2026年2月9日、投資家の間に衝撃が走りました。
井村俊哉氏率いる株式会社Kaihouが、「和製バークシャー・ハサウェイ」を掲げ、同じタイミングで地盤ネットの株式をKaihou名義で直接取得したことが発表されています。
「え、fundnoteのファンドはどうなるの?」「ソフトバンクグループや光通信みたいになるってこと?」
SNSは瞬く間に騒然となりました。
この宣言の裏には、以前取り上げた2026年1月に表面化したfundnoteとの深刻な対立、そして井村氏が当初から温めていた「投資助言の先にある構想」があります。
本記事では、この宣言が投資家にとって何を意味するのかを、バークシャー・ハサウェイや光通信との比較を交えながら、冷静かつ多角的に読み解いていきます。
そもそもバークシャー・ハサウェイとは何か
「和製バークシャー」という言葉のインパクトは大きいですが、そもそもバークシャー・ハサウェイとはどのような会社なのでしょうか。
バークシャー・ハサウェイは、伝説的投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米国の投資持株会社です。
もともとは繊維メーカーでしたが、バフェット氏が1960年代に経営権を取得して以来、保険事業で得たキャッシュフロー(フロート)を元手に優良企業の株式を長期保有するスタイルで、世界有数の企業グループに成長しました。
その特徴を整理すると、次のようになります。
事業会社の完全所有
GEICO(保険)、BNSF鉄道、デイリークイーンなど、多数の事業会社を傘下に持ちます。
単なる「株を買う会社」ではなく、事業そのものを運営するコングロマリットです。
保険事業によるフロート
バークシャーの投資原資は、保険加入者から集めた「フロート(将来支払う保険金のために預かっているお金)」です。
この仕組みにより、実質的にコストゼロ、あるいはマイナスコストで巨額の投資資金を調達できています。
あまり語られていませんが、この部分が最大の強みかもしれません。
株主への手紙
バフェット氏は毎年、平易な言葉で経営哲学や投資判断を語る「株主への手紙」を公開し、圧倒的な透明性と信頼を築いてきました。
長期保有と集中投資
アップル、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレスなど、確信度の高い銘柄に大きく張り、10年、20年単位で保有します。
つまり、バークシャー・ハサウェイとは「安定したキャッシュフロー源を持ち、それを原資として優良企業に長期集中投資する持株会社」という仕組みそのものなのです。
Kaihouの「和製バークシャー宣言」で何が変わったのか
今回の発表で最も重要なポイントは、地盤ネットの株式が「fundnote名義」ではなく「Kaihou名義」で取得されるという点です。
これまでのKaihouファンドの仕組みでは、Kaihouは投資助言会社として銘柄選定のアドバイスを行い、実際の売買はfundnoteが行っていました。
つまり、すべての資産はfundnoteの管理下にあったのです。
しかし今回は、Kaihouが自社の資金で直接株式を取得しました。
これは従来の「投資助言」という枠組みを超えた、まったく新しい動きです。
ここで思い出していただきたいのが、2026年1月24日に起きた「腹割会」の事件です。
Kaihouの受益者限定イベントで、井村氏はfundnoteに対する不信感を爆発させました。
「Kaihouとfundnoteに信頼関係はない」「助言はちっぽけ。何の権力もない」「受益者を崖から落とすようなことをした」という衝撃的な発言が飛び出し、SNSは大炎上しました。
この背景を踏まえると、今回の和製バークシャー宣言は、単なるビジョンの提示ではなく、fundnoteの枠組みに依存しない「自立」への明確な意思表示と読み取れます。

fundnoteへの「投資助言」とどう違うのか
以前のKaihouの立ち位置は明確でした。
fundnoteが運用する公募投資信託「fundnote日本株Kaihouファンド」に対して投資助言を行う、という構造です。
この仕組みのメリットは、投資運用業のライセンス(取得のハードルが非常に高い)を持たなくても、投資助言業のライセンスだけでファンド運営に関与できる点にありました。
井村氏自身、当初は投資運用業の取得を目指していたものの断念し、fundnoteとの協業を選んだ経緯があります(出典:日経ビジネス, 2024年)。
しかし、この構造には根本的な制約がありました。「助言」はあくまで助言であり、最終的な売買判断はfundnoteが行う。
資産もfundnoteの管理下にある。井村氏自身が「助言はちっぽけ。何の権力もない」と語った通り、どれだけ優れた投資判断をしても、それが100%実行される保証はなかったのです。
