「繰り上げ返済をするのは損」——SNSでこんな言葉を目にして、困惑していませんか。
2025年12月、日銀は政策金利を0.75%に引き上げました。
30年ぶりの高水準です。
「金利のある世界」が本格的に到来し、住宅ローンの返済戦略は根本から見直しを迫られています。
本記事では、住宅ローン繰り上げ返済の「損」と「得」を、最新の金利動向・住宅ローン控除制度・投資環境を踏まえて徹底分析。
あなたの状況に合った「最適な判断基準」を考えていきます。
住宅ローン繰り上げ返済とは?基本の仕組みを30秒で理解
住宅ローンの繰り上げ返済とは、毎月の返済とは別に、まとまった資金を前倒しで返済することです。
繰り上げ返済には2つの方法があります。
期間短縮型
毎月の返済額を変えずに返済期間を短くする方法です。
総利息を大幅に削減でき、定年前の完済を目指す方に向いています。
返済額軽減型
返済期間はそのままで毎月の返済額を減らす方法です。
家計の余裕を生み出したい方、教育費や生活費の増加に備えたい方に適しています。
同じ100万円を繰り上げ返済しても、期間短縮型のほうが利息削減効果は大きくなります。
ただし、どちらが「正解」かは、あなたのライフプランと資金状況によって異なります。
繰り上げ返済してはいけないと言われる本当の理由
「繰り上げ返済してはいけない」とか「繰り上げ返済するのは損」という主張には、実は明確な根拠があります。
ただし、これらは「すべての人に当てはまる真実」ではありません。
住宅ローン控除との相性問題
現在の住宅ローン控除は、年末時点のローン残高の0.7%が所得税・住民税から控除される制度です。(購入時期によっては1%)
新築住宅なら最長13年間、控除が適用されます。
ここで重要なのが「金利との比較」です。
仮にあなたの住宅ローン金利が0.5%だとしましょう。
住宅ローン控除は0.7%ですから、「借りているだけで0.2%お得」という逆転現象が起きます。
この状況で繰り上げ返済をすれば、控除で得られるはずだったメリットを自ら捨てることになります。
一方、金利が0.7%を超えている場合は、繰り上げ返済をしたほうが利息削減効果のほうが大きくなります。
つまり、「金利 vs 控除率0.7%」の比較が、控除期間中の繰り上げ返済判断の分岐点なのです。
金利が0.7%未満の人が繰り上げ返済をすると逆に損をしてしまうのです。
なお、金利が0.7%を超えていても、住宅ローン控除期間中は繰り上げ返済で利息を減らしても、控除も同時に減って「差が出にくい」という部分はあります。
住宅ローン控除期間中はあえて動かないという選択肢もありですね。
投資の機会費用
繰り上げ返済に回す資金を、投資に充てたほうがリターンが大きいのではないか——この視点も重要です。
例えば、1,000万円を繰り上げ返済する代わりに、年利3%で20年間運用できたとします。
複利効果により、20年後には約1,806万円になります。800万円以上の利益です。
一方、金利0.5%の住宅ローンを1,000万円繰り上げ返済しても、削減できる利息は数十万円程度です。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2001年度以降の平均収益率は年率約4.4%。決して非現実的な数字ではありません。

ただし、投資にはリスクがあります。
「繰り上げ返済より投資」という選択が正しいのは、リスクを理解し、長期投資を継続できる人に限られます。
団体信用生命保険(団信)の価値
住宅ローンには団体信用生命保険が付帯しています。
契約者が死亡または高度障害になった場合、ローン残高がゼロになる保険です。
繰り上げ返済をしてローン残高を減らすと、この「保障額」も減少します。
特に住宅ローンを「万が一の備え」として活用している方にとって、完済を急ぐことが必ずしも最善とは限りません。
これは損得ではなく、価値観の問題です。
「残高を減らしたい」と「保障を厚く残したい」は、同時に最大化できません。
インフレ時代への備え
