血便を見た朝、今話題の大腸がんを覚悟しました。
結果は違い、かなり前に受けていた遺伝子検査が示していたリスクの高いと指摘されていた別の病気でした。
かなりびっくりしたので、今回は遺伝子検査の実体験をみていきます。
遺伝子検査は「未来の診断書」ではないが・・・
「自分が将来かかりやすい病気を、先に知っておきたい」
「自分の子どもの向いていることを見極めたい」
遺伝子検査を受ける人が片付けたい本当の用事は、単なる好奇心ではありません。
病気への漠然とした不安を、今日からできる行動に変えたいのです。
結論から言うと、私は遺伝子検査を受ける価値はあると考えています。
ただし、病気を言い当てる未来予知としてではありません。
健康診断や家族歴、自覚症状と組み合わせ、自分の健康を考える「補助線」として使うことが前提です。
私の遺伝子検査体験談。結果と内視鏡所見が重なった
ここからは私自身の話をします。
私は医療の専門家ではないので、一個人の記録として読んでください。
血便が出るも痔の診察
朝、便器の中に血が広がっていました。
最初に頭をよぎったのは大腸がんです。
しかし、病院に行ったら診察は「痔」。
薬の効果で痔は治ったのか血便はたまに出る程度にまで改善。
ほっと一息をついたのですが、そのころからお腹の調子が悪くなりなかなか治りません。
大腸がんのニュースで不安になり大腸内視鏡検査へ
時を同じくしてダウンタウンの松本人志氏が血便をきっかけに受診し、大腸の腫瘍切除手術を受けたことを公表。
作家の東野圭吾氏も大腸がんで亡くなったと報じられました。
こうしたニュースが重なり、私も大腸がんを強く心配しました。
そこで大腸内視鏡検査を受けてきました。
検査で大腸がんを指摘されることはありませんでしたし、ポリープもありませんでした。
その代わりに出てきたのが「潰瘍性大腸炎の疑い」です。
安倍元首相や中日ドラゴンズの田中幹也選手で有名になった指定難病です。
なお、現在は腸の粘膜を採取して生検に出し、結果を待ちなので確定ではありません。
遺伝子検査で潰瘍性大腸炎のリスクは指摘されていた
実は潰瘍性大腸炎は以前に受けた遺伝子検査でリスクは平均の1.77倍(高い)と指摘されてたので、少しだけ意識していた病気だったんですよ。
遺伝子的に私がなりやすい病気のトップ5に入っていました。
ちなみに今回の件があったので、再度遺伝子検査の結果を見直すと大腸がんのリスクは0.65倍と低い数字になっていました。
以前の遺伝子検査で高リスクと表示されていた病気と、内視鏡で疑われた病気が重なったわけです。
これだけを見ると、「遺伝子検査が当たった」と言いたくなります。
しかし、現段階ではまだ疑いであり、生検結果も出ていません。
仮に潰瘍性大腸炎と確定しても、私一人の事例だけで検査の精度は評価できないでしょう。
それでも、遺伝子検査をやってよかったと思う部分はあります。
検査結果を思い出したことで、「血便=大腸がん」というひとつの可能性だけに視野を狭めず、別の病気も考えられたからです。
医師の説明を理解し、今後確認すべきことを整理する助けにもなりました。
遺伝子検査は病名を決めません。
しかし、自分の中に「注意する病気の索引」を作ってくれます。
そこに本当の価値がありました。
「遺伝子検査の信憑性」を、公的な数字で仕分ける
私の体験を読んで検査を申し込む前に、必ず知っておいてほしい限界があります。
検査の種類が全く別物である
一括りに遺伝子検査と呼ばれますが、中身は3種類に分かれます。
| 種類 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 医療機関の遺伝学的検査 | リンチ症候群などの原因遺伝子を調べる | 診断に使う。医師と遺伝カウンセラーが関与 |
| がん遺伝子パネル検査 | がん組織の遺伝子変化を調べ治療を選ぶ | 保険適用あり。すでに罹患した人が対象 |
| DTC遺伝子検査 | 唾液を郵送し体質・疾患リスクを確率で見る | 医療行為ではない。市販の検査キット |
私が受けたのは3つ目のDTC(Direct to Consumer)です。
医療機関を通さず、消費者が直接申し込むタイプ。
