今回は読者様からご質問をいただきましたので、行政書士法改正について触れていきたいとおもいます。
「◯◯の申請書類、いつもの業者さんにお願いしてるから大丈夫」。
そう考えている経営者の方、ちょっと立ち止まってください。
2026年1月1日に施行された改正行政書士法により、その「いつもの外注」が法律違反になっているかもしれません。
本記事では、改正の核心と企業が取るべき具体策を解説します。
行政書士法改正とは?2026年1月施行の全体像
2026年1月1日、「行政書士法の一部を改正する法律」が施行されました。
この改正は、単なる手続きの変更ではありません。
行政書士制度そのものの「存在意義」を再定義する、十数年ぶりの大規模改正です。
改正のポイントは大きく5つあります。
| 改正ポイント | 概要 |
|---|---|
| 1. 使命の明記 | 法第1条の「目的」を「使命」に改正。国民の権利利益の実現に資することを明記 |
| 2. 職責の新設 | 品位保持、法令精通、公正誠実な業務遂行を法定。デジタル対応の努力義務も追加 |
| 3. 特定行政書士の業務拡大 | 自ら作成していない書類でも不服申立て代理が可能に |
| 4. 業務制限の明確化 | 「いかなる名目を問わず報酬を得て」の文言追加(第19条改正) |
| 5. 両罰規定の整備 | 違反した個人だけでなく法人も罰則対象に(100万円以下の罰金) |
なかでも多くの方に最も大きな影響を与えるのが、4番目の「業務制限規定の趣旨の明確化」と5番目の「両罰規定の整備」です。順に詳しく見ていきましょう。
行政書士法改正の影響:企業が最も注意すべき2つの改正点
「いかなる名目を問わず」という強い文言の意味
今回の改正で最も注目すべきは、行政書士法第19条第1項の改正です。
改正前の条文は、「行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない」というシンプルなものでした。
改正後は、ここに「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加わりました。
この一文が持つ破壊力は絶大です。
これまで、行政書士でない事業者が官公署への提出書類を作成する際、「コンサルティング料」「事務手数料」「サービス料」「会費」「支援委託費」など、さまざまな名目で対価を受け取るケースが横行していました。
名目を変えれば「報酬」ではない、というグレーゾーンが存在していたのです。
改正法は、この抜け道を完全にふさぎました。
名目が何であろうと、実質的に報酬を得て書類作成を行えば違法です。
つまり、これまで「グレーゾーン」とされていた業務が、2026年1月1日以降は明確に「ブラック」へと変わったのです。
両罰規定の整備:「知らなかった」では済まされない
もうひとつ見逃せないのが、両罰規定の整備です。
両罰規定とは、違反行為を行った「個人」だけでなく、その「法人」にも罰則が科される仕組みです。
改正前の行政書士法にも両罰規定はありましたが、その対象は帳簿の備付義務違反など限定的でした。
改正後は、非行政書士行為(行政書士でない者が独占業務を行うこと)そのものに両罰規定が適用されます。
具体的な罰則は以下の通りです。
| 対象 | 罰則内容 |
|---|---|
| 違反行為をした個人 | 1年以下の拘禁刑 又は 100万円以下の罰金(法第21条の2) |
| 所属する法人 | 100万円以下の罰金(法第22条の4、第23条の3) |
見落としがちなのは、「依頼した側の企業」にもリスクがあるという点です。
非行政書士に業務を依頼していた企業は、それ自体が違法な委託であり、コンプライアンス上の問題を問われかねません。
行政書士法違反 事例:「うちは関係ない」が一番危険
「行政書士法違反なんて、自分たちには関係ない」。
そう思っている企業ほど危険です。
以下のような事例は、実は多くの企業で日常的に起きています。
事例1:外国人材の在留手続きを業者に「丸投げ」
外国籍の従業員を雇用する企業が、在留資格認定証明書交付申請や在留期間更新許可申請を人材紹介会社やリロケーション業者に一括で委託するケースは非常に多いです。
しかし、その業者が行政書士または行政書士法人でない場合、「リロケーションサポート料」「オプションサポート料」等の名目で報酬を受け取り書類を作成する行為は、改正後は明確に違法となります。
さらに重要なのは、非行政書士の事業者が行政書士に「再委託」する形態も認められていないという点です。
