SNSやYouTubeで労働法が40年ぶりに大改正されるという情報が溢れています。
ヤフーの記事や大手企業のブログでも掲載しているのを目にしています。
有名な士業系ユーチューバーなども煽っていましたので、信じてしまった人も多かったようです。
今回はインフルエンサーの断定的な情報に惑わされず、事実に基づいた判断ができるよう、改正議論の経緯と今後の見通しを整理します。
結論:「労働法改正」は決まっていない
まず最も重要な事実を確認しましょう。
「労働基準法が40年ぶりに大改正、2026年から施行」という話は現時点ではデマです。
理由は単純で、法案として国会で成立していないからです。
2025年12月23日、厚生労働省が来年の通常国会への提出を念頭に置いていた労働基準法改正案について、提出を見送る方針を固めたことが報じられました。
さらに12月26日には、上野賢一郎厚生労働大臣が記者会見で「2026年の通常国会での法案提出は現在のところ考えていない」と明言しています。
つまり、SNSで話題になっている「40年ぶりの大改正」は、あくまで厚生労働省の研究会が報告書をまとめた段階に過ぎません。
法案として国会に提出されたわけでもなければ、成立したわけでもないのです。
ですから内容も、日程も未定というのが正しいのです。
では、なぜこれほど大きな話題になったのでしょうか。
そして、なぜ見送りになったのでしょうか。順を追って解説していきます。
なぜ「40年ぶりの大改正」と言われるのか
「40年ぶり」という表現の根拠を確認しておきましょう。
「40年ぶり」は完全なデマ、という話ではありません。
出どころは一応あります。
労働基準法は1947年(昭和22年)に制定された法律です。
その後、1987年(昭和62年)に大幅な改正が行われ、週48時間だった法定労働時間が週40時間に短縮されました。
また、変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制といった制度も、この時に導入・拡充されています。
それからみれば約40年が経過しているのです。
そこが「40年ぶりの大改正」の出どころでしょう。
現在はテレワークの普及、副業・兼業の拡大、プラットフォームワーカーの増加など、1987年当時には想定されていなかった働き方が一般化しています。
こうした変化に対応するため、厚生労働省は2024年1月に「労働基準関係法制研究会」を設置し、労働基準法の抜本的な見直しを検討してきました。
2025年1月8日に公表された同研究会の報告書は、労働時間制度や休日制度だけでなく、「労働者」の定義や労使コミュニケーションの在り方まで含む包括的な内容でした。
企業が対応すべき範囲が広範にわたることから、「40年ぶりの大改正」と注目を集めたのです。
実はこの間もいくつか改正はありますので、40年ぶりの大改正って言葉もちょっと誇張がある気がしますけどね。
議論されていた主な改正ポイント
研究会報告書で提言された主な内容を整理します。
これらはあくまで厚生労働省の研究会での「検討事項」であり、法案として確定したものではありません。
ユーチューバーなどのインフルエンサーが騒いでいたのはこの内容です。
勤務間インターバル制度の義務化
勤務間インターバル制度とは勤務終了から次の始業まで一定の休息を確保する仕組みです。
審議会では、より実効性ある導入促進の措置をどうするかが論点として示されています。
欧州のように原則11時間のインターバルを義務化する方向で議論されていました。
現状は、少なくとも努力義務としての位置づけが語られており、いきなり全社一律で義務化が確定した、と言い切れる段階ではありません。
つながらない権利に関するガイドライン策定
携帯電話の普及によって、退勤後・休日でも「いつでもつながる」働き方が当たり前になりつつあります。
メール、電話、チャットなどを休みの日でも対応しなくてはならないケースがあり、休みなのに休みでないみたいな状況の企業も少なからずあります。
そこで海外の法制例も踏まえ論点として「つながらない権利」も議論されています。
この件も「明日から違法」ではなく、「どう設計すべきか」を議論している段階です。
連続勤務の上限規制
現行制度では、変形休日制を使えば理論上最大48日の連続勤務が可能です。
報告書では「13日を超える連続勤務を禁止」する規定の導入が提案されていました。
