日産自動車はゴーン氏の問題があって以来、業績がかなり厳しくなっています。
そこに新型コロナの問題が生じたことから最近、様々な不穏な情報が出始めています。
まずひとつ目が日本政府が日産自動車とホンダを合併協議させようと画策して失敗したという話です。
詳しくはこちらの記事を御覧ください。
次に日本政策投資銀行の危機対応融資1,800億円のうち1,300億円政府保証を付けていた話です。(日産はこの件についてコメントを控えていますので報道ベースの情報です)
さらに海外で1兆1千億円の社債を発行するという話です。
特に政府保証の件はJALが2010年に法的整理になる前年2009年に政府保証で約670億円借り入れをしていたという話があるのでその二の舞になるのでは?とより注目が集まっています。日産の政府保証はその倍近い金額ですしね。
今回はそんな日産自動車は倒産するのか?について考えていきましょう。
日産の資金調達は厳しくなっている?
まず今回の様々な報道で一つ言えることがあります。
それは日産自動車の資金調達は厳しくなってきているということです。
政府保証1,300億円の借り入れ
まず、政府保証1,300億円の件です。
この件でまず分かることは通常の条件では貸し手となる金融機関がいなかった可能性が高いということです。
日本政策投資銀行が5月に決めた日産自動車への危機対応融資1800億円のうち、1300億円に政府保証を付けていたことが7日、分かった。返済が滞った場合、保証分の8割を国が実質補填(ほてん)するため、国民負担が生じる恐れがある。危機対応融資の政府保証額としては過去最大となる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日産は販売不振に陥るなど大きな打撃を受けた。関係者によると、政投銀の融資がなければ資金繰りが悪化する恐れがあり、緊急に政府保証付き融資を決めた。日産は多くの雇用や下請け会社を抱え、社会や経済への影響が大きく、大規模な融資を迅速に決める必要があると判断したとみられる。
出典:時事通信 日産に政府保証1300億円 8割国負担、過去最大より
政府からの保証ということは破綻をすれば損するのは政府です。
つまり、税金になって返ってくる話なんですよ。
当然、国民からの批判も多くなりますし、政府からの干渉も受ける可能性がありますから通常なら使いたくないはずです。(半沢直樹でも帝国航空で同様の話が展開されていますよね)
それを受け入れるということは一般的な借り入れでは貸してくれる金融機関がなかったと考えるのは妥当でしょう。
海外での社債発行
もう一つの海外での1兆1千億円の社債を発行も注目です。
社債の利回りは日経新聞の報道によると米ドル建てで3年債で3.04%、10年債で4.81%、ユーロ建てで3年債が1.94%、8年債が3.201%と現在の低金利状況を考えると比較的高めです。
こちらもこれくらい出さないと貸し手がいないということなのでしょう。
つまり、この2つの話からも日産自動車の資金調達は厳しくなってきているというのがわかりますね。
ただし、まだ資金調達できているので短期的ににどうこうなる話ではありません。
日産の経営成績
次に日産の経営成績を1年前の同期間で比較してみましょう。
なお、経営成績の見方についてはこちらの記事も合わせて御覧ください。
2021年3月期第1四半期:売上高(連結)
売上高は以下のとおりです。
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2021年3月期第1四半期 | 1,174,194百万円 |
2020年3月期第1四半期 | 2,372,422百万円 |
増減 | △1,198,228百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
約半分と大きく落ち込んでいます。
当然、新型コロナの影響が大きいわけですが、同業者と比較してその落ち幅は大きくなっています。
同業者との比較
他の国内自動車メーカーも悪化していますが、特に日産とグループ会社の三菱自動車は厳しい状況なのがわかりますね・・・
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2020年4月〜6月期 | 売上高 | 前年同期比 |
トヨタ | 4兆6,007億円 | -40.4% |
ホンダ | 2兆1,237億円 | -46.9% |
日産自動車 | 1兆1,742憶円 | -50.5% |
スズキ | 4,822億円 | -53.1% |
スバル | 4,580億円 | -49.3% |
マツダ | 3,766億円 | -55.6% |
三菱自動車 | 2,296億円 | -57.2% |
2021年3月期第1四半期:営業利益(連結)
次に営業利益です。
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2021年3月期第1四半期 | △153,926百万円 |
2020年3月期第1四半期 | 1,609百万円 |
増減 | △155,535百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
大きくマイナスとなっています。
