に増やしています。
しかし、ここで見落としてはならないことがあります。
彼らには普通の個人投資家と決定的に異なる「3つの条件」があるのです。
桁違いの現金ポジション
バークシャー・ハサウェイの2025年3月末時点の手元資金は約3,477億ドル(約50兆円)と過去最高を記録しています(出典:バークシャー・ハサウェイSEC開示資料, 2025年)。
この規模の資金を暴落時に投入できるからこそ、破格の条件で投資ができるのです。
破綻しないビジネスモデル
バフェットの投資会社バークシャー・ハサウェイは、傘下の保険事業から入る保険料を投資資金に充てています。
いわば「調達コストがゼロに近い長期資金」を持っているわけです。
相場がどれだけ下落しても、追証を求められることも、資金繰りに困ることもありません。
徹底した企業分析力
バフェットは「論文を書けるくらい研究しなければ、投資してはいけない」と語っています。
暴落時に買い向かえるのは、その企業の本質的価値を確信しているからです。
個人投資家との圧倒的な差
翻って、多くの個人投資家はどうでしょうか。
給与収入から投資に回せる金額は限られています。
住宅ローン、教育費、生活費がある中で、「暴落時に一括投入できる余剰資金」を長期間現金で寝かせておくことは、多くの人にとって現実的ではありません。
しかも、暴落時には本業の収入にも影響が出ることがあります。
リーマンショック後には倒産やリストラが相次ぎました。
投資に回すどころか、生活防衛資金を確保するのに必死になるのが現実です。
つまり、「大投資家は暴落時しか投資しない」という話を個人投資家がそのまま真似しようとすること自体が、前提条件を無視した危険な発想なのです。
「暴落待ち」がもたらす、落とし穴
また、暴落待ちはまた危険な部分もあるんですよ。
待っている間の「機会損失」を計算していますか?
暴落を待っている間、あなたの資金は何もしていません。
仮に毎月5万円を投資に回せるとして、「暴落が来るまで待とう」と3年間現金で持っていたとします。
その間に投資していれば得られたであろうリターンは、仮に年利5%の運用ができた場合、約194万円の投資元本に対して約10万円の運用益です。
「10万円程度なら」と思うかもしれません。
しかし、これは3年で見た話です。
5年、10年と待ち続ければ、機会損失は雪だるま式に膨らみます。
実際の株式市場は、暴落の期間より上昇の期間のほうが圧倒的に長いのです。
S&P500の過去150年間のデータを見ると、長期的には右肩上がりで成長しています。
暴落はその中の一時的な調整に過ぎません(出典:Morningstar | Ibbotson, 2025年)。
J.P.モルガンの調査によると、過去20年間で最もリターンの高かった10日間を逃しただけで、投資成績は大幅に悪化するという結果も出ています。
暴落を待っている間に、その「最高の10日間」を逃してしまうリスクがあるのです。

底値確認を待つと、買えない
投資格言に「頭と尻尾はくれてやれ」という有名な格言があります。
私も大好きな株式市場を元にしたドラマ「ビッグマネー (原作:波のうえの魔術師」で主人公TOKIOの長瀬君が演じる「白戸則道」の師匠で植木等演じる「小塚泰平」がよく「たい焼きの頭と尻尾はくれてやれ」と言っていましたね。
つまり餡の入った美味しいところだけを食べなさいという事です。
底とか天井なんて誰にもわかりません。(分かれば大金持ちですよね)ですのであえてそこには挑戦せず、底や天井を確認してから動きなさいってことですね。
しかし、これも難しいのです。
新型コロナの暴落時には多くの方が2番底を確認して買おうと思っていました。
私もです笑
しかし、二番底をつけずそのまま上がっていってしまったんですよ。
つまり、安い時に買って高い時に売ることができれば理想だが、実際には買い時と売り時を正しく当てるのは難しく、人は上昇時に強気、下落時に不安になり、高値で買って安値で売りやすいのです。
だからこそ「タイミングよりタイム」という考え方が出てきます。
暴落待ちは合理的に見えて、実は人間心理と最も相性の悪い戦略なのです。
積立投資が「目的化」していないか?
ここで、もうひとつ大切な問いかけをさせてください。
「暴落待ち」の反対にある積立投資。
これも万能ではありません。
「とりあえず積立NISAで毎月オルカンを買っておけばいい」。
この言葉が独り歩きしていますが、積立投資はあくまで手段です。目的ではありません。
投資で本当に大切なのは、「何のために、いくら必要で、いつまでに達成したいのか」というゴール設定です。
積立が目的化してしまうと、本来必要なリスク管理や出口戦略への意識が薄れます。
暴落が来たとき、「なぜ自分はこの投資をしているのか」が明確な人は狼狽売りをしにくい。
逆に、「みんながやっているから」「なんとなくお得そうだから」という理由で始めた人は、暴落の恐怖に耐えられず、最悪のタイミングで売ってしまう可能性が高いのです。
NISA貧乏にも繋がっている話ですね。

