税金以上に重くのしかかる「社会保険料」。
特に国民健康保険(国保)の上限額は年々上昇しており、正直に全額を支払っている層からは悲鳴にも似た声が聞こえてきます。
そんな中、飛び込んできたのが「日本維新の会の国会議員による社会保険料逃れ疑惑」です。
「身を切る改革」を標榜する政党の議員が、法の抜け穴とも言えるスキームを使って自身の保険料負担を極端に低く抑えていたのではないか、という疑義が呈されています。
本稿では、感情的なバッシングは横に置き、具体的に「どのようなスキームが使われたのか」「それはなぜ問題なのか」「我々はどう捉えるべきか」について、一次情報と法制度に基づき冷静に紐解いていきます。
日本維新の会に浮上した「社会保険料逃れ」疑惑とは
この論点はSNSだけの話ではなく、大阪府議会の一般質問に関連する投稿・動画の拡散をきっかけに一気に注目されました。
投稿では「国保を脱法的な方法で逃れて、社保に低価格で入る手法が広がっている」との趣旨が述べられています。
核心部分は、「一般社団法人を設立し、そこから極端に低い役員報酬を受け取ることで、社会保険料を劇的に圧縮しているのではないか」という点にあります。
国会議員には多額の歳費(給与)が支払われますが、これは通常、国会議員共済や国民健康保険、国民年金の対象となります。
しかし、別途「法人」を立ち上げ、その法人の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入すれば、保険料の計算根拠はその法人からの「役員報酬」のみになります。
もし、数千万円の年収がある政治家が、自身が設立した法人から「月額5万円」程度の報酬しか受け取っていないとしたらどうなるでしょうか。
社会保険料は月額数千円〜1万円程度で済みます。
残りの収入を政治資金や法人の内部留保として管理すれば、個人の手取りを最大化しつつ、社会保険料負担を最小化できる。これが疑惑の全体像です。
ここで重要なのは、問題のコアが「社保に入ること」そのものではなく、“実態のない加入”があるのではないかという点に置かれていることです。
「社会保険料削減ビジネス」の巧妙なカラクリ
この手法は、昨今厚生労働省や日本年金機構、社会保険労務士会が問題視している「社会保険料削減ビジネス」に酷似しています。
ここでは、そのメカニズムを分解していきましょう。
国民健康保険と社会保険の決定的な構造差
まず理解すべきは、日本の公的保険制度の「二重構造」です。
自営業者やフリーランス、そして多くの投資家が加入する「国民健康保険(国保)」は、前年の総所得に対して保険料がかかります。
自治体によりますが、所得が高ければ年間100万円近い保険料(介護分含む)が徴収されます。
ここには「逃げ場」がほとんどありません。
一方、会社員や法人役員が加入する「社会保険(健康保険・厚生年金)」は、会社から支払われる「標準報酬月額(給与・役員報酬)」に対して保険料率が掛かります。
会社負担があるか、ないかの違いや加入者層の違いもあり、金額にかなり差があるのです。
具体的にはこちらの記事で解説しております。

標準報酬月額を操作する「マイクロ法人」
その違いを解消する手段としてマイクロ法人を利用する手法があります。
具体的にはこうです。
個人としての事業所得や投資利益がどれだけあろうとも、自身が設立した法人の代表として社会保険に加入し、その役員報酬を「月額4万5000円」などに設定します。
すると、健康保険料と厚生年金保険料はもっとも低い等級(1等級など)となり、会社負担分と合わせても月額2万円程度で済んでしまいます。
さらに、健康保険証は正規のものが発行されますし、将来の年金受給資格(加入期間)も確保されます。
「高額療養費制度」などの恩恵も、年間100万円払っている人と全く同じように受けられるのです。
なお、マイクロ法人自体は芸能人やスポーツ選手がよく利用している手法で実態があれば合法なんですよ。
制度の隙間をついている感じにはなりますけどね。

よくある社会保険料削減ビジネスのビジネスモデル
今回のケースはまだ疑惑が出たばかりなので詳細な状況はわかりませんので、よくある社会保険料削減ビジネスのビジネスモデルを確認しておきましょう。
会費や協力金などの名目でその会社にお金を払う。
↓
会費を受け取った会社は、その自営業者を社員として社会保険に加入できる最小限の給料等を払う
