久々にIPOに当選しました。
アイ・グリッド・ソリューションズです。
今回は当選したのもあり、アイ・グリッド・ソリューションズのIPOについて分析したいと思います。
「やばい」の正体は業績ではなく需給にある
まず結論からお伝えします。
アイ・グリッド・ソリューションズ(証券コード603A)は、業績だけを見れば「やばい」どころか、2026年のIPOの中でもかなり優等生の部類です。
2025年6月期の経常利益は前期比2.1倍の23.9億円、ROEは27.6%と高水準でした。
では、なぜ検索候補に「アイ グリッド ソリューションズ やばい」と出てくるのでしょうか。
答えは需給、つまり株の売り買いのバランスにあります。
今回のIPOは公開株数約1,235万株のうち、売出(既存株主の換金売り)が約805万株と全体の7割超を占める構成です。
関西電力やシグマクシス・ホールディングスは保有株を全て手放し、ベンチャーキャピタル(VC)の保有分は上場後180日のロックアップ(売却禁止期間)が明けると市場に出てくる可能性があります。
吸収金額は約88億円と、東証グロースの案件としては明確に大型です。
つまりこの銘柄は、「事業のやばさ」ではなく「売り圧力のやばさ」が警戒されている案件なんですよ。
だからこそ、私はこう考えています。
この銘柄の本当の勝負は、初値ではなくロックアップが切れる181日目から始まる。
初値の瞬間だけを切り取って「儲かった・損した」と騒ぐのは、マラソンのスタート100mだけ見て順位を語るようなものです。
この記事では、スタートからゴールまでの全体像を、当選者の目線で分解していきます。
事業内容:スーパーの屋根を「発電所」に変えるビジネス
アイ・グリッド・ソリューションズの事業内容を一言で表すなら、「商業施設の屋根を借りて発電所にし、その電気を売る会社」です。
2004年にコスト削減のコンサルティング会社として大阪で設立され、2015年に現社名へ変更しました。
事業は2本柱で構成されています。
- GXソリューション事業: スーパーや物流倉庫の屋根に太陽光パネルを設置し、その施設に電気を供給するオンサイトPPAが中心。顧客は初期費用ゼロで再エネを導入でき、契約期間は基本20年です。
- エナジートレーディング事業: 屋根で発電して使い切れなかった余剰電力を、法人や家庭向けに小売販売する事業。法人向け「循環型電力」、家庭向け「スマ電 ウィークエンドゼロ」などを展開しています。
GXソリューション事業
PPAとはPower Purchase Agreement(電力購入契約)の略で、発電設備を同社側が保有し、顧客は使った電気代を払うだけという仕組みです。
ここで注目したいのは、20年契約という長さです。
一度契約すれば20年間チャリンチャリンと売上が入る、典型的なストック型ビジネスなんですね。
長期思考の投資家が大好きなストックビジネスです。
エナジートレーディング事業
さらに同社の武器が、独自AIプラットフォーム「R.E.A.L. New Energy Platform」です。
約6,000事業所から蓄積したエネルギーデータをAIで解析し、発電予測や余剰電力の融通に活用しています。
晴れた日曜日、店が休みでも屋根は発電し続けます。
その「余った電気」を別の施設や家庭に回して収益化する仕組みは、太陽光を単に売る会社との明確な違いです。
実績も積み上がっています。
オンサイトソーラーの開発実績は2026年3月末で1,461施設・発電容量390MW、2022年6月期から2025年6月期の容量年平均成長率は58%でした(出典:同社目論見書、2026年)。
加えて契約済みの開発待ち案件が373施設あり、数年先の成長の「予約」がすでに入っている状態と言えます。
FIT(固定価格買取制度)という国の補助に依存しない自家消費モデルである点も、旧来型の太陽光関連銘柄と一線を画すポイントです。
かつてのFIT頼み銘柄は、買取価格の引き下げとともに業績が崩れていきました。
同社のモデルは顧客の電気代そのものが収益源のため、制度変更の影響を受けにくい設計になっています。
GX City
もう一つ、個人的に面白いと感じたのが「GX City」という構想です。
地域で生まれた再エネを地域で使い切り、再エネ自給率を高めながら脱炭素を進めるというコンセプトで、屋根上発電と電力小売という2本柱がここで一つの絵につながります。
単なる太陽光工事会社ではなく、地域のエネルギーインフラを面で押さえるプラットフォーマーを目指している、と読むのが正確でしょう。
ビジネスモデルを比喩で言えば、これは「屋根の不動産業」に近い存在です。
土地ではなく屋根という遊休資産を仕入れ、20年の長期契約で収益化し、余った分は転売する。大型案件一発勝負の再エネデベロッパーと違い、中小型案件を1,461件積み上げてきたことで、特定案件の失敗が全体を揺るがしにくい分散構造になっている点は、リスク管理の観点から評価できます。
業績:赤字19億円からの逆転劇は本物か
次に業績を確認しましょう。数字の推移がこちらです。
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 |
|---|---|---|
| 2021年6月期 | 149.7億円 | △19.5億円 |
| 2024年6月期 | 192.6億円 | 11.4億円 |
| 2025年6月期 | 229.4億円 | 23.9億円 |
| 2026年6月期(会社予想) | 254.6億円 | 24.9億円 |
| 2027年6月期(会社予想) | 309.6億円 | 30.8億円 |
(出典:同社有価証券届出書・会社発表業績予想、2026年)
収穫期に入った?
