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株式投資をするなら知っておきたい「循環取引」粉飾決算を見抜くための基礎知識と過去事例ガイド

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円を描く矢印と赤い下落チャートを映したモニターを前に、不正会計のリスクに頭を抱える投資家のイメージ写真

「売上も右肩上がり!、新商品絶好調!」——そんなプレスリリースをうのみにして株を買ったら、数か月後に粉飾決算が発覚し株価はストップ安……。

こうした痛い経験をしないために、投資家が必ず知っておきたいキーワードが 「循環取引」 です。

循環取引は、複数社がグルグルと商品やお金を行き来させる“見せかけの売上”づくり。

立派な不正会計であり、粉飾決算の代表的な手口といわれます。

要望を頂きましたので、今回は循環取引について過去事例も含み詳しく見ていきたいと思います。

目次

循環取引とは何か?

日本公認会計士協会は「複数の企業が共謀し、実態のない転売や役務提供を繰り返して売上・利益を水増しする行為の総称」と定義し、スルー取引・Uターン取引・クロス取引の3類型を挙げています。

・スルー取引とは、自社が受けた注文を物理的・機能的に付加価値の増加を伴わず他社へそのまま回し、帳簿上通過するだけの取引です。

・Uターン取引とは、商品・製品等が、最終的に起点となった企業に戻ってくる取引。

・クロス取引は、複数の企業が互いに通常の価格より高い価格水準にて商品・製品等を販売し合い、在庫を保有し合う、又はある企業が在庫を保有せずに他の複数の企業に対し相互にスルーする取引

またそれらの応用のパターンもあります。

いずれも商品が本来のユーザーに届かず、伝票とお金だけが回る点が特徴です。(商品も動くケースもあります)

循環取引のよくあるパターン

ちょっとわかりにくいと思いますので、事例でご紹介しましょう。

架空売上を計上する際には通常

売掛金 100 売上高 100

という仕訳を計上します。

それだと売上高の相手科目である売掛金100円がそのままだと残ってしまうんですよ。

そのままだと「売掛債権回転期間(売掛金回転期間)」や「キャッシュフロー計算書」に兆候が現れやすくなるのです。

それを避けるため、仕入や広告宣伝費など他の名目で、お金を支払って、間にグルの会社複数を通して取り分を少し取ってもらってお金を回収して売掛金を消すなんてことも行われます。

A社→B社(売上)100円
A社→C社(なんらかの名目)110円
C社→B社(なんらかの名目)105円
B社→A社(売掛金支払い)100円

みたいな感じですね。

元々あった架空売上100円の売掛金は回収できた形となります。

これが循環取引のよくあるやり方ですね。

ちなみにA社は10円のマイナスだけど売上が100円増えた。

B社とC社はそれぞれ5円儲かる形ですね。

循環取引はバレにくい

循環取引は他の粉飾決算手法などと比較して比較的判明しにくい傾向にあります。

それは取引先は実在しており、請求書・入金も本物であること。

そして取引先もグルであること。

公認会計士などの監査人やVCも 実物在庫や最終顧客 まで追跡しない限り実態を把握しづらいです。

また、連鎖的に売買を重ねるため、ひとつの決算期だけでは異常値が埋もれやすいという点にあります。

関係者も書類上はちゃんとした商流だし、会社によっては商品も実際にぐるぐる回る形となります。

そのため、悪いことをしているという認識もなかったりするのがたちがわるいところ・・・

某社では循環取引まがいな商流で「サブスク2.0」と名付けていたそうで話題になっていますね。

私が関係した事例

もう時効なので書きますが、私がボロ株の経理責任者だったころ社長が取引先から依頼されて循環取引の「グル」をさせられていました。

謎の機材が送られてきて数日預かってまた次の会社に送る。

商品と書類が紐づけてちゃんと動いているので商売の流れとしては何もおかしくありません。

謎の機材を買って、すぐ売ってという・・・

また、1%くらいの利益は落としてくれるので会社としては損はしないのですが・・・

ちなみにその相手先の会社まだ上場しています笑(今もやっているかは知りませんが)

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循環取引と粉飾決算──投資家へのリスク

それでは循環取引をやられると何が問題なのでしょう?