私たちの世代は学校や家で「借金は悪だ」「借りたものは早く返せ」と教わってきました。
それは道徳的には正しいかもしれませんが、資本主義のルールにおいては必ずしも正解ではありません。
富裕層や成功している企業を見てください。
彼らは手元に現金があっても、あえて銀行から融資を受けます。
なぜなら、他人の資本(借金)を使って、自分の資本以上の利益を生み出す(レバレッジ)ことを知っているからです。
住宅ローンは、一般庶民が唯一使える、低金利かつ長期の「レバレッジ手段」です。
今、日本はインフレ局面にあります。
モノの値段が上がるということは、「現金の価値が下がる」ということです。
逆に言えば、「借金の実質価値も目減りする」のです。
30年前の1,000万円と、今の1,000万円、そして30年後の1,000万円の価値は違います。
インフレが進むなら、固定された借金元本は、実質的に軽くなっていきます。
この局面で、価値が目減りする「借金」を返すのは、インフレ対策としては悪手です。
変動金利の上昇は「可能性」から「現実の議題」へ
もう一つ論点があります。
それは金利がこれからもあがっていくのでは?という話です。
政策金利0.75%の衝撃
2025年12月19日、日銀は政策金利を0.5%から0.75%に引き上げました。
これは1995年以来、約30年ぶりの高水準です。
2024年3月のマイナス金利解除から始まった利上げの流れは、明確に「金利のある世界」への移行を示しています。
市場では、2026年以降も利上げが継続し、政策金利が1%を超える可能性も指摘されています。
公益財団法人日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」(2025年8月調査)によれば、政策金利は2026年12月末までに約1.1%まで上昇する予測が出ています。

変動金利型住宅ローンへの影響
変動金利型住宅ローンは、政策金利の影響を直接受けます。
多くの金融機関は、4月と10月に基準金利を見直します。
今回の利上げの影響は、2026年4月の金利見直しで反映され、実際の返済額への適用は2026年7月以降となる見込みです。
現在、変動金利の適用金利は約0.8%が相場です。
今後の利上げ次第では、1%を超える水準に達する可能性も十分にあります。
前述した、「住宅ローンは繰り上げ返済しないほうがいい」という主張の住宅ローン控除の部分は消される形となりますね。
すでに住宅ローン控除の0.7%を上回っている方が増えている格好です。
固定金利型の場合は影響ない。
固定金利型住宅ローンは借りた時の金利がそのまま維持されます。
そのため、日銀の利上げの影響は受けません。
繰り上げ返済の判断も日銀の動向には影響をうけない形ですね。
【シミュレーション】繰り上げ返済の効果を数字で検証
具体的な数字で、繰り上げ返済の効果を確認しましょう。
前提条件:
- 借入額:4,000万円
- 借入期間:35年
- 返済方式:元利均等返済
- 繰り上げ返済額:500万円(借入後5年目に実施)
ケース1:金利0.5%の場合(低金利環境)
| 項目 | 繰り上げ返済なし | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
|---|---|---|---|
| 総返済額 | 約4,362万円 | 約4,297万円 | 約4,324万円 |
| 利息削減効果 | — | 約65万円 | 約38万円 |
| 返済期間 | 35年 | 約31年 | 35年 |
金利0.5%では、500万円の繰り上げ返済で削減できる利息は65万円程度。
控除期間中であれば、控除メリット(年間最大28万円×残り期間)を考慮する必要があります。
ケース2:金利1.5%の場合(金利上昇後を想定)
| 項目 | 繰り上げ返済なし | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
|---|---|---|---|
