先日からXで大きな話題となっている自民党が配当など金融所得を社会保険計算に反映させようとする話。
実はこれ本当です。
配当や株式譲渡益などの金融所得を社会保険料の算定基準に組み込む改革案が、昨年から自民党プロジェクトチーム(PT)を中心に本格議論されているのです。
背景には ①確定申告の有無で保険料が変わる“不公平” ②高齢化による医療・介護費の急増 があります。
制度が動き出すと、配当生活をめざすFIRE民や高配当株投資家にとっては見過ごせないコスト増要因・・・
今回は制度の概要と影響、備えるための具体策を解説します。
制度改革が検討される背景
まずはこの制度改革が検討されている背景から見ていきましょう。
不公平是正:確定申告する人だけが損をする?
在は「源泉徴収あり特定口座」を選んで確定申告しなければ、配当・譲渡益は国保や介護保険料の計算に一切入りません。
一方、同額の所得でも「源泉徴収なし」→確定申告を選ぶと保険料に反映されるため、申告した人ほど保険料が高くなる逆転現象が生じています。
自民党のプロジェクトチームははこれを是正すべきと明言しました。
個人的には「ライフハック」的な話かと思っていましたが、不公平といえばたしかにそうですね。

持続可能性:医療・介護費の膨張
何より大きいのがこれです。
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度は2040年に現在の1.5倍規模へ拡大すると試算されています。
負担の見直しは避けられず、金融所得への課題も「改革工程表2023」に明記されています
つまり、制度を持続するために取るところを探しているということでしょう。
制度改革のタイムライン
なお、以下のようなタイムラインで考えられているようです。
2024-25年:制度設計の論点整理
2026-27年:マイナンバー×税務情報の連携強化
2028年度めど:導入可否を最終判断(PT中間報告
マイナンバーが導入される際にも金融所得課税が目的の一つだと予想されていましたが、そのとおりとなりそうです。
改革案のポイント
それでは制度改革のポイントをみていきましょう。
まとめると以下のとおり。
項目 | 現行 | 改革後(案) |
---|---|---|
反映対象 | 確定申告した金融所得(配当、譲渡所得)のみ | 源泉徴収あり・なしを問わず一律反映 |
対象保険 | 国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療 | 同左(勤労者保険は今後議論) |
NISA口座 | 非課税のため対象外 | 変更なし:対象外の方針 |
開始時期 | ― | 早くても2028年度以降 |
とりあえずNISAは対象外なのはありがたいですけどね。
NISA優先というのはこのあたりからも大きいですね。
サラリーマンや企業への影響は?
現時点ではサラリーマン向けの健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)は「給与所得者に対する金融所得反映も論点になり得る」とのレベルに止まっています。
サラリーマン向けの健康保険に金融所得を反映させようとすると、計算の仕組みなどを変えないとできないため大掛かりなんですよ。
現在のサラリーマン向けの健康保険は4月から6月の給料等を会社が集計し、提出して1年間の社会保険が決まる仕組み

ですから金融所得を反映させようとすると
・会社にその人の金融所得を通知して反映してもらう
・会社が4月から6月のデータを送ると、協会けんぽや健保組合で金融所得を反映して健康保険料を送り返す
のように既存の仕組みベースでやろうとすると一部修正を加えないとできないのです。
また、現行の4月から6月で1年の健康保険料が決まるという仕組みも、金融所得分はどうするのかという問題もあります。
金融所得だけ昨年1年分にする?って考えもありますが、なんかズレてて気持ち悪いですよね。
4月から6月だけでよいなら売却タイミングをずらせばよいだけです。
そもそも所得税の計算と社会保険の計算が同じ所得(多少ルールが違います)を元にしているのに、それぞれ別にやらないといけないのが面倒なので、仕組みを統一して一括でできるってところまで話を持っていければよいのでしょうが。
管轄が厚生労働省と国税庁という違いがあるので導入は難しそうですけどね。
もし、サラリーマン向けの健康保険も金融所得の反映が導入されれば企業負担分(労使折半)も増えるため、企業の人的コストへの波及も要警戒です。
自営業者と会社員の健康保険の不公平
ただし、サラリーマン向けをやらないと自営業者やFIRE民狙い撃ちみたいな形になりかねないです。
国民健康保険はただでさえ高いですしね。

そもそも数はサラリーマンのほうが多いですし医療・介護費の膨張への影響を考えると対象とせざる得ないかと思います。
前述のようにサラリーマン向けは仕組みを変えないとできないので、制度スタートのタイミングはズレる可能性もありそうですが。
金融所得が社会保険料計算に入るとどうなる?
それでは金融所得を社会保険料に入るとどのくらい影響があるのかを見ておきましょう。
金融所得が社会保険料計算に入る影響が大きい人
今回の話は株をやっている人にはみな影響があります。
とくに影響が大きいのは以下のようなパターンです。
FIRE民・配当生活者:給与ゼロでも高額な国民健康保険負担に。
高齢の株式長者:後期高齢者医療・介護保険料がアップ。
不動産+株の複合所得者:既に不動産所得がある場合、累進効果で上昇幅が拡大。
まずいちばん影響が大きいのが配当で生活をしているFIRE民でしょう。
事例で見ていきます。
ケーススタディ:配当300万円のFIRE世帯
たとえば世帯:40歳夫婦+子なし
働かずにFIREし、配当300万円で生活をしていたとしましょう。
その場合は現行の国民健康保険料は(某政令市試算):約29万円です。
それが改革後(配当300万円加算)約55万円(+26万円)となります。
つまり、26万円も負担が増えることになるのです。
死活問題ですね・・・
※目安。所得割率・均等割額は自治体で異なります。

FIRE民はどう備える?5つの対策
今回の話の影響を一番受けるのがFIRE民です。
対策を考えて見ましょう。
NISA/iDeCo枠をフル活用
まじは非課税運用が可能で、今回の社会保険の話の影響も受けないNISAなどをフル活用するのが良いでしょう。
非課税口座内の運用益は保険料の算定対象外のままです。
ただし、iDeCoの受取時は制度変更の影響を受ける可能性があります。
高配当→成長株へのシフト
配当よりキャピタルゲイン重視にポートフォリオを見直すというのも選択肢でしょう。
海外ETF+積立売却
分配金を自動再投資する仕組みを使えば外形的な配当は減ります。
法人化して資産管理会社へ移管
社会保険料ではなく法人税ベースで最適化する選択肢もあります。
芸能人の方とかがよくやられているやつですね。

居住地を見直す
最終手段は国民健康保険料率の低い自治体や海外移住という“奥の手”もあります。
あまり知られていませんが、国民健康保険料は地域によってかなり差があるんですよ。

まとめ
今回は「自民党が配当など金融所得を社会保険計算に反映させようとしているってホント?」と題して金融所得を社会保険計算に反映させる話を見てきました。
改革の狙いは確定申告の有無で生じる不公平の是正と社会保障財源の安定化です。
NISAなど非課税口座の優位性は維持される見込み。
FIRE民や高配当投資家は保険料コストが増大する可能性が高く、ポートフォリオ戦略・居住地・法人化など複合的な対策が必要となりそうです。
制度の最終決定は2028年度ごろ。議論の行方を注視しつつ、今から準備を始めましょう。

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