投資家としては会社の本来の実力がわからなくなります。

売上が過大に計上される形となりますからね。

また、判明すれば大きなリスクとなります。

リスク投資家への影響具体例
株価急落発覚後に信用が崩壊し、株価は数日で –70~–90% も珍しくないIXI事件で親会社インターネット総研が監理ポスト入りし株価暴落​
配当・優待消滅架空利益だったため配当原資がなくなり、将来の優待も停止ニイウスコーは682億円も売上を過大計上し、民事再生へ
損害賠償請求の長期化株主代表訴訟や集団訴訟で何年も資金が拘束されるOHTは上場廃止後も株主が訴訟を継続

過去に起きた主要循環取引事件

過去におきた循環取引を見てみましょう。(この表に載せてないものもたくさんあります)

企業名(当時の市場)手口・インパクト投資家向け教訓
2007IXI(ヘラクレス)売上の8〜9割が架空スルー取引。親会社まで監理ポスト入り子会社・取引先まで視野を拡げる
2008ニイウスコー(東証2部)5期で売上682億円水増し、民事再生へ売上急増と営業CFの乖離をチェック
2009OHT(オー・エイチ・ティー)(マザーズ)電気検査装置の循環売買で黒字を装い上場廃止監査報告書の注記を必ず読む
2009プロデュース(ジャスダック)上場時から架空循環取引、3年で売上117億円水増しIPO直後でも粉飾は起こり得る
2007加ト吉(東証1部/現テーブルマーク)取引先と冷凍食品を1,000億円規模で回し、損失約150億円低利益率なのに売上だけ急増は赤信号
2019-21ネットワンシステムズ(東証プライム)中央省庁案件含む“納品実体なし”取引、再計上損失▲36億円大型SIの多段階商流は要注意
2015-21ショーエイコーポレーション(スタンダード)営業部門が実体のない売上・仕入を計上し資金循環単独部署依存+職務分掌欠落は不正温床

もし循環取引が発覚したら——個人投資家のアクションプラン

即時売却かホールドかを数値で判断

事故は買い、事件は売りとの格言がありますので基本売りをおすすめします。

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ただし、程度によっては回復するケースもありますので、株価≒理論価値-粉飾分 と捉え、現金同等物や優良資産がどの程度残るかを確認しましょう。

上場廃止となるリスクも加味して検討すべきです。

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開示資料・第三者委員会報告を逐次チェック

“粉飾額<純資産”なら再建の可能性もあります。

どのくらいの粉飾額なのかをしっかり確認しましょう。

また、粉飾をしないと売れないような商品なのかをしっかり確認する必要もあるでしょう。

証券会社の損害相談窓口へ連絡

上場廃止が濃厚なら、集団訴訟やADRの情報を収集。

特に上場前からやっていたとなれば裁判になっても勝算はありそうです。

ポートフォリオ全体の分散を見直す

1社依存のリスクはあります。

ポートフォリオを見直す必要もあるでしょう。

循環取引を避けるための“投資家リテラシー”強化術

循環取引は粉飾決算の中でも見つけにくい種類のものです。

それでも傾向はあるんですよ。

定量分析

まずは決算書とくにキャッシュフロー計算書をよく見ましょう。

損益計算書は粉飾ができますが、キャッシュフロー計算書はなかなか難しいんですよ。

過去に粉飾で問題になったほとんどで、粉飾期は「売上急増・営業CFマイナス」という典型的な乖離が観測されているんですよ。

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次に貸借対照表指標を確認しましょう。

過去からの動きを見るとおかしい部分は浮き彫りに出ることが多いです。

よく傾向が出るのが売掛債権回転期間(売掛金回転期間)ですね。

詳しくはこちらの記事でまとめております。

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定性分析

定性分析も重要です。

例えばその商品が本当に価値があるのかどうかはレビューサイトなどで判明することもあります。

また、商流がどうなっているのか、経営陣の過去経歴、監査法人などを見ると怪しい・・・ってなることもあります。

情報源の多様化(オルツも事前に警鐘が)

情報源複数から確認するクセを付けましょう。

話題となっているオルツは上場時からSNS等で警鐘を促している投稿も結構あったんですよ。

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まとめ

今回は「株式投資をするなら知っておきたい「循環取引」粉飾決算を見抜くための基礎知識と過去事例ガイド」と題して循環取引について考えてみました。

循環取引は「伝票とお金のダンス」であり、一見すると健全な売上に見えても中身は空っぽ。

粉飾決算の連鎖は投資家の資産を一瞬で吹き飛ばします。

過去の事件を振り返ると、「急成長」「営業CFマイナス」「売掛金膨張」 が3大キーワード。

決算書と注記をセットで読み、少しでも不自然さを感じたら深掘りする習慣をつけましょう。

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