| 総返済額 | 約5,143万円 | 約4,907万円 | 約4,996万円 |
| 利息削減効果 | — | 約236万円 | 約147万円 |
| 返済期間 | 35年 | 約29年 | 35年 |
金利1.5%になると、利息削減効果は約236万円と大幅に拡大します。
この水準では、控除メリットを差し引いても繰り上げ返済が有利になるケースが多くなります。
ケース3:繰り上げ返済 vs 投資運用
500万円を繰り上げ返済せず、年利3%で20年運用した場合。
運用結果: 500万円 → 約903万円(約403万円の利益)
金利0.5%の繰り上げ返済効果(65万円)と比較すると、投資運用のほうが約338万円有利という結果になります。
ただし、これは「20年間年利3%を維持できた場合」という前提です。
投資には元本割れリスクがあることを忘れてはいけません。
変動金利 vs 固定金利:繰り上げ返済の判断はこう変わる
金利タイプによって、繰り上げ返済の考え方は大きく異なります。
変動金利を選んでいる人の戦略
変動金利を選んでいる人は、金利上昇リスクへの備えが最優先課題です。
住宅金融支援機構の調査によると、変動金利型住宅ローン利用者の約65%が「借入金利の上昇」に対して不安を感じています。
変動金利で借りている方におすすめの戦略は、「繰り上げ返済資金を別枠でプールしておく」ことです。
具体的には、固定金利との差額(月々約2万円程度)を毎月積み立てておきます。
金利が上昇した際に、繰り上げ返済の原資として活用できます。
一方、金利上昇が限定的であれば、その資金を投資や教育費に回すことも可能です。
この「両睨み戦略」により、金利上昇にも対応しつつ、低金利のメリットも享受できます。
固定金利を選んでいる人の戦略
固定金利を選んでいる人は、返済額が確定しているため、ライフプラン重視の判断ができます。
フラット35で2%前後の金利を固定している場合、繰り上げ返済による利息削減効果は比較的大きくなります。
控除期間終了後は、積極的に繰り上げ返済を検討してもよいでしょう。
一方、固定金利で安心を確保している以上、無理に繰り上げ返済を急ぐ必要もありません。
教育費や老後資金の確保を優先し、余裕資金ができた段階で繰り上げ返済を実行する——この順序が基本です。
繰り上げ返済「する人」「しない人」の判断基準
ここまでの内容を踏まえ、繰り上げ返済の判断基準を整理します。
繰り上げ返済を「しないほうがいい」人
以下に該当する方は、繰り上げ返済を急ぐ必要はありません。
- 住宅ローン控除期間中で、借入金利が0.7%以下の人 控除メリットのほうが利息負担より大きいため、控除期間終了後に検討しましょう。
- 手元資金が十分でない人 生活費6ヶ月分+教育費+緊急資金を確保できていない場合、繰り上げ返済より手元資金の確保が優先です。
- 長期投資を継続できる人 新NISAやiDeCoを活用した長期投資で、住宅ローン金利を上回るリターンを目指せる人は、投資優先の選択肢もあります。
- 団信を生命保険代わりにしている人 万が一の備えとして住宅ローンを活用している場合、完済を急ぐ必要はありません。
繰り上げ返済を「したほうがいい」人
以下に該当する方は、繰り上げ返済を積極的に検討しましょう。
- 借入金利が1%を超えている人 控除率0.7%を大きく上回る金利では、繰り上げ返済の利息削減効果が明確に出ます。
- 住宅ローン控除期間が終了した人 控除メリットがなくなった後は、繰り上げ返済による利息削減効果がストレートに家計を助けます。
- 定年退職までに完済したい人 老後の収入減少に備え、現役中に完済を目指す場合は、期間短縮型の繰り上げ返済が有効です。
- 投資にリスクを感じる人 投資には元本割れリスクがあります。「確実な利息削減」を選びたい方には、繰り上げ返済が向いています。
- 金利上昇リスクを軽減したい変動金利利用者 変動金利で借りている方は、元本を減らしておくことで、将来の金利上昇時の負担増を抑えられます。
繰り上げ返済のベストタイミングはいつ?
