金利がある時代にはいり、銀行口座に預金していてもほとんど意味がない。
そんな常識が崩れ始めています。
三菱UFJの富裕層クラブ、三井住友の株主優待など各行が預金集めに力を入れ始めたのです。
この記事では、銀行側の狙いと、私たちが本当に得する条件を数字で読み解きます。
銀行が価値を置き始めたのは「預金者」より「預金残高」
結論から言うと、預金の価値は見直されています。
ただし、最初にその価値を見直したのは預金者ではありません。
銀行です。
三菱UFJフィナンシャル・グループは2026年8月、富裕層向け会員組織「エムット Excellent Club」を発表しました。
三菱UFJ銀行に預かり金融資産3,000万円以上、または資産運用残高1,000万円以上が主な入会条件です。
会員には、年会費無料のプラチナカード、預金金利やローン金利の優遇、専門家相談、旅行・グルメ特典などを用意します。
会員組織は2027年3月に始まり、カードは2027年度上期に投入する予定です。
しかも、想定会員は75万人以上。
三菱UFJ銀行の個人顧客の約2%にすぎませんが、預かり残高は50兆円以上、個人顧客全体の約5割に達する見込みです。
わずか2%の顧客が半分の資産を握る構図ですね。(出典:三菱UFJ「エムット Excellent Club」のリリース)
三井住友フィナンシャルグループも動いています。
2026年5月にOliveの最上位「Olive Infinite」を追加。
さらに2026年9月30日を初回基準日として、Olive契約を条件に含む株主優待を導入しました。(出典:三井住友銀行「Olive Infiniteとは」、三井住友FG「株主優待のご案内」)
また、みずほ銀行も会員向けサービス「みずほプレミアムクラブ」を全面刷新し、旅行や人間ドックの割引を拡充を発表しています。
各行に共通するのは、高い金利だけを掲げてお金を集める方法ではありません。
カード、決済、証券、ポイント、相続、家族までつなぎ、資金をグループ内に長く置いてもらう設計です。
つまり、預金の価値を見直したのは、まず銀行だったってことです。
預金者にとっても追い風にはなりますね。
ただし、受け取れる利益は金利だけではなくなりました。
その分、条件も複雑です。
額面どおりに得だと受け取る前に、銀行側が何を買おうとしているのかを見ておきましょう。
なぜ2026年に銀行の預金集めが激しくなったのか
銀行にとって預金は、貸出や有価証券運用などに使う資金の土台です。
預金者へ払う金利より、貸出などで得る利回りが高ければ、その差が収益源の一つになります。
ゼロ金利が長く続いた時代は、銀行に預金が集まっても運用先の利回りが低く、預金残高を増やす価値は見えにくい状態でした。ところが金利環境が変わります。
日本銀行は2026年7月31日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利を1.0%程度で推移させる方針を決めました。
MUFGは2025年度について、円金利上昇を捉えた預貸金収益の増加などにより、業務純益が前年度比7,860億円増の2兆3,772億円になったと説明しています。
預金を含む金利ビジネスの回復が、利益につながった形です。
SMFGにも事情があります。
2025年度通期の投資家向け質疑では、個人預金残高で競合との差が残ると認め、さらなる追い上げを目指すと明記しました。
Oliveは約750万口座まで増え、次の課題は口座数だけでなく、そこへ残高と取引を集めることです。
狙う市場も巨大です。
2026年3月末の家計金融資産は2,386兆円。
そのうち現金・預金は1,126兆円で、47.2%を占めました。比率は5割を下回っても、1,000兆円を超える巨大市場に変わりはありません
一方、預金者も動き始めています。
NTTデータ経営研究所などが18歳以上1,061人に行った2025年調査では、回答不明者を除く26.6%が直近1年間に100万円以上を預け替えていました。
預け替え経験者の42.5%は「他行の方が預金金利が高いから」と回答しています。
銀行から見れば、金利だけで勝負すると、より高い金利を出す銀行へ資金が逃げかねません。
だからこそ、決済やポイント、相談サービスを重ねるのです。
銀行が欲しいのは、一時的に入ってすぐ出ていく預金ではありません。