2021年6月期に19.5億円の経常赤字だった会社が、2023年6月期に黒字転換し、わずか数年で経常利益23.9億円まで駆け上がりました。
当期純利益は15.96億円、EBITDA(償却前利益)は50.6億円に達しています。
この損益計算書には「先行投資型ビジネスが収穫期に入った瞬間」が刻まれていう可能性があります。
PPAは設備を先に建てる商売なので、初期は減価償却費が重くのしかかる構造です。
それでもEBITDAは2022年6月期の4.4億円から2025年6月期の50.6億円へと急拡大しており、現金を稼ぐ力そのものが桁違いに伸びた証拠です。
売上総利益も同期間で24.8億円から60.6億円へ拡大しました。
売上の伸びが1.5倍程度なのに粗利が2.4倍になっているということは、単価や案件の質が改善している、つまり「量より質」の成長に転じたシグナルと読めます。
ただし、手放しでは褒められません。
設備投資に伴う借入
バランスシートを見ると自己資本比率は15.8%と薄く、設備投資を借入で賄う財務レバレッジの効いた構造です。
20年契約のキャッシュフローが返済原資になる設計とはいえ、金利上昇局面では利払い負担が利益を削るリスクを抱えています。
予想が急ブレーキ?
もう1点、気になる箇所があります。
2026年6月期の経常利益予想が前期比プラス4.5%と、急ブレーキに見えることです。
第3四半期時点で経常利益21.3億円と進捗は順調ですが、人件費や償却費の増加を織り込んだ保守的な計画なのか、成長鈍化の兆しなのか。
ここは上場後の決算で必ず確認したいチェックポイントです。
株主構成:「誰が売り、誰が残るか」で見える本音
IPO分析で私が最も時間をかけるのが既存株主の動きです。
数字は嘘をつきませんが、株主の行動はもっと正直だからです。
今回の売出しの構図を整理すると、こうなります。
- 全株売却して去る株主: 関西電力、シグマクシス・ホールディングス、芙蓉総合リースなど
- 1株も売らずに残る株主: 筆頭株主の伊藤忠商事(議決権24.7%)、THE FUNDなどの大口VC
しかも伊藤忠商事は、売らないどころか親引け(IPO時の優先割当)で最大50万株を追加取得する予定です。
事業シナジーを最もよく知る商社が買い増す一方、電力会社が全株手放す。
この対比は、同社の成長ドライバーが「電力小売」ではなく「商社的な面開発とデータ活用」にあることを示唆しているように読めます。
ここで、私がIPOの需給を見るときに使っている「需給三重フタ分析」を紹介します。
IPO銘柄の上値を抑える「フタ」は3枚あり、それぞれ開くタイミングが違うという考え方です。
| フタ | 中身 | 開くタイミング |
|---|---|---|
| 1枚目 | 売出株・公募株(約88億円分) | 上場日〜初値形成 |
| 2枚目 | VC・事業会社の継続保有分 | 180日後(2027年1月24日以降) |
| 3枚目 | ストックオプション約439万株 | 行使・売却の進行次第 |
1枚目のフタは初値で消化されます。
問題は2枚目と3枚目です。VC保有分のロックアップは2027年1月24日に解除され、行使価格60円・400円のストックオプションは公開価格770円に対して含み益が大きく、権利者には強い売却動機があります。
つまりこの銘柄は、初値を無事に通過しても、半年後と、その先のSO消化期という2つの関門が待っている構造です。
逆に言えば、フタが開いて株が売られる局面は、事業を評価する長期投資家にとって仕込み場になる可能性もあります。
補足しておくと、資本構成にはもう一つの特徴があります。
創業社長の持株比率が2.33%と低く、VCと事業会社が主導してきた「育てられた会社」の色が濃い点です。
