ヤフー「どこでもオフィス」の上限撤廃。利用者の所得税や社会保険の扱いを解説

ヤフー(Yahoo! JAPAN)が従業員向けにすごい人事制度を発表しました。

同社が2014年から導入しているオフィス以外を含めて働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」を大幅に拡充したのです。

とても働きやすい理想的なテレワークのあり方かもしれません。

ただし、これ利用者の方は所得税や社会保険に注意が必要なんですよ。(たぶん社員には説明していると思いますが)

今回はどこでもオフィスで問題となりそうな所得税や社会保険の件を解説していきます。

今後同様な制度がいろいろな企業に広がってくると所得税や社会保険も改革されそうな予感。

ヤフーのどこでもオフィス概要

まずは今回の話の前提となるヤフーの人事制度「どこでもオフィス」概要から確認していきましょう。

簡単に言えば居住地や通勤手段に関する制限をなくし、交通費の上限を撤廃するなどして、社員が全国に居住できるというものです。

どこでもオフィスはヤフーが2014年から導入しているオフィス以外を含めて働く場所を自由に選択できるようにする制度ですが、利用は月5回までとの制限がありました。

しかし、新型コロナの影響によるテレワークの推奨もあり、現在は回数無制限となっています。

さらにそれが拡充される事になったのです。

2022年4月からの変更内容

それでは2022年4月からの変恋う内容を見ていきましょう。

主な変更内容は以下の通り。

  • 午前11時までに出社できる範囲→撤廃
  • 通勤手段の制限→撤廃
  • 交通費上限の撤廃
  • 手当増額

まず、今まであった午前11時までに出社できる範囲という制限が撤廃されました。

これにより日本全国どこでも居住できるように。

さらに今まで電車、新幹線、バスが許可されていましたが、飛行機などの利用も可能

片道6,500円、1月15万円としてしていた交通費の上限も撤廃されました。

さらにさらに通信費の補助やタブレット端末の貸与、懇親会費の補助などの手当も拡充。

すばらしく社員が働きやすい環境となったのです。

ただし、利用者は所得税や社会保険に注意が必要かもしれません。

世の中の仕組みがヤフーの「どこでもオフィス」に追いついていない部分があるんですよ。



通勤手当の所得税の扱い

まずは所得税の話からみていきましょう。

通勤手当の所得税は原則として非課税です。

しかし、あまり知られてないのですが、非課税額には上限があるんですよ。

今回のヤフーの「どこでもオフィス」はそこが少し問題となるかもしれません。

通勤手当の非課税限度額

平成28年1月1日以後の通勤手当の非課税限度額は以下の通りです。

※スマートフォンの方はスクロールしてお読みください。

区分課税されない金額
①交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当1か月当たりの合理的な運賃等の額

(最高限度 150,000円)
②自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当通勤距離が片道55キロメートル以上である場合31,600円
通勤距離が片道45キロメートル以上55キロメートル未満である場合28,000円
通勤距離が片道35キロメートル以上45キロメートル未満である場合24,400円
通勤距離が片道25キロメートル以上35キロメートル未満である場合18,700円
通勤距離が片道15キロメートル以上25キロメートル未満である場合12,900円
通勤距離が片道10キロメートル以上15キロメートル未満である場合7,100円
通勤距離が片道2キロメートル以上10キロメートル未満である場合4,200円
通勤距離が片道2キロメートル未満である場合(全額課税)
③交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券1か月当たりの合理的な運賃等の額

(最高限度 150,000円)
④交通機関又は有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券1か月当たりの合理的な運賃等の額と②の金額との合計額

(最高限度 150,000円)

出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」より

公共交通機関を利用している場合には上限が月額150,000円。

よほど遠くから通勤していない場合には非課税水準に収まるようになっているのです。

もともとヤフーの「どこでもオフィス」も1月15万円と制限を加えていたのもこれが要因だと思われます。

それを超える部分については所得税の対象となります。

今回の制度変更に伴いそれを超える通勤をするケースの場合には所得税が余分に掛かることになりますね。

利用者本人がそのあたりをしっかり認識してそれでも遠方から通勤をする分にはなんら問題ありませんけどね。

おそらくヤフーも説明会等を開くのだと思いますし。

実費精算でも考え方は同じ

なお、よく質問されますが、実費精算であっても考え方は同じです。

支給の仕方が違うだけなんですよ。

また、通勤費は支給しなければいけないという義務はありません。

会社の判断で就業規則等で定めるルールなんです。

ですから労働基準法違反等法律違反にならない限りどういった支払い方でもルールでも問題ないのです。

出張などの交通費と通勤費の線引が難しいかも?

