最近、芸能人の脱税問題、ギャラの配分問題などで取り上げられるのが芸能人の個人事務所の話です。
実は個人事務所の設立は芸能人だけの話ではありません。
プロ野球選手やミュージシャンなども当然に行っています。
また、会社員でも副業収入が多い方なんかはやっているんですよ。
それでは芸能人の方などが大手芸能事務所に所属しながら個人事務所を設立するのはなぜなのでしょうか?
結論から言えば
です。
個人事務所を作ることによる節税は脱税ではありません。
合法なんですよ。
所得税と法人税と税率の違いや、法人化することで利用できる様々な節税対策を取れることが大きいんです。
ただし、個人事務所の設立はメリットだけではありません。
デメリットもあるのです。
今回は個人事務所を作る節税対策についてメリット・デメリットを踏まえて考えてみたいと思います。
個人事務所を作らない場合
まず個人事務所を作らない場合の芸能人の税金等について考えてみたいと思います。
芸能人は多くの方がサラリーマンと違い、個人事業主として芸能事務所に所属します。(一部給料制の事務所もあり)
そのため、毎月決まった給料が支払われるわけではなく仕事に応じた報酬が支払われるのです。
芸能事務所からすれば外注先という扱いですね。
報酬から源泉所得税が引かれて支払い
芸能事務所から個人に支払いを受けるものは源泉徴収対象(給料から所得税が引かれる)となります。
所得税法では第204条第1項第5号の報酬・料金に以下のようなルールがあります。
○映画、演劇、音楽、音曲、舞踊、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、腹話術、歌唱、奇術、曲芸や物まね又はラジオ放送やテレビジョン放送の出演や演出又は企画の報酬・料金
○映画や演劇の俳優、映画監督や舞台監督(プロジューサーを含みます。)、演出家、放送演技者、音楽指揮者、楽士、舞踊家、講談師、落語家、浪曲師、漫談家、漫才家、腹話術師、歌手、奇術師、曲芸師又は物まね師の役務の提供を内容とする事業を行う者のその役務提供に関する報酬・料金
上記の報酬・料金の額×10%
ただし、同一人に対し1回に支払われる金額が100万円を超える場合には、その超える部分については、20%
出所:国税庁「報酬・料金等の源泉徴収事務」第204条第1項第5号の報酬・料金より
つまり、100万円以下の報酬は10%、100万円を超える部分については20%所得税があらかじめ引かれて受け取ることになります。
この辺りはサラリーマンも同じような感じですね。
最大45%の所得税率
源泉所得税はあくまでも仮の所得税です。
最終的には1月から12月までの1年間分集計した結果を確定申告をして所得税を確定します。
所得税は所得から必要経費などを差し引いた課税される所得金額を下記表に当てはめればおおよその所得税が計算が可能です。
最高は45%もの税率となるんですよ。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
出所:国税庁「所得税の税率」より
今回脱税で問題になったような売れっ子芸能人などは報酬もかなり多いと思われます。
ですから個人事務所を作らない場合は45%の所得税率だった可能性が高いでしょう。
例えば年間1億円課税される所得金額がある場合には以下の金額となります。
さらに復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)や住民税、健康保険料も別途かかります。
ちなみに報酬から引かれた源泉所得税はすでに納付した税金です。
ですからこの計算ででてきた所得税から差し引いて計算されます。
個人事務所を作った場合のメリット
それでは節税用の個人事務所を法人で設立作ると税金はどう変わるのでしょうか?
ちなみに法人を作ると言っても報酬を受け取るためだけの会社に過ぎません。
つまり、節税用の会社ってことです。
たくさん節税面でメリットがあるんですよ。
源泉徴収の対象外になる
個人事務所を作らない場合の芸能人の報酬は基本的に以下の流れです。
個人事務所を設立した場合には以下のような流れとなります。
芸能事務所は直接の取引先は外注先の個人事務所(法人)ですから源泉徴収の対象外となります。
ですから源泉所得税が差し引かれることなく満額が個人事務所の銀行口座への支払いとなります。
最終的には納めるという点では変わりません。
しかし、源泉徴収されないことで納税までの期間は自由に使えるお金が増えるという資金繰り面ではかなりプラスですね。
なお、個人事務所(法人)から芸能人への支払いは自分が役員となっていれば役員報酬(給料と同様)となりますので所得税が差し引かれます。
税率が大きく違う
個人事務所を設立した場合の税率はどうなるのでしょう。
この場合には芸能事務所やテレビ局などから受け取るものは法人税扱いとなります。
資本金1億円以下の普通法人の法人税率は以下のとおりです。
年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
所得金額の年平均額が15億円を超える法人等 | 19% | |
年800万円以下超の部分 | 23.2% |
最大で23.2%なんですよね。
所得税の45%と比較するとかなり低くなっているのが分かると思います。
例えば前述の年間1億円課税される利益がある場合には以下の金額となります。
さらに後述するように自分への役員報酬なども経費扱いとなりますのでさらに税金は減ります。
個人事務所を作る方の多くはこの部分を節税するために行っているんですね。
経費の扱いが違う
もう一つ大きいのが経費の扱いです。
自分への報酬が経費に
例えば自分への給料として役員報酬を出したとします。
法人の場合、社長が自分で一人法人でも別人格と扱われますので自分への役員報酬も経費として認められるのです。
つまり、自分へ給料を出すことで節税になるんですよ。
個人へ役員報酬を出せば、それに対しての所得税は掛かります。
ただし、個人事業主の報酬と違って給料所得控除の対象となりますので課税所得は小さくすることが出来ます。
