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「商社不要論」とは何だったのか?バフェットが買う本当の理由

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「商社不要論」とは何だったのか?バフェットが買う本当の理由

「商社はいずれ消える」。20年前くらいまで、就職活動の現場でも、経営学のテキストでも、これは半ば常識として語られていました。

ところが2026年5月、米バークシャー・ハサウェイの株主総会で、新CEOのグレッグ・アベル氏は日本の総合商社株について「我々は永遠の投資と考えている」と明言しました。

同社の保有比率は三菱商事10.8%、三井物産10.4%、伊藤忠10.1%、丸紅9.8%、住友商事9.7%、5社合計の保有時価総額は2025年末時点で354億ドル(約5兆4,800億円)に達しています。

「不要」とされた業態に、世界一の投資家が5兆円を投じ続ける。

この一見矛盾した現実の裏側には、日本人の多くが見落としている「商社の正体」が隠されています。

本記事では、商社不要論の歴史を振り返りつつ、バフェット氏が見抜いた商社の本質、そして個人投資家が知っておくべき注意点まで、ファクトベースで解き明かしていきます。

目次

誰もが「商社は終わる」と語った

商社不要論は、1980年代から2000年代にかけて、二度にわたって日本のビジネスシーンを席巻しました。

素材メーカーが独自の販売網

最初の波は1980年代です。

素材メーカーが資金力を高めて独自の販売網を構築するようになり、商社を介さない取引が広がりました。

中小企業向け融資に都市銀行が進出したことで、商社金融の存在意義も低下しました。

これが第一次の商社不要論です。

インターネットの普及

第二の波は1990年代後半。

インターネットが本格普及すると、「中間業者は中抜きされる」という論調が一気に強まりました。

90年代に入ると「商社の中抜き現象」と呼ばれる、商社を介さずに海外と直接取引する企業が増え、さらにバブル崩壊による景気悪化で商社は厳しい状態に陥ったのです。

三菱商事の取り組み

三菱商事自身も、自社の歴史を振り返る中で「商社不要論」の存在を率直に認めています。

1980年代半ばの円高不況とそれに続くバブル経済、およびその崩壊を経て、総合商社を取り巻く事業環境は厳しさを増し、いわゆる「商社不要論」が唱えられる中、三菱商事は「仲介役」から一歩踏み出し、川上・川下へのマイノリティ出資による取引量の維持・拡大や、中間流通事業者としての付加価値をもたらす機能強化に取り組んだのです。

つまり、「商社不要論」は決して的外れな空論ではありませんでした。

当時の総合商社のビジネスモデル、すなわち「手数料を取って仲介する」という業態に限れば、論者たちの予測は半分正しかったのです。

それでも商社は消えず、過去最高益を更新した

ここで一つ、皆さんに問いたい点があります。

「不要」と言われた業態が、なぜ消えるどころか過去最高益を連発しているのか?

答えはシンプルです。

商社は「仲介業者であることをやめた」からです。

「それまで商社のビジネスは、原料の調達など『川上』を扱うものが主だった。

それが90年代後半から、川上だけでなく川中、川下までを扱う動きが加速していき、一連の流れをつなげて進化させていく『バリューチェーンの構築』へと変化した。

実際に伊藤忠商事が98年にファミリーマートを西友から買収した時は、私もとても驚いた。これは元伊藤忠商事の人事担当者の証言です。

商社はこの30年間で、仲介手数料モデルから、事業会社の経営に踏み込む「事業投資・事業経営モデル」へと完全に脱皮しました。

ファミリーマートは伊藤忠の連結子会社、三菱商事はローソンを子会社化し、各社が資源・エネルギーの権益を直接保有しています。

そして、この変身を世界の誰よりも早く、そして正しく評価したのが、ウォーレン・バフェット氏でした。

バークシャー・ハサウェイの商社株保有比率

まず、数字を整理しておきましょう。

バフェットの会社バークシャー・ハサウェイが商社株を買い始めたのは、世間が思っているよりずっと前です。

2019年7月から商社5社への投資をスタートし、20年8月には各社の株式の約5%を保有していると発表しました。

その後、保有比率は段階的に引き上げられ、2025年末には主要3社で10%超に到達しています。

バークシャー・ハサウェイは、2025年年次報告書の中で、日本の投資先について「米国の主要投資先と同様に、重要性と長期的な価値創造機会の面で比較できる」と述べています。

