「300万円で会社を買って、サラリーマンを卒業する」
この言葉に心が動いた方は少なくないはずです。
書籍やSNSでは「スモールM&Aで経営者デビュー」「副業で会社オーナーに」といった華やかな成功談が溢れています。
たしかに、後継者不在で廃業寸前の優良企業を安価で手に入れ、FIREへの足がかりにする。そんな夢のようなシナリオも、理論上は存在します。
しかし、ここで一つ、あなたに問いかけさせてください。
なぜ、その会社は「安く」売りに出されているのでしょうか?
しかし、スモールM&Aの世界には、あなたが想像している以上に深い闇が潜んでいます。
2024年には詐欺容疑で告訴される事件が発生し、37社が被害に遭い、5社が倒産に追い込まれました。
業界全体に激震が走ったのです。
本記事では、スモールM&Aの「本当のリスク」を包み隠さずお伝えします。
そして、それでもなお挑戦したいという方のために、失敗を避けるための具体的な方法をお伝えします。
スモールM&Aとは何か?今、注目される理由
スモールM&Aとは、売買価格が1億円以下(多くは数百万円〜数千万円)の小規模な企業買収を指します。
従来、M&Aは大企業の専売特許でしたが、近年はマッチングサイトの普及により、個人でも参入できる環境が整ってきました。
注目を集める背景には、深刻な社会問題があります。
帝国データバンクの調査によると、2025年の全国後継者不在率は50.1%。約2社に1社が後継者不在の状態です。
中小企業庁のデータでは、2025年までに70歳を超える経営者は約245万人に達し、そのうち約127万人が後継者未定とされています。
さらに衝撃的なのは、後継者不在のまま廃業する企業のうち、51.1%が「黒字企業」だという事実です。
技術力があり、従業員もいて、お客様もいる。
それなのに、引き継ぎ手がいないために消えていく。こうした「宝の山」を救い出せるのがスモールM&Aの魅力とされています。
スモールM&Aなら時間やノウハウを買える
一から同業種で起業をするとまず信用や知名度がありませんのでそこからとなります。
まったく、異業種での参入となればノウハウを身につけるところからはじめなくてはなりません。
人が必要な業種なら人を集める必要もあります。
フランチャイズで参入する方法もありますが、制約もありますし、契約によってはフランチャイジーに多くの利益を上納しなければならなくなり条件は良いとは言えないケースもあります。
一方、スモールM&Aならすでにある程度実績を積んでいるでしょうから、
- 信用、知名度がある状態からスタート(マイナススタートのケースもあるが・・)
- ノウハウはすでにある
- 従業員はすでにいる
- 過去の業績がわかる(今後が見通しやすい)
という状況からスタートできますので一からスタートする場合と比較してかなり有利なのです。
軌道に乗れば大きな利益も
スモールM&A後は役員として役員報酬を貰ったり、会社の利益が出れば配当を貰ったりしていきます。
さらに上場まで持っていければかなり大きな利益を得ることができる夢もありますね。

代表取締役社長の肩書も
また、サラリーマンの方やFIREを検討している方に特に魅力を感じる点が肩書が手に入ることです。
企業のオーナーになるわけですから代表取締役社長なんて肩書を手に入れることが可能なんですよ。
ただし、現在は会社を立ち上げる難易度はかなり低くなっているので、肩書が欲しいだけならマイクロ法人を立ち上げる法が良いでしょうけどね。

スモールM&Aという「幻想」と「現実」
昨今、「スモールM&A」という言葉が、FIRE(経済的自立と早期リタイア)や副業、独立を目指す層の間で急速に市民権を得ています。
数百万円から数千万円程度で小規模な事業や会社を買い取り、オーナーとして経営に関与する。
一見すると、ゼロから起業するよりもリスクが低く、すでに回っているビジネスモデルを手に入れられるため、成功への近道のように思えます。
しかし、ここに重大な「認知の歪み」があります。
ブームの裏にある構造的な歪み
多くの買い手は、「利益が出ている会社」や「将来性のある事業」が、なぜたった数百万円で市場に出回るのか、その本質的な理由を深く考えません。
「高齢社長の後継者不足」という美しいストーリーは、M&Aプラットフォーム上に溢れる案件のほんの一部に過ぎないのです。
「会社を買う」ことの本当の意味
会社を買うとは、単に収益源を買うことではありません。
「リスク」と「責任」を丸ごと引き受けることです。
特に日本の中小企業において、経営者になるということは、多くの場合「連帯保証人」になることと同義です。
もし、あなたが手に入れた会社が、表向きは健全に見えても、裏で巨額の借金を抱えていたり、簿外債務があったりしたらどうなるでしょうか?
あなたは社長になった瞬間に、自分の全財産を差し出しても返せない借金を背負うことになるのです。
これが、スモールM&Aにおける最大のリスクです。
ここで大事なのは、「小さいから簡単」ではない点です。
むしろ小さいほど、情報が整備されていない、契約が雑になりやすい、当事者の感情でブレやすい。
つまり、事故が起きやすい構造もあるのです。
買収後も今までどうりに業務が回るか
また、「既存スタッフがいるから任せられる」という前提は、本当に成り立つのでしょうか
買収後に有能な従業員が一斉に退職したら?
