2025年に入ってから、「配当など金融所得を社会保険料の計算に入れる」というニュースが、X(旧Twitter)などで大きな話題になりました。
結論から言うと「まだ最終決定ではない」が、「この方向に進む」こと自体はかなりはっきりしてきた、という段階です。
とくに、FIREで配当生活をめざしている人や、老後の生活費を高配当株で賄おうとしている人には、無視できない動きになっています。
この記事では、
- いま、政府と与党が何を検討しているのか
- いつ、誰の健康保険・介護保険に効いてきそうなのか
- FIREや配当生活にどのくらい影響が出るのか
- それに備えて、FIRE民は何をしておくべきか
を、「FIRE 配当」「FIRE 健康保険」「金融所得 社会保険」といったキーワードを軸に、できるだけかみ砕いて整理していきます。
※追記加筆しました。
金融所得への社会保険料課税が検討される背景と経緯
まずはこの制度改革が検討されている背景から見ていきましょう。
不公平是正:確定申告する人だけが損をする?
現在の制度では、「源泉徴収あり特定口座」を選択し確定申告しなければ、配当金や株式譲渡益は国民健康保険や介護保険料の算定基準に一切反映されません。
一方、同額の所得でも「源泉徴収なし」→確定申告を選ぶと保険料に反映されるため、申告した人ほど保険料が高くなる逆転現象が生じています。
例えば、年金収入150万円と金融所得250万円がある75歳の単身者を想定しましょう。
確定申告すれば医療費の窓口負担は現役世代と同じ3割となりますが、源泉徴収を選択すると年金収入のみで負担割合が決まり1割で済みます。
自民党のプロジェクトチームは、この確定申告という課税手続きの選択によって負担に差が生じる状態を「不公平」と明言しました。
所得の実態が同じであるにもかかわらず、手続きの選択によって保険料負担が大きく変わる現状は、制度の根幹に関わる問題といえます。

持続可能性:医療・介護費の膨張
制度改革の根本的な要因は、社会保障制度の持続可能性にあります。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度は、2040年には現在の1.5倍規模へ拡大すると試算されています。
社会保障給付費は2000年から2022年の間に1.7倍に増加しており、財源の確保は待ったなしの状況です。
政府が2023年12月に決定した「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について」には、医療・介護保険における金融所得の勘案が「2028年度までに実施について検討する取組」として明記されています。
また、2025年の「骨太方針2025」でも、医療・介護の社会保険料計算に金融所得を盛り込む革新的な制度設計の方針が改めて示されました。
制度改革のタイムライン
2025年11月13日、厚生労働省は社会保障審議会の専門部会で、証券会社などが国税庁に提出する税務調書を活用する具体案を示しました。
これは、確定申告の有無に関わらず金融所得を把握できる仕組みを構築するものです。
同時に、自民党と日本維新の会も11月12日に開いた協議会で、保険料などへの反映について議論を開始しています。
厚労省は年内に一定の方向性をまとめる方針を明らかにしており、制度設計が急速に進展している状況です。
なお、以下のようなタイムラインで考えられているようです。
2024-25年:制度設計の論点整理と関係者間の協議が行われています。政府・与党内でのプロジェクトチームでの議論、社会保障審議会での専門的検討が進行中です。
2026-27年:マイナンバーと税務情報の連携強化、システム基盤の整備期間となります。金融機関と市町村が情報連携する仕組みの構築には、大規模なシステム改修が必要です。
2028年度めど:導入可否の最終判断がなされる見込みです。実際の運用開始時期は、システム整備の進捗やさらなる議論の内容によって前後する可能性があります。
マイナンバー制度導入時から、金融所得の把握強化が目的の一つと予想されていましたが、まさにその通りの展開となっています。
改革案のポイント
それでは制度改革のポイントをみていきましょう。
まとめると以下のとおり。
| 項目 | 現行 | 改革後(案) |
|---|---|---|
| 反映対象 | 確定申告した金融所得(配当、譲渡所得)のみ | 源泉徴収あり・なしを問わず一律反映 |
| 対象保険 | 国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療 | 同左(勤労者保険は今後議論) |
| NISA口座 | 非課税のため対象外 | 変更なし:対象外の方針 |
| 開始時期 | ― | 早くても2028年度以降 |
課税制度であるNISAについては、確定申告の影響を受けないため、現時点では対象外とする方針が示されています。
この点は、個人投資家にとって重要な判断材料となります。
サラリーマンや企業への影響は?
現時点ではサラリーマン向けの健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)は「給与所得者に対する金融所得反映も論点になり得る」とのレベルに止まっています。
これは単なる先送りではなく、制度上の大きな課題があるためです。
現在の協会けんぽや健康保険組合の保険料算定は、4月から6月の給与等を企業が集計し提出することで、翌年3月までの1年間の社会保険料が決定される仕組みです。
この標準報酬月額制度に金融所得を組み込むには、根本的な制度設計の見直しが必要となります。