↓
給料に対して社会保険が課せられるので、健康保険料が劇的に安くなる
社会保険料削減ビジネスの会社は会費と給料+社会保険会社負担分の差額が利益となります。
つまり、自身がマイクロ法人を立ち上げることなく、会費を払うとどこかの会社の社員や役員、理事などにしてくれて会社員の健康保険に入れ、高額な国民健康保険の支払いを免れるということです。
このビジネス自体にかなり問題があると思いますので、リンクを張りませんが、「国民健康保険 削減」などで検索すればたくさん広告がでてくると思います。
今回のケースは一般社団法人の理事として登録されていたようです。
株式会社ではなく一般社団法人の理事の理由
なぜ株式会社ではなく「一般社団法人」なのでしょうか。ここにも実務的な理由が存在します。
持分がないため資産承継の監視が緩い
株式会社には「株主」が存在し、株式という財産権が発生します。
一方、一般社団法人には「持分」という概念がありません。
設立が容易であり、公益的なイメージを持たせやすい反面、ガバナンスが効きにくいという側面があります。
政治活動との親和性と不透明さ
政治家が一般社団法人を設立すること自体は珍しくありません。
政策研究や勉強会運営のために法人格を持つことは合理的です。
しかし、その実態が「社会保険料を安くするためだけのペーパーカンパニー」であった場合、話は別です。
法人の実態活動が乏しく、売上の大半が議員本人からの寄付や不自然な取引で構成されている場合、それは「法人格の濫用」と見なされるリスクがあります。
理事の業務に実態がない場合は大きな問題
今回話題となっている一般社団法人は理事が600人以上登記されていたという情報もあります。
一般的に考えればそれだけの人数の理事の必要性はなく、実態がない可能性があります。
要はこういうことです。
- 実際にその法人・社団が活動しているか
- その人が理事として職務を行い、対価としての報酬が支払われているか
そうでないなら、脱法行為と言われても致し方ないでしょう。
「日本維新の会の社会保険料逃れ」疑惑を語るときに外してはいけない論点
今回の件については、法の問題もですがそれ以上に考えなくてはならない点があります。
論点1:「社会保険料を下げる」政治スローガンとの整合
日本維新の会は政策提言で社会保険料削減、議員定数の削減や報酬カットを訴え、現役世代への負担軽減を主張してきました。
この主張自体は個人的にも共感が持てるものでした。
しかし、もしその所属議員が、一般国民(特に国保に加入している中小零細企業の経営者やフリーランス)が必死に負担している社会保険料を、特殊なスキームを使って回避していたとしたらどうでしょうか。
SNSで炎上しているのは当然といえるかもしれません。
論点2:公平性を損なう「フリーライダー」の構造
社会保険制度は相互扶助で成り立っています。
高所得者がそれなりの負担をすることで、制度が維持されています。
制度を設計・運営する側の立法府の人間が、意図的に負担を最小化して給付(医療アクセス権など)だけを享受することは、いわば「公的制度へのただ乗り(フリーライド)」と言わざるを得ません。
「法に触れていなければ何をしてもいい」というのは、利益を追求する民間企業の論理としてはギリギリ通用するかもしれませんが、高い倫理観を求められる政治家の態度としては、投資家の視点から見ても「ガバナンス欠如」と判断せざるを得ません。
まとめ:一番の争点は「一般社団法人の理事に実態があるか」
日本維新の会の議員による今回の疑惑が、単なる個人の暴走なのか、党として容認していた構造的な問題なのかは、今後の説明責任にかかっています。
今回の論点はシンプルです。
社保加入の形を取っていても、実態が伴っているか。報酬設定が社会保険制度の趣旨から見て不自然ではないか。
まずは制度理解と一次情報で、冷静に距離を取っていきましょう。
また、もう一つはっきりしていることが一つあります。
それは、「知識のない者が搾取され、知識のある者が制度のバグを突く」という現状のいびつさです。
私たちにできることは、こうしたニュースを表層的に消費するのではなく、制度の仕組みを深く理解することでしょうね。
この機会に制度の歪さを解消してほしいものですが・・・
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