米国で話題となったイーロン・マスクが率いた「DOGE(政府効率化省)」。
その日本版「租税特別措置・補助金見直し担当室」が指導しました。
目的は国民の目に見えにくい補助金などの「静かなバラマキ」にメスを入れること。
民主党政権の事業仕分けとは何が違い、どこまで踏み込めるのか。
投資家として知っておくべき財政構造の実態と、政策変更が市場に与える影響を解説します。
日本版DOGEとは何か?
「補助金の無駄遣いを削る」と聞いて、どんな金額を想像しますか。
数百億円でしょうか、それとも数千億円でしょうか。
実は、日本政府が「租税特別措置」という形で企業や個人に提供している税制優遇は、2023年度だけで約9.5兆円の減収をもたらしています。
さらに、コロナ禍以降に急膨張した政府の基金残高は2023年度末時点で約20兆円。
これらの多くは、私たちの目に触れることなく、静かに積み上がり続けてきました。
2025年11月25日、高市早苗政権はこの「見えない支出」に切り込むための新組織を立ち上げました。
正式名称は「租税特別措置・補助金見直し担当室」。通称「日本版DOGE(ドージ)」です。
この動きに対して、投資家の皆さんの中にはこんな疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
「また政治的なパフォーマンスで終わるのでは?」「民主党政権の事業仕分けの二の舞にならないか?」と。
今回の日本版DOGEには、過去の取り組みとは異なる「成功の芽」があると考えています。
同時に、越えなければならない壁も明確に存在します。
米国のDOGEとの違い
日本版DOGEは、2025年11月に内閣官房に新設された「租税特別措置・補助金見直し担当室」の通称です。
米国トランプ政権でイーロン・マスク氏が率いた「政府効率化省(Department of Government Efficiency:DOGE)」を念頭に置いた名称ですが、そのアプローチは本家とは大きく異なります。
米国のDOGEは「規制の撤廃」「行政組織の縮小」「コスト削減」を掲げ、省庁の統廃合や連邦職員の大量解雇といった強権的な手法を採用しました。
当初2兆ドル(約310兆円)という野心的な削減目標を掲げましたが、2025年12月時点で実現した削減額は約2,140億ドル(約33兆円)と主張されているものの、その数字の正確性には疑問が呈されています。
また、マスク氏は閣僚として議会承認を経ていなかったため、法的権限を巡って訴訟が相次ぎ、強権的な手法への批判から同氏は5月に政権を離脱しました。
一方、日本版DOGEのターゲットは明確です。
租税特別措置、高額補助金、政府基金という3つの領域に絞り、政策効果の低いものを精査・廃止することを目指しています。
省庁再編や公務員削減には踏み込まず、既存の予算編成プロセスの中で見直しを行うという穏当なアプローチを採っています。
担当閣僚は片山さつき財務大臣。財務省主計局・主税局出身で制度に精通しており、関係省庁からの併任職員約30名がチームを構成します。
2025年12月2日には初の関係閣僚会議が開催され、2027年度の予算編成・税制改正への反映を目指すスケジュールが示されました。
この「急がない」姿勢は、批判を浴びるかもしれません。
しかし私は、むしろこの点にこそ成功の可能性を見ています。なぜなら、過去の失敗から学んだ形跡があるからです。
国民からの提案募集
さらに実務的に大きいのが、提案募集です。
内閣官房のページでは、見直すべき租税特別措置・補助金等の「提案募集」を2026年1月5日から2月26日まで行う旨が明記されています。
つまり、制度設計として「現場や国民の情報」を取りに行く回路を用意している、ということです(この回路が機能するかどうかが、成否を分けます)。
すでに提案募集が始まっております。
興味ある方は積極的に提案しましょう。
私も複数提案しましたね。
民主党政権の事業仕分け、なぜ失敗したのか
2009年、民主党政権は「事業仕分け」という手法で国民の注目を集めました。
蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」という発言は今でも記憶に残っている方も多いでしょう。
テレビカメラの前で官僚を追及し、次々と「廃止」「縮減」の判定を下していく様子は、いかにも無駄の削減に切り込んでいるという印象を与えました。
しかし、その結果はどうだったでしょうか。
当初3兆円の削減を目標としていた第1回事業仕分けの実際の削減額は約9,692億円。第2回は3,508億円、第3回に至ってはわずか250億円にとどまりました。
2008年度時点で88.5兆円だった予算を2013年度に11.8兆円削減するというマニフェストは絵に描いた餅となり、むしろ2012年度予算は90兆円と増加してしまいました。
なぜこうなったのでしょうか。
元経産官僚の分析によれば、その原因は「無知」または「無計画」に集約されます。
まず、事業仕分けの法的位置づけが曖昧でした。
行政刷新会議は法律に基づく組織ではなく、仕分け人の判定には法的拘束力がありませんでした。