ですから金融所得を反映させようとすると
・会社にその人の金融所得を通知して反映してもらう
・会社が4月から6月のデータを送ると、協会けんぽや健保組合で金融所得を反映して健康保険料を送り返す
といった、かなり大がかりな制度設計の見直しが必要になります。
また、現行の4月から6月で1年の健康保険料が決まるという仕組みも、金融所得分はどうするのかという問題もあります。
金融所得だけ昨年1年分にする?って考えもありますが、なんかズレてて気持ち悪いですよね。
4月から6月だけでよいなら売却タイミングをずらせばよいだけです。
そもそも所得税の計算と社会保険の計算が同じ所得(多少ルールが違います)を元にしているのに、それぞれ別にやらないといけないのが面倒なので、仕組みを統一して一括でできるってところまで話を持っていければよいのでしょうが。
管轄が厚生労働省と国税庁という違いがあるので導入は難しそうですけどね。
もし、サラリーマン向けの健康保険も金融所得の反映が導入されれば企業負担分(労使折半)も増えるため、企業の人的コストへの波及も要警戒です。
自営業者と会社員の健康保険の不公平
ただし、国民健康保険加入者のみを対象とし、サラリーマンを対象外とすれば、新たな不公平が生じます。
国民健康保険はそもそも保険料率が高く、自営業者やFIRE実現者への負担が過度に重くなる懸念があります。

加入者数で見れば、サラリーマンの方が圧倒的に多く、医療・介護費の膨張への対応を考えると、給与所得者も対象とせざるを得ないでしょう。
ただし、前述の実務的課題から、制度スタートのタイミングは国民健康保険と協会けんぽでズレる可能性が高いと考えられます。
金融所得が社会保険料計算に入るとどうなる?
それでは金融所得を社会保険料に入るとどのくらい影響があるのかを見ておきましょう。
金融所得が社会保険料計算に入る影響が大きい人
今回の制度改革は、株式投資を行うすべての方に何らかの影響を及ぼしますが、特に以下のような投資家層への影響が顕著です。
FIRE民・配当生活者:給与ゼロでも高額な国民健康保険負担に。
高齢の株式長者:後期高齢者医療・介護保険料がアップ。
不動産+株の複合所得者:既に不動産所得がある場合、累進効果で上昇幅が拡大。
まずいちばん影響が大きいのが配当で生活をしているFIRE民でしょう。
給与収入がゼロでも、高額な国民健康保険料負担が発生します。
配当収入のみで生活設計している方にとっては、年間数十万円単位の負担増となる可能性があります。
事例で見ていきます。
ケーススタディ1:配当300万円のFIRE世帯
たとえば世帯:40歳夫婦+子なし
働かずにFIREし、配当300万円で生活をしていたとしましょう。
その場合は現行の国民健康保険料は(某政令市試算):約29万円です。※自治体によっては9万円前後
それが改革後(配当300万円加算)約55万円(+26万円)となります。
つまり、26万円も負担が増えることになるのです。
配当収入300万円から税金(源泉徴収20.315%)を差し引いた手取りは約239万円です。
そこからさらに26万円の保険料増となれば、実質的な可処分所得は大きく圧迫されます。
FIRE実現後の生活設計が根底から揺らぐ影響といえます。
死活問題ですね・・・
なお、所得割率や均等割額は自治体によって異なるため、実際の金額は居住地により変動します。
国民健康保険料の地域差は意外に大きく、同じ所得でも年間数万円から十数万円の差が生じることがあります。

ケーススタディ2:バリスタFIRE
次にバリスタFIREのケースも見ておきましょう。
バリスタFIREとは資産運用益+パート・副業等の労働収入を組み合わせ、生活費を“半分リタイア”状態で賄う考え方。
一般の説明として、完全に働くのではなく働く量を調整して自由度を高める感じですね。
コーヒーショップのバリスタのような働き方から「バリスタFIRE」(サイドFIRE、コーストFIRE)と言われることが多くなっています。
状況: 週20時間、時給1,200円のバイトをする。「106万円の壁撤廃」により社保加入。
- 給与収入:約9.6万円/月(年収115万円)
- 標準報酬月額:98,000円(5等級)と仮定
- 健康保険料(本人負担):約4,900円/月(年約5.9万円)
- 厚生年金保険料(本人負担):約9,000円/月(年約10.8万円)
- 配当金への保険料:0円(社保加入者は対象外)
こちらは配当金が社会保険に反映されません。
今現在の案なら社会保険加入のバリスタFIREのほうが完全FIREより負担が済む形になりそうです。