外国人・企業と行政書士が「直接」契約しなければなりません。
間に入っている業者の存在自体が問題になりうるのです。
事例2:補助金申請書類のコンサルタントによる「代行作成」
小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金など、経済産業省系の補助金申請では、コンサルタントが事業計画書を「ほぼ丸ごと」作成しているケースが珍しくありませんでした。
これらの補助金申請書は「官公署に提出する書類」に該当します。
そのため、行政書士でない者が報酬を得て作成すれば、行政書士法違反です。
改正前から違法ではあったものの、「コンサルティング料」という名目で事実上の書類作成対価を受け取る手法がまかり通っていました。
改正法の「いかなる名目を問わず」という文言は、まさにこの抜け道を封じるために追加されたものです。
事例3:自動車販売店の登録代行
自動車販売店が車の販売に伴い、登録申請書や車庫証明申請書を顧客に代わって作成し、「登録代行手数料」を徴収するケースも、行政書士法違反に該当しうる事例として国土交通省が具体的な見解を示しています(出典:国土交通省「行政書士法違反となる事例等」)。
「書類作成は無料で、代行手数料だけを受け取っている」という主張は通用しません。
書類の作成と提出が一連の流れの中で行われている場合、全体として「報酬を得て書類を作成している」と判断されるのです。
事例4:登録支援機関による特定技能の書類作成
特定技能制度における登録支援機関も要注意です。
登録支援機関の本来の業務は外国人への「生活支援」であり、入管への書類作成は業務範囲に含まれていません。
にもかかわらず、月額の支援委託料(報酬)を得ながら、そのサービスの一環として入管申請書類を作成している登録支援機関は少なくありません。
たとえ書類作成部分を「無償」と謳っていても、包括的な報酬の中に含まれていると解釈され、行政書士法違反と判断されるリスクが極めて高いとされています。
事例5:社内シェーアード
本社がグループ会社の手続書類を作って、委託費をもらう。
これも非行政書士行為に該当し得る、と具体例で示されています
行政書士法改正と補助金申請:何が変わり、何が変わらないのか
「行政書士法改正 補助金」というキーワードで検索される方の多くは、「結局、自分たちの補助金申請はどうなるの?」という不安を抱えていることでしょう。
結論から言うと、補助金業務のすべてが行政書士の独占業務になるわけではありません。
ただし、行政書士でなければできない業務の境界線がより明確になりました。
行政書士でなくてもできること
以下の業務は、行政書士資格がなくても引き続き対応可能です。
- 経営課題のヒアリングや経営戦略のアドバイス
- 補助金制度の情報提供・該当する補助金の提案
- 事業計画の方向性に対するフィードバックや助言
- 収益計画や市場調査のための資料作成・提供
- 採択後の事業実施に関するコンサルティング
2025年10月には、グレーゾーン解消制度を利用した企業に対し、総務省がこの線引きについて公式回答を出しています。
この回答では、顧客が事業計画を作成するための参考資料の作成・提供は、行政書士法上の書類作成には該当しないとされました。
ただし、かなりギリギリの線もあります。
例えば、そのまま写すだけで提出できるような参考資料を提供していたようなケースは行政書士法違反となる可能性は高そうです。
グレーゾーン解消制度の総務省からの回答でも以下のような注意書きがあります。
官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類の作成とならないよう留意いただくとともに、顧客に対し、これらの書類を作成することができるのは、顧客又は行政書士若しくは行政書士法人に限られることを案内いただきたい。
行政書士でなければできないこと
一方、以下の行為は行政書士(または行政書士法人)でなければ行えません。
- 補助金申請書そのものの作成(事業計画書含む)
- 在留資格に関する申請書類の作成
- 建設業許可等の許認可申請書の作成
- その他、官公署に提出する書類全般の作成
ここで重要なのは、「申請者本人」が作成する場合は問題がないという点です。
あくまで「他人の依頼を受け報酬を得て」作成する行為が規制対象です。
つまり、経営者ご自身が事業計画書を書き、自ら申請する分には何の問題もありません。
他士業への影響は?