オーナー経営の求心力を重視する投資家には物足りない一方、伊藤忠商事という後ろ盾がガバナンスと営業網の両面を支える構図とも解釈できます。
また、公開株のうち約204万株は海外投資家向けに販売されることが確定しており、国内個人だけで需給を支える案件ではない点も頭に入れておきたいところです。
将来性と妥当株価:PER12倍は安いのか
では、検索クエリにもある「将来性」と、私自身の問いである妥当株価を考えます。
公開価格770円に対する予想PER(株価収益率)は、2026年6月期予想ベースで約14.3倍、2027年6月期予想ベースで約12.4倍です。
経常利益が2割成長する計画の会社としては、東証グロースの中では控えめな値付けに見えます。
参考までに、同じグロース市場×電気・ガス業の過去IPOの初値騰落率は、デジタルグリッドがプラス17.5%、レジルがプラス0.4%、リニューアブル・ジャパンがマイナス7.6%でした。
派手に跳ねるセクターではないことが分かります。
実際、IPO情報各社の初値予想もおおむね700円から1,080円のレンジに収まっており、公開価格の1.5倍・2倍を狙うような案件ではありません。
妥当株価をどう考えるか。
私は「予想EPS×成長性に応じたPERの幅」で幅を持って見るようにしています。
2027年6月期の予想EPSは61.88円です。
仮にPER12倍なら約740円、15倍なら約930円、成長が加速して18倍まで評価されれば約1,110円という計算になります。
逆に26年6月期のような利益成長の踊り場が続けば、PER10倍・620円前後まで見られても不思議はありません。
つまり公開価格770円は、この幅のちょうど真ん中よりやや下。
「業績が計画通りなら報われ、鈍化すれば沈む」フェアな値付けというのが私の見立てです。
もちろんこれは断定ではなく、あくまで一つの物差しに過ぎません。
株価は需給と地合いで平気で3割動きます。
同日にビーエイブルとの同時上場が控える点も、資金分散の面では逆風です。
将来性の面では、企業の脱炭素対応が「任意の努力」から「取引条件」に変わりつつある流れが追い風です。
大手メーカーが取引先にまで再エネ利用を求める時代に、初期費用ゼロで屋根に太陽光を載せられるオンサイトPPAの需要は底堅いと考えられます。
開発残373施設という受注残も、その裏付けです。
ただし、将来性を語るなら裏側のリスクも同じ解像度で見なければフェアではありません。
私が目論見書から拾った主な懸念は次の3つです。
- 外部環境リスク: 電力市場価格、資材価格や工事費の高騰、天候、太陽光の出力制御など、自社で制御できない変数が収益を左右する点。
- 財務リスク: 自己資本比率15.8%の借入依存型モデルのため、金利上昇が20年契約の採算計算を直撃すること。
- 成長制約リスク: 設備投資の資金調達力と施工キャパシティが成長速度の上限を決めるため、「受注はあるのに作れない」事態も起こり得ること。
これらは同社固有の欠陥というより、PPAというビジネスモデルが宿命的に抱える性質です。
だからこそ、上場後は売上よりも「契約済み容量の積み上がり」と「有利子負債とEBITDAのバランス」を定点観測するのが、この銘柄との正しい付き合い方だと考えています。
まとめ
今回はアイ・グリッド・ソリューションズについて見てきました。
最近当選しづらくなったIPOで久々に当選したので分析してみました。
IPOとしての初値はそこまで期待できるものではなさそうですが、長期的に見てみると面白そうな銘柄ですね。
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