これはかなり強い表現です。

アップル、アメリカン・エキスプレス、コカ・コーラ、ムーディーズといった米国の主力投資先と、五大商社を同じ文脈で語っているからです。

2025年末時点の保有状況を表にすると、以下のとおりです。

銘柄2025年末の保有比率取得原価時価2025年配当
三菱商事10.8%42.48億ドル92.07億ドル2.73億ドル
伊藤忠商事10.1%41.65億ドル88.86億ドル1.81億ドル
三井物産10.4%34.90億ドル87.85億ドル2.01億ドル
丸紅9.8%15.72億ドル44.68億ドル1.05億ドル
住友商事9.7%19.07億ドル40.22億ドル1.02億ドル

数字を見ると、単に「株価が上がったから成功した」という話ではないことが分かります。

バークシャーにとって重要なのは、取得原価に対する配当利回りです。

5社合計の取得原価153億8200万ドルに対し、2025年配当は8億6200万ドル。

取得原価ベースではかなり大きなキャッシュリターンになっています。

しかも、円建てで低コスト調達をしているため、受取配当と調達コストの差が投資妙味を生みやすい構造です。

つまり、バフェット氏の商社投資は「日本株が安いから買った」というより、「低コストの円資金で、長期にキャッシュを生む事業ポートフォリオを買った」と見るべきなのです。

バフェットが10%超まで買い増した「本当の理由」

なぜバークシャーは商社株を買い続けるのでしょうか。

理由は大きく3つあります。

商社の事業構造がバークシャー自身に酷似

一つ目は、商社の事業構造がバークシャー・ハサウェイ自身に酷似している点です。

総合商社は資源・エネルギーから自動車、小売り、アパレル、食料まで幅広い事業を手掛ける。

バフェット氏の投資哲学である「理解できるビジネス」に該当し、バークシャーも米コカ・コーラや米石油・ガス大手のシェブロン、米カジュアルアパレルのフルーツオブザルームなどに投資している。

双方ともコングロマリットで成長しているのです。

つまり、バフェット氏は鏡を見ているような感覚で商社を眺めていたわけです。

「俺たちと同じことをやっている、しかも安く売られている」と。

株主還元の質の高さ

2つ目は、株主還元の質の高さ。

商社5社はいずれも年間配当額を維持または増額する累進配当を導入し、三菱商事が最大1兆円の自社株買いを打ち出すなど、株主還元策を拡充してきた。

バフェット氏も「5社はいずれも適切なタイミングで増配し、合理的な判断で自社株買いを実施している。

経営陣の報酬も米国企業と比べて控えめだ」と歓迎していると報じられています。

経営陣の報酬が「控えめ」という指摘は、多くの日本人投資家が見落としがちなポイントです。

米国大企業のCEO報酬が数十億円規模になるなか、商社経営陣の報酬は控えめ。

これは「経営陣が株主のお金を浪費していない」という、バフェット流の重要なシグナルなのです。

円建て社債を使った錬金術

そして3つ目、もっとも構造的な理由。

バフェット氏の日本株投資は、単なる「割安株への長期投資」ではありません。

円安と日米金利差を逆手に取った、極めて巧妙な金融設計が組み込まれているのです。

仕組みはこうです。

バークシャーは日本市場で円建ての社債を発行します。

バークシャーは2019年から円建ての社債を発行しており、借入はすべて固定金利。

日本は現在、利上げ局面にあるが変動金利のものはない。

低利の円資金を調達し、その円で日本の商社株を購入する。

ここに、信じがたいレベルの収益構造が生まれます。

円建て債務の金利コストは約1億3,500万ドルであるのに対し、2025年の日本の商社への投資から期待される年間配当収入は約8億1,200万ドルとのこと。

借入コストの約6倍の配当収入が、毎年自動的に入ってくる計算です。

しかも為替リスクは大幅に減殺されます。

円で借りて円で買っているため、円安が進んでも借金の円建て負債と資産が相殺されるからです。

実際の含み益は驚異的な水準に達しています。

含み益97億ドル、為替差益23億ドル、合計120億ドル。年間配当8.1億ドルから金利コスト1.3億ドルを差し引いた6.8億ドルのキャッシュフローを生み出している試算もあります。