これは精神疾患の労災認定基準で「2週間以上の連続勤務」がリスク要因とされていることを踏まえたものです。
しかし、インフルエンサーの中にはこの逆の「労働法40年ぶりの大改正で14連勤解禁!!」などと煽ってバズっていた方もいましたね。
衝撃的なことをタイトルにしたほうがアクセスが期待できるという判断なのか、そもそも読み間違えたのかは分かりませんが、なんだかな・・・・って感じです。、
副業・兼業時の労働時間通算ルールの見直し
現行では、複数の会社で働く場合、労働時間を通算して割増賃金を計算する必要があります。
この計算が非常に複雑で、企業が副業を許可することを躊躇する原因になっていました。
報告書では、健康確保のための労働時間通算は維持しつつ、割増賃金の計算については通算不要とする改正が提案されていました。
その他の主な検討事項
- 法定休日の特定義務化(どの曜日が法定休日かを明確にする)
- 週44時間特例措置の廃止(小規模事業場への特例を撤廃)
- 年次有給休暇取得時の賃金算定方法の統一
- 管理監督者の健康確保措置の強化
労働法改正は「いつから」なのか。
労働法などの改正は一般的に以下の手順で実施されます。
- 研究会・検討会の報告書(論点整理、提言)
- 審議会での議論(論点の精査、労使の意見調整)
- 政府が法案化(条文と施行日を設計)
- 国会提出・成立
- 公布
- 施行(ここで初めて「いつから」が確定)
現在は1と2までは終わっています。
厚労省は研究会報告書を公表していますしね。
また、労働政策審議会(労働条件分科会)の資料・議事録では、勤務間インターバルや「つながらない権利」などが論点として議論されています。
一方で、3の「政府が法案化」までは終了していないか、確定されていないようです。
つまり、現在は3が終わっていないか、1や2の段階に戻された状況です。
見送りになった理由
法案提出見送りの背景には、政権の方針変更があります。
2025年10月に誕生した高市政権は、上野賢一郎厚生労働大臣に対し「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和」を検討するよう指示しました。
これは、研究会報告書が前提としていた「規制強化による労働者保護」とは、やや異なる方向性を示すものです。
人手不足が深刻化する中、「働きたい人がもっと働けるように」という考え方と、「長時間労働から労働者を守る」という考え方の間で、調整が必要になったと考えられます。
また、高市政権が新設した「日本成長戦略会議」でも労働市場改革が検討されることになり、厚生労働省としては、来年夏前にまとまる政府の成長戦略や骨太の方針を踏まえた上で、法案提出の時期を改めて検討する方針とされています。
つまり、法改正が白紙撤回されたわけではなく、方向性の再検討段階に入ったと理解するのが適切でしょう。
そのため、内容も今まででているものと大きく変わる可能性もありそうです。
インフルエンサー情報を見極めるポイント
今回の騒動から学ぶべき教訓があります。
労働法改正に限らず、制度変更に関する情報を見極める際のチェックポイントを整理します。
一次情報を確認する
法改正に関する情報は、必ず厚生労働省や官邸のウェブサイトで一次情報を確認しましょう。
研究会報告書、審議会資料、法案の条文など、原典に当たることで、二次情報の誤りや誇張を見抜くことができます。
今回の件でいえば、厚生労働省のサイトで「労働基準関係法制研究会報告書」を確認すれば、これが法案ではなく研究会の提言であることは明らかでした。
基本的にインフルエンサーを全面的に信用するのはよくありません。



法改正のプロセスを理解する
法律ができるまでには、前述のように研究会での検討、審議会での議論、法案作成、国会審議、公布、施行という長いプロセスがあります。
「研究会で報告書がまとまった」段階と「法律が成立した」段階では、実現可能性がまったく異なります。
「いつから」を具体的に確認する
「〇〇が変わる!」という情報を見たら、「いつから」「何が」「どのように」変わるのかを具体的に確認しましょう。
施行日が明示されていない情報は、まだ確定していない可能性が高いです。
「労働法改正 いつから」と検索している方が多いのは、まさにこの点を確認したいからでしょう。
答えは「まだ決まっていない」です。
今後の見通しと企業・個人が取るべき対応
それでは今回の話について企業や個人が対応すべきことはあるのでしょうか?