私は無料モニターだった
ちなみに私は遺伝子検査が話題になりだした頃、Yahoo!がモニターを募集しており、それに当選したことで無料でやっていたんですよ。
その後、Yahoo!からサービスが独立して、ジーンクエストとなったタイミングで、モニターの方は追加で支払うと最上位の情報が見られるということで課金した記憶があります。
>>ジーンクエスト
学会と医師会は、はっきり警告している
日本人類遺伝学会は「DTC遺伝学的検査に関する見解」で、依頼から結果解釈までのプロセスに臨床遺伝専門医などの専門家が関与すべきであり、公的機関は監督方法を早急に検討すべきだと提言しています(出典:日本人類遺伝学会「DTC遺伝学的検査に関する見解」)。
日本医師会はさらに踏み込んでいます。
2017年1月時点でDTC遺伝子関連検査を実施する事業者は697機関存在し、提供される検査は病気のなりやすさや体質にとどまらず、知能、性格、音楽・美術の適性といった非医療分野にまで広がっていました。
そして「そのほとんどは有用性についての科学的根拠が欠如しており、精度管理、検査前後の遺伝カウンセリング体制、結果報告後のフォローアップ体制、個人遺伝情報保護の体制などが不十分であった」と記述しています(出典:日本医師会「医の倫理の基礎知識2018年版」)。
医師会のポジショニングトーク的なところもあるのでしょうが・・・
遺伝子検査ダイエットは答えではなく仮説
遺伝子検査で人気がある分野のひとつがダイエットです。
「糖質で太りやすい」「脂質の代謝が苦手」「筋肉がつきにくい」といった結果を見れば、自分に合う食事法が一度で分かるように感じます。
しかし、「遺伝子検査」の結果だけで、食事方法を決めるのは早計です。
スタンフォード大学のDIETFITS試験は、BMI28〜40の成人609人を健康的な低脂質食と健康的な低炭水化物食に無作為に割り付け、12か月追跡しました。
結果、両群の体重変化に有意差はありませんでした。
そして遺伝子型パターンと食事法の交互作用は統計的に有意ではなく(P=.20)、インスリン分泌との交互作用も同様でした(出典:Gardner CD et al., JAMA, 2018;319:667-679)。
研究責任者のガードナー教授は、体重を落とす方法の個別化には懐疑的であるべきで、まずは食事の質に注目したほうがよいという趣旨を述べています。
平均約6kg減という結果の裏で、60ポンド近く減った人もいれば増えた人もいた。
その差を遺伝子は説明しなかったのです。
もちろん、この研究だけですべての遺伝子と食事の関係が否定されたわけではありません。
研究で調べた遺伝子型や食事法にも限界があります。
それでも、「遺伝子型に合わせれば簡単に痩せられる」と断定できる段階でもないことは分かるでしょう。
結果は一生モノでも、会社は一生ではない
遺伝子検査を勧める文章には、必ずこの一文が出てきます。
「遺伝情報は生涯変わらないので、検査は一生に一度で済みます」
これは事実でしょう。
ただし、決定的な前提が抜けています。
あなたの遺伝情報は変わらないが、それを預かっている会社は変わる。
事例1:DeNAグループのMYCODEは2024年に消えた
DeNAグループが運営していた国内大手のDTC遺伝子検査サービス「MYCODE」は、2024年9月30日をもってサービスを終了しました。
10月1日以降、会員専用マイページでの検査結果の閲覧はできなくなっています。
運営会社である株式会社DeNAライフサイエンスは、2024年10月3日付の官報で解散公告が出されました。
同社の発表によれば、終了前に会員が取るべき対応は「9月30日までに自分でPDF等に変換して保存すること」でした。
会員数は約12万人規模と公表されていました。
もし私がMYCODEを選んでいて、PDFを保存していなかったら。
血便が出た朝、開き直す結果はどこにも存在しなかったことになります。
事例2:23andMeは2025年に破綻した
世界最大手だった米23andMeは、2025年3月23日、米連邦破産法第11章(チャプター11)の適用を申請しました。
