建設業、林業の退職金共済制度の予定運用利率が大幅引き下げへ。他の制度への波及は?

建設業退職金共済制度(建退共)、林業退職金共済制度(林退共)の2つの特定業種退職金共済の予定運用利回りが大幅に引き下げれます。

これだけ株高なのになぜ?と疑問に思う方も多いとは思います。

実はこの手の制度は厳しい環境のものが多いんですよ。

例えば厚生年金基金は多くが健全ではないと解散命令が出て解散しています。

また、国民年金基金なども責任準備金の不足が問題に。

ちなみに小規模企業共済は運用が好調で付加共済金を支給したりしていますので全部がそういわけではないのですが。。。

今回は特定業種退職金共済の予定運用利回りが大幅に引き下げについて見ていきます。

特定業種退職金共済とは

まずは今回の話の前提となる特定業種退職金共済について簡単に解説しておきましょう。

特定業種退職金共済とはその業界で働くことを辞めたときに退職金が支払われる「業界の退職金制度」です。

ただし、設置されている業界は以下の3つだけ。

  • 建設業(建設業退職金共済制度)
  • 林業(林業退職金共済制度)
  • 清酒製造業(清酒製造業退職金共済制度)

今回はそのうち建設業と林業の予定運用利回りが引き下げられることになりました。

ちなみに清酒製造業退職金共済制度は2.3%に据え置きです。

中小企業退職金制度

ちなみに特定業種退職金共済以外にも業種を問わず中小企業の常用労働者を対象とした退職金共済制度である「中小企業退職金制度」というのもあります。

国が新規加入者掛け金の増額に対して助成してくれますので独力では退職金制度を設けることが難しい中小企業についても退職金制度を準備しやすい環境を整えてくれているんですね。

ちなみに中小企業退職金制度の予定運用利回りは1.0%です。

建設業退職金共済制度の予定運用利回り引き下げ

それでは今回の予定運用利回り引き下げの内容を見ていきましょう。

予定運用利回り3.0%→1.3%
予定運用利回りは元々3%でしたが、1.3%に大幅に引き下げれます。
なお、引き下げは令和3年10月1日からです。

予定運用利回りの引き下げ理由

それではなぜ引き下げされるのでしょう?

これは以下の理由が挙げられています。

(1) 建設業退職金共済制度の累積剰余金は、前回の財政検証時(平成 26 年)には約 868 億円あったが、令和元年度における新型コロナウイル ス感染症拡大に端を発する金融市場の大幅な変動等により、令和元年度末には約 630 億円と減少し、今後もより一層減少することが見込まれている。
(2) その一方で、建設業業界では建設労働者の処遇改善を図っているこ とや民間工事での建退共制度の普及と建退共制度の適正履行の実現 向けた具体的な取組を進める中で、建退共制度の魅力を維持し、退職 金の水準を確保する必要がある。
(3) 以上の点を踏まえ、建退共制度の魅力を維持しながら、できるだけ制 度の安定的な運営を図るべく、予定運用利回りを現行の 3.0%から 1.3%に引き下げることが適当である。その際、制度の魅力を損なわないように掛金日額を 10 円引き上げて 320 円とすることが適当である。

出典:中小企業退職金共済部会 特定業種退職金共済制度における 退職金額に係る予定運用利回りの見直し等についてより

つまり、累積剰余金が新型コロナの関係で大幅に下がったことが要因として挙げられています。

ただし、新型コロナの前び2019年の財政状況報告でも19~23年度は毎年約81億円の赤字が見込まれると試算しており、厳しい運用環境であったようでそのころから利回りの引き下げは検討していたようですけどね。

予定運用利回りの推移

ちなみに過去の予定運用利回りは以下のように推移しています

  • 昭和39年度〜49年度:6.00%
  • 昭和50年度〜60年度:6.25%
  • 昭和61年度〜平成8年度:6.60%
  • 平成9年度〜15年度:4.50%
  • 平成16年度〜27年度:2.70%
  • 平成28年度〜:3.00%