FIRE民はどう備える?今からできる5つの対策
今回の話の影響を一番受けるのがFIRE民です。
対策を考えて見ましょう。
NISA/iDeCoなど非課税口座をフル活用
まず、王道中の王道ですが、NISAやiDeCoなどの非課税口座は、今回の議論の中でも「運用益を保険料計算に入れない」方針が維持される見込みです。
非課税口座のメリットは、本来は「税金がかからないこと」ですが、金融所得を社会保険料に反映する仕組みが進めば、
- 税金がかからない
- 社会保険料の計算にも入らない
という二重の意味での「聖域」としての価値が高まります。
FIREを視野に入れるなら、
- できるだけ早く新NISAの成長投資枠・つみたて投資枠を埋めにいく
- iDeCoで老後の年金部分を厚くしておく
といった「非課税枠の最大活用」は、今後ますます重要な基本戦略になっていくでしょう。
ただし、iDeCoについては受取時の扱いが未確定です。一時金受取であれば退職所得控除、年金受取であれば公的年金等控除の対象となりますが、これらが社会保険料の算定基準に含まれる可能性も否定できません。
制度の動向を注視する必要があります。

高配当株から成長株へのポートフォリオ再構築
「配当で暮らすFIRE」は分かりやすくて魅力的ですが、配当金はそのまま「金融所得」として保険料の計算に乗ってしまう可能性が高いという弱点があります。
そこで、ポートフォリオの中に、
- 無分配型のインデックスファンド(オルカンなど)
- 成長株中心の投資信託
のような、「配当をあまり出さず、値上がり益をあとで必要に応じて取り崩すタイプ」の資産も組み込んでおくと、将来の選択肢が増えます。
もちろん、値下がりリスクはありますし、最終的に売却すれば譲渡益として金融所得になります。それでも、
- 毎年の配当として外形的に見える所得を減らす
- 必要な年だけ少しずつ売却して受取額をコントロールする
という発想を持っておくことで、「特定の年だけ金融所得がドカンと膨らみ、健康保険料も急増する」という事態を避けやすくなります。
バリスタFIREへのシフト
完全リタイアにこだわらないなら、前述の通り「週20時間働いて社保に入る」のも賢い選択です。
好きな仕事、負担の少ない仕事を週2〜3日行い、社会保険という「身分」を手に入れる。
これにより、特定口座でどれだけ配当を得ても、保険料への跳ね返りを防ぐことができます。
マイクロ法人(資産管理会社)の活用
ある程度の資産規模がある方には、資産管理会社を設立し、個人の金融資産を法人に移管する選択肢があります。
法人であれば、社会保険料ではなく法人税ベースでの最適化が可能となります。
法人化のメリットは、所得の時期調整や損益通算の柔軟性、退職金制度の活用など、個人にはない税務戦略の選択肢が広がることです。
芸能人やプロスポーツ選手が個人事務所を設立するのと同様の発想です。
ただし、法人化には設立コスト、維持コスト、会計・税務の専門知識が必要です。年間の配当収入が500万円以上ある方であれば、費用対効果を詳しく検討する価値があります。

また、資産管理会社とせず、個人で配当等を受け取り、バリスタFIRE的に法人の役員として働くというのも手です。
役員として社会保険に加入するのです。
報酬額の設定次第で、トータルの税・社会保険料負担を最適化できる可能性があります。
税理士、社会保険労務士に相談をするとよいでしょう。
居住地・加入する健康保険を見直す
国民健康保険料は、県によってかなり大きな差があります。
同じ所得・同じ家族構成でも、自治体が変わると年間保険料が数十万円単位で違うことも珍しくありません。
また、退職後2年間は「任意継続制度」で、会社員時代の健康保険をそのまま続ける選択肢もあります。
任意継続は保険料が全額自己負担になるものの、国民健康保険より安くなる場合もあります。
また、少しマニアックですが、特定の業種(医師、美容師、建設業、文芸美術など)には、所得にかかわらず保険料が定額の「国保組合」が存在します。
金融所得が社会保険料に反映される度合いが高まるほど、
- どの自治体に住むか
- どの健康保険に入るのか
といった「居住地と加入制度の選択」が、FIRE後のキャッシュフローに効いてくるようになります。

まとめ
2025年11月に具体的な検討が始まった金融所得の社会保険料への反映は、配当生活を実践するFIRE実現者にとって、生活設計の根幹に関わる制度改革です。
確定申告の有無で生じる不公平の是正と、社会保障財源の安定化という政策目的は理解できる一方、個人投資家への影響は決して小さくありません。
年間配当300万円のFIRE世帯で年26万円超の保険料増加という試算は、可処分所得に直接響く負担です。
非課税枠の最大活用、ポートフォリオの戦略的見直し、法人化の検討、居住地の最適化など、複合的な対策を今から準備することで、制度変更への適応は可能です。
制度の最終決定は2028年度を目途としていますが、2025年内の方向性決定、その後のシステム整備期間を経ての実施となります。
まだ時間的余裕はありますが、早期の情報収集と準備開始が、将来の選択肢を広げます。
FIREを目指すにしても、すでにFIREしているにしても、「税金だけでなく、社会保険料まで含めた『手取り』でシミュレーションする」という一手間を加えておくことで、将来の思わぬ負担増をかなり減らせます。
これからも制度の動きを追いながら、FIREと配当生活の「守りの設計図」も一緒にアップデートしていきましょう。

