ガソリン価格が史上最高値を更新し、スーパーの商品棚から一部の日用品が消え始めている。
さらに建設資材や医療品などの不足が露呈。
ニュースは連日「第三次オイルショック」の文字で埋め尽くされています。
しかし、本当にこれは1970年代の再来なのでしょうか?
この記事では、過去2回の危機との決定的な違いを明らかにし、投資家が「今、何をすべきか」を具体的にお伝えします。
第三次オイルショックを正しく恐れるために
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始しました。
これを受けてイラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近を航行する船舶に対して通過禁止を通告。民間船舶が航行を見合わせたことで、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥りました。
WTI原油先物価格は、攻撃前の1バレル67ドル程度から、3月9日には一時120ドル近くまで急騰しています
全国のガソリン平均小売価格はレギュラー1リットルあたり190.8円に達し、史上最高値を記録しました(出典:資源エネルギー庁、2026年3月16日時点)。
「第三次オイルショック」という言葉がメディアを席巻しています。
しかし、この言葉を聞いて思い浮かべるイメージは人によって異なるはずです。
トイレットペーパーの買い占め騒動でしょうか。それとも、証券口座の含み損でしょうか。
投資家であるあなたが本当に知りたいのは、きっとこういうことではないでしょうか。
「この危機は、いつまで続くのか。そして、自分の資産をどう守ればいいのか」
過去2回のオイルショック
まず過去2回のオイルショックを正確に振り返ることから始めましょう。
第一次オイルショック(1973〜74年):高度成長を終わらせた衝撃
1973年10月、第四次中東戦争の勃発をきっかけに、OPEC(石油輸出国機構)が原油価格を70%引き上げました。
さらにアラブ産油国がイスラエル支持国への石油禁輸を決定したことで、原油価格はわずか3か月で約4倍に高騰しました(出典:資源エネルギー庁)。
当時の日本は一次エネルギーの約75%を石油に依存し、そのほとんどを中東からの輸入に頼っていました。
消費者物価指数は1973年に前年比11.7%増、翌74年にはなんと23.2%増と跳ね上がり、「狂乱物価」という言葉が生まれました(出典:総務省統計)。
1974年の経済成長率はマイナス1.2%。戦後初のマイナス成長を記録し、高度経済成長期はここで幕を閉じたのです。
スーパーの棚からトイレットペーパーが消え、灯油や洗剤の買い占めが全国で発生。
「石油がなくなる」という恐怖が社会全体を覆いました。
第二次オイルショック(1978〜82年):日本が「逆境をチャンスに変えた」時
1979年のイラン革命を契機に原油価格が再び高騰。
約3年間で価格は約2.7倍に跳ね上がりました(出典:ENEOS石油便覧)。
しかし、第一次の経験を活かした日本は冷静でした。
トイレットペーパーの買い占めのような社会的混乱は起きず、省エネ技術の開発が加速。低燃費の日本車が世界市場を席巻し、日本は逆境を成長の糧に変えることに成功したのです。
第2次オイルショックの際には「原油高騰という逆境を日本経済はチャンスに変えることに成功」し、低燃費自動車の開発・販売拡大によって経済大国としての地位を確立したのです。
ここが重要:過去2回と今回の決定的な違い
過去2回のオイルショックで減少した石油の流通量は、実は「わずか数%」でした。
それに対して、今回のホルムズ海峡封鎖では世界の石油流通量の約20%がストップしています。
数字だけ見れば、今回のほうがはるかに深刻です。
しかし、だからといって1970年代の再来になるとは限りません。
今回は1970年代のような単純な“物不足”ではありません。
むしろ怖いのは、原油高そのものよりも、原油高が円安、物価、金利、企業利益を連鎖的に揺らし、株価の評価そのものを切り下げていくことです。
つまり、棚から物が消える話より先に、家計と企業と市場がじわじわ削られる話なのです。
オイルショックで「何がなくなる」のか?
「オイルショックで何がなくなるのか?」
この問いに対する答えは、1973年と2026年では大きく異なります。
1973年になくなったもの:トイレットペーパーと「安心」
第一次オイルショックでは、実際には紙の供給が途絶えたわけではありませんでした。
「紙が不足する」という噂が広がり、消費者がパニックに陥って買い占めが発生したのです。
つまり、物理的な不足よりも「心理的な不安」が社会を混乱させました。
2026年になくなるもの:「安いエネルギー」と「当たり前の物流」
今回、最も高い確率で起きるのは、全国的な物資の枯渇ではありません。
専門家の分析によると、ホルムズ海峡の実質封鎖が長引いた場合に日本で発生しやすいのは、燃料高、石油化学原料の不足、包装材の不足、物流コストの上昇、食品価格の上昇が重なる「高コスト化・原料制約・アクセス格差」の複合ショックです。
実際に影響はすでに顕在化しています。
旭化成建材は2026年3月31日、断熱材製品「ネオマフォーム」「ネオマゼウス」の供給に遅れが生じると発表。
原油・ナフサ輸送の混乱が主因で、4月から一部製品の生産を停止する事態に陥っています。
ネオマフォームは多くの家で使われている断熱材なんですよ。
新築の家やリフォーム費用が上がるのは避けられないかもしれません。
つまり、トイレットペーパーが店頭から消えるという事態よりも、「あらゆるモノの値段が静かに、しかし確実に上がっていく」という形で私たちの生活を圧迫するのが、令和のオイルショックの本質です。
株価はどうなる?
