先日、自宅にEV充電設備を設置するために、電気工事の業者さんに現地調査に来てもらいました。
その時、なにげに立話をしていたのですが、その時の会話が強烈でした。
いやあ、これから新築とか大規模な工事をやろうとしてる人は、本当に地獄を見ますよ。正直、建設業界はかなりやばいところまで来てます
私も投資家として、日経新聞や各社のプレスリリースで「値上げ」のニュースは日々目にしています。
LIXIL、サンゲツ、旭化成など建設資材のメーカーが相次いで価格改定を行っていることは知っていました。
しかし、現場の最前線にいる人間の「やばい」という言葉には、活字にはない生々しい温度感がありました。
「何がそんなにやばいんですか?」と尋ねると、彼はため息混じりに答えました。
まず、 材料屋に見積もり依頼しても全然こない。価格が値上がり続けてて出せないんだと。今の金額で見積もり出しても翌週には赤字になるレベルです。家を建てるのを待ってる人がいるみたいですけど、あれ、一生建たなくなりますよ
しかし、果たしてその「価格が落ち着く未来」は本当に来るのでしょうか?
結論から申し上げましょう。
家を建てるのは待ったほうが良いのか?という問いに対する私の答えは、「ノー」です。
今回はこの話を掘り下げてみたいと思います。
「生コンがつくれない」現場を直撃する原油高の連鎖
2026年3月末、大阪府の生コンクリート業界団体に、緊迫した連絡が入りました。
生コンクリート(生コン)は、セメント・水・砂利などの骨材を混ぜてつくります。
骨材は船で運ばれることが多く、その船を動かすのに重油が必要です。
つまり、油が止まれば、骨材が届かず、生コンがつくれない。
生コンがなければ、家の基礎工事も構造工事もできません。
背景にあるのは、中東情勢の緊迫化です。
2026年2月末から始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、ホルムズ海峡が事実上封鎖される事態に発展。
世界の原油産出量の約2割が通過するとされるこの海峡が通航困難になったことで、原油・天然ガス価格が急騰しています(出典:大和総研, 2026年3月25日)。
日本政府は3月中旬に石油の民間備蓄15日分の放出に踏み切りました。
国家備蓄も全国11カ所から順次放出する方針です。
しかし、現場の声は厳しい。
備蓄を放出しても、実際に末端まで油が届くには約1カ月かかるといわれています。
その間に骨材が届かなくなるかもしれないという懸念は消えません。
関東でも、生コン車やダンプカー向けの軽油に不足感が出始めており、市中のガソリンスタンドで割高な単価で給油している状態。
ある業界関係者は「お金で解決している状態で、経営を圧迫し始めている」と明かしています。
ここで重要なのは、生コン不足は「生コンだけの問題」ではないということです。
ほとんどの建設工事には生コンが不可欠です。
住宅の基礎、マンションの躯体、道路の舗装。
生コンの供給が滞れば、あらゆる工事が連鎖的にストップする可能性があるのです。

「値上げラッシュ」の実態。2026年春、何がどれだけ上がったのか
原油高の影響は、生コンだけにとどまりません。
2026年春、建設資材は一斉値上げの嵐に見舞われています。
具体的に見ていきましょう。
断熱材:受注制限・一部生産停止
旭化成建材は2026年3月31日、主力断熱材「ネオマフォーム」「ネオマゼウス」について、4月1日受注分から受注制限・納期調整を実施すると発表しました。
一部品種は生産停止に追い込まれています。
理由は「原料調達そのものに重大な制約が生じている」ため(出典:旭化成建材プレスリリース, 2026年3月31日)。
断熱材がなければ、2025年4月に義務化された省エネ基準を満たす住宅はつくれません。
これは致命的です。
旭化成のネオマフォームだけでなく他社も値上げが続いています。
住宅設備:LIXIL、平均3〜15%値上げ
LIXILは2026年4月(一部5月)から、住宅サッシ・ドアを平均5%、トイレを平均6%、水栓金具を平均15%、キッチンを平均6%値上げしています(出典:LIXIL Newsroom, 2025年11月7日)。
アスファルト合材:全面値上げ
前田道路は2026年4月1日出荷分から、アスファルト合材の全面的な販売価格改定を実施。
主材料であるストレートアスファルトの仕入れ価格高騰と、製造工場の燃料費・物流コストの上昇が理由です(出典:前田道路プレスリリース, 2026年3月25日)。
有機溶剤・化学品:新規受付停止
塗料などに使われる有機溶剤を扱う三協化学は、中東情勢の影響で一時的に新規販売を停止。
出荷数量も前年実績ベースに制限されています(出典:三協化学お知らせ, 2026年3月19日)。
内装材:サンゲツも供給影響を発表
