「選挙になると株価が上がる」。投資家なら一度は耳にしたことがある格言でしょう。
しかし、2024年10月の衆院選では、このアノマリーが17回連続の記録で初めて途切れました。
なぜ、長年続いた法則が崩れたのか。
そして2026年2月に予定される衆院選で、あなたの資産はどう動くのか。
55年分のデータと最新の政治動向から、「選挙相場」の本質に迫ります。
「選挙は買い」は本当だったのか?55年分のデータが語る真実
投資の世界には数多くのアノマリー(経験則)が存在します。
そのなかでも「選挙は買い」は、日本株投資家にとって特に信頼されてきた法則のひとつでした。
実際にデータを確認してみましょう。
1969年以降に実施された衆議院選挙において、解散前営業日から投票前営業日までの日経平均株価の騰落率を計算すると、17回中16回が上昇しています。
これは約88%という驚異的な確率です。
上昇率が最も大きかったのは2012年の選挙で、13.8%もの上昇を記録しました。
このとき市場は、民主党政権から自民党への政権交代と、その後の「アベノミクス」への期待を先取りしていたのです。
では、なぜ選挙前に株価は上がりやすいのでしょうか。
外国人投資家の「日本への期待」という視点
「選挙は買い」のアノマリーを理解するうえで見落とせないのが、外国人投資家の存在です。
2005年以降の5回の衆院選を分析すると、投開票前の7週間で外国人投資家は平均して約3兆円もの日本株を買い越していました。
これは国内機関投資家や個人投資家の動きをはるかに上回る規模です。
海外から見れば、日本の衆院解散総選挙は「悪い状態から良くなるきっかけ」と映ります。
任期満了ではなく、わざわざ解散するということは、政権が変化を求めているか、あるいは国民の信任を得て改革を進めたいという意思表示だからです。
この「期待」こそが、選挙前の株高を支えてきた最大の要因と言えるでしょう。
2024年10月、アノマリーはなぜ崩れたのか
しかし、2024年10月27日の衆院選では、この鉄壁の法則が崩れました。
解散前日の日経平均39,910円に対し、投票日前営業日の終値は37,913円。
約5%の下落となり、17回連続の上昇記録がついに途絶えたのです。
何が起きたのでしょうか。
答えは「事前の織り込み」と「与党過半数割れ観測」にあります。
選挙前から各報道機関の世論調査で自民・公明両党の苦戦が伝えられ、市場は早い段階で政局の混乱をリスクとして織り込み始めました。
結果として、選挙を経ても「不透明感が解消される」という従来のパターンが機能しなかったのです。
重要なのは、アノマリーそのものが無効化したのではないという点です。
むしろ「期待できる変化がない選挙」では、株価は上がらないという、より本質的な法則が明らかになったと考えるべきでしょう。
選挙結果と株価の「本当の相関」
ここで、より深くデータを掘り下げてみます。
1993年以降の衆院選で、選挙後60営業日のTOPIXパフォーマンスと自民党・連立与党の獲得議席数には強い相関が認められます。
具体的には、自民党が議席の60%以上を獲得した選挙(2005年、2012年、2014年)では、選挙後60日で平均20%以上の株価上昇が見られました。
一方、議席が50%を下回った選挙(2009年の民主党大勝時など)では、選挙後に株価が下落しています。
この傾向は「政策実行力への期待」で説明できます。
与党が安定した議席を確保すれば、公約に掲げた経済政策が実現しやすくなります。
逆に、少数与党や連立の枠組みが不安定であれば、政策の遅延や修正を市場は織り込むのです。
つまり「選挙は買い」の本質は、「政権が安定し、期待できる経済政策が実行される見通しがある選挙は買い」という、より精緻な法則だったと言えます。
「衆院選の年に上がりやすい」ことと、「選挙後も勝ち続ける」ことは別物ってことですね。
2026年衆院選、市場を動かす4つのシナリオ
さて、2026年1月、高市早苗首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討しているとの報道が駆け巡りました。
投票日は2月8日または15日が有力視されています。
この早期解散は金融市場にとってサプライズでした。
多くのアナリストは、解散は早くても4月以降と予想していたからです。
報道を受け、日経平均先物は一時5万4,000円台に乗せ、「高市トレード」と呼ばれる株高・円安・債券安の動きが再燃しています。
それでは投資家が選挙で見るべき点は何でしょうか?
