株主優待系投資家のSNS界隈で、年末から「お通夜」のようなムードが漂っているのをご存知でしょうか。
「株主優待をタダ同然の手数料だけで手に入れる」 いわゆる「つなぎ売り(クロス取引)」は、ポイ活感覚でできる手堅い投資法として、近年急速に主婦層や若手投資家に広まりました。
しかし、2025年12月の権利付き最終日をまたいだ直後、阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れました。
X(旧Twitter)では、目を疑うような損失報告のスクリーンショットが飛び交っています。
・ロイヤルホールディングス(ロイヤルホスト):優待券12,000円分に対して、逆日歩マイナス235,611円
・ホットランド(築地銀だこ):優待券15,000円分に対して、逆日歩マイナス100,800円
・トレードワークス:5万円相当のポイントに対して、逆日歩マイナス144万円
「たこ焼きを食べるために10万円払う」「ファミレスの食事券のために23万円失う」。
これは笑い話ではなく、実際に起きた金融事故です。
なぜ、リスクが低いはずのクロス取引でこのような致命傷を負ってしまったのでしょうか。
今回はこのメカニズムと、二度と同じ轍を踏まないための防衛策を徹底解説します。
2025年12月末権利確定銘柄の逆日歩実態|SNSに溢れる被害報告
2025年12月26日が権利付最終日となった12月末権利確定銘柄では、例年以上に高額な逆日歩が発生しました。
特に注目を集めたのが、外食産業の人気優待銘柄です。
逆日歩ホットランド|銀だこ優待15,000円が10万円超の代償に
ホットランドHD(3196)は、「築地銀だこ」を運営する企業として知られ、株主優待では1,500円相当(100株以上)から15,000円相当(1,000株以上)の優待券がもらえる人気銘柄です。
2025年12月26日の権利確定では、1株あたり100.80円という高額の逆日歩が発生しました。
12月末は逆日歩日数が6日間と長期にわたるため、100株保有でも約10,080円、1,000株保有では100,800円もの逆日歩が発生したのです。
SNS上では「銀だこの15,000円優待券をもらうための代償が100,800円」「100,800円!100,800円!100,800円!」と悲痛な叫びが上がりました。
優待価値の約6.7倍もの逆日歩を支払うことになったわけですから、これは「優待取得」というより「高額寄付」と言っても過言ではありません。
逆日歩ロイヤルホスト|食事券12,000円のために23万円超の支出
ロイヤルホールディングス(8179)も、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」や「てんや」を運営する企業として、株主優待の人気銘柄です。
こちらも2025年12月26日の権利確定で234円という高額逆日歩が発生。
これはほぼ最大料率(MAX)に近い水準でした。
ロイヤルホールディングスは権利確定日に100株から500株保有で株主優待が500円分の食事券がもらえます。
しかし、100株で23,400円の逆日歩となり、500円相当の優待を得るために23,400円掛かってしまったのです。
さらに深刻なのは、大口で取得しようとした投資家です。
ロイヤルホールディングスの株主優待は1,000株以上で年間24,000円分(500円×24枚×2回)。
つまり、半年に12,000円分の株主優待がもらえる形です。
そのため、1,000株でクロス取引する人が多かったそう。
1,000株でクロス取引した場合、12,000円得るために234,000円必要だったわけです。
その他高額逆日歩銘柄一覧:144万円損失のトレードワークスの悲劇
今回の逆日歩騒動では、ホットランドやロイヤルHD以外にも多くの銘柄で高額逆日歩が発生しました。
主な銘柄と逆日歩(1株あたり)は以下の通りです。
・フジオフードG本社(2752):144.00円(逆日歩/株価比 12.214%)
・きちりHD(3082):96.00円(逆日歩/株価比 9.756%)
・BRUNO(3140):105.60円(逆日歩/株価比 9.934%)
・ I-ne(4933):134.40円(逆日歩/株価比 9.746%)
・ ノバレーゼ(9160):48.00円(逆日歩/株価比 14.769%)