ただし、ちょっと気になるのが住む場所によっては出張などの交通費と通勤費の線引が難しくなる点です。

出張などの交通費は会社の経費で本人の所得という扱いにはなりませんから、所得税も社会保険も対象外となります。

そのあたりの判断が難しくなるかもしれませんね。

ヤフーはそのあたり経費精算システム等でしっかりやってそうですが・・・

通信費やタブレット貸与の扱い

ヤフーの「どこでもオフィス」では通信費の補助などもあります。

この手の在宅勤務手当も少々所得税の扱いはややこしいです。

通信費や在宅勤務手当は決まった金額が支給されるようなケースの場合は賃金と同じ扱いとなり課税対象となります。

逆に実費分を精算するような形をとるのであれば基本的に課税対象にならないのです。

また、事務用品費等は企業が所有する事務用品等を従業員に貸与する場合には、所得税の課税対象になりません。

しかし、企業が従業員に事務用品等を支給した場合には、従業員に対する現物給与として課税対象となります。

なお、精算について細かい計算方法なども公開されています。

詳しくはこちらの記事を御覧ください。

ヤフーの「どこでもオフィス」の場合は詳細がわかりませんので断定はできませんが、課税対象となる支払い方のようにみえますね。
タブレットについては貸与のようなので課税対象にならないと思われます。



通勤手当の社会保険の扱い

次に社会保険の考え方を見てみましょう。

あまり知られていませんが、通勤手当は社会保険の計算に含まれるんですよ。

ですから会社の近くに住んだ方が得という意見もあるんです。

通勤手当は社会保険の計算に含む

社会保険料(健康保険、厚生年金)は基本的に定時決定というルールで計算されます。

定時決定とは7月1日現在で働いている人の3か月間(4~6月)の報酬月額を算定基礎届として届け出するもので、厚生労働大臣は、この届出内容に基づき毎年1回、標準報酬月額を決定することをいいます。

届け出する報酬月額は以下のように3ヶ月の平均報酬で決まります。

標準報酬月額
出所:日本年金機構「定時決定

報酬には給料はもちろん、残業代休日出勤手当て家族手当住居手当などの各種手当て食事代等の現物給与などが含んだものとなります。

基本的に名目は関係なく会社から支給される金額は含めると思ってただければよいでしょう。

そのため、通勤手当も足して算出されるのです。

なお、通勤費の払い方は会社によりマチマチです。

定額で決まったルート分の交通費を支給する会社もあれば、決まったルートの6ヶ月分の定期を予め支給する会社、定期券を渡す会社、実費精算などいろいろなパターンがあります。

これらパターンに関わらず1ヶ月分を換算して報酬に加えて計算をします。

例えば6ヶ月定期代をまとめて支払うケースの場合には6分の1したものを毎月の給料に加算することになります。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

どのくらい社会保険が変わるのか?

それでは通勤手当の違いによってどのくらい社会保険が変わるのかを見てきましょう。

例えば東京にある会社で協会けんぽに加入していたとします。そこに二人の社員がいます。

二人とも30歳で給料は残業手当などを含めて月額30万円。

一人は会社の目と鼻の先に住んでいて通勤手当は0円(Aさん)。

一人は新幹線通勤で通勤手当は所得税非課税限度上限の月額15万円(Bさん)。だったとしましょう。

このケースの場合にそれぞれの社会保険がいくらになるのかを考えてみます。

なお、令和3年分保険料額表(東京)に基づいて計算しています。

この場合、Aさんは標準報酬月額は300,000となり、社会保険料は健康保険が14,760円。厚生年金が27,450円となります。合計で42,210円。
一方、Bさんは標準報酬月額は440,000となり、社会保険料は健康保険が21,648円。厚生年金が40,260円となります。合計で61,908円。

二人の差は月額19,698円となります。

Bさんの方が確かに会社から15万分余分にはもらっていますが、実際には交通費としてそのまま消えてしまう金額です。

それでもこれだけの差がでてしまうんですね。

簡単に言えば通勤手当といっても給料をもらったと同じ扱いになってますってことです。

今回は15万円と0円の方で比較してみましたが、「どこでもオフィス」は上限がないとのことですからさらに大きな差となる可能性があります。

社会保険が高くなるのは悪いことばかりではない

上記の話だけ見るとたくさん通勤手当を利用した方は損な感じがします。

しかし、そうでもない部分もあります。

社会保険料が高くなれば将来もらえる年金額(老齢厚生年金)の増えるのです。

前述のBさんの場合は15万円給料が高い人と同じだけ年金がもらえることになるのです。(その分月々の社会保険の支払いも増えますが)

また、遺族厚生年金傷病手当金、出産手当金、育児休業手当金、など社会保険から支給される様々な手当なども増えることになります。

ですから社会保険が高くなると損とは一概には言えないんですよね。

また、様々な手当などの支給の計算根拠となる「平均賃金」の計算にも影響があります。

具体的には以下のような手当があります。

(1)労働者を解雇する場合の予告に代わる解雇予告手当… 平均賃金の30日分以上
(2)使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当… 1日につき平均賃金の6割以上
(3)年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金
(4)労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償等
(5)減給制裁の制限額 … 1回の額は平均賃金の半額まで、何回も制裁する際は支払賃金総額の1割まで
(6)地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う際の転換手当… 平均賃金の30日分または60日分

また失業保険(雇用保険の基本手当)にも影響があります。

失業保険の計算の元となるのは離職前の6ヶ月間の給料額です。

こちらも通勤手当も含まれます。

ですから通勤手当によって失業保険のもらえる金額にも影響が出てくるのです。



まとめ

今回は「ヤフー「どこでもオフィス」の上限撤廃。利用者の所得税や社会保険の扱いを解説」と題してヤフーのどこでもオフィスのような仕組みでの所得税や社会保険の扱いを解説してきました。

今後ヤフーのような仕組みを導入する企業が増えてくるでしょうから、利用する際には所得税や社会保険の仕組みをしっかり理解した上で上手に活用したいところですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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