累計1500万人とされる顧客の遺伝情報の行方が焦点となり、カリフォルニア州司法長官が州民にデータ削除の権利行使を呼びかける事態に発展しています。
背景には2023年のデータ流出事件があり、約700万人分の情報が影響を受けました。
英国の情報コミッショナー事務所(ICO)は2025年6月17日、同社に231万ポンドの制裁金を科しています。
日本の法整備は、ようやく動き出したところ
日本では2023年6月、ゲノム医療推進法(良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律/令和5年法律第57号)が成立・施行されました。
基本理念に、ゲノム情報の保護と不当な差別の防止が掲げられています(出典:厚生労働省法律概要資料)。
これを受けた基本計画は2025年11月に閣議決定されました。
実行期間は令和7年度から令和11年度までの5年間が目安とされています。
ただし、この法律は理念法です。
差別そのものを罰則付きで禁止する段階には至っていません。
全国がん患者団体連合会が示した一般市民ウェブ調査では、2017年(N=10,881)・2022年(N=4,982)ともに回答者の約3%が、自分または家族が遺伝情報に関して何らかの不利益な扱いを受けた経験があると答えています。
そして罰則付きの法律が必要と答えた人は両年とも7割を超えました(出典:厚生労働省 ゲノム医療基本計画WG提出資料、2024年7月)。
日本医師会は以前から、医療分野の検査は厚生労働省、ビジネス分野の検査は経済産業省という「世界唯一の分離所掌」を問題視し、遺伝学的検査の所掌一元化と単一基準の規制導入を求めてきました。
経済産業省も「消費者向け(DTC)遺伝子検査ビジネスのあり方に関する研究会」を設置し、事業者向けガイダンスの整備を検討しています。
裏を返せば、検査を受ける2026年時点の私たちは、まだ整備の途中にある市場にお金と唾液を差し出しているということです。
よくある質問
- 遺伝子検査で病気が分かりますか?
-
民間のDTC遺伝子検査で分かるのは、主に統計上の発症傾向です。
病気の有無は診断できません。
高リスクの結果や症状がある場合は、医療機関で問診、画像検査、血液検査、病理検査などを受ける必要があります。
- 遺伝子検査で低リスクなら検診は不要ですか?
-
不要にはなりません。低リスクは発症しないという保証ではなく、年齢、生活習慣、既往歴によってリスクは変動します。
国が推奨する健診やがん検診は、遺伝子検査の結果にかかわらず対象年齢と間隔に沿って受けてください。
- 遺伝子検査を受けたら保険加入や就職で不利になりますか?
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2023年施行のゲノム医療推進法は、ゲノム情報による不当な差別の防止を基本理念に掲げていますが、罰則付きで差別を禁止する法律ではありません。
生命保険協会も遺伝情報の取扱いを検討中の段階です。
米国のような遺伝情報差別禁止法は日本に存在しないため、告知義務との関係が気になる方は、加入予定の保険会社に事前確認してください。
まとめ
遺伝子検査は、病気を確定する検査ではありません。
それでも、自分が注意すべき病気を知り、健康診断や生活習慣に関心を持つきっかけにはなります。
私自身、大腸がんは低リスク、潰瘍性大腸炎は高リスクという結果を受け取っていました。
その後、血便をきっかけに大腸内視鏡検査を受けたところ、潰瘍性大腸炎の疑いが示されました。
現在は生検結果を待っている段階です。
結果が重なったからといって、遺伝子検査が病気を正確に予言したとは断定できません。
私が「遺伝子検査をやってよかった」と感じるのは、病気を当てたからではなく、医師の説明を理解し、これから確認すべきことを考える材料になったからです。
高リスクを恐れすぎず、低リスクに安心しすぎない。
この距離感が必要です。
遺伝子検査は、未来を決めるものではありません。
未来の健康について、自分から考え始めるための道具なのです。
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