暴落時に実際に取るべき行動
では、株価が大暴落したとき、個人投資家は具体的にどう行動すべきなのでしょうか。
何もしない(最も効果的な場合が多い)
意外に思われるかもしれませんが、暴落時の最善策は「何もしない」であることが少なくありません。
特に長期の資産形成を目的としている場合、一時的な株価の下落に反応する必要はありません。
先ほど見たように、過去の暴落は例外なく回復しています。世界大恐慌ですら、25年後には元の水準に戻りました。
もちろん、「25年も待てない」という声はもっともです。
しかし、リーマンショック級の大暴落でも回復まで約4〜5年です。
投資期間が10年以上あるなら、暴落は長い航海の中の一時的な嵐に過ぎません。
「狼狽売り」
パニックに陥って持ち株を投げ売りすることは、歴史が証明する最悪の行動です。
底値で売り、回復局面を丸ごと逃してしまうからです。
積立投資を淡々と続ける
すでに積立投資をしている方は、暴落時こそ「やめない」ことが重要です。
ドル・コスト平均法の最大のメリットは、株価が下がったときにより多くの口数を買えることです。
暴落時の積立は、将来の回復局面で大きなリターンにつながるバーゲンセールのようなものです。
ただし、これには重要な前提条件があります。「積立額が生活を圧迫しないこと」です。
毎月の積立額に無理があると、暴落をきっかけに資金が必要になり、やめざるを得なくなります。
積立額は、仮にゼロになっても生活に影響しない金額に設定しておくことが鉄則です。
追加投資する(ただし厳しい条件付き)
暴落時の追加投資は、以下の条件をすべて満たす場合にのみ検討すべきです。
まず、生活防衛資金(最低6ヶ月分の生活費)を別途確保していること。
次に、投資に回す資金が完全な余剰資金であること。
そして、購入する銘柄やファンドについて、暴落前からしっかりリサーチしていること。
最後に、「さらに半値になっても後悔しない」と覚悟があることです。
これらの条件を満たさないまま、「みんなが買い時だと言っているから」と飛びつくのは、投資ではなくギャンブルです。
追加投資する場合は、一括ではなく時間分散を心がけましょう。
資金を3〜4回に分けて投入することで、「底を外す」リスクを軽減できます。

「身の丈に合った投資」こそが、最強の暴落対策
ここまでの内容を踏まえて、私が最もお伝えしたいことがあります。
大投資家の真似ではなく、自分だけの「ルール」をつくる
それは、「身の丈に合った投資をしましょう」ということです。
バフェットの真似をして暴落を待ち構える必要はありません。
テンプルトンのようにボロ株を大量買いする必要もありません。
個人投資家に必要なのは、自分の収入、家族構成、リスク許容度、投資期間に合った「マイルール」を事前に決めておくことです。
具体的には、次のようなルールが考えられます。
毎月の収入の何%を投資に回すかを決める。
暴落時に追加投資する金額の上限を事前に設定しておく。
保有資産が何%下落したら一部売却するかを決めておく。
そして、これらのルールを紙に書いて、目に見える場所に貼っておく。
最後のポイントは冗談ではありません。
暴落時にはスマートフォンやPCの画面から目が離せなくなり、冷静な判断力が著しく低下します。
事前に決めたルールを「物理的に」確認できる状態にしておくことが、感情的な行動を防ぐ最も効果的な方法なのです。
「平時」の行動こそが、暴落時の結果を決める
投資の成否は、暴落時に何をするかではなく、暴落前の平時に何を準備していたかで決まります。
生活防衛資金の確保、投資目的の明確化、リスク許容度の把握、出口戦略の設計。
これらは暴落が起きてからではなく、相場が平穏なときにこそ取り組むべき「宿題」です。
逆に言えば、この宿題をきちんとやっている人にとって、暴落は「想定内の出来事」に過ぎません。
慌てることも、無理に買いに走ることもなく、自分のルールに従って淡々と行動できるのです。
まとめ:暴落は「チャンス」ではなく「テスト」
「大暴落は最高の買い場だ」
この言葉自体は間違いではありません。
しかし、その恩恵を受けられるのは、暴落前から十分な現金を準備し、徹底した企業分析を行い、どんなに恐怖を感じても実行できるメンタルと仕組みを持った人だけです。
大投資家は暴落時しか投資しないと言われますが、それは彼ら独自の条件があってこそ成立する戦略です。
多くの個人投資家にとって、暴落は「チャンス」よりも「テスト」と捉えるほうが正確でしょう。
平時の準備が適切だったかどうかを試される瞬間なのです。
焦って暴落を待つ必要はありません。
自分の生活を守りながら、無理のない金額でコツコツと積み立てる。
暴落が来たら、ルールに従って淡々と対応する。
派手さはありませんが、この「身の丈に合った投資」こそが、10年後、20年後に最も大きな資産を築く確率が高い方法です。
投資は、あなたの人生を豊かにするための手段に過ぎません。
手段に振り回されるのではなく、手段を使いこなす側でありたいものです。
まずは今日、ご自身の「投資のマイルール」を紙に書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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