fundnote側は2026年1月25日の声明で、「井村氏の発言には事実関係や実情を適切に反映していない点がある」と反論し、両者の溝は深まりました。
今回の和製バークシャー宣言で、Kaihouは自社名義で直接株式を取得する道を選びました。
これは、投資助言という「間接的な関与」から、自らがプリンシパル(当事者)として投資する「直接投資」への転換です。
ただし、ここで重要な注意点があります。
fundnote日本株Kaihouファンドの運用は現時点でも継続しています。
約380億円の純資産を抱えるこのファンドと、Kaihou独自の直接投資がどう共存するのか(あるいはしないのか)。この点はまだ不透明であり、受益者にとっては大きな関心事です。
地盤ネットへの投資から読み解くKaihouの戦略
今回、Kaihou名義で株式が取得された地盤ネット(6072)とはどのような会社でしょうか。
地盤ネットは、住宅地盤の調査・解析サービスを提供する企業です。
不動産の売買や建築に関連するニッチ市場で事業を展開しています。
30%超の保有するということは、単なるポートフォリオの一銘柄ではなく、経営に深く関与する意思を持っていることを意味します。
これはまさに「エンゲージメント投資」の実践であり、Kaihouが従来から掲げてきた「大義あるエンゲージメント」の具現化と見ることができます。
井村氏は以前から、IR・資本効率・ガバナンスの改善を通じて企業価値の向上を図る姿勢を示してきました。
個人投資家時代には地方銀行への投資で大株主となり、その後の業績改善と株価上昇を実現した実績もあります。
今回の地盤ネットへの投資は、こうしたエンゲージメント投資をKaihou自身の名前で、より大きなスケールで実行するという宣言と位置づけられます。
地盤ネットの箱化?
なお、SNSやまとめ記事では、「地盤ネットを箱化して和製バークシャーを目指す」的な説明が拡散しています。
つまり、地盤ネットをつかってバークシャー・ハサウェイみたいな投資会社を運営するってことが言いたいのでしょう。
これについては投資家は冷静になるべきです。
まず、いま出てるIRではkaihouが地盤ネットの株の取得しているのは31.18%だけです。
これだけでは当然ながら、井村市が地盤ネットのお金を使って自由に株の売買できるわけはありません。
また、地盤ネット側もIRで下記のように表明しています。
当社の経営方針、事業内容および業績への影響はありません。今後につきましては、当社は株式会社 Kaihou と建設的な協議を重ねながら、経営の独立性を維持しつつ、コーポレートガバナンスの強化および中長期的な企業価値の向上を目指してまいります。
出典:主要株主の異動並びにその他の関係会社の異動に関するお知らせ
また、パークシャハサウェイは保険事業などで潤沢なキャッシュがあり、それを投資に回せるという部分が強みです。
しかし、地盤ネットはそこまでキャッシュが充実しているわけでもありませんし、わざわざ地盤ネットを使ってやる意味が見出しにくいです。
すでに地盤ネットは上場しているというメリットはたしかにありますし、和製パークシャー宣言で下記のように語っていますので、そう思うのもわからなくはありませんが。
バークシャー・ハサウェイ(NYSE: BRK)のように、上場企業でありながら自己勘定による上場株運用を行う形態は、使命を達成する上で理想的であると識別しておりました
出典:和製バークシャー宣言
ですから今の時点では単なるパークシャハサウェイを目指すにあたっての第一弾の投資と考えるのが妥当な気がしますけどね。
投資家が冷静に考えるべきリスクと論点
ここまで読んで「井村氏のビジョンは素晴らしい」と感じた方も多いかもしれません。
しかし、投資判断には冷静なリスク評価が不可欠です。以下の論点は、避けて通ることができません。
投資原資の問題
まずは投資原資の問題です。
前述の通り、バークシャー・ハサウェイには保険フロートがあります。
日本でバークシャーのような立ち位置にいるソフトバンクグループや光通信にはストック事業がありますが、Kaihouの安定的な投資原資は見えていません。
fundnoteファンドからの助言報酬だけでは、大規模な直接投資の原資としては限定的です。
将来的に投資運用業の登録を取得するのか、あるいは上場して市場から資金を調達するのか。
それとも本当に地盤ネットを箱として使うのか。
このロードマップが不明確です。
金融規制のハードル
直接投資を拡大するには、金融商品取引法上の規制対応が不可避です。
さらに、fundnoteとの関係が悪化している中で、金融庁の審査が厳しくなる可能性を指摘する専門家もいます。
fundnoteファンドとの利益相反リスク