ここで重要な視点を提示します。

私たち個人投資家が「バフェットが買っているから商社株を買う」というのは、表面しか見ていないということです。

バフェット氏は、商社株を買う「外貨借入」も同時に組成しているからです。

私たち個人投資家には円建てで超低利の社債を発行する手段はありません

同じ商社株を買っても、構造的なリターン格差が生じる点は、冷静に押さえておくべきでしょう。

新CEOも「永遠の投資」を表明、東京海上にも資金が向かった

「バフェット氏が退任したら、商社株は売られるのではないか」

そんな憶測も流れました。

しかしその懸念は、2026年3月以降、完全に払拭されました。

2026年3月23日、東京海上ホールディングスは米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイから約2,874億円の出資を受け入れ、戦略的提携を結んだ。

バークシャー傘下の再保険事業の中核会社に対し、当初比率は約2.5%、割当価格は1株当たり5,962円で、23日の終値5,857円を1.8%上回る水準でした。

この出資の意味は重要です。

バフェット氏が経営の一線を退いてから初の大型投資案件で、共同で企業買収も実施する計画。

新生バークシャーの投資モデル変革に向けた布石と日経新聞は分析しています。

そして同年5月、株主総会でアベル新CEOは商社と東京海上HDの両方について「恒久的な投資先として捉えている」「保険事業や企業のM&A(合併・買収)などで協力する考え」と表明しました。

注目すべきは、アベル氏の発言のニュアンスです。

「これは金融取引ではなく戦略的な関係です。私たちは東京海上への2.5%の投資を大変気に入っており、長期的な投資となるでしょう。

これは、私たちが日本で行っている他の5社との投資と同じタイプのもので、投資そのものよりも、私たちが日本で築きたいと考えている関係性を重視している」。

「金融取引ではなく戦略的関係」

この一言に、現代のバークシャー流投資の本質が凝縮されています。

安く買って高く売る取引(トレーディング)ではない。

長期にわたる事業パートナーシップとしての投資なのです。

そしてこのスタンスこそ、まさに現代の総合商社が事業会社に対して取っているスタンスそのものです。

「商社不要論」が見落とした、たった一つの本質

ここまで読んでいただければ、「商社不要論はなんだったのか」という問いの答えが見えてきます。

商社不要論は、「総合商社」という固有名詞を、ビジネスモデルの中身ではなく「仲介業者」という古い定義で捉えていました。

だから「中抜きが進めば不要になる」と論じたのです。

ところが現実の総合商社は、ビジネスモデルを完全に入れ替えていました。

時代商社のビジネスモデル主な収益源
1980年代まで仲介・トレーディング取引手数料
1990年代~2000年代バリューチェーン構築事業投資収益
2010年代~現在コングロマリット型事業投資家連結子会社・関連会社の利益

