オルカンを買えば、全世界に分散投資できる
そう信じて積み立てを続けている方へ。
2026年5月、その"全世界"から静かに101銘柄が姿を消しました。
一方で追加されたのはわずか49銘柄。
日本では14社が除外、追加は3社のみ。
「インデックス投資は思考停止」という言葉の裏で、実は冷徹な"選別"が動いています。
本記事では、銘柄入れ替えの仕組みと、その先にある「オルカンだけでよいのか」という問いの本当の答えをお話しします。
2026年5月、オルカンから101銘柄が静かに消えた
NISAの王道として、もはや代名詞と言ってもよい「オルカン」。
正式名称は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」で、運用しているのは三菱UFJアセットマネジメントです。
最近は楽天・オールカントリー株式インデックス・ファンドなどほぼ同じコンセプトの商品も多くなっており、それらも含めてオルカンと言われることもあります。
そのオルカンが連動を目指すのが、MSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)という指数。
先進国23か国、新興国24か国の大型・中型株、合計でおよそ2,500〜2,900銘柄を組み入れた、いわば「世界の主要企業の集合体」です。
MSCIが発表した「銘柄入れ替え」の全貌
その指数を運営するMSCI社は、2026年5月12日に四半期見直しを発表しました。
今回の変更は、2026年5月29日の取引終了時点で反映されます。
集計すると、追加が49銘柄、除外が101銘柄。
差し引きで52銘柄が"全世界"から退場した計算です(出典:MSCI 2026年5月12日付「MSCI GLOBAL STANDARD INDEXES」、RIA JAPAN集計)。
地域別の内訳は次のとおりです。
| エリア | 追加 | 除外 | 増減 |
|---|---|---|---|
| アジア太平洋 | 32 | -66 | -34 |
| アメリカ大陸 | 10 | -23 | -13 |
| 欧州・中東・アフリカ | 7 | -12 | -5 |
最も多く除外されたのはアジア太平洋。
中国、日本、台湾、マレーシア、インドネシアといった国々で除外が積み上がりました。
国別で見ると、もっと意外な事実が浮かびます。
除外数が最も多かったのは、なんと米国の-19銘柄。
次いで日本の-14銘柄です。
「米国株は強い」「日本株は復活している」と語られる一方で、新陳代謝のメスは、最強の二つの市場にこそ深く入っているのです。
日本株は14銘柄が除外、追加はわずか3銘柄
日本株の入れ替えを具体的に見てみましょう。
追加された3銘柄は次のとおりです。
- 古河電気工業
- 三井金属鉱業
- レゾナック・ホールディングス
除外された14銘柄は次のとおりです。
- 日本航空
- エムスリー
- マツキヨココカラ&カンパニー
- MonotaRO
- 日本オラクル
- 積水化学工業
- 島津製作所
- ソニーフィナンシャルグループ
- シスメックス
- TIS
- 東急
- 豊田自動織機
- ツルハホールディングス
- ZOZO
注目してください。
MonotaRO、エムスリー、ZOZO、積水化学工業といった、日本を代表する企業が並んでいます。
一方で追加された3銘柄は、銅やニッケル、半導体材料といった「素材セクター」。
AIや電動化に欠かせない原料を扱う企業群です。
世界経済のテーマが、見えないところで静かに切り替わっていることが、この入れ替えからも伝わってきます。
なお、本記事の銘柄列挙は事実の整理を目的としたもので、特定銘柄の推奨を意図したものではありません。
そもそも「オルカン」とは何か?「全世界」という言葉の罠
ここで一度、立ち止まって整理させてください。
オルカンが連動するMSCI ACWIの仕組み
オルカンの正体は、MSCI ACWIに連動するインデックスファンドです。
「全世界」と銘打たれていますが、地球上のすべての株式に投資しているわけではありません。
MSCIは、各国市場の時価総額上位約85%をカバーするように構成銘柄を選び、さらに次の3つの関門を設けています。
- 時価総額基準:先進国・新興国それぞれで、定められた時価総額を上回ること
- 浮動株(フリーフロート)基準:オーナー企業や政府保有を除き、市場で売買可能な株式の割合が一定以上であること
- 流動性基準:年間売買代金回転率(ATVR)が先進国20%以上、新興国15%以上であること
この3つの関門のいずれかをクリアできなくなった企業は、容赦なく除外されます。
今回除外された101銘柄も、おおむねこれらの基準のいずれかに引っかかったと考えられます。
「インデックス投資は機械的に全銘柄を保有し続ける仕組み」と理解している方もいらっしゃるかもしれません。
しかしそれは半分正しく、半分間違いです。
機械的に保有はしますが、その"母集団"自体が四半期ごとに静かに入れ替わっている
これがインデックス投資の本当の姿です。
「全世界」なのに約63%が米国株という事実
もう一つ、重要な事実を共有させてください。
オルカンの国別構成比のうち、米国株の比率は約63%です(2025年4月時点、各種データプロバイダーの集計より)。
日本株はわずか4.7%程度(2025年7月時点、SBI証券レポートより)。
つまり、「全世界に分散している」と言いながら、その実態は「6割が米国、残り4割が世界の残り全部」というのが正直なところです。
これは、MSCI ACWIが時価総額加重平均で構成されているためです。
米国企業の時価総額が世界全体の中で大きいから、自動的に比率が高くなる。
決して人為的に「米国を多めにしよう」と決めているわけではありません。
しかし、ここに最初の重要な問いかけが生まれます。
「全世界株式」と呼びながら6割が米国なら、それは本当に分散になっているのでしょうか?