出典:厚生労働省雇用環境・均等局 令和2年7月13日 特定業種退職金共済制度の財政検証(参考資料)より 抽出

平成前半までは6%超えというかなり高い利回りが予定されていたんですね。

ただし、実際の運用利回りはそこまで高くなく損益金がマイナスとなっているケースが多かったのが問題だったようです。

実際の運用利回り

実際の利回りは平成に入ったくらいから予定運用利回りを下回っているケースが多いです。

昭和59年度以降の運用利回りは以下の通り。

建設業退職金共済運用利回り

建設業退職金共済運用利回り2

出典:厚生労働省雇用環境・均等局 令和2年7月13日 特定業種退職金共済制度の財政検証(参考資料)より

建設業退職金共済制度の基本ポートフォリオ

それでは建設業退職金共済制度はどのような投資をしているのでしょう?

かなり国内債券に偏った投資スタイルとなっています。

国内債券は厳しい環境にありますので、今回の利回り引き下げは当然の結果かもしれません。

  • 国内債券(自家運用)66.9%
  • 国内債券(委託運用)22.6%
  • 国内株5.3%
  • 外国債券2.6%
  • 外国株2.6%

出典:厚生労働省雇用環境・均等局 令和2年7月13日 特定業種退職金共済制度の財政検証(参考資料)より 抽出

90%近くが国内債券なんですよ。これで予定運用利回り1.3%達成できるのでしょうか・・・

林業退職金共済制度の予定運用利回り引き下げ

次に林業退職金共済制度の予定運用利回り引き下げをみてみましょう。

ょう。

予定運用利回り0.5%→0.1%
予定運用利回りは元々0.5%とそこまで高くありませんでしたが、さらに0.1%に大幅に引き下げれます。
なお、引き下げは令和3年10月1日からです。

予定運用利回りの引き下げ理由

それではなぜ引き下げされるのでしょう?

これは以下の理由が挙げられています。

(1) 林業退職金共済制度(以下「林退共」という。)の累積欠損金は、前 回の財政検証時の水準(約 10 億円)と比較して約7億円まで改善し た。しかし、累積欠損金解消計画(平成 17 年 10 月 1 日 独立行政法 人勤労者退職金共済機構林業退職金共済事業本部)の解消年限である 令和4年度末までには、累積欠損金は解消されない見込み。
(2) 以上の点を踏まえ、林退共においては、以下の改善策により、できる だけ早期に累積欠損金を解消し、もって制度の安定的運営を図ること が適当である。
① 予定運用利回りを現行の 0.5%から 0.1%に引き下げること。
② 独立行政法人勤労者退職金共済機構の林退共本部における経費及 び支部への業務委託費について、それぞれ当分の間、毎年度 500 万 円程度削減すること。
③ 運用収入の増加を図るため、資産運用方法の見直しを行い、運用資産に占める委託運用を1億円程度増加させたこと。

出典:中小企業退職金共済部会 特定業種退職金共済制度における 退職金額に係る予定運用利回りの見直し等についてより

こちらも基本的な流れは同じですが、さらに累積で欠損(マイナス)がでてしまっているさらに厳しい財政状態となっています。

そのため、より厳しい予定運用利回りとなっています。

予定運用利回りの推移

ちなみに過去の予定運用利回りは以下のように推移しています

  • 昭和55年度〜平成8年度:6.25%
  • 平成9年度〜11年度:3.70%
  • 平成12年度〜15年度:2.10%
  • 平成16年度〜27年度:0.70%
  • 平成28年度〜0.50%

出典:厚生労働省雇用環境・均等局 令和2年7月13日 特定業種退職金共済制度の財政検証(参考資料)より 抽出

こちらも平成前半までは6%超えというかなり高い利回りが予定されていたんですね。

林業はそこからの予定運用利回りの引き下げがやばいですね。

実際の運用利回り

実際の利回りは平成に入ったくらいから予定運用利回りを下回っているケースが多いです。

林業退職金共済利回り

林業退職金共済利回り2

出典:厚生労働省雇用環境・均等局 令和2年7月13日 特定業種退職金共済制度の財政検証(参考資料)より

林業退職金共済制度の基本ポートフォリオ

それでは林業退職金共済制度はどのような投資をしているのでしょう?