私の答えは、議席の形です。
要は「過半数(233議席)」そして「絶対安定多数(261議席)」が見えるかどうか。
それを踏まえて今回の選挙結果について4つのシナリオが考えられます。
シナリオ①:自民党単独で絶対安定多数を獲得
このケースは株式市場にとってベストシナリオです。
高市首相の掲げる「責任ある積極財政」や「サナエノミクス」への信任が確認され、政策実行力への期待が高まります。
短期的な追加財政は限定的でも、中期的には2026年度補正予算への期待が株価を支えるでしょう。
現状の予想ではこのシナリオはかなり期待薄な感じですね。
シナリオ②:日本維新の会との合計で絶対安定多数を獲得
連立相手の日本維新の会との合計で絶対安定多数に届くケースです。
市場への影響はシナリオ①と大きく変わりませんが、維新の会が重視する副首都構想への動きが加速する可能性があります。
その関連株が動機しそうな予感です。
ただし、日本維新の会を巡って国民健康保険逃れの脱法スキームが判明するなど逆風になっていますね。

シナリオ③:自民党単独で過半数には届かず
株式市場はネガティブに反応する可能性が高いシナリオです。
解散・総選挙報道以降、日本株市場は「選挙は買い」のアノマリーを意識した上昇が続いてきました。
自民党の議席が過半数に届かない場合、選挙前と政治の風景が大きく変わらないことになり、期待の剥落が起きやすくなります。
ただし、過半数を割り込み弱体化した政権は、国民の支持をつなぎとめるために、減税や給付金などのポピュリズム的な政策を行う傾向があります。
これは短期的には市場にマネーを供給し、株価を押し上げるという話もあります。
シナリオ④:自民党、日本維新の会の合計で過半数に届かず
政治的安定性の確立が遠のいたとの評価から、市場はネガティブに反応します。
「高市トレード」の巻き戻しが起き、円高・株安に転じるリスクも視野に入ります。
ここで重要なのは、「最初の急落(ショック安)は、その後のリバウンドの仕込み時である可能性が高い」ということです。
市場が過剰反応して下げた場面は、冷静な投資家にとってはバーゲンセールになり得ます。
「中道改革連合」という新変数
2026年の衆院選をさらに複雑にしているのが、立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」の結党です。
公明党は2025年10月に26年間続いた自公連立を解消し、立憲民主党と中道勢力の結集を目指す新たな枠組みに参加しました。
比例代表では統一名簿を作成し、小選挙区では旧公明党側が候補擁立を見送って旧立民候補を支援するという選挙協力が予定されています。
時事通信の試算によれば、この協力がうまく機能すれば、30選挙区以上で勝敗が逆転する可能性があるとされています。
新党「中道改革連合」は、高市政権の「責任ある積極財政」に対し、財政健全化路線と「生活者ファースト」を対立軸として打ち出しています。
食料品にかかる消費税率をゼロにする政策も検討されており、分配に傾斜した政策が選挙戦の争点となりそうです。
自民党単独で過半数獲得に失敗すれば、高市首相の求心力は低下し、円安・株高・債券安の高市トレードも勢いを失うだろうと指摘もあります。
高市トレードの「限界点」を見極める
ここで冷静に考えたいのは、現在の「高市トレード」がどこまで持続可能かという点です。
2026年1月中旬時点で、ドル円レートは159円台まで円安が進行し、政府が防衛ラインと見られる160円に接近しています。
片山さつき財務相は、ベッセント米財務長官との会談で「一方的な円安を憂慮している」と伝え、為替介入への地ならしとも取れる発言をしています。
積極財政への期待が株高を呼ぶ一方で、その裏側では国債利回りの上昇(債券安)も進行しています。
10年国債利回りは約27年ぶりの高水準に達しており、住宅ローン金利や企業の資金調達コストへの影響が懸念され始めています。
株高の恩恵は確かに大きい。
しかし、円安による輸入物価の上昇と金利上昇は、家計と中小企業にとってマイナス要因です。
この「株高と生活実感の乖離」が、選挙結果にも影響を与える可能性があることを、投資家は意識しておくべきでしょう。
投資家が取るべき3つのアクション
では、2026年衆院選を前に、投資家はどのように行動すべきでしょうか。
選挙情勢調査を継続的にウォッチする
選挙結果は株価を左右する最大の変数です。
各報道機関の世論調査、とりわけ自民党の予想獲得議席数の推移を追いかけてください。
233議席(過半数)と261議席(絶対安定多数)という2つのラインを意識しながら、シナリオ別の投資戦略を準備しておくことが重要です。
セクター選別を意識する
どちらが勝っても恩恵を受けやすいセクターがあります。
たとえば、高市政権が掲げる「戦略17分野」に関連する防衛・宇宙・半導体関連、あるいはデフレ脱却による恩恵を受ける内需関連などです。
一方、「中道改革連合」が政権に影響力を持つ場合は、消費税減税関連(特に、中間層〜低所得者層向けのビジネスを展開する企業)や社会保障関連が注目される可能性があります。
為替と金利の「限界点」を意識する
ドル円160円、10年国債利回り2.5%といった水準は、政策当局にとって「放置できない」ラインと考えられます。
これらの水準に接近した場合、為替介入や日銀の利上げ前倒しなど、従来の高市トレードを逆転させる動きが出てくる可能性があります。
資産配分の一部に円高・金利上昇をヘッジするポジションを組み入れておくことも検討に値するでしょう。
選挙を超えて、本当に見るべきもの
最後に、より長期的な視点をお伝えします。
選挙は確かに短期的な株価変動の材料です。
しかし、より重要なのは選挙後に実行される政策の中身と、それが企業業績にどう反映されるかです。
2026年度の主要企業の業績予想は、売上高・営業利益が3~4%程度の増益となっています。
この業績見通しが上方修正されれば、政局の混乱があっても株価を支える材料となります。
また、日本株には「PBR1倍割れ」問題への取り組みや、資本効率改善の動きという構造的な追い風があります。
これらは選挙の結果とは独立した、中長期の株価上昇ドライバーです。
「選挙は買い」というアノマリーに振り回されるのではなく、選挙の結果が何を意味するのかを理解し、その先にある政策と業績の動向を見通す。
それこそが、選挙相場を乗りこなすための本当の「知恵」なのではないでしょうか。
まとめ
「選挙は買い」のアノマリーは、55年間で88%という高確率で成立してきました。
しかし、その本質は単純な経験則ではありません。
市場が期待するのは「政権の安定」と「経済政策への期待」であり、それが見込めない選挙では法則は成立しません。
2026年衆院選は、高市政権の「サナエノミクス」への信任を問う選挙となります。
自民党が大勝すれば積極財政への期待から株高継続、議席を伸ばせなければ高市トレードの巻き戻しという、シナリオ分岐が予想されます。
投資家に求められるのは、選挙情勢を冷静に見極めながら、為替と金利の限界点を意識し、中長期の企業業績と構造改革の動きを見失わないことです。
選挙相場は、情報を持つ者にとってはチャンスであり、持たない者にとってはリスクです。
この記事が、あなたの投資判断の一助となれば幸いです。
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