この改正で大きな影響を受けるのが、中小企業診断士や税理士など、これまで補助金申請を支援してきた他士業の方々です。
中小企業診断士、経営コンサルタント
中小企業診断士や経営コンサルタントの中には、ものづくり補助金や事業再構築補助金などにおいて、事業計画書の作成支援を主要な業務として行っている方も見えます。
しかし、改正法の下では、報酬を得て補助金申請書類を代行作成することは行政書士法違反となります。
違反した場合の罰則は「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」であり、刑事事件として扱われれば前科がつく可能性もあります。
とはいえ、中小企業診断士や経営コンサルタント補助金業務から完全に排除されるわけではありません。
経営戦略の立案、事業計画の方向性についてのアドバイス、財務分析やマーケティング支援といった「経営コンサルティング」の範囲内であれば、従来通り報酬を得て業務を行えます。
税理士、公認会計士
同様に、税理士が顧問先の補助金申請を「忙しいから代わりに作成しておいて」と依頼され、善意で書類作成を代行した場合も違法となる可能性があります。
税理士事務所では、所内研修などでコンプライアンス意識を高めておく必要があるでしょう。
なお、税理士や公認会計士は行政書士登録をすることが可能です。
これを機に行政書士登録を行い、堂々と支援業務を行う選択肢も検討に値するでしょう
行政書士
行政書士からすると大きなビジネスチャンスとなりそうです。
ただし、過去の補助金採択率は行政書士作成の書類はかなり低くなっています。
行政書士は経営の専門家でも経理の専門家でもないので仕方ない部分もあるのでしょうが・・・
逆に言えば高い採択率が取れるようになれば大きな強みとなりそうです。
企業の利益を死守する5つの防衛策
では、企業として具体的に何をすべきでしょうか。改正法の施行を踏まえ、以下の5つの対策を推奨します。
「資格証明」の徹底
まず最優先で行うべきは、現在委託している業者が行政書士又は行政書士法人であるかどうかの確認です。
在留手続き、許認可申請、補助金申請など、官公署への書類作成を伴う業務を外注している場合は、必ず確認してください。
行政書士かどうかは、各都道府県の行政書士会のWebサイトで検索できます。
「行政書士登録番号」を確認するのが最も確実です。
契約形態を見直す
行政書士でない事業者が企業から書類作成業務を受注し、行政書士に再委託する形態は認められていません。
企業と行政書士が直接契約する必要があります。
中間に入っている業者がいる場合は、契約形態の見直しが急務です。
また、自社の業務として書類を作成する場合(内製化)は、行政書士法の規制対象外です。
ただし、注意が必要なのは、内製化が認められるのは「自社に関する手続き」に限られるということ。
たとえば、自社の外国籍従業員の在留手続きを自社の人事部門で行うことは問題ありませんが、グループ会社の従業員の手続きまで引き受けると問題になりえます。
GビズIDの絶対的な管理
補助金申請に必要なGビズIDは、会社の「実印」と同じです。
実印と印鑑証明書を、よく知らない外部業者にポンと渡す経営者はいません。
しかし、デジタルのIDとパスワードになると、驚くほど無防備に渡してしまうケースが散見されます。
いかなる理由があろうとも、自社のGビズIDとパスワードを外部に共有してはいけません。
システムへの入力作業は、必ず自社の社員が、自社の端末から行う。
この鉄則を社内規定として徹底してください。
社内のコンプライアンス研修を実施する
現場担当者レベルで行政書士法の基本を理解しておくことが重要です。
特に人事部門、総務部門、経営企画部門など、官公署への書類提出に関わる部門には、改正内容を周知する研修を早急に実施すべきでしょう。
「知らなかった」では済まされません。法人にも罰則が科されるからです。
「丸投げ体質」からの脱却と当事者意識
最も根本的な防衛策は、経営者自身と担当者が「申請の当事者」であるという自覚を持つことです。
なぜ国は、多額の税金を企業に補助するのでしょうか?
それは、その企業の事業計画が社会に価値を生み出し、経済を活性化させると信じているからです。
その根幹となる事業計画を他人に丸投げし、内容すらよく理解していない企業に、補助金を受け取る資格はありません。
コンサルタントを利用するなと言っているのではありません。
彼らの知見を最大限に「活用」しつつも、最終的な意思決定とアウトプットは自らの手で行う。
このプロセスを経ることで、事業計画の解像度が上がり、結果として補助金事業そのものの成功確率が飛躍的に高まるのです
まとめ
2026年1月1日に施行された行政書士法改正は、企業にとって決して「対岸の火事」ではありません。
ビジネスの目的は利益の創出です。しかし、目先の数百万、数千万の利益に目が眩み、コンプライアンスという足元を疎かにすれば、その利益は砂上の楼閣のように一瞬で崩れ去ります。
「行政手続きなんて、誰がやっても同じだろう」
「バレなければ問題ない」
そんな甘い認識は、法改正とデジタル監視網の強化によって、完全に過去のものとなりました。
現代のビジネスサバイバルにおいて、法律の知識は単なる「お勉強」ではありません。
自社のキャッシュと信用を守り抜くための、最も強力な「武器」であり「盾」なのです。
改正のキーワードは「いかなる名目を問わず」。
この一文の重みを、ぜひ心に留めてください。
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