当然売上が半分になっているわけですから固定費負担が大きい日産自動車のような業態は大きくマイナスとなってしまうのは仕方ない部分もあるでしょうが・・・
同業者との比較
こちらも他の国内自動車メーカーも悪化していますが、特に日産とグループ会社の三菱自動車は厳しい状況なのがわかりますね・・・
トヨタやスズキはこの状況でもプラスをなんとな維持しています。
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2020年4月〜6月期 | 営業利益 | 前年同期比 |
トヨタ | 139億円 | -98.1% |
ホンダ | -3,661億円 | 赤字転落 |
日産 | -1,539憶円 | 赤字転落 |
スズキ | 13億円 | -97.9% |
スバル | -157億円 | 赤字転落 |
マツダ | -452億円 | 赤字転落 |
三菱 | -533億円 | 赤字転落 |
ちなみに今話題の電気自動車メーカーテスラの同期間の業績はこちらの記事を御覧ください。
2021年3月期第1四半期:経常利益(連結)
次に経常利益です。
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2021年3月期第1四半期 | △232,280百万円 |
2020年3月期第1四半期 | 35,328百万円 |
増減 | △267,608百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
こちらも当然大きくマイナスとなっています。
営業利益と比較してマイナス幅が大きいのは持分法による投資損失(84,655百万円)やデリバティブ損失(19,580百万円)の部分が大きいです。
持分法による投資損失はおそらくルノーの業績の反映ですね。ルノーもかなり業績は悪化しているのです。
ちなみに2020年3月期第1四半期は持分法による投資利益(33,124百万円)でした。
2021年3月期第1四半期:純利益(連結)
次に純利益です。
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2021年3月期第1四半期 | △285,589百万円 |
2020年3月期第1四半期 | 6,377百万円 |
増減 | △291,966百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
大きくマイナスとなっています。
経常利益と比較してマイナス幅が大きいのは特別退職加算金(40,085百万円)と新型コロナによる操業停止(39,335百万円)の部分が大きいです。
日産の財務状況
次に日産の財務状況を1年前の同期間で比較してみましょう。
倒産するかしないかの観点で言えばこの部分がとても大きいです。
なお、財政状態の見方についてはこちらの記事も合わせて御覧ください。
2021年6月30日:資産
まずは資産です。
2020年6月30日 | 15,820,833百万円 |
2020年6月30日 | 16,976,709百万円 |
増減 | △1,155,876百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
前期の決算日よりも資産は大きく減っています。
変動が大きいのが流動資産で、特に販売金融債権が6,739,336百万円から6,235,338百万円と大きく落ちています。
販売金融債権は簡単に言えば車をリースやローンで組んだ方から回収する予定のお金のことで車が売れていないため当然この部分も小さくなっているのでしょう。
ただし、現金預金も6月30日時点で1,334,759百万円あり、流動比率なども問題ない水準ですから今すぐどうこうなるというレベルではないことはこの点からもわかります。
2021年6月30日:負債
次は負債
2020年6月30日 | 11,776,130百万円 |
2020年6月30日 | 12,551,936百万円 |
増減 | △775,806百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
負債も減っています。長期借入金等は増えていますが、支払手形・買掛金が大きく減っているためトータルで見るとマイナスですね。
これもそもそもの売上が半減していますので当然、支払手形・買掛金が減っているというだけの話ですからどうこういう問題ではありません。
6月末時点の借り入れ
6月末時点の借り入れは以下のとおりです。(コマーシャルペーパーなどは除く
- 短期借入金:1,243,626百万円
- 長期借入金:4,428,246百万円
- 社債:1,092,941百万円
これに7月に国内で700億円の社債を発行、海外での1兆1千億円の社債がある感じですね。
さらに決算報告資料によるとコミットライン(ここまでは融資できますよって範囲)が1.9兆円残っているとのこと。
この部分からもすぐに資金繰りに窮するということは考えにくいでしょう。
日産のキャッシュフロー
次にキャッシュフローです。
倒産するかどうかで一番大事なのはこちらです。
極論から言えば万年大赤字でもお金さえ回れば倒産しません。
なお、キャッシュフローの見方についてはこちらの記事も合わせて御覧ください。
2021年3月期第1四半期:営業活動によるキャッシュフロー