官僚からすれば、仕分けの結果は「参考意見」に過ぎず、最終的な予算要求は各省庁の政務三役(大臣・副大臣・政務官)の判断で決定されます。
つまり、仕分けで「廃止」と判定されても、その後の政治判断で復活することが可能でした。
次に、評価の客観性に問題がありました。事業仕分けは基本的に口頭での問答で行われ、厳密な手法やデータに基づく検証ではありませんでした。
弁の立つ担当者なら事業を守れる一方、説明が下手な担当者の事業は廃止される。そんな「プレゼン能力勝負」の側面があったのです。
そして最も根本的な問題は、「無駄を削れば財源が出てくる」という前提自体が甘かったことです。
各事業には必ず受益者が存在し、その利害関係者との調整なくして削減は実現しません。
削減目標を掲げて騒いだ結果、具体的な成果を出せなかった民主党政権の失敗は、財政改革の難しさを如実に示しています。
「無駄な補助金」は本当にあるのか。答えは「条件付きで、ある」
この問いに、私は二層で答えるのが誠実だと思います。
補助金の原理
補助金は、設計次第で社会的に必要です。
市場だけでは起きにくい投資(研究開発、標準化、人材育成、防災、感染症対策など)を促す役割があります。
だから「補助金=悪」ではありません。
補助金の運用
一方で、次のような状態が続くと“無駄”になりやすいです。
・目的が曖昧で、成果指標がない(何が達成されたら成功かが不明)
・成果よりも「使い切り」が優先される(予算執行の都合が目的化)
・似た制度が乱立し、窓口が重複する(企業側の申請コストが増える)
・同じ支出が別名で繰り返される(既得権化、延命化)
要するに「必要性」ではなく「検証可能性」の問題です。
会計検査院が、経済性・効率性・有効性といった観点で検査する枠組みを持つのも、この文脈にあります。
補助金の点検は、特定セクターにとっては“追い風”にも“逆風”にもなります。
ポイントは、補助金が「成長投資の呼び水」なのか、「延命の酸素吸入」なのかを見極めることです。
ケーススタディ:「よろず支援拠点」支援団体の重複
イメージできない方も多いと思いますので、ケーススタディを見ておきましょう。
経営者以外の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、中小企業支援の現場には「よろず支援拠点」という組織があります。
2014年に各都道府県に設置された経営相談窓口で、中小企業診断士や税理士などの専門家が無料で相談に応じています。
このよろず支援拠点は重複の象徴的に語られてきました。
「どこに相談すればいいのか分からない」経営者たち
中小企業や小規模事業者が経営相談をしたいと思ったとき、日本には驚くほど多くの公的窓口が用意されています。
- よろず支援拠点: 国が各都道府県に設置した無料の経営相談所。
- 商工会議所:商工会議所法に基づいて運営されている特殊法人。地域密着(市)
- 商工会:商工会法に基づいて運営されている特別認可法人。地域密着(主に町村)
- 民主商工会:共産党と共闘関係のある事業者支援団体
- 中小企業再生支援協議会: 経営改善・再生に特化。
- 事業承継・引継ぎ支援センター: 事業承継に特化。
- 各自治体(県・市)の産業振興センター: 自治体独自の相談窓口。
- 市独自の支援機関:市によっては経営支援をする外郭団体がある
- 県独自のIT系支援機関:県によってはIT化を支援する外郭団体がある
- 認定経営革新等支援機関:支援機関を国が登録する制度。税理士、中小企業診断士、銀行等が登録
- JETRO(日本貿易振興機構): 海外展開支援。
類似の機能を持つ組織が乱立しているんですよ。
一見手厚いようにも見えます。
しかし、現場では何が起きているでしょうか。
ある製造業の社長は私にこう言いました。
「DXの相談をしたいが、商工会議所に行ったら『よろず』を紹介され、県に行ったら『専門家派遣』があると言われ、結局たらい回しにされた挙句、同じような書類を3回書かされた」上に全く役に立たなかったと。
こういう話をよく聞くのです。
なお、商工会議所、商工会、民主商工会の違い等はかなりややこしいのでこちらでまとめております。

よろず支援拠点の功罪と構造的問題
「よろず支援拠点」は、2014年に中小企業庁によって設置されました。
その目的は「既存の支援機関では対応できない高度・専門的な相談に対応する」ことでした。
しかし、設立から10年以上が経過し、以下のような重複が目立つようになっています。
- 機能のコモディティ化: 当初は高度な相談を想定していましたが、実際に来る相談は創業相談や単純な補助金申請のサポートなど、商工会議所や商工会で対応可能な案件が多く持ち込まれています。
- ターゲットの重複: 商工会議所や商工会の会員企業と、よろず支援拠点の利用者は大きく重なっています。
- リソースの分散: 専門家(コンサルタント)が、あちこちの機関に「非常勤」として登録され、それぞれで異なる報告書を作成する工数が発生しています。
ちなみに中小企業庁の資料では、よろず支援拠点を「専門医・総合医」、商工会議所や商工会を「かかりつけ医」と位置づけていますが、現場では役割分担が曖昧なまま並存しているのが実態です。