給与、決済、証券と結びつき、簡単には移動しない「粘着性の高い預金」です。
金利は「預けた瞬間」に対して払う対価です。
これに対してカードの年会費免除や会員資格は、「1年後もそこに置き続けていること」に対して払う対価になります。
銀行が欲しいのは前者ではなく後者なのです。
なぜ滞留時間なのか。融資の原資になるのは、明日引き出されるかもしれない資金ではなく、動かないコア預金だからです。
「金利のある世界」では、預金の調達コストが上がる一方で、貸出から得られる利ざやも回復します。
だからこそ、逃げない残高の価値が跳ね上がりました。
三菱UFJのエムット Excellent Club
まずは三菱UFJフィナンシャル・グループの「エムット Excellent Club」について確認していきましょう。
最も気になるのは、3,000万円を置く価値があるかでしょう。
入会資格は次のいずれかです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本人会員の資格 | 三菱UFJ銀行の預かり金融資産残高3,000万円以上、または資産運用残高1,000万円以上 |
| 家族会員 | 本人会員の配偶者および3親等以内 |
| 入会金・年会費 | 無料 |
| 入会形式 | オプトアウト方式(資格を満たす顧客を順次招待) |
条件を満たす顧客は、本人による申し込みのほか、銀行から順次招待されます。
入会金と年会費は無料。
配偶者と3親等以内の親族も家族会員になれる仕組みです。
目玉はエムット Excellent Club カード プラチナ
目玉は会員限定の「エムット Excellent Club カード プラチナ」です。
アメリカン・エキスプレスブランドで、入会金・年会費は本人カードも家族カードも永年無料。
ポイント還元率は、カードの利用額ではなく三菱UFJ銀行への預かり残高に連動します。
預かり残高3,000万円以上で1.0%、預かり残高で還元があがり最大1.6%。
対象店舗のポイントアップは最大20%、クレカ積立は最大7%の予定です。
リリースには「本邦初となる本格的な銀行預かり残高連動型のクレジットカード」で「現在特許出願中」と明記されています。
還元率を決めるのが「いくら使ったか」ではなく「いくら置いてあるか」。
この一点に、今回の戦略のすべてが凝縮されています。
その他の特典
他の特典も、方向はまったく同じです。
- 会員専用リモートアドバイザリー「エムット Excellent Brains」(銀行・信託・証券の専門家と外部税理士法人にオンラインで相談可能)
- 会員限定の円定期・外貨定期・退職金定期の金利上乗せプラン
- 住宅ローン、自動車ローン、カードローンの金利優遇
- 窓口の優先来店・相談予約枠
- 本人の逝去後1年間、家族が会員資格を引き継げる家族承継機能
- リロクラブとの提携による全国20万種の優待(エムット Excellent Club クラブオフ)
私が唸ったのは、最後から2番目の家族承継機能です。
相続が発生しても1年間は家族会員が会員資格を使える。
相続をきっかけに資金が他行や証券会社へ流出するのを、1年かけて食い止める設計になっています。
三井住友はOlive Infiniteと株主優待
三井住友の戦略は、富裕層向け会員組織を前面に出す三菱UFJとは少し違います。
Oliveというアプリを中心に、預金、カード、決済、SBI証券、ポイントをつなぐ方式です。
最上位ランクの「Olive Infinite」の通常年会費は99,000円。
基本還元率はクレジットモード、デビットモードとも1.0%です。
クレカ積立最大6.0%、スマホのVisaタッチ決済などで最大8%〜最大20%
入会月の3カ月後末までに100万円以上を使うと10万ポイント。
継続特典は年間400万円利用で4万ポイント、700万円利用で11万ポイントとなっています。
年間700万円を対象決済に載せられる人なら、継続特典11万ポイントだけで年会費99,000円を上回ります。
とはいえ、特典を得るために不要な支出を増やせば本末転倒です。
もともとの年間決済額で届く人だけが比較対象になります。
Olive Infiniteの年会費無料条件を設定