実際よくある話です。
また、取引先によってはオーナーが変わったことで今までどうりの取引をしてくれなくなったら?
このあたりも買収前にしっかり確認しておく必要があるでしょうね。
レモンの原理
経済学に「レモンの原理」という概念があります。
中古車市場で、外見からは欠陥車(レモン)と優良車(ピーチ)の区別がつかないため、買い手は欠陥車を掴まされるリスクを織り込んで低い金額しか払わなくなる。
その結果、優良車は市場から姿を消していく、という現象です。
スモールM&A市場でも、同様の構造が存在します。
本当に優良な企業は、そもそも安価で売りに出されません。
親族や従業員、取引先、地元の金融機関が放っておかないからです。
マッチングサイトに並ぶ案件の多くは、何らかの理由で「選ばれなかった」企業なのです。
たとえばスモールM&Aの一種のWEBサイトの売買なんかでも見る人が見たら「レモン」としか思えないサイトが高額で売っていたりします。
悪質だな・・・って思うことも。。。

「吸血型M&A」の恐怖
2024年、スモールM&A業界に激震が走りました。
報道によると、都内のL社が詐欺容疑で告訴され、被害企業は37社、うち5社が倒産に追い込まれました。
手口は巧妙でした。
まず、業績不振や後継者不在で苦しむ中小企業に接触します。
「当社は年商100億円の企業グループ。事業再生が得意です」「若手経営者を送り込みます」「従業員の雇用は守ります」「社長を借金の連帯保証から外します」
こうした甘言を信じ、経営者は会社をタダ同然で売却します。
買収後、「グループ全体での資金管理」という名目で、被買収企業から資金が吸い上げられていきます。
約束された若手経営者は傀儡にすぎず、従業員の給与立替に追い込まれます。そして、首謀者たちは姿をくらませます。
残されたのは、資金を失い倒産した企業と、連帯保証が解除されないまま債務を背負った元経営者。
そして、何も知らずに取引を仲介していたM&A仲介会社です。
この事件を受け、中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン第3版」を緊急公表。
15社のM&A仲介会社に是正指示を出し、1社は登録取消処分となりました。
問題の根深さは、関与したM&A仲介会社の中に上場企業や上場企業子会社が含まれていたことです。
「大手だから安心」という常識は、スモールM&Aの世界では通用しません。
あなたが買わされるのは「借金」そのもの
このスキームの恐ろしい点は、買い手であるあなたが「会社を買った」と思った瞬間、その会社の借金の返済義務(および連帯保証)を負わされる点にあります。
業者は、会社から資産を抜き取った上で、さらに株式譲渡益まで得て逃げ切ります。
残されたのは、キャッシュがなく、借金返済に追われる会社と、何も知らずに社長になったあなただけ。
これが「吸血型M&A」の全貌です。
「スモールM&A 成功例」という検索キーワードで夢を見ている間に、このような地雷案件があなたの足元に埋められている可能性を忘れてはいけません。
スモールM&A成功例に学ぶ「正しいアプローチ」
ここまでリスクをお伝えしてきましたが、スモールM&Aで成功している事例も確かに存在します。
重要なのは、成功例に共通するパターンを理解することです。
成功事例1:赤字企業を4,500万円で売却した製造業
ある地方都市の製造業は、社長の体調悪化で売上が6,500万円から3,700万円に急減し、営業利益は1,500万円の赤字に転落していました。
後継者不在で廃業も視野に入っていた状況です。
買い手は同市内の製造業。異なる分野でしたが、技術の活用や人材確保を目的に買収を決断しました。
成功のポイントは「地元企業同士のM&A」だったことです。
文化や商習慣が近く、移転コストも低い。取引先との関係性も維持しやすい。
そして何より、家族が「体調や年齢を考えて早期決断が最優先」と経営者を説得したことで、現実的な価格での合意に至りました。
成功事例2:後継者不在の老舗和菓子店
70年以上続く老舗和菓子店。後継者不在で廃業寸前でしたが、地元の食品卸業者が「自社ブランドを持ちたい」という思いから買収を決意しました。
買い手は既存の販路を活用して商品を全国展開。売り手は従業員の雇用と技術が守られました。
地域の名物が存続したことで、観光資源としての価値も維持されています。
成功に共通する3つの要素
これらの成功事例には共通点があります。
第一に、買い手が「業界知識」を持っていたこと。
まったくの異業種参入ではなく、シナジー効果を具体的に描けていました。
第二に、「地域密着型」であったこと。
地元の商工会や金融機関のネットワークを活用し、信頼できる相手を見つけています。
第三に、「専門家のサポート」を受けていたこと。
デューデリジェンス(企業調査)を省略せず、リスクを事前に把握した上で意思決定しています。
逆に言えば、これらの要素が欠けている案件は危険信号です。
スモールM&Aで失敗しないための7つのチェックリスト
中小企業診断士の立場から、スモールM&Aを検討する方に必ず確認していただきたいポイントをお伝えします。