米国市場が大きく崩れたとき、残り4割は本当にクッションになるのでしょうか?
オルカンは"全世界"ではなく"勝者選別装置"である
ここから、本記事の核心に入ります。
オルカンの実態を一言で表すとしたら「世界の勝者選別装置」だと考えています。
採用・除外の3つの基準が意味するもの
先ほど挙げた3つの関門――時価総額、浮動株、流動性。これらは何を意味しているでしょうか。
ひと言で言えば、「世界の機関投資家が、安心して大金を投じられる銘柄」を選び抜くフィルターです。
時価総額が大きいということは、市場規模が大きく、価格操作されにくいということ。
浮動株が多いということは、自由に売買できるということ。
流動性が高いということは、いざ売りたいときに売れるということ。
つまりMSCI ACWIは、「世界中の機関投資家が共通言語として使える銘柄群」を抽出した指数なのです。
ATVR(年間売買代金回転率)という"見えない関門"
特に見落とされがちなのが、3つ目の流動性基準、ATVRです。
ATVRとは、過去12か月および3か月の取引頻度を測る指標で、要するに「ちゃんと売買が続いているか」を見ています。基準を下回ると、たとえ時価総額が十分でも除外されます。
実は、今回中国市場で多くの銘柄が除外された背景には、取引が細った企業のATVR悪化があると指摘されています。
「市場で活発に取引されているか」が、組み入れの最後の関所。
これは投資家にとって重要な含意があります。
盛り上がっていないテーマ、関心を失われた企業は、たとえ財務が健全でも"全世界株式"の枠から外されてしまうのです。
銘柄入れ替えは"無料の自動損切り"である
ここで、多くの解説が見落としている重要な視点をお伝えします。
オルカンの銘柄入れ替えは、投資家にとって「目に見えない自動損切り」として機能しています。
考えてみてください。
除外される銘柄の多くは、株価が下落して時価総額基準を満たさなくなったか、流動性が落ちて売買が細った企業です。
つまり、勢いを失った銘柄から先に、機械的にポートフォリオから抜けていく仕組みです。
逆に、追加される銘柄は時価総額が伸びて基準を満たした成長中の企業。勢いのある銘柄が自動的に組み入れられるわけです。
多くの投資家は、次に上がる国、次に伸びる業界、次に注目される銘柄を探します。
AI。
半導体。
インド。
防衛。
宇宙。
ロボット。
脱炭素。
高配当。
小型成長株。
どれも魅力的です。
しかし、魅力的なテーマと、投資で儲かることは別です。
よい未来が待っている産業でも、すでに株価に織り込まれていればリターンは出ません。
逆に、地味で人気のない産業でも、期待値が低すぎれば大きなリターンを生むことがあります。
オルカンは、この予想ゲームから距離を置きます。
これは行動経済学でいう「サンクコスト効果」や「保有効果」と真逆の動きです。
人間は、含み損を抱えると「もう少し待てば戻るかも」と塩漬けにしてしまう生き物です。
一方、含み益が出ると「今のうちに利確しよう」と早々に売ってしまう。これでは資産は増えません。
ところがインデックス投資は、感情を一切挟まずに、機械的に「勝ち馬に乗り換え」を続けてくれます。
人間の最大の弱点である"非合理な感情"を、MSCIという第三者が肩代わりしてくれている
これがインデックス投資の隠れた最大の価値だと、私は考えています。
アクティブファンドが負ける理由
少し脱線しますが、よくアクティブファンドはインデックスに勝てないと言われます。
S&P Dow Jonesの「SPIVA」レポートでは、長期で見るとアクティブ運用の8〜9割がベンチマークに劣後することが繰り返し示されています。
その理由の一つが、まさにここにあります。
アクティブファンドのマネージャーは、人間の感情と意思決定バイアスから完全には逃れられません。
一方インデックスは、機械的なルールで淡々と銘柄を入れ替えていく。
長く積み上がれば積み上がるほど、この差は効いてきます。
それでも、「オルカンだけでよいのか?」への私の答え
ここまで読んでいただくと、「やはりオルカン最強じゃないか」と思われるかもしれません。
ですが、私はあえてこう問いたいのです。
「オルカンだけで本当に十分なのか?」と。
オルカンだけでよい人、足りない人
オルカンだけでよい可能性が高いのは、次のような人です。
投資に時間をかけたくない人。
20年、30年単位で資産形成を考えている人。