三井住友の目玉はOlive Infiniteの年会費は99,000円(税込)が無料になるパターンがあることです。
具体的には以下の条件となります。
- 三井住友銀行の円普通預金残高500万円以上
- SBI証券残高500万円以上
- Olive残高(上記の合計)が5,000万円以上
さらに2回目以降の適用には、カードの年間100万円以上の利用が加わります。
なお、一つ下の「Olive プラチナプリファード」でも、通常年会費は33,000円(税込)が、Olive残高が合計3,000万円以上で年会費が無料になります。
年会費を「使った額」ではなく「置いてある額」で免除する。
三菱UFJが還元率でやろうとしていることと、三井住友の年会費でやろうとしていることはかなり似ているんですよ。
株主優待でOlive会員と預金残高を増やす
さらに三井住友の株主優待を新設し、株主をOliveへ連れてくる仕組みを構築しています。
初回基準日は2026年9月30日。
100株以上を1年以上継続保有すると5,000ポイント、1,000株以上を5年以上保有すると3万ポイントのVポイントが付与されます。
加えて、100株以上の株主には3カ月もの円定期預金へ年1.0%を上乗せするクーポンと、協賛イベントなどへの招待があります。
ただし、Vポイントとイベント特典には、翌年2月末時点でOlive契約があり、対象口座に15万円以上の残高があることなどが条件です。
定期預金クーポンもOlive契約が必要で、預入上限は1,000万円。
つまり、株主優待もOlive会員を増やしたり、預金口座を増やす目的でも利用されているってことですね。
私も三井住友の株主ですが、三井住友の口座には1万円しか入れていませんでした。
今回の株主優待で期限までに15万円は入れることになりそうです。
三菱UFJとOlive Infiniteは似ているようで違う
両行の施策を並べると、狙いの違いが見えます。
| 比較項目 | 三菱UFJ | 三井住友 |
|---|---|---|
| 中心サービス | エムット Excellent Club | Olive Infinite、Olive連動の株主優待 |
| 主な資産条件 | 預かり金融資産3,000万円以上、または資産運用残高1,000万円以上 | Infinite年会費無料は普通預金・SBI証券各500万円以上、合計5,000万円以上など |
| カード年会費 | 会員なら本人・家族とも無料 | 通常99,000円。資産条件などで無料 |
| 預金との連動 | 残高に応じたカード還元、預金金利優遇 | 年会費無料条件、Vポイントアップ、株主優待の定期預金クーポン |
| 証券との連携 | MUFGの証券、信託、将来はグループ残高へ拡張 | SBI証券をOlive残高に合算 |
| 家族・相続 | 3親等以内の家族会員、死亡後1年の承継猶予 | 家族カード、家族ポイントなど決済面が中心 |
| 現時点の注意 | クラブは2027年3月、カードは2027年度上期の予定 | Infiniteは提供中。年会費と利用条件の管理が必要 |
三菱UFJは、資産額を会員資格へ変え、富裕層の家族と相続まで囲う「会員制ウェルスマネジメント」に近い設計です。
三井住友は、Oliveを毎日使う金融OSにし、株主まで利用者へ変える「取引頻度型」の設計と読めます。
SMFG自身も、Oliveを中長期の顧客基盤拡大とリテール全体のデジタル化に使うと説明しています。
どちらが上かは、資産額だけでは決まりません。
MUFGの証券・信託・相続機能を使いたい人には三菱UFJが合います。
日常決済やSBI証券をすでに使い、条件を無理なく満たせる人ならOliveの方が自然です。
反対に、資産を各社へ分散している人は要注意。
特典のために一行へ集約すると、資産管理の自由度を下げる可能性があります。
さらに、利息の付く普通預金や定期預金は、1人につき1金融機関ごとに合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息が預金保険の対象です。
3,000万円、5,000万円という優遇条件と、預金保護の上限は別問題になります。
メガバンクだから絶対安全と断定せず、預金、証券、国債などの名義と保護制度を確認しておく方が堅実です。

得かどうかははどう判断する?