こちらもかなり国内債券に偏った投資スタイルとなっています。

国内債券は厳しい環境にありますので、今回の利回り引き下げは当然の結果かもしれません。

  • 国内債券(自家運用)65%
  • 国内債券(委託運用)17.3%
  • 国内株6.2%
  • 外国債券8.6%
  • 外国株2.9%

出典:厚生労働省雇用環境・均等局 令和2年7月13日 特定業種退職金共済制度の財政検証(参考資料)より 抽出

建設業よりは国内債券の比率が少なく、外国債券の比率が高いのが特徴ですかね。

参考:他の制度などのポートフォリオ

参考までに他の制度などのポートフォリオについて見ておきましょう。

GPIF

まずは公的年金の積立金の管理・運用を行う機関のGPIF(年金積立管理運用独立行政法人)のポートフォリオです。

GPIFのアセットアロケーション1
GPIFのアセットアロケーション

出所:年金積立管理運用独立行政法人 2020年度業務概況書より

GPIFはかなりわかりやすいアセットアロケーション(資産配分)をしています。

  • 国内債券25%+-7%
  • 国内株式25%+-8%
  • 外国債券25%+-6%
  • 外国株式25%+-7%

国内債券、国内株式、外国債券、外国株式をそれぞれ25%ずつを基本としています。

退職金共済制度と比較してリスクを高く取っている感じですね。

過去の利回りは年3%近くと上げ下げは激しいですが順調に運用できています。

ちなみにこのポートフォリオはiDeCoなどでも真似は容易ですよ。

国民年金基金

国民年金基金の運用は以下のとおりです。

  • グローバル債券52%
  • グローバル株式48%

こちらは株の比率が高めですね。GPIFと比較的近い運用です。

予定利率は1.5%。

1.5%の利率を達成するならここまでリスク取らなくても・・・って思う方も多いでしょう。

しかし、国民年金基金は過去には最高で予定利率6.5%で契約した人など高い利率で契約した人が多数います。(契約した予定利率でもらえる)

その人達の分も含めて運用しなくてはならないため結構リスク高めの運用をしているんですよ。

なお、国民年金基金は令和元年度で14,778億円の責任準備金の不足が問題となっています。

現状の数字を見る限り、特定業種退職金共済のように予定利回りがさらに引き下げられても不思議ではありません。

国民年金基金はiDeCoと同様に節税効果がある仕組みで終身年金にできる制度で魅力もあるのですが、この責任準備金不足問題や、加入時期によって利回りが大きく違う世代間の不平等があるのでおすすめしていませんね、、、

これから加入する人は過去の高い利回りの人を支えるために積み立てるようなものですから、それならiDeCoで自分で運用するのをおすすめします。

小規模企業共済

小規模企業共済の運用は以下のとおりです。

自家運用81.6%、委託運用(国内株式6.4%、国内債券5%、外国株式3.2%、外国債券3.8)
なお、自家運用の平成28年度末の内訳は国内債券69%、短期資産5.3%、融資経理貸付金3.8%、生命保険資産3.7%)

こちらは比較的ガチガチの安定したポートフォリオとなっていますね。

過去10年の平均運用利回りでも2.2%と安定しています。

小規模企業共済の予定利率は1%ですから付加共済金がでるのも当然の状況ですね。


まとめ

今回は「建設業、林業、清酒製造業の退職金共済制度の予定運用利率が大幅引き下げへ」と題して2つの特定業種退職金共済の予定運用利回りが大幅に引き下げについてみてきました。

両制度とも運用自体ほとんど国内債券でリスクをあまり取っていませんが、長引く低金利でこのように大きな利回り変更なんて話になってしまってますね。

今後も国民年金基金をはじめ厳しい状況にある制度も多いですから、同様の話がちょくちょく出てきそうな予感があります。

個人的には自分で運用できるiDeCoやつみたてNISAの方が納得性が高いのでオススメしますね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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