「消費税減税の財源はない」よく与党から聞くフレーズです。
しかし、国民全員に2万円の給付が発表されるなど疑問に思っている方も多いでしょう。
そこで今回は消費税減税と給付金を同じモノサシで横並びにし、さらに社会保険の抜本改革案まで検討します。
実際にかかるお金を具体的に把握している人は意外と少ないんですよ。
消費税減税に必要な財源はどれくらい?
まずは消費税の減税を実施した場合にどの程度の財源が必要かを見てみましょう。
ざっくりとですが
減税幅 | 必要財源(概算) | 参考 |
---|---|---|
1%(10%→9%) | 約2.7兆円 | 消費税1%あたり税収2.7兆円 |
2%(10%→8%) | 約5.4兆円 | 同上 |
5%(10%→5%) | 約13.5兆円 | 同上 |
となります。
ちなみに2024年度の消費税収は約24兆円
したがって10%→8%の2%減税だけで、単年度で国・地方合わせて5兆円超の穴があきます。
一方、消費税収は全額が社会保障財源に回されているため 、減税を行えば社会保障支出を別の財源で穴埋めする必要が生じます。
消費税減税は無理、でも2万円給付はOKの矛盾
一方の給付金はどうでしょうか?
石破政権が掲げる全国民一律2万円給付。
試算では約3.1兆円と報じられています 。
施策 | 1年あたりのコスト | 財源説明 |
---|---|---|
全国民2万円給付 | 約3兆円 | 税収上振れ分等で手当て(赤字国債は使わない方針) |
消費税 1%減税 | 約2.7兆円 | 社会保障財源が不足 |
消費税 2%減税 | 約5.4兆円 | 社会保障財源がさらに不足 |
「消費税減税は財源がない」と主張しつつ、ほぼ同規模(あるいはそれ以上)のバラマキ施策は赤字国債を発行せずに可能と説明している。
このロジックに「矛盾」を感じる国民が多いのは当然です。
参考:野党の消費税減税策に掛かる減収額
ちなみに野党の消費税減税策に掛かる減収額は以下のとおり。
政党 | 税率・対象品目 | 期間・条件 | 年間税収減(概算) | 想定累計減収* | 公表されている財源方針 |
---|---|---|---|---|---|
立憲民主党 | 食料品 0%(8%→0%) | 原則 1 年(1 回延長可で最長 2 年) | ▲ 約 5 兆円 | ▲ 5〜10 兆円 | 「赤字国債に頼らず確保」 |
日本維新の会 | 食料品 0%(8%→0%) | 2 年限定 | ▲ 約 5 兆円 | ▲ 10 兆円 | 定額減税終了による増収分で穴埋め |
国民民主党 | 全品目一律 5%(10%→5%) | 実質賃金が物価+2%へ安定するまで | ▲ 約 15 兆円 | 年▲15 兆円 × 期間 | 税収上振れ・外為特会剰余金+短期は赤字国債 |
日本共産党 | 全品目一律 5%(恒久的) | 恒久 | ▲ 約 15 兆円 | 初年度▲15 兆円(以降同規模) | 大企業・富裕層減税見直しで恒久財源 |
れいわ新選組 | 消費税 廃止(10%→0%) | 恒久 | ▲ 約 25 兆円 | 初年度▲25 兆円(以降同規模) | 法人税・富裕層課税強化+国債 |
例えば立憲民主党の食料品0%を実施すると8%課税分=年5兆円 が 0%にすれば 丸ごと減収となります。
時限措置が「最長2年間」なら 5兆円 ×2=10兆円 の財源が必要ですね。
2%減税よりやや小さいとはいえ、社会保障目的税収が年5兆円消えるインパクトは大きい。
加えて対象が“必需品”なだけに減税メリットは広く行き渡るものの、低所得層への集中支援としてはやや粗い設計となるのも事実です。
これから確実に増える社会保障費という現実
それでは社会保障財源が不足するという話はどうなのでしょう?
2018年に内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が出した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」によれば
年度 | ベースラインケース(現状の社会保障制度が続く想定) | 成長実現ケース(名目成長率がやや高い想定) | ||
---|---|---|---|---|
給付費総額兆円 | 対 GDP 比 | 給付費総額兆円 | 対 GDP 比 | |
2018(実績) | 117.2 | 20.8 % | 117.2 | 20.8 % |