金利、無料カード、ポイントを別々に見ると、判断を誤りやすくなります。
そこで私は「預金の三重採点法」で考えることを提案します。
| 採点項目 | 計算するもの | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 1.金利リターン | 預金額×税引後金利×預入期間 | 年率表示でも、適用が3カ月なら受取額は4分の1程度 |
| 2.付帯リターン | 実際に使うポイント、年会費節約、サービス価値 | 使わないラウンジや相談を定価で足さない |
| 3.拘束コスト | 他行との金利差、資産移動、条件管理、投資商品の費用と値動き | 特典維持のための不要な決済や商品購入 |
計算式はシンプルです。
実質的な得=金利リターン+付帯リターン-拘束コスト
たとえば、生活防衛資金として500万円を普通預金で保有する予定だった人が、置き場所を三井住友銀行へ変えるケース。
このときの拘束コストは、500万円を株式で年5%運用した架空の利益ではありません。
生活防衛資金と株式は役割もリスクも違うからです。
比較すべきは、他の安全性と流動性が近い預金や個人向け国債などとの金利差になります。
反対に、Olive Infiniteを無料にするため、長期投資中の株や投資信託を500万円分売って普通預金へ移すなら話は別です。
税金、売買機会、期待収益の低下を拘束コストに入れなくてはなりません。
三菱UFJの無料プラチナカードも同じです。
「年会費無料だから得」ではなく、旅行、飲食、保険、積立還元を年間いくら使うかで採点します。
無料のサービスを使わなければ、経済価値はゼロです。
私自身、今回の発表で三井住友のOlive Infiniteと三菱UFJの口座開設を検討しています。
しかし、カードの格だけでは決めません。
私は投資家として、すでに持っている現金をどこへ置けば効率が上がるか、普段の決済と証券口座がどうつながるかを先に見ます。
特典を取るために資産配分を崩すなら、順序が逆だからです。
検討するときは「条件を満たすために、新しく何を買うか」ではなく、「今ある預金と取引を移すだけで何が増えるか」と問い直します。
この差が、得する人と囲い込まれる人を分けます。
預金争奪戦で投資家が得する条件、向かない条件
銀行の預金集めが進めば、金利以外の特典は増える可能性があります。
投資家にとっては、眠っていた待機資金や生活防衛資金に、追加の働きを持たせる好機です。
向いているのは、次のような人でしょう。
- 条件額以上の現金や運用資産を、すでに無理なく保有している
- 三菱UFJグループ、またはOliveとSBI証券を継続利用する予定がある
- カード決済額が、特典条件へ自然に届く
- 相続、不動産、資産管理の相談窓口を一本化したい
- 年1回は条件やサービス改定を確認できる
一方、次の人には向きません。
- 条件達成のために生活防衛資金まで投資商品へ回す
- 年会費やポイントを回収するため、支出を増やしてしまう
- 高い定期預金金利につられ、不要な投資信託や外貨預金を買う
- 預金保険の上限を超える資金を一行へ集中させたくない
- 複雑な残高判定日や利用条件を管理したくない
特に注意したいのは、保有効果です。
一つの銀行へ預金、カード、証券、ポイントを集めるほど、乗り換えは面倒になります。
これは銀行が狙う「粘着性」であり、利用者側から見ればスイッチングコストです。
特典は将来変わることがあります。
SMFGの株主優待ページにも、予告なく変更・終了する場合があると明記されています。
長期間の資産配分を、変更可能な優待だけで決めないでください。
また、預金金利が上がっても、物価上昇率を下回れば実質的な購買力は減ります。
預金は元本の安定性と流動性を担う資産であり、長期の資産形成をすべて代替するものではありません。
預金か投資か、二者択一で考える必要はないのです。
1~2年以内に使うお金や生活防衛資金は預金。10年以上使わない資金は、許容できるリスクに応じて長期・積立・分散投資。
両者の間に個人向け国債などを置く。お金の用途と時期で分ける方が合理的です。
まとめ
三菱UFJの富裕層向け施策、三井住友のOlive Infiniteと株主優待は、どれも預金の価値が戻ったことを示しています。
ただし、それは預金金利が上がるだけの話ではありません。
銀行は預金を入口に、決済、証券、資産運用、相続まで取引を広げようとしています。
利用者が得するのは、もともと置く予定だった現金に、ポイントや年会費優遇が追加される場合です。
特典のために資産配分や支出を変えると、拘束コストが利益を上回りかねません。
今日やることは一つだけです。
手元の現金を「生活費」「1~2年以内に使うお金」「当面使わない待機資金」に分け、銀行を移してよい金額を書き出してください。
3分でできます。
その金額が出てから、預金の三重採点法で三菱UFJと三井住友を比べます。
銀行の条件から資産配分を作るのではなく、自分の資産配分に合う銀行を選ぶ。
この順番を守れば、預金争奪戦は私たちにとって追い風になります。
私は、派手な最大還元率より、何もしなくても無理なく続く仕組みを選びたいと考えています。
預金は増やすためだけのお金ではありません。相場が荒れたときにも、生活と投資判断を支える土台だからです
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