それでは株価はどうなるのでしょう?
過去のオイルショック時の株価の動き
第一次オイルショック後、日本の株式市場は大きく下落しました。
景気後退と急激なインフレの二重苦に見舞われ、日銀が公定歩合を9%まで引き上げたことで、企業収益は大幅に悪化しました。
しかし、その後の回復も劇的でした。
省エネ技術で世界をリードした日本企業は、危機を乗り越えて大きく成長。
第二次オイルショック後も、日本の株式市場は比較的早い回復を見せています。
つまり、過去のデータが教えてくれるのは、「オイルショックは株価を暴落させるが、その後に必ず構造変化が起き、新しい勝者が生まれる」ということです。
今回の株価急落:日経平均は過去3番目の下げ幅を記録
2026年3月9日、日経平均株価は一時4,200円超の大幅安となりました。
WTI原油先物価格が一時116ドル台まで急騰したことを受け、東証プライムの値下がり銘柄数は全体の9割近くに達しました。
過去のオイルショック時には原油相場の急騰に伴い交易条件が大幅に悪化し、日本経済は景気後退に陥っています。
原油価格が100ドル/バレルを上回る水準で長期に定着しない限り、世界経済や金融市場への影響は限定的にとどまるとの見方を示す一方で、ホルムズ海峡の実質封鎖が長期化するリスクに留意が必要としています。
最悪のシナリオ:「円安×原油高」のダブルパンチ
冷泉彰彦氏が指摘する最も警戒すべきシナリオは、「超円安が進行する中での原油高」です。
原油価格が1バレル120〜130ドルで持続的に推移した場合、日本の輸入コストは大幅に増加し、貿易赤字が拡大します。
その結果、円安圧力が一段と強まり、日本経済はスタグフレーション(物価高と景気停滞の同時発生)に陥るリスクがあります。
Oxford Economicsの予測では、この場合2026年のGDPは想定よりも0.6%低下するとされています(出典:Energy Tracker Japan)。
野村総合研究所の木内登英氏の試算では、原油価格が120ドルまで上昇した場合、日本の実質GDPは1年間で0.60%低下する計算です。これはトランプ関税の影響を上回る水準です(出典:野村総合研究所、2025年6月)。
Business Insider Japanの分析では、イランがホルムズ海峡を長期にわたって封鎖することは「非現実的」とする見方も紹介されています。
イラン自身も石油輸出をホルムズ海峡に依存しており、封鎖を続ければ外貨獲得が困難になるためです。
さらに、最大の顧客である中国にも打撃を与えることになるため、長期封鎖のインセンティブは低いとされています(出典:Business Insider Japan、2026年3月)。
オイルショックは「本当に」起きているのか?
ここで一度立ち止まって考えてみましょう。
「第三次オイルショック」という言葉は、果たして現状を正確に表しているのでしょうか。
過去のオイルショックとは「構造」が違う
1970年代のオイルショックは、世界経済が石油にほぼ完全に依存していた時代に起きました。
当時の日本は一次エネルギーの75%を石油に頼っていましたが、現在はその比率が大幅に低下し、天然ガスや原子力、再生可能エネルギーなどへの分散が進んでいます。
さらに、1970年代にはなかったIEA(国際エネルギー機関)の備蓄協調放出体制が存在し、米国がシェールオイル大国になったことで、石油供給の構造そのものが変化しています。
イランにとっても「封鎖の長期化」は自滅行為
前述のとおり、ホルムズ海峡封鎖はイラン自身の石油輸出も止めることになります。
イランが外貨を稼げなくなれば、戦争の継続すら困難です。
歴史的にもイランがホルムズ海峡を実際に封鎖したことはなく、過去の脅迫はいずれも撤回されています。
「短期の混乱」は侮れない
とはいえ、短期的な衝撃は確実に起きています。
ガソリン価格の史上最高値更新、建材や石化製品の供給制限、そして株式市場の急落。
これらは「一時的な混乱」であっても、対応を誤れば資産を大きく毀損する可能性があります。
結論として、「第三次オイルショック」という表現は、事態の深刻さを伝える点では的を射ていますが、1970年代と同じ規模の社会的混乱が再現されるかというと、構造的にはかなり異なる状況です。
ただし、投資家にとって重要なのは「オイルショックかどうか」の定義論争ではなく、「この状況で自分の資産をどう守り、育てるか」という実践的な判断です。
投資家がとるべき5つの行動指針
過去のオイルショックから得られる教訓と、今回の構造的な違いを踏まえ、投資家が検討すべき行動指針を整理します。
行動1:パニック売りを避け、ポートフォリオの「健康診断」をする
3月の日本株が11%超下落し、円、株、債券に同時の不安が広がる「トリプル安」リスクまで意識されています。