つまり、「商社」という看板はそのままに、中身は完全に別物になっていたのです。

商社不要論が見誤ったのは、「商社の見た目」です。

現在はバフェット氏のバークシャーに近い多角的投資持株会社になっているのです。

しかし、多くの人は昔の印象のまま。

そのため、長年株価も安値で放置され続けていたのです。

私はここに、商社不要論を巡る最大の皮肉を感じます。

「不要」と論じた人々は商社の看板を見ていた。

バフェット氏は商社の中身を見ていた。

同じものを見ているようで、まったく違うものを見ていたわけです。

そして、これは投資全般に通じる教訓でもあります。

業種や業態のラベルではなく、「いま現実に何をやっている会社なのか」を見る目を持つこと。

商社不要論の失敗は、私たちの投資判断にとっての反面教師でもあるのです。

個人投資家が知っておくべき3つの注意点

もちろん、バフェット氏が買っているからといって、個人投資家が無条件で商社株に飛びつくのは危険です。

冷静に押さえておくべき注意点を3つ整理します。

すでに大きく値上がりしている

2019年のバフェット氏投資開始以降、商社株は世界的な注目を浴びて株価が上昇しました。

長年、安値で放置された株が大きく上がったのです。

バフェット氏自身も「価格次第だ」と明言している以上、割安感が薄れた銘柄には手を出さない可能性は残ります。

ハンディキャップを理解する

前述のとおり、バークシャーは低利の円建て社債で資金調達しています。

個人投資家は信用取引で円を借りて買うことも可能ですが、金利水準やリスク管理の難易度は別次元です。

保有期間の前提が違う

バフェット氏は「今後50年は売らない」と発言しています。

これは、短期的な株価変動を完全に無視できる前提があってのことです。

生活費の半分を商社株に投じるような集中投資は、たとえ商社が日本版バークシャーであっても、リスク管理の観点からは避けるべきです。

リスクの観点でいえば、商社は依然として資源価格や為替の影響を強く受けるセクターです。

商社5社の2026年3月期決算では結果に明暗が分かれたとも報じられており、5社をひとくくりにせず、各社のビジネスポートフォリオを個別に評価する視点が必要になります。

それでも、コア・サテライト戦略のコア部分の一角として、長期保有前提で組み入れる選択肢としては、十分に検討に値する銘柄群だと言えます。

NISAの成長投資枠や、つみたて投資の応用先としても、相性は悪くありません。

まとめ:商社は「日本版バークシャー」だった

振り返ると、商社不要論は完全に間違っていたわけではありません。

古い商社機能は、確かに不要になりました。

単なる仲介。単なる口銭。単なる情報格差。その価値は、デジタル化によって削られました。

しかし、総合商社はそこで止まりませんでした。

自ら事業に投資し、経営に関与し、資源を押さえ、物流を動かし、金融を組み合わせ、リスクを引き受ける企業へ変わりました。

つまり、不要になったのは「昔の商社」です。

生き残ったのは、「不確実性を収益化する商社」です。

バフェット氏が買っているのは、後者です。

ここを取り違えると、商社株の本質は見えません。

商社不要論とは、過去の商社を見て、未来の商社を見誤った議論だったのではないでしょうか。

そして投資家にとっては、その見誤りこそがチャンスでした。

市場が「古い」「分かりにくい」「資源頼み」と見ていた企業群が、実はキャッシュを生み、株主還元を強め、世界の複雑さを利益に変える構造を持っていた。

バフェット氏は、そこを見抜いたのだと思います。

そして同じ罠は、いまも私たちの投資判断に潜んでいます。

「銀行不要論」「リアル店舗不要論」「人材エージェント不要論」

形を変えて何度でも現れる、業態ラベルだけを見た早すぎる弔辞。

私自身も投資家として、企業を「業種で語る」のではなく「中身で語る」習慣を、改めて大切にしたいと感じます。

商社株を買うかどうかは個別の判断ですが、商社不要論から得られる教訓は、すべての投資家にとっての普遍的な財産です。

NISAやiDeCoで長期投資を実践している方は、ぜひ「保有銘柄の中身を、業種ラベルを外して見直してみる」時間を取ってみてください。

バフェット氏が商社に見出した価値と同じレベルの宝が、意外なほど身近な銘柄に眠っているかもしれません。

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この記事を書いた人

豊かに生きていく上で必須なのがお金の知識です。
しかし、日本では「お金」が汚いものという認識が根強く、あまり勉強されてきませんでした。そのため今後は老後破産が増えてしまうなんて話もありますね。
そんな世の中を少しでも変えたいという強い信念を元に「お金に生きる」を立ち上げました。
投資歴15年以上、社会保険労務士、中小企業診断士、簿記1級、1級販売士、ファイナンシャルプランナー2級、年金アドバイザー3級持ちの私が「お金」についてどこよりもわかりやすくお伝えることを目指していきます。
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