・ トレードワークス(3997):48.00円(逆日歩/株価比 10.934%)
特にトレードワークスは、5万円相当のプレミアム優待ポイントを狙って3万株で制度クロスした投資家が、「48円×3万株=144万円」の逆日歩を請求されるという衝撃的な事例が報告されています。
優待価値の約29倍という、まさに「爆死」としか言いようのない結果です。
逆日歩とは:一言でいうと「株の特別レンタル料」
ここで改めて、逆日歩の仕組みについて整理しておきましょう。
逆日歩を正しく理解することが、リスク回避の第一歩です。
逆日歩とは株不足時に発生する追加コスト
逆日歩(ぎゃくひぶ)とは、制度信用取引において、売り方が買い方に支払う追加コストのことです。
一言で言えば、「株を借りたい人が多すぎて、貸してくれる人が足りない時に発生する特別レンタル料」です。
「品貸料(しながしりょう)」とも呼ばれます。
信用取引では、株を買う人(買い方)と株を売る人(売り方)がいます。
通常、買い方は株を担保にお金を借りて株を購入し、売り方はお金を担保に株を借りて売却(空売り)します。
証券会社は買い方の株を売り方に融通することで、この取引を成立させています。
しかし、売り方が買い方を大幅に上回り「株不足」の状態になると、証券金融会社(日本証券金融など)は生命保険会社や損害保険会社などの機関投資家から株を調達する必要が生じます。
この株を借りるためのコストが逆日歩です。
逆日歩が発生する具体的な流れ
逆日歩が発生するまでの流れを順を追って説明します。
まず、証券金融会社は毎営業日、各銘柄の信用売り(貸株)と信用買い(融資)を集計します。
信用売りが信用買いを上回っている場合、その差分だけ株が不足していることになります。
株不足が発生すると、証券金融会社は翌営業日の午前10時までに「融資の追加申込」(信用買いを増やす)と「貸株の返済申込」(信用売りの残高を減らす)を受け付け、株不足の解消を試みます。
それでも株不足が解消しない場合、機関投資家に対して入札を行います。
機関投資家が「いくらなら株を貸してもいい」という価格を提示し、安い順に株を手当していきます。
最終的に株不足が解消された時点での品貸料が、その日の逆日歩として確定します。
逆日歩の恐ろしさは「後出しジャンケン」であること
投資家にとって厄介なのは、逆日歩がいくらになるかは取引時点ではわからないということです。
逆日歩の金額は取引翌営業日の入札で決定されるため、事後的にしか判明しません。
直近の貸借残高(証金残)を確認することである程度の予想は可能ですが、権利付最終日に向けて急激に売りが増えるケースも多く、正確な予測は困難です。「逆日歩予報」などのサービスを提供している証券会社もありますが、あくまで参考値にとどまります。
また、注意喚起や申込停止の措置が取られている銘柄では、逆日歩が通常の2倍(10倍適用の場合もあり)になる「特別料率」が適用されることがあります。
「まあ、数百円くらいだろう」とタカをくくって注文を出した翌日、発表された数値が「1株あたり〇〇円」と跳ね上がり、保有株数を掛け算して顔面蒼白になる。
これが今回のケースです。
連休が絡むと日数が伸びる
また、逆日歩は休日を挟むと返済日が繰り延べられ、結果として品貸日数が増えます。
年末年始はこの条件に当たりやすいので危険な時期ではあるんですよ。
株主優待つなぎ売り(クロス取引)の仕組みと逆日歩リスク
株主優待を低コストで取得する方法として知られる「つなぎ売り」ですが、制度信用取引を利用する場合は逆日歩リスクが常につきまといます。
株主優待つなぎ売り(優待クロス)とは
つなぎ売りとは、現物株式の買いと信用取引の売り(空売り)を同時に行うことで、株価変動リスクをヘッジしながら株主優待だけを取得する手法です。
「優待クロス」「クロス取引」とも呼ばれます。
具体的な流れは以下の通りです。権利付最終日の寄付き前に、同一銘柄の現物買い注文と信用売り注文を同数量・成行で発注します。
寄付きで同じ価格で約定するため、株価が上がっても下がっても損益は相殺されます。
権利落ち日以降に「現渡」(信用売りの返済として現物株を充当する)を行えば、取引は完了です。
これにより、売買手数料と信用取引のコストだけで株主優待を取得できるというわけです。