オイルショック時の株価は、まず「世界景気が傷む」「利益が削られる」「金利が読めない」の三重苦で売られやすいのです。
しかし、急落局面で慌てて売却した投資家は、おそらく底値付近で手放してしまう可能性があります。
過去のオイルショックでも、急落後に回復した銘柄は少なくありません。
まずは冷静に、自分のポートフォリオにおけるエネルギー価格変動への感応度(原油高で恩恵を受けるセクターと打撃を受けるセクターの比率)を確認しましょう。
行動2:原油高の「恩恵セクター」と「打撃セクター」を整理する
東洋経済オンラインの分析によると、3月9日の急落局面でも値上がりした銘柄は323銘柄存在しました。
業種別では「情報・通信」が34銘柄で最多、「サービス業」が20銘柄、「小売業」が18銘柄と続いています(出典:東洋経済オンライン、2026年3月)。
原油高で直接恩恵を受けるのは、石油開発(INPEX等)やエネルギー関連企業です。
一方、原油を大量に消費する運輸・物流、化学、航空セクターには逆風が吹きます。
しかし、ここで重要なのは「誰もが思いつく銘柄」に飛びつかないことです。
すでにエネルギー関連株は急騰しており、出遅れたタイミングでの参入はリスクが高いと言えます。
行動3:「脱石油」がもたらす中長期の構造変化に目を向ける
ポスト石油戦略研究所の大場紀章代表は、今後は「脱・中東」にとどまらず「脱・石油」を目指すべきだと指摘しています。
ガソリン・軽油が石油利用の53%を占める現状を踏まえ、エネルギー安全保障の観点からEV(電気自動車)政策の推進が不可避としています(出典:MBSニュース、2026年3月)。
冷泉彰彦氏も、長期的には「ハードウェアからソフトウェアへの転換」「AI戦略の強化」「高付加価値の観光立国」など、産業構造の変革が求められるとしています(出典:ニューズウィーク日本版、2026年3月)。
こうした構造変化の方向性を読み解くことが、中長期の投資判断においては極めて重要です。
行動4:為替リスクへの備えを怠らない
今回の危機で見落としがちなのが、円安リスクです。
原油高が貿易赤字を拡大させ、円安を加速させる悪循環に陥る可能性があります。
外貨建て資産を一定割合保有している場合、これは「意図せぬヘッジ」として機能する可能性があります。
逆に、資産のほぼ全額が円建てである場合、円安進行は実質的な購買力の低下を意味します。
行動5:「積立投資」は止めない
日経平均が急落すると、NISAやiDeCoの積立を一時停止したくなる気持ちは理解できます。
しかし、ドルコスト平均法の本質は「安い時に多く買えること」にあります。
過去のオイルショックでも、暴落後に積立を継続した投資家は、結果的に大きなリターンを得ています。
短期的な恐怖に支配されて長期の資産形成を放棄することが、最も避けるべき判断ミスです。
オイルショックの「その後」に何が起きるか
最後に、多くの投資家が見落としている重要な構造変化について触れておきます。
大場紀章代表は、中東の覇権争いの中心が今後「石油」から「天然ガス(LNG)」に移行する可能性を指摘しています。
石油埋蔵量の世界2位はサウジアラビアですが、天然ガス埋蔵量の世界2位はイラン、3位はカタールです(出典:資源エネルギー庁、2019年末時点)。
天然ガスは発電用途としてコスト・環境面で石油より優位に立っており、需要は拡大傾向にあります。
このパワーバランスの変化は、中東地域の新たな不安定要因となる可能性があります(出典:MBSニュース、2026年3月)。
つまり、今回のオイルショックが仮に収束しても、中東発のエネルギーリスクが完全に消えるわけではないのです。
この構造的な認識を持っているかどうかが、次の10年の資産形成において、大きな差を生むと私は考えています。
まとめ:恐怖ではなく「構造」で判断する投資家になろう
第三次オイルショックという言葉は、不安を煽るには十分な威力を持っています。
しかし、過去の教訓が教えてくれるのは、危機の渦中にいる時こそ冷静に「構造」を見抜くことの重要性です。
1973年のパニックでトイレットペーパーを買い占めた人々は、本当に恐れるべきものを見誤っていました。
同じように、2026年の私たちも、目の前の株価の急落だけを見て判断を誤るリスクがあります。
今回の危機を「過去のオイルショックの再来」として恐れるのではなく、「エネルギー構造の転換点」として捉え直すこと。それが、この記事で最もお伝えしたかったことです。
あなたの投資判断が、恐怖ではなく構造に基づくものであることを願っています。
まずは今日、ご自身のポートフォリオにおけるエネルギー価格感応度を確認することから始めてみてください。
にほんブログ村