繰り上げ返済を「いつ行うか」で、効果は大きく変わります。
基本原則:早ければ早いほど効果的
住宅ローンの利息は、残高に対して日々計算されます。
残高が多い借入初期に繰り上げ返済をすれば、その後の利息計算の基礎となる元本が減り、長期にわたって利息削減効果が積み重なります。
同じ100万円の繰り上げ返済でも、借入後5年目と20年目では、利息削減効果に数十万円の差が出ることもあります。
例外:住宅ローン控除期間中の判断
ただし、控除期間中は単純に「早いほうがいい」とは言えません。
判断基準は明確です:
- 借入金利 > 0.7% → 早めの繰り上げ返済が有利
- 借入金利 ≦ 0.7% → 控除期間終了後にまとめて返済が有利
金利が0.7%を超えている場合は、控除期間中でも「利息削減効果 > 控除メリット」となるため、早めの繰り上げ返済が家計にプラスになります。
また、住宅ローン控除は年末残高を基準に計算します。
そのため、住宅ローン控除を最大化したいなら、年末に繰り上げるより、年明けに回した方が合理的な場面が多いです。
2026年以降の金利上昇を見据えて
2026年以降、変動金利の上昇が予想されています。
変動金利で借りている方は、金利が上がる前に繰り上げ返済をしておくと、金利上昇時の利息負担増加を抑えられます。
一方、「5年ルール」と「125%ルール」により、金利が上がっても毎月の返済額は急には変わりません。
しかし、これは「負担が消える」わけではなく、「後回しになる」だけです。
金利上昇局面では、早めに元本を減らしておくことが、将来の家計を守ることにつながります。

繰り上げ返済の注意点と落とし穴
繰り上げ返済には、見落としがちなリスクもあります。
手元資金の枯渇リスク
繰り上げ返済をしすぎて、緊急時の資金が不足するケースがあります。
ある40代女性は、教育費が本格化する前にローンを減らそうと、貯金の大半(約500万円)を繰り上げ返済に使用。
しかし、その直後に車の故障と家電の買い替えが重なり、カードローンで一時的に借り入れをする事態になりました。
住宅ローン金利(0.5%)よりはるかに高い金利(年15%程度)の借入が発生し、本末転倒の結果に。
鉄則:生活防衛資金(最低6ヶ月分)は必ず確保してから繰り上げ返済を検討する
住宅ローン控除の適用条件に注意
期間短縮型の繰り上げ返済を行う際、返済期間が10年を切ると、住宅ローン控除の適用条件から外れます。
控除期間中に繰り上げ返済をする場合は、「返済期間10年以上」の条件を維持できるか、必ず確認しましょう。
繰り上げ返済手数料の確認
金融機関によっては、繰り上げ返済に手数料がかかる場合があります。
ネット銀行では無料のケースが多いですが、店舗型銀行では数千円〜数万円の手数料が設定されていることも。
こまめに少額の繰り上げ返済をする場合、手数料負担が積み重なる可能性があります。
事前に手数料体系を確認し、手数料を考慮しても効果があるか計算しましょう。
繰り上げ返済以外の選択肢も検討しよう
繰り上げ返済だけが、住宅ローンの見直し方法ではありません。
借り換えという選択肢
現在の借入金利が高い場合、より低い金利の住宅ローンに借り換えることで、総返済額を削減できる可能性があります。
借り換えの目安は「金利差1%以上、残期間10年以上、残高1,000万円以上」とよく言われますが、実際には条件次第でそれ以下でも効果が出ることがあります。
複数の金融機関から見積もりを取り、手数料を含めた総コストを比較検討しましょう。
返済期間の延長
金利上昇により返済負担が重くなった場合、返済期間を延長して毎月の返済額を減らす方法もあります。
ただし、総返済額は増加するため、あくまで「一時的な負担軽減策」として位置づけるべきです。
固定金利への借り換え
変動金利で借りている方が、金利上昇リスクを避けるために固定金利に借り換えるケースもあります。
ただし、注意点があります。
固定金利は変動金利に先行して上昇する傾向があるため、「変動金利が上がってから固定に切り替えよう」と考えていると、すでに固定金利も上がっている可能性があります。
借り換えのタイミングは慎重に検討が必要です。
まとめ:あなたの「最適解」を見つけるために
繰り上げ返済は万能薬ではありません。
金利環境、住宅ローン控除の残期間、あなたのライフプラン、手元資金の状況、リスク許容度。
これらを総合的に判断して、「あなたにとっての最適解」を導き出す必要があります。
本記事の判断フローをまとめると
- まず、生活防衛資金(6ヶ月分+教育費+緊急資金)は確保されていますか? → NOなら、繰り上げ返済より貯蓄が優先
- 住宅ローン控除期間中ですか? → YESで金利が0.7%以下なら、控除期間終了後に検討
- 借入金利は何%ですか? → 1%を超えているなら、繰り上げ返済の効果大
- 長期投資を継続できますか? → YESなら、投資との比較検討も視野に
- 変動金利で借りていて、金利上昇が不安ですか? → YESなら、「繰り上げ返済資金のプール」戦略を検討
2026年は「金利のある世界」が本格化する年になります。
これまでの「低金利が続く」という前提は、もはや成り立ちません。
だからこそ、今一度、ご自身の住宅ローン戦略を見直してみてください。
「なんとなく繰り上げ返済」でも「なんとなく投資」でもなく、根拠を持った判断があなたの家計を守ります。