個別株やテーマ投資で何度も失敗した人。
自分の予想よりも、市場全体の成長に乗るほうが合理的だと考える人。
暴落しても積立を続ける覚悟がある人。
このタイプの人にとって、オルカンはかなり完成度の高い中核商品です。
一方で、オルカンだけでは足りない可能性がある人もいます。
オルカンの「3つの限界」を直視する
私が考えるオルカンの限界は、次の3つです。
米国一国に約63%という高い集中度
「全世界」の看板の裏で、実態は米国への大型ベットです。
米国市場が「失われた10年」のような長期低迷に入ったとき、残り4割の国々ではカバーしきれない可能性があります。
実際、2000年代の米国株は10年間ほとんど横ばいで、新興国株が大きく勝った時期もありました。
株式100%という資産クラスの偏り
オルカンは株式のみのファンドです。
債券、不動産、コモディティといった他の資産クラスは一切含みません。
株式市場全体が下落するリーマンショックやコロナショックのような局面では、為替を除けばクッションがありません。
ですから近い将来に使う予定のあるお金を入れるには少しリスクが高いのです。
時価総額加重ゆえの"バブル乗っかり"リスク
時価総額加重は、株価が上がるほど比率が上がる仕組みです。
これは「人気の銘柄をより多く買う」という、ある意味でモメンタム投資的な特性を持っています。
1990年代末のITバブル時、日本のバブル絶頂時、当時のMSCI日本株比率は約40%にまで達しました。
バブルの絶頂で日本株を最も多く持っていた、というのが時価総額加重の宿命です。
補完するなら、何をどう組み合わせるか
ではどうすればよいか。私は次のような選択肢を考えるべきだと考えています。
- オルカン+現金・債券:年齢に応じて、株式比率を「110-年齢」程度に抑える。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も国内外株式と債券をおおむね25%ずつ、株式比率約50%で運用しています
- オルカン+新興国・インド株:MSCI ACWIにおけるインドの比率は2026年初頭時点で約1.9%にとどまる一方、世界経済成長への寄与度は約17%(IMF予測)。経済実態と指数のウェイトに大きな乖離があり、補完投資の検討余地があります(出典:MSCI、IMF World Economic Outlook)
- オルカン+自国の現預金確保:日本に住み、円で生活費を払う以上、為替リスクを完全に取り切るのは危険。円資産を厚めに持つホームバイアスは、生活防衛上は合理的な側面もあります
「オルカンだけ」を批判したいわけではありません。
オルカンの強みを最大化するために、その弱点を別の手段で補う。
これが、企業の経営戦略を考えるときと同じ思考です。
一つの強みを過信しすぎず、想定外のリスクに備えるポートフォリオ思考。
投資にも、同じ姿勢が必要だと感じています。
まとめ
オルカンの銘柄入れ替えを見ると、改めてこの商品の強さがわかります。
衰えた銘柄は、条件を満たさなくなれば外れていく。
伸びた銘柄は、条件を満たせば入ってくる。
投資家が決算を読み、感情を抑え、売買判断をする必要がない。
世界の株式市場の新陳代謝を、低コストで取り込める。
これは非常に大きな価値です。
ただし、オルカンは万能ではありません。
株式100%です。
米国株が6割です。
為替ヘッジはありません。
短期では大きく下がることがあります。
家計全体のリスク管理まではしてくれません。
つまり、結論はこうです。
オルカンの銘柄入れ替えは、「ほったらかしでよい理由」です。
しかし、「何も理解しなくてよい理由」ではありません。
オルカンとは、世界の株式市場を丸ごと持つための便利な器です。
オルカン 銘柄の入れ替えは、その器の中で行われる新陳代謝です。
そして、オルカン 銘柄 入れ替えを知ることで、私たちは「全世界株式に投資する」とはどういうことかを、より深く理解できます。
投資で大切なのは、最強の商品を探し続けることではありません。
自分が長く続けられる仕組みを作ることです。
その意味で、オルカンは多くの人にとって、かなり強い味方になります。
ただし、味方にするには、中身を知らずに信じるのではなく、中身を知ったうえで任せる。
それが、オルカン時代のいちばん賢い距離感だと思います。
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