壁紙や床材大手のサンゲツも、中東情勢緊迫化に伴う商品供給への影響を公表しています(出典:サンゲツお知らせ, 2026年3月24日)。
ここに挙げたのは、ほんの一部です。
日本建設業連合会のデータによれば、イラン情勢悪化以前の段階で、すでに生コンは約4年前比で69%上昇。
板ガラスは約5年前比83%、アルミ地金は125%も値上がりしていました。
そこに今回の原油高が加わったわけです。
ある専門家の試算では、2026年の建設費上昇率はワーストシナリオで約5%。
これは工事原価ベースの数字で、ゼネコンの利益を含めたマンション価格に換算すると、上昇率は5%をさらに上回る可能性があるとされています。
原価1億円くらいのマンションが1億1,000万円以上になるとの試算もあります。
建設業の倒産が止まらない「つくる人」がいなくなる恐怖
資材の高騰だけではありません。もっと根本的な問題があります。
「つくる人」が、いなくなっているのです。
帝国データバンクの調査によると、2025年に発生した建設業の倒産は前年比6.9%増の2,021件。
4年連続の増加で、2013年以来12年ぶりに2,000件を突破しました(出典:帝国データバンク, 2026年1月13日)。
なかでも深刻なのが、「人手不足倒産」です。
建設業における人手不足を直接的な原因とする倒産は113件で、初めて100件を超えました。
建設業の社長の平均年齢は60.3歳。若手が入ってこないまま、ベテラン職人が引退していく
この流れは止められません(出典:帝国データバンク, 2026年1月13日)。
さらに、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。
これにより、従来のように長時間労働で工期を調整することが難しくなっています。
同じ工事でもより多くの人員が必要になり、工期も延びやすくなる。結果として、労務コストと間接費がダブルで膨らむ構造になっています。
EV充電工事の業者さんが「周りの業者もバタバタ潰れている」と言っていたのは、まさにこの現実を映しています。
冒頭の話に戻ると、私が工事を依頼しようとした業者さんの中にも、「今は新規の仕事を受けられない」と断ってきたところがありました。人が足りないのです。
これは何を意味するか。
たとえ資材が手に入ったとしても、工事をしてくれる業者がいなければ、家は建ちません。
あるいは、業者の取り合いになることで、施工費がさらに上がる。
資材が高い、人がいない、油がない。
この「三重苦」が、今の建設業界のリアルです。
「一度上がった価格は、なかなか下がらない」その構造的な理由
ここまでの話を聞いて、「中東情勢が落ち着けば、価格は下がるのでは?」と思う方もいるかもしれません。
残念ながら、それは楽観的すぎます。
理由は3つあります。
原油高は「トリガー」にすぎない
今回の値上げラッシュは、原油高がきっかけではありますが、原因はそれだけではありません。
建設費は2020年のコロナ禍以降、ウッドショック、半導体不足、円安、人件費上昇と、複数の構造的な要因が積み重なって上がり続けてきました。
国土交通省の建設工事費デフレーターによれば、2015年を100とした場合、2024年度には約134.8に達しています(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」)。
原油高は、すでにパンパンに膨らんだ風船にさらに空気を入れているような状態です。
仮に原油が落ち着いても、それ以前からの上昇分がリセットされるわけではありません。
値下げのインセンティブがない
メーカーにとって、一度上げた価格を下げる理由はほとんどありません。
建設業界全体で人件費が上がり続けている以上、仮に原材料費が一時的に下がっても、労務費やエネルギーコストの上昇分を吸収するために、値下げには踏み切りにくいのです。
前田道路のプレスリリースには「情勢が緩和され、アスファルト価格が有事前の水準に落ち着いた際には、速やかに元の販売価格へ引き下げる方針」と書かれていますが、これはあくまでアスファルト原料に限った話。
人件費や物流費まで含めたトータルコストが下がるとは限りません。
私が家を建てた3年前もウッドショックなどで値段が大幅に上がっていて、「落ち着くまで待て」とか言われていました。
しかし、実際にはその後も大きく値下がりすることはなく家の価格は上り続けていますね。
省エネ基準の強化で「安い家」がつくれなくなった
2025年4月から、すべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務化されました。
さらに2030年にはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準が義務化される予定です。