2025(見通し) | 140.4〜140.8 | 21.7〜21.8 % | 148.8〜150.4 | 21.0〜21.3 % |
2040(見通し) | 188.2〜190.0 | 23.8〜24.0 % | 207.4〜212.5 | 22.3〜22.8 % |
すでに社会保障は一般歳出の56%を占める巨大な支出項目ですが、高齢化のピークは2040年代と言われ、伸び率は今後も上昇基調となります。
2025 年→2040 年で、給付費は 約+50 兆円(+35 % 前後)膨張。
名目 GDP も伸びる前提でも 対 GDP 比は 1.3〜2.3 pt 上昇し、財政負担は確実に重くなるのです。
ベースラインと成長実現のケースの差は「経済拡大による分母効果」。
しかし伸び率そのものはほぼ同じで、経済成長だけでは給付費増を吸収し切れないことがわかりますね。
消費税を2%減税して5兆円の税収を失った場合、現状の社会保障費の自然増分だけでは吸収不可能で、新たな財源措置は必須です。
つまり、社会保険をそのままの仕組みでいけば、結局ほかで取る必要がでてくるってことなんですよ。
社会保険・税制をどう組み替える?4つの選択肢
それでは今後の社会保険、税制をどう考えればよいのでしょう?
これは考え方がかなり分かれる話となります。
考えられる選択肢は4つ
選択肢 | メリット | デメリット・課題 |
---|---|---|
① 歳出改革 | 社会保障全体の総額抑制 | 既得権益者の不満 |
② 社会保険料率の段階的アップ | 消費税代替として確保しやすい | 企業・被保険者の実質賃下げリスク |
③ 消費税アップor新たな目的税(たとえば「高齢者ケア税」) | 目的税なら世代間公平を意識した設計が可能 | 税目乱立・事務コスト増 |
④ 歳出全体を見直し+成長戦略 | 財源を税財政全体で最適化 | 政治的調整コストが極大 |
① 歳出改革は社会保障を減らす話。
②から④は財源確保の話です。
消費税減税を行うなら、社会保険料率や給付の設計もセットで再設計しない限り「財源はない」論が消えることはありません。
逆に言えば、社会保障の根本的な見直しが伴うなら減税は不可能ではないとも言えます。
抜本改革が必要な時期に来ている
個人的には社会保障はもう抜本改革を行う時期に来ていると考えています。
消費税減税と社会保障財源の議論は「歳入」側ばかりに目が向きがちですが、歳出改革=医療費の効率化が必要なのです。
ただし、議員からすれば票田となる高齢者が既得権益者なので、触りたくない分野というジレンマが生じてしまいますが。
過去にも年金を論点にされてかなり厳しい結果になった選挙なんかもありましたしね。
また、「日本が誇る医療用外用貼付剤の推進に関する議員連盟」なんて湿布の健康保険適用を守ろうなんて自民・公明・維新など超党派の議員連盟があるくらいですから手強そうです。
社会保険料を上げるより消費税を上げる方が・・・
金融所得についても社会保険計算に反映させようという話まででています。

個人的には社会保障については他の税金や社会保険料を上げるよりは消費税を上げるほうが正解だと思っています。
消費税は現役世代だけでなく高齢者も負担してもらえるからです。
河野太郎さんも同じような意見を以前発表されていましたね。

まとめ:真の論点は“財源”より“配分と制度設計”
今回は「消費税減税の財源は本当にない? 2万円給付の矛盾を検討してみた」と題して消費税の減税の財源について考えてみました。
まとめると
・消費税1%減税=約2.7兆円、10%→8%の2%減税=約5.4兆円。
・全国民2万円給付=約3兆円。似た規模でも「減税は不可」「給付は可」とする説明には無理がある
・社会保障費は今後も増加。消費税収を穴埋めする代替財源が不可欠。
・本質は「財源の有無」よりどこに負担を求め、どこに給付するか”という制度設計の問題。
「消費税減税の財源はない」は半分真実、半分は政治トークです。
真の課題は、急増する社会保障費を誰が・どの税/保険料で負担するかを国民的合意のもとで再設計し、減税と給付の“使い分け”を数字とロジックで説明することに尽きます。
そんな政党や議員でてこないかな・・・

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