5億円で買ったフェラーリを8億円で売ったら、利益は3億円。
それなのに税金が3億4,900万円かかるという話が広がりました。
エイベックス松浦会長のXが発端です。
カラクリは「払っていない経費を払ったとみなす」税法のルール。
仕組みを知れば、旧車高騰時代のあなたの愛車売却にも必ず役立ちますよ。
結論:儲け以上の税金の正体は「みなし減価償却」
最初に結論からお伝えします。
フェラーリ売却で儲け以上の税金がかかるように見える正体は、減価償却費という所得税や法人税のルールです。
総合課税の譲渡所得を計算するとき、取得費は購入代金そのままではなく、減価償却費相当額を控除した金額とされています(出典:国税庁タックスアンサーNo.3152)。
つまり5億円で買った車でも、税務署から見た「元手」は5億円ではありません。
年数の経過とともに、元手は帳簿の上でどんどん目減りしていくのです。
市場では値上がりしているのに、税法の上では価値が減り続ける。
この「二つの時計のズレ」こそが、今回の騒動の本質です。
時計が2つあると考えると、一連の疑問がすべて整理できるからです。
詳しくは後半で計算例つきで解説しますね。
松浦会長のフェラーリで何が起きたのか
まず事実関係を整理しましょう。
エイベックスの松浦勝人会長は2026年7月22日、Xに税金をめぐる疑問を投稿しました。
数年前に世界で数百台しかないフェラーリの限定車を5億円で購入し、現在は8億円ほどの価値になっていたといいます。
松浦氏は「先日フェラーリを売却したのですが、日本では実際には支払っていない経費まで『支払ったもの』とみなされ、実際以上の利益があったとして課税されます」と自身の経験をつづっています。
さらに「同じケースでも、イギリスやドイツでは税金は0円。アメリカでも日本の6割ほど」とし、実際に車を買いに来たのは海外の人ばかりで、結局ヨーロッパへ売ることになったと明かしました。
3億円の利益が譲渡所得とすると、松浦氏の所得水準なら最高税率55%だとすれば条件次第では最大3億5,000万円程度の税金がかかる可能性もあるとのこと
数字だけ見ると「日本の税制は狂っている」と感じますよね。
ただ、感情で判断する前に、ルールそのものを正確に理解しておきましょう。
実はこのルール、あなたが普通の中古車を売るときにも同じように適用されるものなのです。
自動車売却の税金はどう計算?
個人が自動車を売却したときの税金は、その車が「何のための車か」で天と地ほど扱いが変わります。
- 生活に通常必要な車(通勤・買い物用など): 売却益が出ても非課税。日常生活に車が必要不可欠である場合は、売却して利益が発生しても課税対象になりません
- 生活に通常必要でない車(趣味のスポーツカー、レジャー用、コレクションの旧車など): 売却益は譲渡所得として課税
- 事業用の車: 個人事業なら譲渡所得、法人なら会社の利益として課税
サラリーマンが通勤用のプリウスを売って10万円得しても、税金はかかりません。
ここは安心してください。
問題は2つめの区分です。
趣味で持っているフェラーリや、近年価格が高騰している旧車は「生活に通常必要でない資産」に該当し、売却益が課税対象になります。
では、その売却益はどう計算されるのでしょうか。
計算式は「譲渡価額−(取得費+譲渡費用)−特別控除50万円」
そして所有期間が5年を超える長期譲渡なら、その2分の1だけが他の所得と合算されて総合課税されます(出典:国税庁タックスアンサーNo.1460、No.3152)。
50万円の特別控除と長期の2分の1課税。
一見すると納税者に優しい制度に見えます。
ところが、この計算式の「取得費」に大きな仕掛けが隠れているのです。
「税法時計と市場時計のズレ」を計算してみる
ここからが本題です。
あなたは自分の車の「税法上の元手」がいくらか、考えたことはありますか。
非業務用の車の取得費は、購入価額から減価償却費相当額を差し引いて計算します。
新車の法定耐用年数は6年ですが、非業務用の場合はその1.5倍の9年で計算するルールです(所得税法施行令85条)。
具体的には「取得費×0.9×償却率0.112×経過年数」で減価の額を求めます(耐用年数9年の旧定額法償却率が0.112のため)。
松浦会長のケースが非業務の自動車なのか、事業用としてなのかはわかりませんので、報道の数字をもとに単純化して計算してみましょう。
6年間保有した場合
仮に事業用として5億円の車を6年間保有したとします。(耐用年数6年とした場合)
- 年間の減価償却費相当額: 5億円×0.9×0.112=5,040万円
- 6年分の合計: 3億240万円
- 税法上の取得費: 5億円−3億240万円=約1億9,760万円
- 譲渡益: 8億円−約1億9,760万円=約6億240万円
実際の儲けは3億円なのに、税務上の利益は6億円超。
ちょうど2倍に膨らみました。
5年以上保有の場合長期譲渡で2分の1課税となりますので、課税対象は約3億円、松浦氏の場合は最高税率でしょうから約55%を掛けると約1.7億円となります。
5年未満の保有の場合
次に短期保有のケースを考えてみましょう。
4年保有の場合は、減価償却相当額が3億3,332万円。
税務上の取得費を約1億6,668万円となります。
8億円からこの取得費を引くと、課税対象となる譲渡益は約6億3,332万円。
これに約55%を掛けて、約3億4,900万円という結果となります。
話題となった数字ですね。
非業務用の場合は1.5倍の耐用年数
非業務用で耐用年数1.5倍の9年となった場合も見ていきましょう。
9年で減価償却する形になり、毎年5,040万円ずつ積み上がり、9年保有すれば取得費は4,640万円と、購入価額のわずか1割弱まで目減りします。
同じ条件で9年後に8億円で売却した場合、税務上の譲渡益は7億5,360万円。
実際の儲け3億円の約2.5倍です。
長期の2分の1課税を適用しても税額は約2億1,000万円となり、実際の儲けに対する負担率は約70%に達します。
なお減価の額には取得価額の95%という上限があるため、10年以上保有しても取得費は最低5%(このケースでは2,500万円)で下げ止まります(出典:国税庁 譲渡所得関係通達解説、所得税法施行令85条)。
身近な例で言えば、300万円で買った旧車を10年乗って500万円で売ると、儲けは200万円でも税務上の取得費は15万円。
譲渡益は485万円として計算がスタートするわけです。
個人事業・法人だと扱いはどう変わる?