ある意味、制度の抜け道をついた手法ですが、証券会社もアピールしていたりするんですよ。
制度信用取引と一般信用取引の違い
つなぎ売りで使用する信用取引には、「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類があります。
この違いを理解することが、逆日歩回避の鍵となります。
制度信用取引の特徴と逆日歩リスク
制度信用取引は、取引所が定めたルールに基づく信用取引です。
返済期限は6ヶ月、金利は比較的低めに設定されており、多くの銘柄で売建が可能です。
しかし、証券金融会社を経由して株を調達するため、株不足が発生すると逆日歩が発生します。
今回の12月末権利確定で被害が続出したのは、すべて制度信用取引を利用したケースです。
制度信用の逆日歩は「1株あたり○円」で計算され、保有日数分がかかります。
12月末のように逆日歩日数が6日と長い月では、たとえ1株あたりの逆日歩が小さくても、総額は大きくなりがちです。
一般信用取引なら逆日歩は発生しない
一般信用取引は、証券会社が独自に設定したルールに基づく信用取引です。
各証券会社が自社で株を調達するため、証券金融会社を経由せず、逆日歩は発生しません。
代わりに、貸株料は制度信用より高めに設定されていることが多く、また取扱銘柄や在庫数量に制限があります。
人気の優待銘柄は権利確定日が近づくと在庫が払底することも珍しくありません。
今回もそのケースだったようで、制度信用に流れた人が被害にあった形ですね。
逆日歩リスクを完全に回避したい場合は、一般信用取引を利用するのが鉄則です。
ただし、一般信用の在庫確保のためには早めのエントリーが必要となり、その分だけ貸株料のコストが増加する点には注意が必要です。
楽天証券のらくらく優待取引が悪いのか?
今回の悲劇は楽天証券が2025年12月からはじめた「らくらく優待取引」が原因と言っている方がSNSでは多く見かけます。
その点についても考えてみましょう。
楽天証券らくらく優待取引のサービス内容
らくらく優待取引は、つなぎ売りに必要な「現物取引の買い注文」「信用取引の新規売建注文」「信用建玉返済のための現渡注文」を1つの注文でまとめて発注できるサービスです。
従来、つなぎ売りを行うには3回の注文操作が必要でした。
特に権利落ち日の現渡注文を忘れると、信用売りのポジションが残ったまま株価変動リスクにさらされることになります。
らくらく優待取引では現渡注文の予約も可能で、このリスクを軽減できます。
また、注文画面で概算の取引コストが表示されるため、優待価値と比較してコストに見合うかどうかを判断しやすくなっています。
権利確定日の2ヶ月前から注文可能なので、余裕をもって準備できるのも特徴です。
株主優待クロスを容易にした結果
つまり、らくらく優待取引は優待クロスをやりやすくしたサービスです。
これが始まったことで、今まで面倒そうと手を出していなかった層が今回株主優待クロスに参加したことで今回の悲劇が生まれたというストーリーはたしかに納得感はあります。
らくらく優待取引でも逆日歩を回避できる
ただし、ここは冷静に切り分けたいところで、問題の本質は「らくらく優待取引が便利だから」ではありません。
論点は、つなぎ売りをする際に、信用区分として「一般信用」を選べたのに「制度信用」を使ってしまった、あるいは一般信用在庫が枯れて制度信用に寄ってしまった、という点です。
楽天証券のFAQでも、つなぎ売り目的なら一般信用が推奨で、制度信用は逆日歩リスクがある、と明確に書かれています。
つまり、仕組みを知っていれば避けられる事故が相当数ある、という整理ができます。
らくらく優待が始まったことで、株主優待クロスの知識があまりない初心者がよくルールも勉強せず突っ込んでしまったというのが今回の本質でしょうね。
つなぎ売りで逆日歩を回避する具体的な方法
今回の逆日歩騒動を教訓に、つなぎ売りで逆日歩を回避するための具体的な方法をまとめます。
一般信用取引で売建てる|逆日歩ゼロの鉄板対策
逆日歩を完全に回避する最も確実な方法は、一般信用取引を利用することです。
一般信用では証券金融会社を経由しないため、逆日歩は発生しません。
一般信用取引を提供している主な証券会社としては、SBI証券、楽天証券、松井証券、三菱UFJ eスマート証券、SMBC日興証券、GMOクリック証券、マネックス証券などがあります。