一応フォローしておくと現場の支援員たちは皆、真面目に働いています。
問題は「人」ではなく「仕組み」です。
同じような看板を掲げた店が、同じ商店街に公費で何軒も並んでいる状態。
これが是正されれば、浮いたリソースを本当に必要な「成長産業への投資」や「スタートアップ支援」に振り向けることができるはずです。
データの裏付け:行政事業レビューの視点
内閣官房の行政改革推進本部事務局が行っている「秋のレビュー」や中小企業庁の会議資料には、「相談の支援窓口が重複していてもったいない」「ひとつの相談で複数窓口に誘導される」といった問題意識が明確に記載されています。
しかし、抜本的な統合が進まないのはなぜか。
それは「予算の紐付き」が違うからです。
「よろず」は国(経産省)の直轄事業に近いですが、商工会議所は主に市の補助金で運営され、商工会は主に県の補助金で運営され、自治体のセンターは地方交付税等が原資です。
日本版DOGEが真に機能するかどうかの試金石は、この「省庁と自治体、官と民の壁を超えた統合」ができるかどうかにあります。
モデルの富士市産業支援センター(f-Biz)は休止
ちなみによろず支援拠点のモデルとなった富士市産業支援センター(f-Biz)は、専門家派遣事業を活用して派遣した専門家が不正受給をしていたことなどをきっかけに2020年に事業を休止していたりします。
その名残でなんたらBizという団体(市の補助金で運営)が各地にありますが、相談件数をKPIとしているとのことでどうなんだという気がしないでもありません。
日本版DOGEは成功するか?3つの条件
では、日本版DOGEは成功するのでしょうか。
私は3つの条件が鍵を握ると考えています。
条件1:評価基準の透明化
どの補助金を削ったのか、どの租税特別措置を見直したのか、その理由は何なのか。
これらを国民が見える形で公開することが不可欠です。
行政事業レビューシステムでは、既に5,000以上の事業についてレビューシートが公開されています。
日本版DOGEがこのデータを活用し、定量的な政策効果を示しながら見直しを進められるかどうかが問われます。
提案募集は強力ですが、感情の投票になれば逆効果です。
制度側が「採用する提案の基準」を明確にし、採否理由も説明できるか。
根拠なき「パフォーマンス」で終われば、事業仕分けの轍を踏むことになります。
条件2:削減財源の使途の明示
日本はこれまで、削減と再配分をセットで議論してきませんでした。
そのため、国民は「削ること」だけに目を向け、緊縮財政の印象だけが残ってしまいます。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を実現するためには、削った財源をどこに再投資するのかという納得感のあるストーリーが必要です。
例えば「大企業向けの減税措置を見直し、中小企業の賃上げ支援に振り向ける」といった具体的なビジョンを示せるかどうかが重要です。
条件3:継続的な点検の仕組み化
租税特別措置は毎年のように新設され、補助金は名前を変えて再登場します。
一度の改革で財政構造が変わることはありません。
日本版DOGEの取り組みが、一過性のイベントではなく、毎年繰り返し「評価と廃止」を行う恒常的な仕組みとして定着できるかどうか。
これが最も重要な条件です。
行政事業レビューが各府省庁の自律的な点検であるのに対し、日本版DOGEは省庁横断的に政治主導で推進する点で異なります。
この「横串を刺す」機能が継続できれば、単なる事業仕分けの再放送には終わらないでしょう。
まとめ
日本版DOGEは、民主党政権の事業仕分けと同じ「改革ごっこ」で終わるのでしょうか。
私はその可能性を否定しません。
しかし、今回は違う結果になり得る要素もあると考えています。
まず、ターゲットが明確です。
省庁再編や公務員削減といった大風呂敷を広げず、租税特別措置・補助金・基金という具体的な領域に絞り込んでいます。
次に、既存の仕組みを活用しています。
行政事業レビューや会計検査院の指摘事項を活かしながら、省庁横断的な点検を行うアプローチは、「車輪の再発明」ではありません。
そして、スケジュールに現実性があります。
2027年度予算への反映を目指すという時間軸は、拙速な「パフォーマンス」ではなく、着実に成果を積み上げる姿勢の表れです。
もちろん、利害関係者との調整、既得権益への切り込みという最大の壁は残っています。
租税特別措置の見直しには経済界の強い反発が予想されますし、補助金削減は地方自治体や関連団体との軋轢を生みます。
しかし、日本の財政状況は楽観できる状態にはありません。
国の一般政府債務残高はGDP比250%を超え、G7で最悪の水準です。
コロナ禍で膨張した基金や補助金を聖域扱いしていては、持続可能な財政運営は実現できません。
日本版DOGEが「静かなバラマキ」にどこまで切り込めるか。
その帰趨は、私たち国民がどれだけ関心を持ち続けるかにもかかっています。
トレンドワードとして流し見するのではなく、「自分の税金の話」として注視していただければ幸いです。