買い手の財務状況を確認できるか
ガイドライン第3版では、買い手から決算書を入手し、支払い能力の信用調査を行うことが求められています。
「買っていただける」という弱い立場から脱し、対等な交渉姿勢を持つことが重要です。
買い手が決算書の提出を渋る場合は、その時点で撤退を検討してください。
経営者保証の解除・移行は契約書に明記されているか
「借金の保証人から外す」という口約束は、何の意味も持ちません。
金融機関との交渉が必要な事項であり、契約時点では確約できないケースもあります。
少なくとも、いつまでに、どのような条件で保証の移行を行うか、具体的なスケジュールと責任の所在を契約書に盛り込むべきです。
デューデリジェンスは専門家に依頼しているか
費用を惜しんでデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどを調査すること)をを省略することは、致命的な判断ミスです。
粉飾決算、簿外債務、未払い残業代、退職金の積み立て不足、訴訟リスク、知的財産の問題。
これらを素人が見抜くことは不可能です。
公認会計士、弁護士、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士などの専門家チームを組成し、費用をかけてでも調査すべきです。
従業員・取引先との関係性を事前確認しているか
買収後に有能な従業員が退職すれば、事業価値は大きく毀損します。
買収に反発した有力な従業員が退社してしまうなんてこともありえるのです。
また、取引先がオーナー交代を理由に契約を打ち切るリスクも存在します。
買収前に、可能な範囲で従業員の意向や取引先との契約内容を確認してください。
契約直前の「想定外の変更」に警戒しているか
契約調印の直前になって、買い手の会社名が変わっている、
株式の取得割合が変わっている、支払い条件が変更されている。こうした「サプライズ」は、詐欺の典型的な手口です。
少しでも違和感があれば、契約を延期する勇気を持ってください。
仲介会社の報酬体系を理解しているか
M&A仲介会社の多くは成功報酬型です。
つまり、案件が成立しなければ報酬が入らない構造です。
この利益構造が、「とにかく成約させたい」というインセンティブを生み、買い手・売り手双方の利益より自社の利益を優先する行動につながることがあります。
中立を謳う「仲介」でも、実態は売り手側に立つことが多いという点も認識しておいてください。
PMI(経営統合プロセス)の計画があるか
M&Aは契約締結がゴールではありません。
買収後の経営統合こそが本当の勝負です。企業文化の統合、システムの統合、人材の管理、業務プロセスの最適化。これらを具体的に計画できていなければ、成功の確率は大きく下がります。
副業・FIRE志望者へ:それでもスモールM&Aを選ぶなら
ここまでリスクを詳しくお伝えしてきました。
それでもスモールM&Aに挑戦したいという方に、現実的なアドバイスをお伝えします。
最初の案件で「大儲け」しようとしない
スモールM&Aの成功者の多くは、最初の案件で「経験を買う」という姿勢で臨んでいます。
小さな案件で失敗しても致命傷にならない範囲から始め、ノウハウを蓄積していく。
複数の案件を検討し、数十件見て1件買うくらいの慎重さが必要です。
「自分の土俵」で勝負する
まったく知らない業界に飛び込むのは、リスクを大きく高めます。
自分の経験や専門知識が活かせる分野、あるいは少なくとも業界構造を理解できる分野を選んでください。
サラリーマンとして培った業界知識は、スモールM&Aにおいて最大の武器になります。
「0円案件」には近づかない
業績が極端に悪い企業は、0円や極めて安価で売りに出されることがあります。
一見お得に見えますが、これは「引き取り手がいない」ことの裏返しです。
隠れた債務、係争中の訴訟、環境汚染リスクなど、金額では測れないリスクが潜んでいる可能性が高いのです。
公的機関のサポートを積極活用する
中小企業庁が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」は、全国に設置された公的機関として無料で相談を受け付けています。
また、M&A支援機関協会が管理する「特定事業者リスト」(不適切な買い手のデータベース)も、有用な情報源です。
まとめ:成功する人は「疑うこと」から始める
「会社を買ってFIRE」という言葉は魅力的です。
しかし、その自由への切符が、実は破滅への片道切符だったという悲劇は後を絶ちません。
投資の世界には「理解できないものには投資するな」という鉄則があります。

スモールM&Aも同じです。
その会社のビジネスモデル、財務状況、そしてリスクの所在を完全に理解し、自分の言葉で説明できるようになるまでは、ハンコを押してはいけません。
あなたが目指しているのは、一時のギャンブル的な興奮ではなく、長期的な人生の安定と自由のはずです。
そのためには、誰よりも臆病に、そして誰よりも冷徹に、目の前の案件を疑い抜いてください。
あなたのM&Aが、後悔のない選択となることを心から願っています。