想定されるスケジュール
2026年の通常国会への法案提出は見送られましたが、労働基準法の見直し自体が中止になったわけではありません。
厚生労働省の審議会での議論は継続しており、日本成長戦略会議での検討も始まります。
早くても2027年以降の国会審議、施行は2028年度以降になる可能性があります。
ただし、政治状況や経済情勢によって、さらに遅れる可能性も、逆に一部が前倒しで改正される可能性もあります。
内容も大きく変わる可能性も高そうです。
経営者・管理部門の方へ
法改正が見送りになったからといって、対応を先送りにするのは賢明ではありません。
ここが経営と実務の分かれ道です。
未定の話に社内工数を溶かすのは避けるべきですが、議論の方向性が示された時点で、低コストで備えられることはあります。
私は次の3つを推します。
施策を“固定費化”しない
未確定の段階で、制度を重く作り込むのは危険です。
就業規則の大改定、全社一律の厳格運用、いきなりのシステム更改。
これは、結論が出てからでいい。
今は、試行とデータ収集で十分です。
現行法の遵守を、再点検する
労働基準法は「最低基準」です。
ここを落とすと、改正以前に事故が起きます。
残業時間の把握方法、休日の取り扱い、36協定の運用、割増賃金の計算の根拠。まずはここです。
制度対応より先に「運用の癖」を見える化する
勤務間インターバルや時間外連絡の議論は、結局「実態の働かせ方」にぶつかります。
誰が、どの時間帯に、どんな理由で、連絡や呼び出しが発生しているのか。
これを棚卸しすると、法律が変わらなくても改善余地が見えます。
投資家の方へ
投資家の方にも、同じ話が当てはまります。
ニュースに反応して売買するより、「改正が来たら効く企業」を構造的に見た方が再現性が高いです。
チェック観点は3つです。
観点1:人件費の価格転嫁力
労務コストが上がっても、売価に反映できる企業は耐えます。
できない企業は利益が削れます。
見る場所は、決算説明の値上げ状況、粗利率の推移、顧客との契約形態です。
観点2:人手依存の度合いと、業務設計
同じ業界でも、シフト設計、標準化、IT化で差が出ます。
「人が足りない」を嘆く企業より、「仕事の作り方」を語れる企業の方が強い。
観点3:コンプライアンスの姿勢
労務は一度炎上すると長期戦になります。ここは短期の株価材料にもなりやすい。
ESGの文脈でも、労務管理は評価対象になりやすい領域です。
ポイントは、改正の有無に依存しない指標で先に差がつく、ということです。
まとめ:事実に基づいた判断を
本記事の要点を整理します。
- 労働基準法の「40年ぶり大改正」は、研究会報告書の段階であり、法案は未提出
- 2025年12月に通常国会への法案提出見送りが決定
- 見送りの理由は、高市政権による労働時間規制緩和の検討指示
- 改正が白紙撤回されたわけではなく、方向性の再検討段階
- 施行時期は未定(早くても2028年度以降と推測)
SNSやYouTubeでは、断定的で刺激的な情報が拡散されがちです。
しかし、経営判断や投資判断関わる情報は、一次情報に当たって正確性を確認することが不可欠です。
本サイトでは今後も厚生労働省の審議会資料や官報を注視し、正確な情報をお届けしていきます。
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