Kaihouが自社名義で投資を行いながら、同時にfundnoteファンドへの助言も継続する場合、利益相反の問題が生じる可能性があります。
同じ銘柄に両方から投資する場合、どちらの利益を優先するのか。
受益者保護の観点から、この点の透明性確保は極めて重要です。
それぞれ別の銘柄を選択するとなると範囲が狭まりますしね。
「人」への過度な依存
Kaihouファンドに投資した人の多くは、「井村俊哉」という個人の投資能力に期待して資金を託しています。
バークシャーも「バフェット頼み」という問題を長年抱えてきましたが、同社は数十年かけて後継体制を構築してきました。
Kaihouの場合、井村氏と竹入氏の2人体制から、持続可能な組織としてどう発展させるかが課題です。
「和製バークシャー」は夢物語か、それとも現実的な道筋か
バフェット氏自身、最初から巨大な投資会社を経営していたわけではありません。
1957年に25歳で始めた「バフェット・パートナーシップ」は、わずか10万ドル強の小さなファンドでした。
そこから13年間で年平均29%のリターンを叩き出し、信頼を積み重ね、1965年にバークシャー・ハサウェイの経営権を取得しました。
井村氏は100万円を元手に株式投資を始め、累計100億円の運用益を達成しています。
Kaihouファンドは設定からわずか1年で基準価額を約65%上昇させ、TOPIXを大きく上回りました。
実績だけを見れば、「和製バフェット」としてのポテンシャルは十分に示されています。
しかし、バフェットがパートナーシップからバークシャーに移行するまでには13年の時間と、織物事業(のちに保険事業)という「器」が必要でした。
Kaihouが真の「和製バークシャー」になるためには、以下の条件が揃う必要があるでしょう。
一つは、安定的なキャッシュフロー源の確保です。
事業会社の取得か、あるいはまったく新しい仕組みでの投資原資の創出が不可欠です。
二つ目は、金融規制への対応です。
投資運用業の登録、あるいは持株会社としての上場など、法的な「器」の確立が必要です。
三つ目は、組織体制の構築です。
井村氏個人の能力に依存する体制から、チームとしての投資判断が可能な組織への進化が求められます。
四つ目は、受益者との信頼関係の維持です。
fundnoteとの対立で一度揺らいだ信頼を、どう再構築するかが試されます。
個人投資家がこのニュースから学ぶべきこと
最後に、私たち個人投資家にとって、この出来事から何を学べるかを考えてみましょう。
一つは、「器の重要性」です。
どれだけ優れた投資家でも、投資のための「器」が適切でなければ、実力を十分に発揮できません。
井村氏がfundnoteとの協業で経験した制約は、個人投資家が投資信託を選ぶ際にも示唆に富んでいます。
運用者の能力だけでなく、運用体制やガバナンスの仕組みも重要な評価項目なのです。
もう一つは、「エンゲージメント投資の可能性」です。
単に割安な株を買って値上がりを待つだけでなく、企業との対話を通じて価値を引き出すアプローチは、日本の株式市場においてますます重要になっています。
Kaihouの挑戦は、その最前線に立つ試みです。
そして最も大切なのは、「期待と過信を区別する」ということです。
井村氏の実績は素晴らしいものですが、過去のリターンは未来を保証しません。
和製バークシャー宣言が実現するまでには、多くのハードルが存在します。
この挑戦を応援しながらも、自分の資産を託す判断は、冷静かつ慎重に行うべきです。
まとめ:Kaihouの挑戦は日本の投資文化を変えるか
Kaihouの和製バークシャー宣言は、日本の投資業界における一つの転換点になりうる出来事です。
個人投資家から出発し、公募投信の投資助言者となり、そして今、自らの名前で企業に直接投資する道を選んだ井村氏。
その歩みは、日本の資産運用業界がいかに「個人の才能」と「制度的な器」のミスマッチに苦しんでいるかを浮き彫りにしています。
fundnoteとの関係がどう決着するのか、金融規制のハードルをどう乗り越えるのか、そして安定した投資原資をどう確保するのか。答えはまだ出ていません。
しかし、一つ確かなことがあります。
井村氏の「ニッポンの家計に貢献する」というミッションは、日本の1,100兆円を超える家計金融資産の多くが預貯金に眠っている現状を変えようとする挑戦です。
その挑戦が、公募投信という器を超えて、バークシャー型の投資会社という新しい形を目指し始めた。
これは、井村氏個人の物語であると同時に、「貯蓄から投資へ」という日本全体の課題に対する、一つの壮大な実験でもあるのです。
個人的に同じ中小企業診断士である井村俊哉氏の挑戦を応援しています。
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