家族への給料もOK
個人事業主の場合には青色事業専従者給与として税務署へ届け出をした場合のみ家族への給料を経費とすることが認められます。
しかし、法人の場合は、別人格ですからそのような制限がありません。
実際に事業に従事して労働の対価で妥当と認められれば問題ないのです。
一人で多額に給料をもらうよりも複数人でもらったほうが所得税等が抑えることができますからこちらも有効な方法なんですよ。
出張の日当も経費に
また、出張旅費規定等を作っておけば自分へ出張での日当を出しても経費として認められます。
特にこの日当部分は所得税の対象となりませんので大きいですね。
あまり世の中の相場と相違していれば認められないこともありますが・・
経費の幅が増える
他にも個人事業主の場合と比較して法人の場合には経費と認められる範囲が広いですから節税面で有利となるのです。
個人事業主の場合には家計と事業の線引が曖昧となりがちなので全額必要経費と認められることはなかなか厳しいものがあります。
しかし、法人で買ったものは会社のものですから経費と認められやすいのです。
つまり、経費と認められる幅が広いってことですね。
ただし、接待交際費には条件がありますのでお気をつけください。
会社員でも法人の個人事務所は作れる
今回の話は芸能人の方の個人事務所の話でしたが、実は会社員の方でももちろんできます。
給与のみの方はそれほどメリットを享受できませんが、副業である程度稼いでいる方や配当所得がある方は検討してみるのも良いでしょう。
ただし、法人の設立は後述するようなデメリットもいろいろあります。
ですからある程度の報酬がない場合にはそのデメリット部分が上回ってしまいますので慎重に検討しましょうね。
一般的には所得が900万円を超えた辺りからメリットが大きくなってきますね。
ただし、会社員が個人事務所を作る場合には副業禁止との兼ね合いもありますので会社と相談していただくのが無難かもしれませんね。
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個人事務所(法人)を作るデメリット
今まで見てきたように個人事務所を作ると節税という意味では効果が大きいことがわかっていただけたと思います。
しかし、いくつか考えなくてはならないデメリットがあります。
事務負担が大幅増
法人の場合には、個人と比較にならないくらい煩雑な事務作業が必要です。
法人税の申告も個人の確定申告などと比較してかなり書類も多く専門的な知識も必要ですから大変です。
また、社会保険の加入も義務付けられますので社会保険の手続関連の書類提出も必要です。
他にも株主総会の開催、議事録の作成、役員登記などやらなければいけないことが目白押しなんですよ。
基本的には税理士や社会保険労務士、司法書士などに外注する人が多いと思いますが、その場合には報酬を支払う必要があります。
たとえ士業に外注すると言っても完全な丸投げとは行きませんから事務作業はある程度必要となります。
法人化するとこんなにもたくさんの税金・社会保険が絡んできてしまうんですよ。
基本的にそれぞれ手続きが必要ですからね・・・
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お金が自由に使えない
個人事業の場合はあくまでそのお金は自分のお金ですから自由に使うことできます。
しかし、法人の場合は別人格の扱いですから自由に扱うことはできません。
自分のお金ではないという扱いになってしまうのです。
使うにしても経理処理が必要なんですよね。
役員報酬以外で会社からお金を持ち出して使えば、原則として会社から借りたこととなり、利息も会社に支払う必要があります。
様々なコストが・・・
会社を設立するためには定款の作成や登記などの費用が必要となります。(株式会社の場合20万円くらい)
また、法人の場合、一人法人でも社会保険の加入が義務となります。
健康保険や厚生年金は半額が会社負担ですし、他にも労災などの労働保険が必要となります。
さらに前述のように税理士や社会保険労務士、司法書士などに依頼が必要な業務が多くそれらの報酬が発生します。
また、法人の場合には赤字でも税金を払う必要がある均等割という制度もあり約7万円ほど最低支払う必要があるのです。
iDeCoの上限が低くなる
個人事業主の場合にはiDeCo(個人型確定拠出年金/イデコ)の上限は月68,000円(付加年金加入の場合67,000円)でした。
しかし、法人化の役員となると厚生年金加入者となりますので上限23,000円(条件による)と大きく変わります。
この点もデメリットと言えばデメリットですね。
iDeCo(個人型確定拠出年金/イデコ)ってなに?って方はこちらの記事を御覧ください。
今、すでに会社員で法人設立した場合にはこの点は問題ないでしょう。
逆に小規模企業共済に加入できるようになるのはメリットかも知れません。
iDeCo(個人型確定拠出年金/イデコ)と同じく所得控除の対象とすることができる制度です。
小規模企業共済ってなに?って方はこちらの記事を御覧ください。
このサイトでなんども個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)のお話を見てきましたが、社長や自営業者、フリーランスの場合には節税対策として小規模企業共済や経営セーフティ共済、国民年金基金という制度もあります。国民年金基金は個人型確定拠[…]
個人事務所設立のメリット・デメリットまとめ
今回は「芸能人やスポーツ選手が個人事務所を作る理由とは。会社員でも可能な個人事務所設立(法人)のメリット・デメリットを解説」と題して個人事務所(法人)設立するメリットとデメリットを見てきました。
まとめると以下のとおりです。
しかし、事務量が大幅に増えるなどデメリットも多いので慎重に検討しよう
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最後まで読んでいただきありがとうございました。