各社で取扱銘柄や在庫数が異なるため、複数の証券会社に口座を持っておくと選択肢が広がります。
特に三菱UFJ eスマート証券は一般信用で売建できる銘柄数が主要ネット証券で最多とされており、優待クロス派に人気があります。
ただし、プレミアム料(貸株料の上乗せ)が発生する銘柄もあるため、コスト確認は必須です。
一般信用の在庫を早めに確保する
一般信用取引の在庫は有限です。人気の優待銘柄は権利付最終日の1〜2週間前には在庫がなくなることも珍しくありません。
早めに在庫を確保すると、その分だけ貸株料のコストが増加しますが、制度信用で高額逆日歩を食らうリスクを考えれば、貸株料を多少払ってでも一般信用で確保する方が合理的です。
証券会社によっては、毎日特定の時間に在庫が補充される場合があります。
SBI証券の「短期信用」は毎営業日19時に在庫が更新されるといった情報を把握しておくと、在庫確保の成功率が上がります。
過去の逆日歩実績を確認し高リスク銘柄を避ける
どうしても制度信用で取引する場合は、過去の逆日歩実績を確認することが重要です。
毎回高額の逆日歩が発生している「常連銘柄」は、制度信用での取得を見送るのが賢明です。
ロイヤルHDやホットランドは、過去にも高額逆日歩が発生した実績があります。
こうした銘柄は「一般信用でなければ取らない」というルールを自分の中で設けておくと、痛い目を見ずに済みます。
逆日歩の過去データは、日本証券金融のWebサイトや、各種優待情報サイトで確認できます。
投資する前に必ずチェックする習慣をつけましょう。
また、逆日歩は読みにくいですが、上限(最高料率)の枠組み自体は証券金融会社が公開しています。
少なくとも「最悪いくらまで行き得るか」を見積もって、優待価値を超えるなら、その時点で撤退が合理的です。
逆日歩日数が多い月は要注意
逆日歩は「1株あたりの金額 × 株数 × 日数」で計算されます。
12月末権利確定のように逆日歩日数が6日と長い月では、同じ逆日歩でも総額が大きくなります。
12月は毎年逆日歩日数が多くなりやすい月です。
年末年始の休場を挟むためです。
同様に、5月のゴールデンウィーク、9月のシルバーウィーク前後も逆日歩日数が増えやすい時期です。
こうした月は特に慎重になり、一般信用での取得を優先するか、そもそも優待取得を見送ることも選択肢に入れておくべきでしょう。
注意喚起・申込停止銘柄は避ける
証券金融会社は、株不足が深刻な銘柄に対して「注意喚起」や「申込停止」の措置を取ることがあります。
注意喚起銘柄は逆日歩が通常の2倍に、申込停止銘柄はさらに高率になることがあります。
今回のトレードワークスは注意喚起銘柄だったため、特別料率が適用されて逆日歩が跳ね上がりました。
こうした銘柄に制度信用で突撃するのは、まさに「飛んで火に入る夏の虫」です。
注意喚起や申込停止の情報は、日本証券金融のWebサイトや証券会社の取引画面で確認できます。
こうした銘柄への制度信用での参戦は絶対に避けてください。
そもそも「優待を取る目的」を再点検する
優待が好きで長く持つなら、現物保有で素直に権利を取るのも立派な選択肢です。
優待クロスはある意味、制度の裏をかいたやり方で投資の本質ではないんですよ。
株主優待を提供している会社は長期保有の安定株主を増やしたいという部分が大きいですしね。
今回の悲劇をきっかけにその点の見直しも必要でしょう。
まとめ
今回の高額逆日歩騒動は、株主優待クロス取引に潜むリスクを改めて浮き彫りにしました。
逆日歩とは、制度信用取引で株不足が発生した際に売り方が支払う追加コストです。
金額は事前に予測できず、人気優待銘柄の権利確定日前後には高額になりやすい傾向があります。
逆日歩を完全に回避するには一般信用取引を利用するのが鉄則です。
楽天証券の「らくらく優待取引」も、一般信用を選択すれば逆日歩は発生しません。
ただし、一般信用の在庫には限りがあるため、早めの在庫確保が重要です。
制度信用で取引する場合は、過去の逆日歩実績の確認、注意喚起銘柄の回避、逆日歩日数への注意が必要です。
そして何より、「一般信用で取れなければ諦める」という冷静な判断が、痛い目を見ないための最善の防御策です。
株主優待は投資の楽しみの一つですが、過度な欲を出さず、リスクを理解した上で賢く取得していきましょう。