読者の中には個人事業主や会社経営者の方も多いと思います。
この場合はどうなるのでしょう?
事業で使う車の売却は、また別のルールが適用されます。
保存版として一覧にまとめました。名づけて「クルマ売却・課税判定マトリクス」です。
| 所有形態 | 課税の有無 | 所得区分・扱い | 最重要ポイント |
|---|---|---|---|
| 個人・生活用 | 非課税 | 対象外 | 通勤・買い物用なら売却益が出ても申告不要 |
| 個人・趣味/旧車 | 課税 | 譲渡所得(総合課税) | みなし減価償却で取得費が目減り。50万円控除と長期1/2あり |
| 個人事業主 | 課税 | 譲渡所得 | 事業所得ではなく譲渡所得になる点に注意 |
| 法人 | 課税 | 固定資産売却益 | 会社の利益に合算。売却額は消費税の課税売上にも |
個人事業主が事業用に使っていた車を売却した場合、その売却益は事業所得ではなく譲渡所得として扱われます。
個人事業の方でも車を買ってしばらく乗っていると帳簿価格は1円まで下がります。
そこで車の乗り換えをすると思わぬ税金が発生することはよくあるんですよ。
50万円控除などはありますけどね。
法人の場合はシンプルで、売却益は固定資産売却益として他の利益と合算され、法人税等の課税対象になります。
個人のような50万円控除や長期2分の1の優遇はありません。
一方で売却損が出れば全額損金になるため、損が出そうな売却は法人のほうが救われやすいという逆転現象もあります。
税制がおかしいのか?冷静に考える
松浦会長の問い「この仕組みは本当に妥当なのか」に、私なりの答えを示します。
批判側の論点はもっともです。
使ってもいない経費を使ったとみなして課税ベースを膨らませるのは、担税力(実際に税を負担できる力)の観点から違和感があります。
松浦氏が指摘するとおり、高い税負担を嫌って買い手が海外勢ばかりになり、結果として希少な車が国外へ流出するという副作用も現実に起きました。
文化財的価値のあるクラシックカーが日本に残らない構造は、長期的には国の損失かもしれません。
一方で擁護側の論点もあります。
第一に、減価償却相当額の控除は「使用による価値減少分はすでに享受済み」という理屈で一応の整合性があり、事業用資産との公平性を保つ仕組みでもあります。
第二に、長期保有なら2分の1課税と50万円控除があり、株式の売却益が一律約20%課税なのと比べ、少額の売却ならむしろ有利な場面すらあります。
第三に、英独が非課税なのは動産譲渡益への課税思想自体が違うためで、単純比較で「日本だけ異常」とは言い切れません。
私の結論はこうです。
制度の理屈は通っているが、「値上がりする動産」の存在を想定していない点で時代遅れになりつつある。
減価償却は「モノは使えば価値が減る」という前提の制度です。
ところが旧車、腕時計、トレーディングカードなど、使っても値上がりする動産が現実に増えました。
税法時計が一方通行でしか進まないのに、市場時計は逆回転する。
この想定外のズレを制度がどう扱うかは、今後の税制改正論議で真剣に検討されるべきテーマだと考えています。
よくある質問
- 普通の中古車を売って利益が出たら確定申告は必要ですか?
-
通勤や買い物など日常生活に必要な車なら、売却益が出ても非課税で申告不要です。
趣味のスポーツカーや旧車など生活に通常必要でない車は、譲渡益から50万円控除後に残額があれば申告が必要になります
- 旧車の売却で税金を抑える方法はありますか?
-
所有期間5年超で売却すれば課税対象が2分の1になり、年50万円の特別控除も使えます。
購入時の契約書や整備・改良費の領収書を保管し取得費を立証することも重要です。
売却年をずらして控除を複数年使う工夫も有効です
- 法人名義と個人名義、車を持つならどちらが税金上有利ですか?
-
一概には言えません。法人は購入時の減価償却で節税しやすい反面、売却益は全額課税されます。
個人(非業務用)は経費化できない代わりに50万円控除と長期2分の1課税があります。
値上がりが見込める車か、使用実態はどうかで判断が変わるため専門家に相談を
まとめ
最後に、この記事の要点です。
- 生活用の車の売却益は非課税、趣味・旧車・事業用は課税対象
- 課税される場合、取得費は「みなし減価償却」で目減りし、非業務用は耐用年数1.5倍・9年で税法上ほぼゼロになる
- 50万円特別控除と長期譲渡の2分の1課税という緩和措置はある
- 個人事業は譲渡所得、法人は固定資産売却益と、所有形態で扱いが変わる
まずはこのルールを知っておくことが重要ですね。
にほんブログ村