まずは営業活動によるキャッシュフローです。
簡単に言えば本業でうまくお金が回っているのかを示すものとなります。
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2021年3月期第1四半期 | 20,539百万円 |
2020年3月期第1四半期 | 275,780百万円 |
増減 | △255,241百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
営業活動によるキャッシュフローはなんとか回っていますが、かなり大きく下がっているのがわかります。
売上が半減していますから当然といえば当然ですが・・・
2021年3月期第1四半期:投資活動によるキャッシュフロー
次は投資活動によるキャッシュフローです。
将来への投資などにどれだけお金を回しているのかを示します。
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2021年3月期第1四半期 | △205,085百万円 |
2020年3月期第1四半期 | △139,330百万円 |
増減 | △65,755百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
投資活動によるキャッシュ・フローは前年よりもマイナス幅を広げています。
投資活動によるキャッシュフローがマイナスということは将来に対して投資をしているということですから悪い話ではありません。
しかし、ちょっと気になるのが営業キャッシュフロー+投資キャッシュフローで計算されるフリー・キャッシュ・フローがマイナスになっていることです。
つまり、簡単に言えば身の丈にあっていない投資をしてしまっているということなのです。
今年に限れば売上が急激に下がった特殊要因がありますのでなんとも言えませんが、ちょっと気になるところですね。
2021年3月期第1四半期:財務活動によるキャッシュフロー
次は財務活動によるキャッシュフローです。
財務面(借入や投資)でお金の出入りはどうだったかを示します。
※スマートフォンの方はスクロールしてお読みください。
2021年3月期第1四半期 | 10,176百万円 |
2020年3月期第1四半期 | △266,815百万円 |
増減 | 276,991百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
財務活動によるキャッシュフローはプラスに転じています。
これは借り入れや社債でお金を調達してきたことが大きいですね。
2021年3月期第1四半期:現金及び現金同等物の期末残高
次は最終的に残った期末の現金残高です。
2021年3月期第1四半期 | 1,460,734百万円 |
2020年3月期第1四半期 | 1,231,350百万円 |
増減 | 229,384百万円 |
出所:日産自動車株式会社「2021年3月期第1四半期決算短信」より
1年で現金預金が229,384百万円が増え、1,460,734百万円となったということがわかります。
増えた大きな原因は借り入れや社債などです。
つまり、現在の日産は本業以上に投資をしてお金が足りないけど、なんとか外からお金を調達してきて回してきている状況ということになります。
お金は回っているのが現状ですからすぐにどうこうなる話ではありません。
しかし、この状態が長く続くと当然厳しくなりますね。
倒産が近くなるとこのキャッシュフロー計算書がかなり厳しい数字を叩き始めるんですよ。
実際倒産したレナウンや身売りした大塚家具などはキャッシュフロー計算書を見るだけで長くない・・・っての予想が可能でした。
日産は現状その水準には達していませんね。
まとめ
今回は「融資に政府保証が付けられた日産自動車は倒産するのか?」と題して日産自動車の業績について見てきました。
結論としては
ということです。
本業の自動車販売が回復するのかという点にかかってくるでしょう。
日産は現在、新しいクルマをほとんど出せていません。
2021年中頃に発売すると言われている「アリア」を全面に出してCMしているような現状なのです。(キムタクのCMのやつです)
そのため回復の兆しがあまり見えないですよ。
このまま販売不振が長引くようならかなり厳しい状況となる可能性を秘めていることも付け加えておきましょう。
賞与満額なのが非常に引っかかる
また、日産は業績が悪化してるからと配当を見送ったり、政府保証の借り入れをするような状況でも賞与満額出すなどちょっと首を捻る経営を行っています。
このあたりが個人的にはかなり気になります・・・
ちなみに自動車メーカーのうち3月の春闘で満額回答をしたのはトヨタと日産だけです。
トヨタは実際にこの状況でも黒字を確保していますからわかるのですが。。。
日産は3月の時点でもかなり業績は厳しかったですし、新型コロナの影響がかなり出ていたはずです。
その状況で賞与満額出すというのは経営陣に経営危機の意識はあまりないのかもしれません・・・
そうなるとかなり厳しい状況しか予想できません。
ルノーや三菱自動車との関係もありますし、今後も日産自動車の動向からは目が話せませんね。
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