高性能な断熱材、ペアガラス以上のサッシ、高効率設備。
これらは住む人にとってはメリットですが、建築コストを確実に押し上げます。
つまり、制度的にも「以前のように安い家を建てる」選択肢がなくなりつつあるのです。
これは、かつてのオイルショック後の物価上昇と似た構図です。1973年の第一次オイルショック時も、原油価格は一時的に4倍に跳ね上がり、その後は落ち着きましたが、物価全体が元の水準に戻ることはありませんでした。
価格の「ラチェット効果」(一度上がると下方硬直性が働く現象)は、建設業界でもまさに起きているのです。
投資家が見るべきポイント、建設セクターの「勝者」と「敗者」
投資家の方にとって、この建設業界の混乱はリスクでもありチャンスでもあります。
注意すべきリスクとして押さえておきたいのは、まず建設コスト上昇による不動産開発プロジェクトの採算悪化です。
工事費が5%以上上がれば、利回りの薄い物件は計画段階で中止に追い込まれます。
実際に「令和の建設費高騰」で工事断念が相次いでいるという報道もあります。
名古屋鉄道が名古屋駅前の大規模な計画を中止したのは記憶に新しいですね。
また、中小の建設関連企業への投資は要注意です。
帝国データバンクの分析にもあるとおり、増収でありながら運転資金需要に対応できず倒産するケースが多発しています。
売上が伸びているからといって安心できない、建設業特有の資金繰りリスクがあります。
生コンが入らず、工事が数ヶ月止まってしまうと持たない企業が多いという指摘をする専門家も多いです。
家を建てる側で一番怖いのは建設中の倒産ですね。

一方で、恩恵を受けうるセクターもあります。
大手ゼネコンは、受注残の豊富さと価格交渉力で、コスト上昇をある程度転嫁できるポジションにあります。
建設資材メーカーも、寡占化が進んだ分野(セメント、板ガラス等)では値上げが通りやすい構造です。
また、中古住宅のリノベーション関連は、新築が高くなればなるほど需要が流れてくる「受け皿」として注目されます。
住宅ローン金利の動向も見逃せません。
日銀が中東情勢による物価上昇を受けて「インフレファイター」としての姿勢を強めているという報道もあり、利上げが進めば住宅需要そのものに冷水がかかる可能性があります。
家を建てるのを待つべきか?
最後に、最も多くの方が気になるであろう問いに向き合います。
「家を建てるのは待ったほうがいいのか?」
正直に言えば、「待てば安くなる」という根拠は、現時点ではほとんど見当たりません。
建設費の高騰は一時的なショックではなく、人手不足・省エネ規制・資材の構造的な価格上昇という、複数の「元に戻りにくい要因」が重なっています。
業界では「住宅の建築工事費は今が一番安い」
つまり「将来に比べて今が安い」という言い方さえされています。
では、「今すぐ建てるべきか?」と聞かれれば、それも単純な話ではありません。
大切なのは、「待つか、建てるか」の二択ではなく、「どう備えるか」という思考に切り替えることです。
具体的なアクションとしては、以下の3つが考えられます。
見積もりの「有効期限」に注意する
資材価格が日々変動するなか、半年前の見積もりがそのまま通る時代ではありません。
契約前には必ず最新の見積もりを取り直し、「価格連動条項」(資材価格に応じて契約金額を調整する条項)の有無を確認してください。
補助金・税制優遇を最大限に使う
住宅ローン減税(最大13年)、こどもみらい住宅支援事業、自治体独自の補助金など、活用できる制度は複数あります。
建築費が上がっている分、制度を使いこなすことで実質的な負担を抑えることが重要です。
「新築一択」を見直す
中古住宅+リノベーションという選択肢は、新築価格の高騰によって経済合理性が増しています。
2026年度の税制改正では中古住宅への支援も拡充されています。
特に、立地や広さを優先したい場合は、検討の価値があるでしょう。
また、すでに建っている建売住宅という選択肢も値上がりの影響を受けずに済みますね。
まとめ
EV充電工事の業者さんとの何気ない会話から始まった今回の記事ですが、調べれば調べるほど、建設業界の危機的状況が浮き彫りになりました。
生コンの原料を運ぶ重油がない。
断熱材が生産停止。
住宅設備は軒並み値上げ。
そして何より、工事をしてくれる職人さんが年々減っている。
これらはすべて、ニュースのヘッドラインではなく、「あなたの家の値段」に直結する話です。
建設業界の「三重苦」は、一朝一夕には解決しません。
だからこそ、今の段階で正確な情報を知り、冷静に判断することが何より大切です。
この記事が、これから家を建てようとしている方や、投資判断を考えている方の「知恵」になれば幸いです。
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